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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

ブラジル政府による代表的なスポーツ振興施策の概観

2015.10.13

ブラジル政府による代表的なスポーツ振興施策の概観

ブラジルのスポーツ監督官庁は、1937年に教育文化省が設立されて以降、政権交代に応じて大統領府スポーツ局、スポーツ特別省、スポーツ観光省などと変わり、各省庁が実施するスポーツ振興策も一貫性に乏しかった。しかし、2003年にルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シウバ大統領が「スポーツ省」を新設し、以来、同省が一貫して監督を担当。2005年、「スポーツに親しむことは国民の基本的な権利であり、国家は国民にその機会を提供する義務を有する」というブラジル国憲法217条に則って「スポーツ国家政策」を発表し、以後、具体的なスポーツ振興策を立案、実行している。

現在、スポーツ省には事務局、スポーツ・教育・レジャー・社会統合局(SNELIS)、エリートスポーツ局(SNEAR)、サッカーとサポーターの権利擁護局(SNFUT)の4局がある。

事務局は、具体的なスポーツ政策を立案し、それを各局に振り分けて実行を促すと同時に、各局間の活動内容を調整する。

スポーツ・教育・レジャー・社会統合局は、児童が広くスポーツに親しむことを促進することを目指す。その主な活動プログラムに、公立の小中学校へ体育専攻の大学生をインストラクターとして派遣してさまざまなスポーツを体験させる「セグンド・テンポ」(スポーツの試合の「後半戦」を意味する)、地方自治体が所有するスポーツ施設を用いて身体障害者を含むあらゆる年齢層の市民がスポーツを楽しむことを目指す「エスポルチ・エ・ラゼール・ダ・シダージ」(市民のスポーツとレジャー)がある。

ブラジルの公立の小中学校には体育施設がほとんどなく、通常、児童・生徒がスポーツをするには校外の有料のスポーツクラブに入会するしかない。このため、経済的に恵まれない家庭の子どもはスポーツに親しむ機会が限られていた。「セグンド・テンポ」はこの問題を部分的にではあるが解消しようという試みで、2003年に始まり、年々、規模を拡大して、2013年には約3万2千の学校で500万人を超える児童・生徒がスポーツを楽しんだ。「エスポルチ・エ・ラゼール・ダ・シダージ」も全国各地で実施され、一定の効果を上げている。

エリートスポーツ局は、トップレベルのアスリートの育成と強化を担当する。その最大のプログラムが、「プラーノ・ブラジル・メダーリャス2016」(2016年メダル獲得プロジェクトである)。2016年、リオデジャネイロで開催されるオリンピック・パラリンピックの特別強化指定選手の競技活動支援に6億9千万レアル(約242億円)、各種トレーニングセンターの施設拡充とメンテナンスに3億1千万レアル(約109億円)、合計10億レアル(約351億円)を投じ、オリンピックのメダル獲得数で世界10位以内、パラリンピックで世界5位以内を目指す。

ブラジルのオリンピックにおける成績は、2004年アテネ大会の金5、銀2、銅3個の16位が過去最高で、2012年のロンドン大会では金3、銀5、銅9個の22位だった。ちなみに、ロンドン大会のメダル獲得数10位はオーストラリアで、金7、銀16、銅12個だった。

一方、パラリンピックでの成績は、ロンドン大会の金21、銀14、銅8個の7位が過去最高。同大会での総合5位はやはりオーストラリアで、金32、銀23、銅30個だった。

この目標を達成するべく、ブラジルオリンピック委員会はオリンピック36種目、パラリンピック19種目を重点的に強化している。

サッカーとサポーターの権利擁護局は、サッカークラブの財政健全化とサポーターの権利擁護を目指す。

ブラジルのサッカークラブの多くは財政難に苦しみ、各種税金を滞納している。このような状況を改善するため、2007年にブラジル政府がロッテリア(数字選択式宝くじ)を開設。純益の22%を全国リーグ1~3部の80クラブに分配して税金の支払いを促すと共に、クラブの財政健全化を助けている。

また、ブラジルではクラブ間のライバル意識が非常に強く、試合の前後に双方のサポーターが衝突して死傷者を出すような事態が頻繁に起きる。そこで、「トルシーダ・レガル」(グッド・サポーター)というプログラムを通じて、スタジアム内外における混乱を防ぎ、サポーターが安心して快適にサッカーの試合を観戦するための環境整備に取り組んでいる。

ブラジルは「サッカー王国」として知られるが、裏を返せば国民の興味がサッカーにばかり集中しており、他のスポーツを楽しむ人が少ない。サッカー以外の競技人口が少なく、従来から国際的なスポーツ大会ではサッカー以外の競技の成績が振るわなかった。しかし、1980年代後半以降、政府系の銀行をはじめ、郵便局や石油会社、電力会社などがバレーボール、ビーチバレー、女子サッカー、ヨット、柔道、水泳、テコンドー、陸上などの普及とトップ選手の強化を援助しており、2003年以降のスポーツ省の施策もあって、近年のオリンピックやパラリンピックでこれらの種目で多くのメダルを獲得。人気が高まって競技人口が増えるなど、成果を上げつつある。

ブラジル政府は、2016年リオ大会でブラジル選手がより多くの種目で好結果を残すことでこれらの種目の社会的認知度を高め、さらに競技人口を増やし、競技レベルを向上させることを目指している。

レポート執筆者

沢田 啓明

沢田 啓明

Sports Journalist
Partner Fellow, Sasakawa Sports Foundation