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国際情報

Sport News United States of America

2017年2月2日

身体活動量の地域間格差
~地方でアクティブ人口を増やす取り組み~

地域間格差の実態

   生活の中でよく歩くか、スポーツを実施するか、といったアクティブな生活習慣をもつかどうかは、個人の意識や属性だけでなく、住む町の特徴といった物理的・社会的環境の影響を受ける。たとえば、図1および2は、日本の国民の平均歩数を都道府県別に示したものであり、公共交通の発達した大都市圏の人ほどよく歩いており、ドァ・トゥ・ドァで車が必要となりがちな地方では歩数が低いことがわかる。アメリカにおいても同様に地域間で平均的な身体活動量に差が見られ、大都市の集中する北東部・西部に比べて、中部・南東部ではガイドラインを満たす成人の割合が低い(図3)。また、同じ州内であっても、都市部(Urban)と地方(Rural)では生活環境が異なる。地方では肥満の割合が子ども(地方=22%;都市部=17%,Davis et al, J Pediatr Psychol 2011)・成人(地方=40%;都市部=33%,Befort et al, J Rural Health 2012)ともに高いことが指摘されており、身体活動量を含めた生活習慣全般の改善に向けた対策が求められている。

図1.都道府県別の1日平均歩数 図1.都道府県別の1日平均歩数
(色の濃い都道府県ほど平均歩数が多い/国民栄養調査1995~1999年積み上げデータをもとに
地理情報分析支援システムMANDARAを用いて作図)


図2.都道府県別の1日平均歩数と鉄道駅密度
(平成12年地域交通年報および国民栄養調査1995-1999年積み上げデータ) 図2.都道府県別の1日平均歩数と鉄道駅密度 (平成12年地域交通年報および国民栄養調査1995-1999年積み上げデータ)


図3.アメリカにおける身体活動ガイドラインを満たすアクティブな成人の州別割合 図3.アメリカにおける身体活動ガイドラインを満たすアクティブな成人の州別割合
Nutrition, Physical Activity and Obesity: Data, Trends and Maps web site. U.S. Department of Health and Human Services, Centers for Disease Control and Prevention (CDC), National Center for Chronic Disease Prevention and Health Promotion, Division of Nutrition, Physical Activity and Obesity, Atlanta, GA, 2015. Available at http://www.cdc.gov/nccdphp/DNPAO/index.html

地方で出来る取り組み

   1990年代後半からこうした人々の身体活動量(スポーツ実施を含む)の地域間格差や環境要因に関する研究が盛んに行われ、社会の中で注目度が高まっていった。これに伴い、実際にどのような街づくり・環境づくりがアクティブ人口を増やす上で実施可能か、といった実践的な試みも行われるようになってきた。代表的な取り組みとしては、アメリカのロバート・ウッド・ジョンソン財団(RWJF)のイニシアティブで始められた”Active Living by Design”などがある。地域住民の身体活動量を増やすための街づくり・環境づくりに対して助成を行うプログラムであり、その成果は学術誌等で報告されている。こうしたプログラムが実施された地域の中には、都市部から地方に至るまで様々な特色の地域が含まれている。しかし、注目を集め、成功例として広くシェアされる事例はどうしても大都市圏・都市部での取り組みに集中してしまう。都市部においても私たちの生活の非活動化は未だに進んでいると考えられるため、もちろんこうした都市部での取り組みはどんどん進めていかないといけない。ただし、地域間格差・健康格差を縮小させるという観点でいえば、喫緊の取り組みが必要なのは、むしろ地方である。
   こうした取り組みの必要性と事例の蓄積を受け、近年、アメリカでは地方(Rural communities)や小さな町(Small towns)における身体活動促進、歩きやすい地域づくりといった事例の共有も盛んに行われるようになった。ここでは、いくつか主要な情報源と取り組みのコンセプトを紹介したい。

・National Physical Activity Society, “Stories from Small Towns

   このスポーツ・ニュースでも何度か取り上げている全米組織”National Physical Activity Society”がまとめているシリーズ。大都市ではなく、小さな町でもすぐに取り組める事例とその成功に向けたポイントを紹介している。事例をもとにウェビナー(ウェブ上のセミナー)も開かれており、動画スライドでその内容を確認できる。
   たとえば、アイオワ州にある人口4,326人の町、サージャント・ブラフ(Sergeant Bluff)では、徒歩・自転車通学を促進するための様々な施策(Safe Routes to School)、歩道の整備、また、教会による周辺の歩道整備などが行われたと報告されている。ポイントとして、すぐに成果の出そうな取り組みからまず手を付けること、学校を取り組みの広がりの核・起爆剤とすること、地域コミュニティへの愛情・情熱のある人々・団体を集めることなどがあげられた。

