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国際情報

Sport News Germany

2017年07月7日

ドイツのスポーツクラブ(3)  大型クラブの実情

  ドイツオリンピック・スポーツ連盟(Deutscher Olympischer Sportbund=DOSB)は毎週プレスリリースを発行する。2017年第7号にはハンス-ユルゲン シュルケ博士(Prof. Hans-Jürgen Schulke:スポーツ社会学者であり、スポーツ界の多くの役職を歴任)による最近のドイツの大型スポーツクラブについての記事が掲載されている。ここに概要をお届けし、ドイツにおけるスポーツクラブについての考え方や新しい傾向、問題点等の一端を紹介したい。

  ドイツのスポーツクラブを大きさ順に見ると、上位にあるのはプロサッカーチームを持つクラブである。会員の多くがサポーターである。クラブでスポーツ活動はしないが、チームの情熱的なファンであり、試合のチケットやアウェーゲームへの移動手段を割安で入手したいとする人たちである。このようなサポーター会員はドイツ国内で約200万人に達している。

  このようなサポーター会員を抱えておらず、会員数5,000~30,000名規模の大型クラブが会員数を延ばしている背景にはフィットネススポーツ、健康スポーツ、女性のスポーツプログラム、そして最近はシニアへのスポーツプログラムの提供が挙げられる。これらの大型クラブの特徴は、組織経営やスポーツ施設管理のプロフェッショナル化と刷新的なプログラムの提供、そして行政との協働である。ドイツ国内に現在90,200を数えるスポーツクラブの半数ほどを占める、会員数100名以下の小型クラブとは様子が大分違う。

  大型クラブ、その大半は100年以上の伝統を誇るクラブであるが、この中でひと際抜きん出たクラブがある。クラブ名は「Sportspaß(シュポルト・シュパース)Hamburg e.V.」である。Spaßは楽しみや面白さを意味する。「e.V.」は登録団体、つまり法人である。1977年に学生グループによって設立された。当初は経験の無さ、活動場所獲得の難しさ、控えめな広報活動のため苦しいスタートだったが、5年後には1,000名、12年後は4,000名、そして2015年には最高74,000名にまで会員が増加するという成功ぶりである。現在7ケ所のフィットネスセンターで活動している。急速な発展の秘密は、スポーツクラブとは距離を置くスポーツの経験のないような人たち、特に働く女性へ、競技や試合の義務がなく、敷居の低い、フレキシブルなプログラムを提供したことである。そのため、会員の70%は女性である。ちなみに、会費は月10ユーロ以下である。 当初、伝統的なスポーツクラブやスポーツ連盟は、このクラブと距離を置いた。その理由は、「シュポルト・シュパース」は、昔からある種目のトレーニングや試合は行わない、青少年育成も行わない、社会貢献もしない、よって人件費があまりかからず会費も安く設定できており、いうなればこのクラブは本当のスポーツクラブではないと思われていたからである。ハンブルクの他の大型クラブは、「シュポルト・シュパース」を受け入れようとはしなかった。

  このクラブに好意的な人たちの意見によれば、普通のクラブに縁のなかった人たちを巻き込み、フレックスタイム制で労働する人たちが健康志向になることを容易にし、資質の高いインストラクターを雇用することで、多くの人たちが営利で運営されるジムへ行くことを不要にさせた。いまや、このクラブの会員数は州スポーツ連盟の全会員数の20%に近くなっている。

  しかし、クラブの幹部は、州スポーツ連盟による実技指導者やスポーツ施設への補助は公平さに欠けるという不満を持っており、州スポーツ連盟からの脱退についても何度か話し合われた。

  やがて、事は収まったかのように見えた。他のクラブも「シュポルト・シュパース」の方針を取り入れるようになった。体操協会もこのクラブの特殊な状況を一つのモデルとして、指導者の養成や再教育に取り入れるようになり、歩み寄りを見せた。しかし、「シュポルト・シュパース」の会員数は減少した。格安フィットネスジム(McFit, Miss Sporty など)が出現し、会員はそちらへ流れたのである。ハンブルクの中年層でスポーツをする人は、前述のフィットネスジムで運動する人の方が多いと言われている。

