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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

ドイツのスポーツクラブ

(2)ある町の事例

2017.03.01

ドイツのスポーツクラブ  (2)ある町の事例

image (Göttingen,Niedersachsen)

Mörfelden-Walldorf(メアフェルデン‐ヴァルドルフ)は、フランクフルトから16kmほど南に位置する人口約35,000の市である。フランクフルト空港からも10kmほどで、市民の多くはフランクフルト市内や空港で働いている。メアフェルデンとヴァルドルフの2つの自治体が合併して40年になるが、2つの町は2kmほど離れているので、別の町という感じはいまだにある。

市内には、スポーツなどの余暇活動を提供するスポーツクラブ、様々な趣味を同じくする人たちの団体、福祉団体、政治団体等多くのグループがある。豊かな市民生活には不可欠な要素である。
市は補助金の規定を設け、これらの団体の活動を支援している。補助を受ける条件としては、国や州などの統轄団体に登録していること、公益団体としての認定を受けていることである。このような市民の活動への支援は自治体の義務ではなく、支援の方法も市によって異なる。市の資料によると、メアフェルデン‐ヴァルドルフにはこうした市民団体が128ある。そのうちスポーツ関係団体は18である。また、市が補助金を支給している団体は40団体で、そのうち11団体がスポーツ関係である。

補助金の内容:

  1. 団体の活動への一般的補助:1.5ユーロ×会員数
  2. 青少年育成:2ユーロ×18歳以下の会員数
  3. 国際的イベントや大型イベントをクラブが実施する場合、市が中止になった時の補償をする。
  4. 創立記念式典(25、50、75、100周年など)
  5. ライセンスをもった実技指導者、青少年育成指導者の活動:0.8ユーロ×活動時間  (週4時間まで)
  6. 青少年育成活動(研修旅行、長期休暇時のユースキャンプ、国際交流等の社会教育プログラム参加等):
    1.5ユーロ×18歳以下の青少年数×日数。青少年10人につき1人指導者への補助金が出る。
  7. クラブ独自のスポーツ施設などの維持・整備への補助金(年間):

    a) 屋外スポーツ施設
    大型フィールド(芝) 610ユーロ
    大型フィールド(人工芝) 600ユーロ
    小型フィールド 410ユーロ
    円形ランニングコース(4×400m タータン) 400ユーロ
    円形ランニングコース(1×400m ) 200ユーロ
    短距離ランニングコース(100m) 150ユーロ
    テニスコート(アンツーカー) 255ユーロ
    テニスコート(タータン) 200ユーロ
    テニスコート(アスファルト) 125ユーロ
    ペタンクコート 130ユーロ
    ビーチコート(最小8×16m) 4100ユーロ
    射撃場(1スタンドにつき) 25.5ユーロ
    特別スポーツ施設(1施設につき)
    (例:クライミングフェンス)
    100ユーロ

    b) 建造物維持事業
    5,100ユーロ以上の事業の場合20%の補助が可能(ただし、ヘッセン州スポーツ連盟のエコチェックを基準とする)。

    c)建物/施設の維持費 スポーツや公益事業に使われる面積の建築上の維持・整備費の補助(年間):
    体育館、集会室、シャワー、トイレ等   6ユーロ/㎡
    スポーツ施設設置シャワー     25ユーロ/1台

    d) 管理費・保険等 公益事業のためと認められた面積の清掃費と暖房費の補助(年間):
    シャワー室、トイレ:22ユーロ/㎡
    体育館:11.5ユーロ/㎡
    煙突清掃費も90%まで補助されるほか、公益事業用面積の火災保険、損害補償保険においても最高で費用の9割の
    補助が可能。
  8. スポーツ及び余暇施設の建設
    スポーツ及び余暇施設の建設及び増築には、1回に限り市による補助が可能。
    会員の労働提供等には1時間につき7.5ユーロの補助が認められる。
  9. スポーツ器具
    3年以上使われ、75ユーロ以上する器具の購入には、購入価格の25%の補助が可能。
    フィットネスジムの器具は年間最大5,000ユーロまで。輸送費は対象とならない。
  10. 連邦リーグのチーム
    最高リーグで競技するチームをもつクラブへの補助金:1選手/200ユーロ×チームの人数(年間)。
    その他1チームにつき1人指導者への補助金が出る。
  11. 補助金総額が100ユーロに満たないクラブには、最低100ユーロが支給される。
  12. 児童スポーツスクール(Kinder Sport Schule=KISS)
    児童スポーツスクールを実施するクラブには運営費への補助金が出る。その額は参加者数により、1,000ユーロから4,500ユーロである。   (ただし、KISSの基準や定義はヘッセン州の勧告に基づく)。
  13. 世界・欧州選手権大会への参加
    世界・欧州選手権大会、又はそれに準ずる大会出場資格を得た選手は、所属する団体により必要経費が
    全てカバーされない場合、自己負担金の25%、最大2,500ユーロまで補助を受けられる。

メアフェルデン‐ヴァルドルフ両地区にはそれぞれ大型スポーツクラブがある。この両クラブが、上記の市のスポーツ振興資金として2016年に受け取る補助金額は以下の通りである。
TGS1896ヴァルドルフ (会員数4,331人)116,277.11 ユーロ
SKV1879メアフェルデン(会員数4,251人) 83,130.11 ユーロ

市内クラブへの2016年の補助金合計は308,464.41ユーロになる。市はこれを直接補助金と呼ぶ。
市の5つのスポーツ施設、2つの市民ホールをスポーツクラブは無料でトレーニングや競技会に使うことができる。これらの施設管理運営維持費が790,000ユーロであり、長期にわたるクラブ独自の施設の整備、新築への補助金、器具購入など、直接補助金に含まれない、いわゆる間接補助金は合計で898,500ユーロとなる。これらにはスポーツクラブ以外の団体への補助金も含まれているので、スポーツクラブへの補助金で見てみると、合計1,100,000ユーロほどとなるが、その額は市の予算規模の約1.5%にあたる。

市の5つのスポーツ施設のうち2つの体育館は古く、取り壊して立て直しが必要となった。この事業を市は単独で行わず、施設を主に使っている2つのクラブ、TGS1896ヴァルドルフとSKV1879メアフェルデンがそれぞれ建設を引き受ける。この事業には、市と州から建設費への補助金が出るが、残りは各クラブが銀行のローンでまかなう。このようにして建設された施設は、クラブ独自の施設となる予定である。

ドイツには「助成の原則又は補完性の原則(Subsidiaritätsprinzip)」というものがあり、行政、社会、福祉などの分野において、できるだけ現場での実践やイニシアティブを尊重する。個人、家庭、諸団体が実施を引き受ける場合、行政は自主事業はせず、その代わり補助をする。現場での活動が十分でない場合に初めて、行政は自主事業を行うのである。欧州連合(European Union=EU)にもこの原則が適用されており、EU加盟各国で出来ることはEUは行わないのである。

市民のスポーツ活動・スポーツプログラムは市民団体である地域のスポーツクラブに任されている。だからクラブは社会の重要な要素になり、責任を意識し、頑張るのではないだろうか。しかしながら、現在市民のボランティア活動への意欲は衰退傾向であり、将来への不安はある。

出典:

Mörfelden-Walldorfによるクラブ助成資料及び2016年11月17日ヒアリング

レポート執筆者

高橋 範子

高橋 範子

Special Advisor, Sasakawa Sports Foundation