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国際情報

Sport News Australia

2015年03月16日

オーストラリアにおける近年のスポーツ制度改革 Vol.2

3. 改革のビジョン・新政策「The pathway to success」

スポーツに関する独立委員会の提案書「オーストラリアにおけるスポーツの将来」に連邦政府が回答する形で、2010年に「オーストラリアのスポーツ:成功への道筋(Australian Sports: the pathway to success)」という報告書が発表された。この報告書は改革のビジョンと今後の実施施策を示しているため、新しいスポーツ政策と捉えられている。「オーストラリアのスポーツ:成功への道筋」では、エリート支援に比重が置かれていた従来の政策に代わって今後は草の根スポーツやレクリエーションへの予算配分をこれまで以上に高めるとし、草の根とエリートをつなげるネットワークも構築すること、支援対象競技をオリンピック競技だけではなくオーストラリアで人気のある競技も対象とすること、学校のスポーツ施設の改修に助成を行うとともに一般市民への学校施設開放も行うことなどが明記されている。こうした改革に対して、連邦政府は4年間で12億豪ドル(約1,104億円)の資金提供を行っていくとし、これによりスポーツ政策への資金提供は過去最大となった。資金配分については、スポーツ政策全般を担うオーストラリア・スポーツコミッション(ASC)が連邦政府の方針に基づいて行っていく。注力分野ごとに実施していく改革内容は以下のとおりである。

