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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

スポーツ活動の再開に向けて ~ニュージーランドのガイドライン紹介~

新型コロナウイルスとスポーツ

新型コロナウイルスにより一度止まったスポーツ活動も再開し始めましたが、各国、各競技団体で、感染症対策などを踏まえながらスポーツ活動再開に向けたガイドラインを発表しています。笹川スポーツ財団では、国際的なスポーツ・フォー・オールの統括組織であるTAFISAやSSF海外研究員のネットワーク等を通じて、国内外のガイドラインを収集しています。

【第4回】 ニュージーランドの状況
スポーツ・ニュージーランドによるスポーツ再開に関する情報発信

ニュージーランド政府は新型コロナウイルス感染拡大への対策として、4つのレベルからなる警戒システム(COVID-19 Alert System)を導入しており、国内で感染拡大が少しずつ拡大し始めた3月25日に最も厳しい警戒レベル4を発動して国全体をロックダウンの状態としていた。その後4月に入り新規感染者の数が減少したため、4月27日には警戒レベル3、その後5月13日には警戒レベル2への緩和が行われた。

警戒レベルの緩和に伴い、スポーツ・ニュージーランド(Sport New Zealand)*1「警戒レベル4, 3, 2における遊び *2、アクティブ・レクリエーション、スポーツ(Play, Active Recreation and Sport at Alert Level 4 & 3, 2)」と題して、どのような活動を実施することが可能か、また実施する場合はどのような注意点があるかを一覧化したガイドを作成し、ウェブサイト上に立ち上げた新型コロナウイルス対策に関する特設ページの中で発信している。

特設ページの中では、その他にも今後遊び、アクティブ・レクリエーション、スポーツを再開するにあたり、役に立つ様々な情報を、「スポーツセクター(競技団体や施設運営者等)向けの情報」と「一般個人向けの情報」に分けて発信している。

<1. 警戒レベル4, 3, 2における遊び 、アクティブ・レクリエーション、スポーツ
(Play, Active Recreation and Sport at Alert Level 4 & 3, 2)>

スポーツ・ニュージーランドは、政府の警戒レベル引き下げ発表に合わせて、4月24日に「警戒レベル4・3における遊び、アクティブ・レクリエーション、スポーツ(Play, Active Recreation and Sport at Alert Levels 4 & 3)」を発表し、その後5月に入ってから「警戒レベル2における遊び、アクティブ・レクリエーション、スポーツ(Play, Active Recreation and Sport at Alert Level 2)」を追加で公表している。
(ニュージーランド政府は現時点で引き続き警戒レベルを2に維持しているため、警戒レベル1に関するガイドは2020年6月3日時点で発表されていない)

本ガイドはニュージーランドの保健省や企業・技術革新・雇用省をはじめとする政府機関から支援を受けて、スポーツ・ニュージーランドが作成したものである。

ガイドの中では、遊び、アクティブ・レクリエーション、スポーツに関して、各警戒レベルでどのような活動が許可されるか、活動する上でどのような注意点があるか、具体的な例を交えて示している。