  それまで1200万ユーロの予算規模で運営されていた「シュポルト・シュパース」はその維持が厳しくなった。ハンブルク州スポーツ連盟へ払う45万ユーロの登録費の見返りはなんだろうという疑問が出てきた。クラブの幹部は、競合関係の厳しくなった今、州スポーツ連盟に所属するメリットは少ないと判断した。他のクラブの引き止めの試みや、州政府、体操連盟会長との話し合いも功をなさず、2016年をもって「シュポルト・シュパース」は州スポーツ連盟を脱退した。DOSBも最大のクラブを失うことになった。

  このクラブの脱退はドイツのスポーツクラブ全体、特に大型クラブへの思わぬ影響をもたらす可能性がある。「シュポルト・シュパース」が州スポーツ連盟脱退後、仮に、税の優遇がなくなり、安全保険やスポーツ施設使用料などの費用がかかっても、財政的に余裕があるとなると、「シュポルト・シュパース」に続く大型クラブが出てこないとは限らない。州スポーツ連盟を脱退する、もしくは余暇スポーツ分野を切り離して別団体を作るということになりかねない。その結果、組織化されたスポーツとは、クラブ数や会員数の合計を意味するだけで、共に行動する連帯組織ではなくなってしまう。
  組織化されたスポーツの負の発展をシュルケ教授は次のように予想する:

  1.       ・大型クラブと小型クラブの格差はますます大きくなる
  2.       ・スポーツ習慣の変化により公益団体であるスポーツクラブと商業スポーツとの競合が大きくなる
  3.       ・トップ競技スポーツは底辺のクラブから遊離する 等

   人々のスポーツ様式・習慣が変化した。フランクフルトの全国紙「フランクフルター・アルゲマイネ(Frankfurter Allgemeine Zeitung)」の経済欄の記事によるとドイツでは、1,010万人が8,700のフィットネスジムの会員になっている。格安フィットネスジムの平均月会費は43.41ユーロである。スポーツクラブの平均月会費の6.80ユーロに比べれば高いが、好きな時に行くことができ、トレーニング器具が充実しているというのは大きなメリットである。健康づくり・フィットネスは今やメガトレンドであり、90,200のスポーツクラブのうちこのようなジムをもっているクラブは3,200ある。

   もちろん、スポーツクラブの役割は住民の健康づくりやフィットネスだけではない。近年、地域や社会においてスポーツクラブが担うべき新たな役割として、スポーツによるインテグレーションやインクルージョン(民族、人種、障害の有無を超えた統合)、地域におけるスポーツ施設整備、全日制学校におけるスポーツプログラムなどが挙げられる。行政や民間企業の資金を得て、これらのプロジェクトに取り組むクラブも少なくない。

   シュルケ教授はこの新しい傾向を次のように解説する:「社会、メディア、経済面での新しい挑戦が待ち構える状況において、クラブスポーツの統一性を守っていくことは、DOSBや州スポーツ連盟の今後の課題であろう。ドイツ初のスポーツクラブ(体操クラブ)は、約200年前にメンバーシップ、平等な合意形成、並びに団結した支援に基づいて誕生した。こうしたクラブの基本理念に立ち返ることは、この課題のヒントになるかもしれない。組織化されたスポーツ(スポーツクラブ)が現代のドイツ社会の重要なパートナーとして力を持つに至った背景には、第2次世界大戦後、(スポーツ組織が一つにまとまり)全国統一的なスポーツの再建を実現してきたことがある。」

参考資料:DOSB-Presse Nr.7,(2017.2.14)
               Frankfurter Allgemeine Zeitung, 2017.4.5

レポート執筆者
高橋 範子

Correspondent, Sasakawa Sports Foundation

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