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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

第3章 提言 ~提言9 障害者スポーツセンターのハブ化、他施設の全国ネットワーク化を進めるべき~

国民が生涯を通じて、それぞれが望むかたちでスポーツを楽しみ、幸福を感じられる社会の形成

「障害者自立支援法」(2006)は、障害者の自立支援を目的に設立されたが、一方で、障害者福祉サービスの原則一割を自己負担としていることが、結果的に障害者への負担を増大させ、スポーツ参加へのハードルを上げることになったとも指摘されている。「スポーツ基本法」(2011)では、障害者のトップアスリートについて、パラリンピック競技大会などで優秀な成績を収めるために、競技水準の向上に資する諸施策相互の有機的な連携を図る(第2条6)とした上で、アスリートではない障害者についても、自主的かつ積極的にスポーツを行うことができるよう、障害の種類及び程度に応じ必要な配慮(第2条5)が必要として、障害者スポーツの裾野拡大にも目を向けている。

笹川スポーツ財団(SSF)「障害者スポーツ施設に関する研究」(2011)によると、障害者専用あるいは優先のスポーツ施設としての障害者スポーツセンターが、2010年現在で国内に116ヵ所ある。これらの施設は障害者スポーツに必要な用具や器具が備えられているとともに、障害者スポーツ専門の指導者が常駐しており、各地の拠点となっている。しかし、障害者スポーツセンターが地域の障害者スポーツのすべてを網羅してケアすることは不可能に近く、利用者は近隣の障害者に固定化される傾向にある。障害者が容易にアクセス可能で、居住地域に左右されないスポーツ機会の提供のために、障害者スポーツセンターをハブ化し、周辺地域との連携を図るべきである。ハブ施設の周辺にある既存の施設のうち、プールと体育館などを併設する複合施設を「サテライト施設」として指定し、ハブ施設とサテライト施設の連携により、当該地域の障害者にスポーツ機会を提供する。具体的には、ハブ施設と周辺の複数のサテライト施設をネットワーク化し、ハブ施設にはJSADの上級障害者スポーツ指導員を、サテライト施設には中級障害者スポーツ指導員を常駐させ、地域ニーズの把握、施設で提供するプログラムの連携・補完、指導者の能力向上のための研修などについて協力体制を確立する。施設数の目安として、ハブ施設となる障害者スポーツセンター116ヵ所に対し、衆議院の小選挙区300に各1ヵ所、さらに政令指定都市19、中核市41および特例市40には各1ヵ所を加えて計400ヵ所のサテライト施設を指定する。また、その他の施設においても、JSADの初級障害者スポーツ指導員の配置を促進する。サテライト施設は、周辺の公共スポーツ施設、公共施設や学校体育施設で活動している総合型クラブなどに対し、サテライト施設が実施している障害者スポーツプログラムに関する情報を提供し、周辺住民の参加を促すほか、総合型クラブが障害者スポーツのプログラムを実施する上で必要な指導や助言を行う。サテライト施設によるサービスとしては、複数の非サテライト施設を会場に展開する巡回型の障害者スポーツ教室が特に有効であろう。障害者スポーツセンターをハブに、サテライト施設、非サテライト施設およびそこで活動する総合型クラブが機能的に連携する体制の構築が求められる。

先に提言した公認スポーツ指導者制度の改善と、障害者スポーツ利用施設のハブ化を実現させると以下の図になる。入門レベルの障害者スポーツについては、JSADの初級障害者スポーツ指導員とアダプテッド・スポーツが指導できる運動・スポーツの有資格指導者が総合型クラブや社会体育施設に配置されることで、障害者のスポーツに取り組むきっかけが増え、健常者と障害者が一緒にスポーツする機会が確保される。さらなる技術や競技力の向上を求めた場合に対応できるように、ハブ施設に上級障害者スポーツ指導員を、サテライト施設に中級障害者スポーツ指導員を常駐させることで、日本各地に指導者、施設、情報のネットワークが確立し、地域住民がより参加しやすい環境が整備されることになる。さらには、上級障害者スポーツ指導員がほかの統轄団体のスポーツ指導者に指導することで、アダプテッド・スポーツ指導者人口が増え、結果的に障害者スポーツの好循環につながる。

図表3-7 施設のネットワーク化と指導者配置

注)総合型クラブ数は、文部科学省「総合型地域スポーツクラブ育成状況調査」(2010)
スポーツ施設数は同「体育スポーツ施設現況調査」(2008)より引用

内閣府「障害者施策総合調査」(2010)によると、障害者の68.0%が障害を理由とする差別や偏見を受けたことがあると回答しているが、障害者スポーツの好循環は、一般のスポーツ施設において障害者が健常者とアダプテッド・スポーツを楽しむ機会を提供し、リハビリテーション・スポーツの延長であった障害者スポーツを、明るく豊かな生活を享受するための障害者スポーツとして確立・発展させる可能性をもつと考える。

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