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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

米国のスポーツ実施率・身体活動量

Vol.2 全国調査から見える現状

2014.12.21

米国のスポーツ実施率・身体活動量 Vol.2
全国調査から見える現状

第2回目である今回は、米国のスポーツ実施率・身体活動量の実態に関する代表的な全国調査の結果について見ていきたい。

スポーツ実施率「Participation Report」より

「米国ではどのくらいの人が日常的にスポーツをしているのだろう?」

米国のスポーツ実施率に関する全国調査の代表例としては、スポーツ関連産業の団体(Physical Activity Council)によるParticipation Reportがある。2014年の報告書では、調査方法(1ページのごく簡単な記載のみ)や経年変化、年代ごとの集計、スポーツ関連家計支出の動向、学校の有償プログラム関連支出(Pay-to-Play School Program)、将来やってみたいスポーツなどがまとめられている。図1に、種類別のスポーツ実施率をまとめた。

図1.2013年の種類別スポーツ実施率(2014 Participation Reportをもとに作成)

図1.2013年の種類別スポーツ実施率(2014 Participation Reportをもとに作成)

報告書への記載はないが、調査を担当したSports Marketing Surveys USAに確認したところ、スポーツ実施の定義は、「年に1回以上」であり、各種類に含まれるスポーツの例は、表1の通りであった。ウォーキング・ジョギング等を含むフィットネス・スポーツの実施率が61.2%と最も高いことが分かる。

表1.2014 Participation Reportにおけるスポーツの分類

種類
個人スポーツ ゴルフ、ボウリング、スケートボード
チーム・スポーツ 野球、バスケットボール、サッカー、バレーボール
ラケット・スポーツ バドミントン、スカッシュ、テニス、卓球
アウトドア・スポーツ サイクリング、登山、スキー・スノーボード
ウォーター・スポーツ カヌー、ラフティング、シュノーケリング
フィットネス・スポーツ ウォーキング、ジョギング、エアロビクス、ヨガ

また、同調査で中高校生の親に対して、子どもが学校でスポーツに参加するために、追加で何かしらの費用を支払ったかについて尋ねたところ、46.0%が支払ったと回答している。支払ったと回答した親の支払額の分布を図2に示した。約65%が100ドル(1万1,500円) 以上を支払っていることが分かる。

図2.中高校で子どもがスポーツに参加するために支払った金額:Pay-to-Play(2014 Participation Reportをもとに作成)

図2.中高校で子どもがスポーツに参加するために支払った金額:Pay-to-Play
(2014 Participation Reportをもとに作成)

他の全国調査では、家計年収が6万ドル(690万円)以上の家庭では、51%の中高校生が学校スポーツに参加しているのに対して、6万ドル未満の家庭では34%に留まっていた(C.S. Mott Children's Hospital, 2012)。この調査では、全体で12%の親が、経済的な理由で子どものスポーツ参加を減らしたと回答している。このように、多くの中高校生が、経済的な理由でスポーツに参加できていない現状がある。

身体活動量「NHANES」「BRFSS」より

「米国ではどのくらいの人が日常的に十分な量からだを動かしているのだろう?」

前回(Vol.1)整理したとおり、「スポーツ実施率」の調査データだけでは、移動や家事に伴う生活活動の活動量が分からないため、疾病の予防や健康づくりの観点から「国民が十分にからだを動かしているか」を評価するには不十分である。そこで次に、日常的な「身体活動量」に関する調査の代表例であるNHANES(National Health and Nutrition Examination Survey)の結果を見ていきたい。

NHANESは、米国疾病予防管理センター(CDC)によって実施される米国国民の健康・栄養状態に関する全国調査である。身体活動量については、2003-2004年と2005-2006年の2期に渡って加速度計(Actigraph)を用いて調査が行われた。加速度計は小型の計測機器であり、調査参加者は7日間に渡って腰のベルトを用いて加速度計を装着した。図2は、身体活動量に関する調査結果である。