テーマ1. スポーツ参加(実施・関与)の向上
教育を通じた子どもたちの
スポーツ実施向上
  • 連邦政府は「全国のスポーツと教育戦略(National Sport and Education Strategy)」を実施する。その内容は、以下のとおり。1. 「全国的な学校カリキュラム(National School Curriculum)」プログラムで州・準州政府と連携してスポーツ・身体教育を優先させて時間割の身体活動時間を増やす、2. 学校でスポーツ・身体教育を行う先生のスキルを「教師の質向上のための全国的なパートナーシップ(Improving Teacher Quality National Partnership)」プログラムを通じて向上させる、3. 校庭や学校施設を地域住民が「連邦政府の教育改革立案(Australian Government's Building the Education Revolution)」プログラムに基づいて使えるようにする。
地域スポーツと社会参加向上の
ために競技団体を支援する
  • 地域レベルのスポーツ実施を増やすためNSOへの助成を増やす。
  • NSOから地域のクラブに直接財政支援を行うことができるようにする。
  • NSOに対して、助成金に関するASCとの合意に基づく成果達成を求める。
  • NSOに対して、州・準州の関連機関と連携して地域のクラブが会員を増やせるような計画の立案を求める。
  • ASCは全ての国民にスポーツ実施の機会をより多く提供するために、「社会参加とスポーツ戦略(Social Inclusion and Sport Strategy)」プログラムを進めていく。
障がいのある人・
選手を支援する
  • 障がいのある人がスポーツする機会を享受できるよう、障がいのある選手がエリート選手として支援を受けられるよう、草の根レベルからエリートレベルまでを対象とした支援を行う。
  • 才能発掘プログラムを通して障がいのある有望選手の発掘・育成を行う。そのための資金・リソースを増やす。
  • 障がいのある選手が国際大会に参加できるよう、その準備のためのエリート向けプログラムへの助成を増やす。
  • 2012年ロンドン・パラリンピック大会の放送に資金提供する。
  • リハビリ施設などにいる障がいのある人がスポーツをする機会を得られるような方策を検討する。
女性や少女の
スポーツ参加を高める
  • 女性スポーツのメディア報道を増やすための資金・リソースを提供する。
  • スポーツ組織における女性の役員・運営担当者を増やすため、候補者が登録できるシステムを構築する。
  • 「女性スポーツ賞(Women in Sport Awards)」を設立し、女性や少女がスポーツ選手・コーチ・審判・管理者になるために特別な支援を提供している取り組みを表彰する。
  • NSOやその他関連機関と連携して、女性や少女のスポーツ参加を阻害する身体イメージの問題に取り組むことをASCに求める。
先住民のスポーツ参加を高める
  • 才能発掘プログラムを通して、先住民の中から才能ある選手を見つけて育成する。
スポーツ施設の提供
  • 「教育改革立案」プログラムを通して、連邦政府は162億豪ドル(約1兆4,904億円)を拠出してスポーツ施設などの学校施設を国際レベルに改善する。
  • 企業や地域団体がオーストラリア・スポーツ財団(Australian Sports Foundation:ASF)に登録して特定の地域スポーツ事業に寄付する場合、税額控除が受けられるようにする。
テーマ2. スポーツの道筋の強化
地域のボランティア・
コーチ・審判の支援
  • コーチや審判のトレーニング機会を増やす。
  • NSOが地域のコーチ・審判に教育プログラムを提供できるよう資金を提供する。
  • 地域のコーチ・審判の指導支援に資金・リソースを提供する。
  • ボランティアを表彰するプログラムを導入する。
  • 対象競技のNSOがボランティアプログラムを実施し、草の根レベルでスポーツ振興するために必要なスタッフを雇用できるよう追加の財政支援を行う。
  • スポーツボランティアを育成・支援するための「全国スポーツボランティア戦略(National Sport Volunteer Strategy)」を実施する。国連の国際ボランティア年10周年に合わせて2011年までに戦略立案する。
コミュニティスポーツ振興に
選手が関与する
  • AIS奨学金を受けた選手に対し、地元のスポーツクラブやジュニアスポーツクラブでボランティア(コーチ・審判・運営など)をするよう勧める。
  • 引退選手・現役選手が自分の関心に合ったプログラムで活動できるような登録システムをASC内に開発する。
有望選手の発掘
  • 全国的な才能発掘ネットワークを増やし、約5,000人の選手を新たに発掘して育成する。
  • 才能発掘プログラムの拡大、特に地方における拡大に資金提供する。
  • NSOが地域のスポーツクラブや学校と連携して有望選手を見つけ、選手育成機関と連携して育成支援を行っていくために資金を提供する。
選手育成の道筋
  • 草の根からエリートへの道筋を作るには、国内選手権の質と頻度を上げる必要がある。国内選手権を拡大し多くの選手が参加できるようにするために資金提供を行う。
  • 「地元のスポーツ・チャンピオン(Local Sporting Champions)」プログラムを倍増し、さらに4,000人の若者とその家族に財政支援を行い、ジュニア選手が国内各地の選手権に参加できるようにする。
テーマ3. 成功に向けた取り組み
エリート選手のコーチ・
審判の支援・保持
  • 国内のナショナルヘッドコーチとシニアコーチを支援・保持するための資金提供を行う。
  • 国内でコーチする価値があると思える給与水準を提供するため、NSOに追加財政支援を行う。
  • コーチ・審判を支援するNSOの取り組みに対する財政支援を行う。
  • コーチ・審判育成の道筋を確立するための資金提供を行う。
国際大会への支援増加
  • オーストラリアは国際大会に参加するには地理的に不利なため、選手が国際大会に参加できるよう財政支援を行う。特に将来有望な選手やジュニア育成に焦点をあてる。
  • 引き続きASCと共同でヨーロッパにトレーニングセンターを作る。
エリート選手への投資
  • 世界トップ3に入るエリート選手への支援を拡大する。世界ランキング10位に入る選手への支援を延長する。
  • トップ選手が日々のトレーニングや競技大会の準備に集中できるよう、給付金を増額するための資金提供を行う。
トレーニング環境に関する
イノベーション・リサーチ
  • イノベーション、リサーチ、科学技術は今後も競技力向上に欠かせないため、選手・チームの競技力向上に貢献する応用研究プロジェクトへの財政支援を拡大する。
エリート選手向けの機関・
アカデミーの改革
  • AISと州・準州の関連機関・アカデミーとの連携や各政府レベルのスポーツ担当大臣の合意により、無駄を省いた全国的な取り組みを行っていく。
  • 連邦政府と州・準州政府間のパートナーシップにより、投資・影響・説明責任を分担する。
  • National Sport and Active Recreation Policy Frameworkに基づいて全国的な成果を達成する。
ドーピング対策の継続
  • これまでと同様、Australian Sports Anti-Doping Authority (ASADA)が主要機関として連邦政府と州・準州政府、NSOなどと協調して対策をとっていく。