・America Walks, Webinar: "Walking and Walkability in Rural Communities"

   こちらは以前の記事「歩きやすい街づくり」で取り上げたWalkBostonが加盟する全国組織”America Walks”によるウェビナーである。歩きやすい街づくりを進めるためのウォーカビリティ(上記記事参照)向上に取り組む中で、地方ではどういった取り組みが可能か?という問い合わせが多かったために企画されたものである。(2016年10月13日開催、資料はウェブサイト上で確認可)
   ウェビナーではじめに発表のあったWalkBostonからは、ウェブサイト上で提供している”rural walking tool-kit”の紹介がなされた。これはマサチューセッツ州内の事例がまとめられた自治体向けの資料であり、歩道整備等の基本的な考え方などがまとめられている。次に、全米で徒歩・自転車通学を促進する組織の”Safe Routes to School National Partnership”と、ロバート・ウッド・ジョンソン財団(RWJF)の支援で運用されている”Active Living Research”から情報提供があった。これらの発表では、地方がもつ困難さとして、地理的な孤立・移動手段(公共交通機関)の少なさ・費用・安全面・気候・身体活動機会へのアクセスの欠如などが示された。一方、アメリカでは、地方に住む人々の移動でも約40%は3マイル(4.8km)以内、約20%は1マイル(1.6km)以内で完結しており、徒歩・自転車の利用が可能な範囲での移動が相当数あること、実際に徒歩・自転車で通勤・通学している人もいることが事実として紹介された。また、困難さだけではなく、地方の強みもあるとして、下記5点があげられた:

   1.学校がコミュニティの中心にあること(地理的にも、関心事としても)
   2.人々がお互いをよく知っていること(広がりが速い)
   3.意思決定者(首長や議員等)との距離の近さ
   4.交通量の少なさと自然の近さ
   5.地方暮らしへの生活満足度の高さ

   これらは日本でも共通しており、強みを活かした政策・プログラムづくりを進める上で大いに参考になると感じた。具体的なプログラムでも、日本の地方で行われている取り組みと類似するものがある。たとえば、”Remote drop off programs”という取り組みが紹介されていたが、これはスクール・バスの運用(あるいは自家用車での送迎)において、学校の校門あるいは正面玄関前で停車・下車するのではなく、一定距離(たとえば500mほど)離れた場所で下車するというルールをつくり、そこからは自分の足で歩いて登校する取り組みである。これは筆者も実際に日本の地方自治体で実践してきた取り組みで、安全面・費用面を考慮してもすぐに取り組める案の一例だろう。さらに学校内の環境づくりと組み合わせれば、楽しみながら体を動かし、アクティブに1日の学校生活を始められる仕掛けがつくれる。

   そのほか、2本柱のアプローチが重要であるとして、車輪の形に例えて、
      ハブ:地域の中心部周辺をまず歩きやすくする
      スポーク:プロモーション活動を展開し、ほかの周辺地域に広げる
といった施策の考え方が示された。資源が限られているときは、小さな1歩・変革(smaller changes)から、という助言もあり、こうした考え方は、上述した”National Physical Activity Society”で紹介されていた成功事例の方針とも一致していた。

   以上、地方における取り組みの概要を紹介してきた。本場の車社会であるアメリカにおいて、地方では非活動的な生活になりがちで、環境改善の取り組みが十分になされているとは決していえない。しかし、前述したように、地方には逆に都市部に無い良さがあるのも事実である。日本においても、ハイキングや川遊びなどの自然環境を利用した余暇・レクリエーションとしての身体活動のほか、農作業等の生活活動としての身体活動は、自然環境に恵まれた地方に利があるかもしれない。たとえば、都市部が有利な”walkability”や”bikeability”だけでなく、”farmability(農作業のしやすさ)”を考えたらどんな地図が描けるだろうか?発想を豊かに、少し時間も遡って考えつつ、「そもそもヒトにとって動くとは何か?」「わが町・村の良さは何か?なぜ先達たちは住みついたのか?」をひも解いていくと、21世紀の今に即したアクティブ社会実現に向けた解決策がみえてくるだろう。

(本稿は、日本学術振興会特別研究員制度による研究の一環としてまとめたものである)
海外研究員
鎌田 真光

Research Fellow
Harvard T.H. Chan School of Public Health
Correspondent, Sasakawa Sports Foundation

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