本文へスキップします。

国際情報

Sport News United States of America

2015年02月25日

世界バレー優勝の舞台裏

はじめに

「62年間世界選手権で、50年間オリンピックで金メダルを取ることがなかったアメリカ女子が歴史を作るために今日ここに来て戦い、そして悲願の初優勝を達成した」とインタビューに答えつつ、現アメリカ女子代表チーム監督のカーチ・キライは感涙にむせんだ。去る10月12日イタリアのミラノで行われた第17回国際バレーボール連盟(FIVB)女子世界選手権大会の決勝戦でアメリカ女子代表チームが中国にセットカウント3-1で勝利し、初優勝を成し遂げた直後のインタビューでの出来事であった。下記のリンクは、国際バレーボール連盟(FIVB)が制作・配信しているアメリカ女子代表チームが優勝した瞬間と歓喜をまとめたビデオである。
https://www.youtube.com/watch?v=KUCBz6PGJRw&feature=player_embedded

この世界選手権前、アメリカ女子はFIVB世界ランキング2位であったが、世界選手権優勝後はブラジルを追い抜き1位となった。これまでも常に世界ランキング上位に位置していたにもかかわらず、1952年モスクワ(ソビエト連邦;当時)で第1回が開催されたFIVB女子世界選手権、1973年にモンテビデオ(ウルグアイ)で始まったFIVB女子ワールドカップ、1964年東京大会からバレーボールが正式競技となったオリンピックの3つのメジャー大会で決して優勝することはなかった。悲願の金メダルを獲得した瞬間、米国バレーボール協会スタッフ・関係者一同は、カーチ・キライのそのコメントに新たな歴史が刻まれたことを改めて認識し、感動に酔いしれた。

実はこのFIVB女子世界選手権の優勝には、米国バレーボール協会の地道な努力に基づく確固たる裏付けがある。1994年にスタートしたハイパフォーマンス・パイプライン・プログラムは、アメリカ代表チームを常に世界のトップランクにのし上げるため、全米規模でシニア、ジュニア、ユース、そしてより若い年代のタレントを発掘し、一貫した強化育成に努め、恒常的に国際レベルのアスリートをナショナルチームに供給し続けるプログラムである。今回の世界選手権で優勝したアメリカ女子代表チームのメンバーのほとんどがこのハイパフォーマンス・パイプライン・プログラムで発掘され強化育成された選手達であった。

世界バレーMVP、キム・ヒルを発掘したオープントライアウト

今回のイタリアでのFIVB女子世界選手権の決勝戦の第4セット、ジュースにもつれ拮抗したゲームで中国から決勝点、26点目を取り優勝を決めたのは、アメリカ女子代表チームのアウトサイドヒッター、キンバリー(キム)・ヒルのレフトサイドからのアタックであった。彼女のアタックが決まった瞬間、アメリカ女子代表チームの選手とコーチングスタッフ、米国バレーボール協会関係者が一斉にコート上に集まり歓喜に沸いた。その中心にいたのは、もちろん決勝点をもぎ取ったキム・ヒルであった。

キム・ヒルは大会期間中、中国のティン・シャオの通算77点に次いで54点のアタックポイントを稼ぎセカンドアウトサイドヒッターとしてベスト6プレーヤーに選ばれた上、アメリカ女子代表チームの優勝に大きく貢献したとして最優秀選手賞(Most Valuable Player, MVP)を受賞した(FIVB, 2014)。実は、キム・ヒルが国際大会にデビューしたのは2013年夏のパンアメリカンカップであり、それまではユースやジュニア年代での代表チームにさえも選ばれたことがなかった。彼女がアメリカ女子代表チームのコーチたちの目に留まったのは、米国バレーボール協会が2013年2月に行ったオープントライアウトであった。このオープントライアウトは、同協会のハイパフォーマンス・パイプライン・プログラムのメイン事業であるが、その年のアメリカ女子代表チームを編成する上で、全米から隠れた逸材を発掘することを目的に毎年2月に実施されている。2013年2月のオープントライアウトで選ばれたキム・ヒルは、同年春からアメリカ女子代表チームに合流し、国際大会や親善試合で実力を発揮していった。その結果、昨年と今年のほとんどの試合でスターティングラインアップメンバーとしてプレーし世界からも注目を浴びるようになった。そして、先のFIVB女子世界選手権で彼女自身がアメリカ女子の優勝の立役者として活躍するのである。