4. 政策立案のためのガイド「National Sport and Active Recreation Policy Framework」

2009年の提案書「The Future of Sport in Australia」の発表後、スポーツ・レクリエーション担当大臣評議会が中心となって作成してきた「全国スポーツ・動的レクリーション政策の枠組み(National Sport and Active Recreation Policy Framework)」が2011年に発表され、連邦政府と州・準州政府のスポーツ・レクリエーション担当大臣によって承認された。

この「全国スポーツ・動的レクリーション政策の枠組み」は政策文書というよりはスポーツと動的レクリーションに関する政策・戦略・プログラムを立案するためのガイドである。その原則として、連邦政府と州・準州政府、地方政府が互いの目的を共有して目的達成のために連携して政策を進めていくこと、その際に各政府の課題と公共政策を踏まえたアプローチをとること、政府間で実行できる共通の長期的な戦略・政策を立案すること、スポーツや動的レクリーション推進の要となるNSOなどの組織による計画や方向性を尊重することがあげられている。また、スポーツ・動的レクリーションにおける連邦政府および州・準州政府の役割と責任範囲を示している。政府間の連携を強化することによって、各レベルで行われていた政策・プログラムを見直して重複するものを排除し、より効率的にリソースを配分すること、公的資金の投資から得られる成果を高めることを目指している。

さらに、この枠組みに沿って政策・プログラムが立案・実施されているかどうかを監視・評価する委員会を設立するとともに、初期評価を2年後に行い、その後は4年ごとに評価し、必要に応じて見直しをしていくことが示されている。評価の指標としては、重点領域ごとに目標と成功の尺度を掲げており、例えば、スポーツ・動的レクリーション政策の実施状況の向上という目標に対しては実施率やクラブ会員数の増加、イベント参加状況などが尺度としてあげられている。重点領域は、こうした実施状況の改善のほか、国際競技力の向上、国内選手権の質や参加機会の向上、地域のクラブを中心としたスポーツ振興の継続、スポーツやレクリエーションをより広範な政策課題(保健・観光・教育・環境・都市計画など)に活用していくことがあげられている。

おわりに

1980年代後半から2000年代前半まで、オーストラリアはオリンピックなどのメガスポーツイベントにおける獲得メダル数をスポーツの成功とし、エリート育成に重点を置いてきた。しかし、国内外の現状の課題や将来起こりうる課題に対応するため、2008年から改革が行われ、草の根レベル・地域レベルの活動を従来よりも重視するとともに、誰もが草の根からエリートまでの道筋に参画できるような効率的な仕組みを作り出すこと、そのために国レベルの機関と州レベルの機関が連携していくという方向性が示された。この改革はオーストラリアのスポーツ制度において画期的であったが、2010年に発表された「成功への道筋(The pathway to success)」の内容を見ると、成功とは国際大会で好成績を残すことであり、そのための道筋を作ったと解釈できる。一方、2011年に発表された「全国スポーツ・動的レクリーション政策の枠組み(National Sport and Active Recreation Policy Framework)」では、草の根のスポーツに関して実施率やクラブ会員数の増加、イベント参加状況などが成功の尺度としてあげられている。メダルの獲得数は投資額に対する効果を数値化しやすいため成功の尺度として捉えやすいが、草の根のスポーツ実施や国民の健康といった視点でのスポーツ・レクリエーションの効果・便益をどのようにして可視化・数値化し成功したと判断するのかについては尺度が提示されたばかりであり、その評価については今後の状況を見ていきたいと考えている。

※文中の「豪ドル/円」レート(1豪ドル=92円)は2015年3月12日時点のもの

参考文献

  • Australian Government (Department of Health and Aging). 2008. "Australian Sport: emerging challenges, new directions."
  • Australian Government (Independent Sport Panel). 2009. "The Future of Sport in Australia."
  • Australian Government. 2010. "Australian Sports: the pathway to success."
  • Australian Government (Sport and Recreation Ministers' Council). 2011. "National Sport and Active Recreation Policy Framework."
レポート執筆者
本間 恵子

Correspondent, Sasakawa Sports Foundation

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