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政策提言

提言5 産学連携を通じ、地域スポーツ産業の社会産業化を推進するべき

SSF「スポーツ白書」(2011)は「国と地方の財政赤字の拡大により公的部門のスポーツ支出は拡大が困難になった」とした上で、地域社会と一体となったクラブづくりを掲げたJリーグ、地元密着型チーム経営を理念に掲げたbjリーグなどのプロリーグ(チーム)やプロではなくとも地域クラブの形態をとるチーム(以後、便宜上、地域トップチームと呼ぶ)などが行う地域貢献事業は、ときとして行政による地域スポーツ振興に貢献していると指摘している。

行政による地域スポーツ振興に貢献という点では、地域住民の自主的な運営を目指すとして国が全国に育成を進めている総合型クラブが、スポーツ立国戦略においても「新しい公共」(人々の支え合いと活気のある社会をつくることに向けたさまざまな当事者の自発的な協働の場)の担い手と位置づけられるなど、行政サービスを補完する機能に国が期待する姿勢がうかがえる。一方で、地域密着型のプロチームや地域クラブの形態をとるトップチームについては、同戦略上、新しい公共の担い手として明示されていない。

1990年に当時の通商産業省(現・経済産業省)により設置された「スポーツ産業研究会」がまとめた国のスポーツ産業に関する包括的な報告書「スポーツビジョン21」は、スポーツ産業をスポーツの「モノ・場・サービス(情報含む)」の提供者と定義している。この定義によれば、総合型クラブはスポーツの「モノ」の提供者ではないものの、「場・サービス」の提供者であり、地域トップチームとともに「スポーツ産業」の構成団体といえる。

また、同報告書は国民が健康で文化的な生活の理想を追求する上で、スポーツは必要不可欠な機能と意義をもっており、それを実践するための「モノ・場・サービス(情報)」を提供するスポーツ産業は公益性をもち、「国民生活の充実と発展に寄与しなければならないという社会的使命を有している」としている。この主張は前述のスポーツ白書の指摘とも合致する。本項も、国・地方の財政状況が厳しい中、スポーツ産業、特に地方におけるスポーツ産業の担い手である地域トップチームが地域のスポーツ振興に果たす役割を重視する。営利(地域のプロチーム)であれ、非営利(総合型クラブ)であれ、スポーツという公益性をもった商材を扱う産業の担い手として地域スポーツの振興に貢献すること、つまり地域スポーツ産業の社会産業化を通じた貢献に期待したい。

一方、地域トップチームの多くがその経営と地域における連携に課題を感じている。経済産業省関東経済産業局(以下、関東経済産業局)は2009年に、同局が管轄する広域関東圏(1都10県)に活動拠点を置くトップスポーツチーム(プロ・実業団)、自治体、商工会議所、スポーツマネジメント系学部・学科をもつ大学を対象として、「スポーツビジネスと地域活性化」をテーマとしたアンケート調査を行い、その結果を「広域関東圏におけるスポーツビジネスを核とした新しい地域活性化のあり方に係る調査報告書」としてまとめた。

同報告書によると、地域トップチームの多くがチームの課題として「認知度不足」(74.2%)、「観客動員数不足」(67.7%)をあげ、求める人材像に「営業(顧客開拓、販売促進、営業推進)専門人材」(60.9%)をあげている。

「地域内(自治体・他スポーツチーム・メディア・企業・商工会・その他)連携」については、96.3%がなんらかの連携を行っていると答えたものの、48.4%が連携に「課題がある」として、「人手不足」「役割・責任分担が曖昧」「効果が定量的に把握しにくい」などをあげている。同報告書はこうした結果を受け、地域トップチームが地域活動を行うにあたっての現状の課題を、「大学との連携」「(地域内連携を行う)人材・人員の不足」「練習場・試合会場となる施設設置者(自治体等)の理解・協力」の3点と指摘している。

この調査結果から浮かび上がるのは、安定的な収入源につながる地域のファン獲得を至上命題とする地域トップチームが、そのための営業専門人材を欲しているものの十分な雇用環境を整えられずに人材が不足し、地域内連携活動も不十分にならざるを得ないという状況であろう。地域スポーツの振興という観点では、地域トップチームが行う地域住民に対するスポーツ教室、介護予防体操教室、地元スポーツ施設でのエキシビションゲームなどの地域貢献事業への期待は大きいが、当然のことながら彼らにとっては足元の経営を固めることが最優先事項である。地域トップチームの経営上の課題を解決しつつ、地域のスポーツ振興に携わる多くのステークホルダーに利益をもたらす取り組みが求められる。