図3.身体活動ガイドラインの基準*を満たす国民の割合(NHANES2003-2004データに基づくTroiano et al.(2008)をもとに作成) *1日30分(6-15歳:60分)以上の中高強度身体活動を週に5日以上 年齢群別の割合(青色)は、加速度計をもとに評価された割合 右端(赤色)は、参考値として質問紙により把握された成人の基準達成割合

図3.身体活動ガイドラインの基準*を満たす国民の割合
(NHANES2003-2004データに基づくTroiano et al.(2008)をもとに作成)
*1日30分(6-15歳:60分)以上の中高強度身体活動を週に5日以上
年齢群別の割合(青色)は、加速度計をもとに評価された割合
右端(赤色)は、参考値として質問紙により把握された成人の基準達成割合

図2を見て分かるとおり、加速度計を用いて評価した場合、健康づくりのために推奨されている身体活動ガイドラインを満たす成人の割合が5%に満たないのに対して、質問紙を用いて評価した場合は51.0%が満たしており、両者に大きな開きがあることが分かっている。加速度計と質問紙、それぞれに調査法としてのメリットとデメリットがあり、また、これらは「別々のもの」を測定しているため、どちらの値をもとに活動的な国民の割合を判断すべきという絶対的な判断基準はない。しかし、両者の調査結果をもとに考えると、いずれにせよ多くの国民が「非活動的」であることは間違いなさそうである。

別の調査結果としては、The America On the Move Studyという調査で歩数計を用いて身体活動量の評価がなされており、1日平均歩数が男性で5,340歩、女性で4,912歩といった結果が出ている(Bassett et al., 2010)。調査の方法(対象者の選定、測定方法)が異なるために直接的な比較はできないが、日本の全国調査である「国民健康・栄養調査」(厚生労働省)では、平成24(2012)年の1日平均歩数は男性7,139歩、女性6,257歩であった。

なお、米国では政府予算をもとに行われた調査のデータは、2次利用による研究促進のために原則として公開されることになっており、NHANESのデータも利用可能である。2011-2014年のデータについてはまだ公開されていないが、この期間の身体活動調査は、腰ではなく、手首に加速度計を装着する方法で調査されている。

まとめ

Vol.1および今回のVol.2と、米国のスポーツ実施率・身体活動量について、全国調査の分類やそれらの結果を概観してきた。調査方法やそのデータの公開・活用方法については、日本での取り組みの参考になることが少なからずある。各調査の細部については触れることが出来なかったが、これらの情報が、米国におけるスポーツ・身体活動に関するデータの全体像を理解し、日本における全国レベルあるいは各地域での取り組みの一助となれば幸いである。

注:文中の「ドル/円」レート(1ドル=115円)は2014年11月15日時点のもの。
※本稿は、日本学術振興会海外特別研究員制度による研究の一環としてまとめたものである。

参考資料

  1. Bassett DR, Jr., Wyatt HR, Thompson H, Peters JC, Hill JO. Pedometer-measured physical activity and health behaviors in U.S. adults. Med Sci Sports Exerc. 2010;42(10):1819-25. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2927728/
  2. C.S. Mott Children's Hospital (2012). National Poll and Children's Health: Pay-to-Play Sports Keeping Lower-Income Kids Out of the Game. Retrieved November 11, 2014, from http://mottnpch.org/sites/default/files/documents/051412paytoplayreport.pdf
  3. Troiano RP, Berrigan D, Dodd KW, Masse LC, Tilert T, McDowell M. Physical activity in the United States measured by accelerometer. Med Sci Sports Exerc. 2008;40(1):181-8. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18091006

レポート執筆者

鎌田 真光  (2014年9月~2018年3月)

鎌田 真光  (2014年9月~2018年3月)

海外特別研究員
Research Fellow
Harvard T.H. Chan School of Public Health
Overseas Research Fellow, Sasakawa Sports Foundation (Sept. 2014~Mar. 2018)