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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

第3章 提言 ~提言3 トップスポーツと地域スポーツの連携で新たなスポーツ時間を創出するべき~

国民が生涯を通じて、それぞれが望むかたちでスポーツを楽しみ、幸福を感じられる社会の形成

ここでは、運動・スポーツを「行いたいと思うができない」とした者がその最大の理由としてあげた「(運動・スポーツ以外のことに忙しいため)時間がない」に着目し、その解決策の一助として、忙しい中でも運動・スポーツを楽しむ時間を創り出すことができる簡易なプログラムの開発と普及を提案したい。なお、便宜上、本項ではそうしたスポーツプログラムを「スポーツ時間創出プログラム」と呼ぶ。

スポーツ時間創出プログラムに必要な要件としては、①短時間(15分程度)でできること、②年齢・性別を問わず誰でもできること、③実施する競技の魅力が感じられること、をあげたい。仕事や育児などに忙しく、従来であれば時間がないことを理由にスポーツ実施をあきらめていた層に忙しくても取り組めるスポーツ機会を提供することがねらいである。

また、実施者がこのプログラムをきっかけとしてその競技の魅力に触れ、週末などを利用してより本格的にその競技を楽しむようになれば、当該競技の統轄団体にとっては、新たな愛好者の獲得になる。上記で要件に③を加えたのはその理由からで、各種競技の中央競技団体や(公財)日本オリンピック委員会、(公財)日本体育協会などの統轄団体にはこれを利点と捉えプログラムの開発にあたってもらいたい。愛好者の裾野の広がりは、長期的にはトップの競技力の押し上げにつながることも期待できる。一方で本格的なプログラムの開発にはコストがかかることから、競技の普及事業の一環としてスポーツ振興基金やスポーツ振興くじなどの助成制度が利用できるような体制づくりが必要である。運動・スポーツを「行いたいと思うができない」層の縮減につながる同プログラムの開発・普及を、生涯スポーツ社会の実現を目指す一環として国がバックアップすることが求められる。

プログラム普及の第1フェーズでは、スポーツ立国戦略で示された広域市町村圏(全国300ヵ所程度)を目安とした拠点クラブに対する元トップアスリートなどの配置スキームの活用を提案したい。対象となる元トップアスリートが、スポーツ時間創出プログラムのインストラクターとなり、配置される地域においてプログラム受講を希望する地域の企業や団体を巡回する。将来的にプログラム受講希望者が増えれば、このプログラム開発団体が地域のスポーツクラブに直接派遣を行う方法では人材不足が予想されるため、普及の第2フェーズとして都道府県の競技団体、体育協会などの協力を得てインストラクターのリクルーティングと育成を行う必要が生じるであろう。普及の第2フェーズにおいて、インストラクターは元トップアスリートに限らず、プログラム普及の趣旨と地域のスポーツ振興に関心の高い者を広く採用できるような体制構築が求められる。

インストラクターの配置先としては、運動・スポーツを行う場が確保されている公益性の高いスポーツ組織(スポーツNPO、地元の体育協会、多世代会員を多く抱える単一種目スポーツクラブなど)であれば総合型クラブに限る必要はない。組織の公益性が担保できれば、将来的には地元自治体との連携(たとえば自治体が活動費の一部を支援し、組織側は巡回指導による効果に関するデータを提供するなど)にも道が開ける。また、インストラクターの配置先を運動・スポーツを行う場が確保されている公益性の高いスポーツ組織としたのは、平日の日中にこのプログラムを楽しんだ人が週末、より本格的に楽しみたいと考えた際には適切な場が必要となることによる。平日、職場などで体験したプログラムをきっかけとして、週末には子や孫と楽しみたいと考える層に、その組織は受け皿となる。組織にとっても、プログラムを通じて定期的な利用者層が増えればメリットは少なくない。

巡回指導を受ける地域内の企業や団体はプログラム受講料をインストラクターの配置先組織に支払う。配置先組織は受講料収入の一部を「プログラム使用料」としてプログラムを開発した中央競技団体、統轄組織などに支払う。インストラクターのクオリティが高ければ、巡回指導の希望者も増え、プログラム開発団体には使用料収入と愛好者の増加という2つのメリットが生じる。

本施策案は、スポーツ立国戦略で打ち出された「トップスポーツと地域スポーツの好循環」という理念を具現化する試みである。トップスポーツの発展をミッションとする競技団体や統轄団体と、地域で生涯スポーツ振興にあたる総合型クラブなどが、こうしたプログラムを通じて協力しスポーツ実施者の増加に努めていくことが、ひいては生涯スポーツ社会実現へのステップとなるであろう。

図表3-3 スポーツ時間創出プログラムの開発と普及

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