そのためには、顧客獲得を目指して営業専門人材を獲得するといった発想から、スポーツ振興による地域の活性化を共通の理念として地域全体を巻き込めるコーディネーターの育成という発想への転換が重要である。地域全体を巻き込むことで、チームの認知度を上げることはもとより、地域内の多分野の専門家から地域に関する情報やノウハウを習得できる。本項はそうした人材の育成には、地域の大学の活用が有効であると考える。関東経済産業局の調査によれば、大学との連携については54.8%のチームが、「インターンシップ受入」や「講義等における選手の派遣」などを実施していると答えている。一方、「大学との連携効果」という問いに対しては、40.5%(最大回答数)が「まだ効果を期待していないが、今後の効果の発現を期待」としていることから、同報告書は「まだ産学共同というようなかたちには至っていない」と評価している。裏を返せば、大学との連携については開拓する余地があるといえる。産学連携を通じて地域全体を巻き込むコーディネーターを育成する具体策として、本項では2007年に経済産業省と文部科学省が共同で立ち上げた「産学人材育成パートナーシップ」事業の拡充・活用を提案したい。

同パートナーシップ事業は、もともとグローバル競争やイノベーション競争を勝ち抜くため、真に産学双方向が求める人材を育成することを目的として始められた。「化学」「機械」「情報処理」「経営・管理人材」など8つの対象分野に分科会が設置されている。このうち、地域スポーツ産業の人材育成には、地域の特色ある取り組みや事業を活かせる経営・管理人材の育成を目的とする「経営・管理人材」分科会による取り組みが適している。

スポーツをテーマとした実績としては、静岡産業大学における株式会社ヤマハフットボールクラブ(ジュビロ磐田)による冠講座の提供がある。同校は、県内地域が必要とする人材の育成を目的として地域経済で現役として活躍する専門家を講師とした冠講座を設置しているが、その一つにジュビロ磐田による「ニュービジネスとしてのプロスポーツ」がある。選手との契約や育成、ファンとの交流やスタジアムへの集客などを題材にジュビロ磐田の経営者やスタッフが講義を行い、現場経験に基づくスポーツ経営を学べることを売りにしている。

地域スポーツ産業の社会産業化に資する人材の育成に向けては、こうした冠講座に加え、地域スポーツ振興の関係者を含む地域振興に携わるさまざまなステークホルダーをグループ化し「地域スポーツ振興を通じた地域の活性化」をテーマに連続講義を設置すべきである。

地域スポーツ産業に属する団体(総合型クラブ、地域トップチームなど)、地元で活躍する中堅・中小企業の経営者、経営学、スポーツマネジメントを専門とする研究者、地域のメディア関係者などがそれぞれの立場から、地域社会に必要とされるスポーツ産業団体のありかた、求められる人材像、地域内でのネットワーク構築方法などを題材にして講義を行い、講義する側・受ける側の交流(聴講する大学生によるインターンシップなど)に加え、講師陣間の交流・連携(組織間の人材交流など)を促進する。また、地元企業の経営者などによる経営マネジメントの講義は、地域トップチームの関係者にとっては地域における人脈形成といった観点のみならず、地域で成功するビジネスモデルのヒントを得る上でも有効である。そうした地域に関する知識、情報、人脈を身につけた者が、それらを武器に地域内でチームの存在意義を高める事業を手がけていけば、チームの利益になるばかりでなく地域全体のスポーツ振興に利益をもたらすであろう。

重要なのは、本来、人材の供給拠点である大学に、交流拠点としての役割を与え、地域トップチームを含む地域スポーツ振興のステークホルダーの間に共通の理念と価値観を醸成することである。そうした共通の理念と価値観が醸成されれば、従来は共存が難しいと思われていた地域スポーツのステークホルダー間の人材交流も進む可能性がある。たとえば、総合型クラブのスタッフと地元の民間フィットネスクラブとの人材交流があげられる。総合型クラブは多世代・多種目・多志向という設置要件により公益性を保っている。地域内のより多くの住民にスポーツを楽しむ機会を提供するという理念を民間フィットネスクラブと共有できれば、互いの顧客の世代、志向する種目・運動強度などを調整して、すみ分けを図ることも可能となる。総合型クラブと民間フィットネスクラブが互いにカバーする世代や種目を補い合えば、より多くの地域住民がスポーツを楽しめるようになる。

また、スポーツによる町おこしを計画した場合にも、この産学連携は有効に機能することが期待される。地域特性(住民のスポーツニーズやまちの現状)に即したスポーツによる町おこしには、スポーツ種目の多様化やスポーツ実施年齢の幅の拡大に対応する用具・用品の多品種・少量化が求められる。地域の事情に精通した地場のメーカーの柔軟な対応に期待するところが大きい。

地域スポーツ振興を通じた地域の活性化に向けて産学の関係者が理念を共有し、知恵を出し合うことで、こうした地域内資源の効果的な活用につなげていくことが地域スポーツ産業の社会産業化による最大の果実となる。

図表3-4 大学を拠点とした地域スポーツ産業の社会産業化

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