キム・ヒルは高校時代、オレゴン州内の高校チームとクラブチームでバレーボールに励んでいた。2008年にNCAA1部校であるカリフォルニア州のペパーダイン大学に進学、4年間インドアバレーボールでプレーした後、2012年から2年間正式にサンド(ビーチ)バレーボールに同大学で登録し競技経験を積んだ。その間に米国バレーボール協会のオープントライアウトに参加し、2013年サンドバレーボールのシーズン終了後、アメリカ女子代表チームでトレーニングを始めた。2013-14年のプロリーグシーズンはポーランドで、2014-15年シーズンはイタリアのプロリーグでプレーをしている(Pepperdine University Athletics, 2014)。

代表チーム選手になるまでの狭き門

米国バレーボール協会のオープントライアウトは、アメリカ女子代表チームおよびアメリカ女子大学代表チームの選手選考を目的に、コロラドスプリングスにある米国オリンピックトレーニングセンターで毎年2月に3日間に渡って実施される。現在のアメリカ女子代表チームのコーチ陣の指導の下、基本的な技術練習からゲーム形式の総合的なドリルが行われ、その際にスタッフがバレーボールの専門統計ソフト「データバレー」を用いて各選手のサーブレシーブ、セット、アタック、ブロック、レシーブ等の個別の技術の統計データを取る。その個別データとスタッフの総合的な評価を基に代表チームのコーチが協議を行い、後日最終的な選考結果を発表する。今年のオープントライアウトは2月20日から22日にかけて93校の大学から在学中もしくは卒業間もない238名の選手が参加した。2014年には、106校の大学から246名の選手が、そして、キム・ヒルが選出された2013年には240名が参加していた。

今年はこのオープントライアウトから若干名がアメリカ女子代表チームの候補選手として選考され、カリフォルニア州アナハイム市にある米国バレーボール協会のナショナルチームトレーニングセンター、American Sports Centerで女子代表チームのトレーニングに召集される。この時点では彼女らは代表チーム入りの可能性があるトレーニング選手として選ばれただけであり、海外のプロリーグでプレーしてきたベテラン選手や既にアナハイムでトレーニングを続けている他の候補選手と競い合い、最終12名の枠に残らなければならない。オープントライアウトで選考された選手が代表チームの最終12名に残ること極めて難しく、キム・ヒルは稀な例であった。

また、このオープントライアウトから上記の若干名に続く12名でアメリカ代表大学チームを編成し、6月28日から韓国で行われるユニバーシアードに出場する。さらに12名を選出し別のアメリカ代表チームを編成し、6月に2週間ほどプロチームと対戦する中国遠征に向かう。その後、36名を女子大学代表A2チームメンバーとして選出し、6月末にかけてルイジアナ州ニューオーリンズ市で開催される女子ジュニア全米バレーボール選手権に合わせて行われるA2チームのトレーニングセッション(キャンプ)に召集する。36名が3チームに分かれ、数日間のトレーニングを行い、その後ジュニア選手の前でエキシビションマッチを行うという約1週間の日程である。エキシビションマッチといえども、将来の代表チームの候補選手としての可能性をアピールすることができる。ここでの評価が高い選手はアナハイム市のトレーニングセンターに翌年招集される場合もある。A2チームのコーチングスタッフには代表チームの監督・コーチ経験があるスタッフが着任していることもあり、選手達はトライアウト並みの意気込みを持ってこのトレーニングセッションに臨む(USA Volleyball, 2015)。

まとめ

カリフォルニア州アナハイム市にある米国バレーボール協会の(インドア)バレーボールチームのトレーニング拠点、American Sports Centerには、各国のプロリーグのシーズンが終了する4月末から5月中旬にかけて、40-50人程の女子選手が代表チーム入りを目指しトレーニングに合流する。海外のプロリーグでプレーをしてきたベテラン選手、American Sports Centerで既にトレーニングを続けてきた選手、そしてオープントライアウトで選考された選手、あるいは別途招集された選手など様々である。そして、2013年にはキム・ヒル、2014年にはケルシー・ロビンソン等のルーキー選手が毎年活躍するようになってきた。常にこれだけの選手層を維持できているのは、米国バレーボール協会が1994年からスタートさせたハイパフォーマンス・パイプライン・プログラムの成果であると言える。一つの大学や地域に限定することなく、全米から希望者を募ってオープントライアウトを行い、大学レベルから国際レベルへのギャップを埋めるためのトレーニングで選手を世界トップレベルに引き上げる。ハイパフォーマンス・パイプラインプログラムは、アメリカ女子代表チームを支える根幹事業である。実は、このハイパフォーマンス・パイプライン・プログラムは、シニア年代以上にジュニア年代、ユース年代、そしてそれよりも若い年代において幅広く行われている。次回は、それらの年代に対するアメリカでのタレント発掘、強化育成、代表チームの編成についてレポートする。

参考資料

海外研究員
内藤 拓也 (2014年10月~2015年5月)

Coordinator of Special Projects, USA Volleyball

Correspondent, Sasakawa Sports Foundation

ページの先頭に戻る