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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

第3章 提言 ~提言4 地域スポーツ振興の関係者が連携し、より開かれたスポーツ空間を創出するべき~

国民が生涯を通じて、それぞれが望むかたちでスポーツを楽しみ、幸福を感じられる社会の形成

生涯スポーツの充実を考えるとき、国民の誰もが利用できるスポーツ施設、いわゆる公共スポーツ施設のありかたは重要である。「スポーツを行いたいがする機会がない」と答える国民の数を減らし、より多くの国民がスポーツを楽しめる社会を形成するにあたっては、公共スポーツ施設が本来の設置目的に照らし十分に活用されているかを検証した上で地域住民のニーズに即応した運営がなされるべきである。

内閣府「体力・スポーツに関する世論調査」(2009)によれば、国民の「公共スポーツ施設についての要望」のうち最も多いのは「身近で利用できるよう、施設数の増加」(36.4%)であり、次に多いのが「利用時間の拡大(早朝、夜間など)」である。この2つの要望が上位を占める傾向は過去10年以上変わっていない。この背景には、多くの公共スポーツ施設が限られた団体の占用により飽和し、新たなスポーツ実施者が利用しにくいという現状がある。

SSF「スポーツ白書」(2011)は、2010年度のわが国の「体力つくり関係予算」の合計が428億円で、5年前の2,691億円から80%以上も減少していること、文部科学省の社会体育施設整備費に関する予算も減少の一途で、社会体育施設数は1999年以降4万6,000~4万8,000ヵ所で横ばいであることを指摘している。

公共スポーツ施設に対する国民のニーズが新たな場と時間の創出であることがわかっても、国と地方の財政赤字が拡大している現状において、新施設の増加は期待できない。求められるのは既存施設の効率的な運営によるスポーツ機会の増大である。内閣府による調査において、「利用時間の拡大」が上位にあげられる傾向が長く続いていることを考えれば、住民のニーズを踏まえた上で施設の利用時間に柔軟性をもたせることが望まれる。現に、民間事業者が指定管理を受けた公共スポーツ施設において利用時間が拡大された例は少なくない。

利用時間の総量を増やした上で求められるのは、施設を一部の利用者にのみ独占させずひとりでも多くの住民の利用に道を開く取り組みである。現在の施設の利用状況を正確に把握した上で効果的な施策を打ち出し、国を含む地域スポーツ振興に関わる多くの関係者がそれをバックアップしていくことが求められる。具体的には以下のステップで施策を進めることを提案したい。

まず、施設を所有する自治体が地域住民に対しスポーツ施設に関するニーズ調査を実施する。現在、定期的に施設を利用している住民、かつて利用したことがあるが現在は何らかの理由で利用していない住民、興味はあるがまだ利用したことがない住民など、さまざまな立場の住民を対象に、何パーセントの住民が新たな施設の設置を求めているのか、またその理由(既存施設へのアクセスの悪さ、利用のしづらさなど)は何か、などを含む施設のありかた全般に係るニーズを調査する。

次に、自治体内のすべての公共スポーツ施設について、年間の施設利用活動に行われているスポーツプログラムの内容を、同好会・サークルなどのメンバーのみを対象としたプログラム(共益的プログラム)と、有料・無料を問わず誰もが参加できるプログラム(公益的プログラム)に分類し、その比率を集計する。その上で自治体内の全公共スポーツ施設における公益的プログラムの実施比率の平均を算出する。このデータと住民のスポーツニーズ調査の結果を照合し、自治体として目指すべき、公益的プログラムの実施率基準(公共スポーツ施設で1年間に実施されるすべてのスポーツプログラムのうち、公益的プログラムが占めるべき割合)を設定する。この基準を自治体のスタンダードとして広く周知し、スポーツ団体等関係者の理解を求める。

基準に達していない施設については、その施設を主に利用している同好会・サークルなどに対し、メンバーのみを対象として実施されているプログラムの一部を公益的プログラムに変更するよう促すなど、基準の達成に努める。これを進める上では、地域内の公益的クラブ(総合型クラブなど)と共益的クラブによる協議の場を設け、共同でできる公益的プログラムの実施の可能性を検討するなどのアクションも必要となるであろう。

それまでなかば既得権的に、その施設を定期的に利用してきた共益的な団体にとっては歓迎しかねる施策と捉えられる可能性は高い。しかし、一時的にはメンバーだけで楽しむスペース・時間が削減されたとしても、地域内の施設を利用する新規のスポーツ愛好者が増えることにより、地域のスポーツ振興に高い意識をもつ層が拡大し地域全体のスポーツ振興が進む土壌が形成されることは、彼らを含む地域住民全体にとって大きなメリットにつながることを訴え理解を得ていくことが重要である。

この調整作業には、十分な知識とスキルおよび粘り強い周知啓発活動が求められる。各自治体において専門の職員を配置することが望ましいが、自治体が専門職員配置に係る新規の負担増を背負うことは現実的ではない。基準をクリアする施設数が一定程度の目標に達するまでの時限プロジェクトとして国のサポートが得られることが望ましい。この点については、文部科学省が2011年度より新規事業として開始した「スポーツコミュニティの形成促進」における「プロジェクトリーダーによる巡回指導等の調整と地域の課題解決への取組の実践」を拡充し、現行のプロジェクトリーダーに期待される役割(小学校体育活動コーディネーターの調整・派遣業務や、地域住民のスポーツ参加を通じた子育てなどの企画立案)に、「公共スポーツ施設の公益的プログラムの実施率基準達成に向けた調整・助言活動」を加えることを提案したい。

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