「各警戒レベルにおいて実施できるスポーツ活動および注意点(一部抜粋)」

レベル4 ロックダウン
  • 自宅もしくは自宅近辺でのトレーニングのみ行うことが可能である
  • 自分のバブル(家族や同居人等の共同生活者)*3以外とは対人距離2mを保つ
  • 自分のバブル以外とは用具やボールの共用は禁止とする
  • 怪我や治療が必要になるリスクがある行為は一切禁止とする
レベル3 制限
  • 地域を跨がなければ、近隣の公園や山林等に移動してスポーツを行うことが可能である
  • 全ての活動は現状を維持するべきであり、新しい練習や活動を行ってはならない
  • 自分のバブル以外の人間とはグループでの活動を禁止する
  • 対人距離2mの確保、怪我・治療リスクがある活動の禁止、用具やボールの共用禁止については引き続き適用される
レベル2 縮小
  • 100名以下の人数であればグループや集団でのスポーツを行うことが可能である(当初人数の制限は10名であったが、その後5月29日に政府が警戒レベル2の中で人数制限をさらに緩和したことを受けて、100名に変更)
    • 地域スポーツでは、全ての選手(控え選手も含む)・コーチ・審判・観客(参加者の保護者等も含む)を合わせた数が100名以下でなければならない
    • プロスポーツでは選手は従業員としての扱いになるため人数の合計に含めなくてもよい(ただし選手と観客の間での物理的接触は禁止とする)
    • 同じイベントや施設内でも複数のグループを形成して、そのグループ間での物理的接触が一切無いようにすれば、それぞれのグループで100名までの集まりを認める
    • 活動前後の移動時間をずらす等して、共用エリアに密集を作らないように工夫する
    • より小さな会場では100名を収容してしまうと対人距離を保てなくなる可能性があるため、制限人数を引き下げなければならない場合がある
  • 必要な衛生施策を実施すれば、物理的なコンタクトを伴うスポーツも実施可能とする
  • 全てのスポーツ施設は必要な衛生施策を実行して、接触者追跡のための記録をとる準備をする必要がある
  • 従業員が働く施設では、労働安全衛生局が定める通り「労働安全計画」を策定する必要がある
  • 全ての参加者と観客の記録を準備し、政府や保健機関から求められた場合には迅速に提出できる状態にする必要がある
    • 特に選手や観客の間で対人距離を保てないケースでは、訪問者の詳細な情報を記録できるように工夫する
  • 全ての参加者に対する活動前後の手洗いの徹底、施設や用具の消毒の実施、共用道具やボール利用の最小化等の衛生施策を実施する必要がある
  • 新型コロナウイルス感染が疑われる症状を発症したものが活動に参加しないように徹底する必要がある
  • 物理的な対人距離を極力確保する
    • コンタクトスポーツにおいては、競技のルールを変更する等して、選手間の物理的な接触を減らせないか検討する
    • 活動の前後においては、更衣室やクラブルームにおいても物理的な接触を極力少なくする

上記はスポーツに関する内容になるが、本文の中ではその他に遊び、アクティブ・レクリエーション、ウォータースポーツ、スポーツ関連の商業活動(バー・カフェ・ジム・マッサージ・整体等)についても記載がされている。

<2. スポーツセクター(競技団体や施設運営者等)向けの情報>

上記の「警戒レベル4, 3, 2における遊び 、アクティブ・レクリエーション、スポーツ」に加えて、スポーツ・ニュージーランドは各競技団体や施設運営者等に対して、遊び、アクティブ・レクリエーション、スポーツの再開にあたって役立つと思われる下記の情報をウェブサイトの特設ページ上で提供している。

  • スポーツセクター向け助成金の案内
  • 事業の再開に向けた労働安全衛生基準
  • 接触者追跡のための記録に関するガイダンス
  • 衛生対策のガイダンス
  • 集団や集まりに関するガイダンス
  • シーズン移行に関するガイドライン(学校スポーツにおける冬から夏シーズンへの移行)
  • 雇用支援に関するアドバイス
  • 適切なガバナンス体制に関する情報
  • 新型コロナウイルス関連の外部情報サイトのリンク先
  • テンプレート集(感染症対策計画・BCP計画等のテンプレート)

それぞれの項目に記載されている内容の一例として、「接触者追跡のための記録に関するガイダンス」と「衛生対策のガイダンス」について記載内容を下記に示す。

接触者追跡のための記録に関するガイダンス

感染者が発生した場合、感染者と接触した者を追跡し管理することが非常に重要になるため、警戒レベル2においてスポーツ活動を再開する場合は、全ての参加者の訪問記録をとることが定められている。ガイダンスでは、運営を再開しようと考えている全てのスポーツ施設・グラウンドの運営者やアクティブ・レクリエーション、スポーツに関するサービス提供者が実施すべき記録の要件を示している。またその他にも、政府が公開している訪問者記録のテンプレートや追跡アプリの情報が掲載されている。

「接触者追跡のための記録要件(一部抜粋)」

  • 記録には、従業員や委託事業者も含む訪問者全員の情報を含む必要がある
  • 記録の管理は、事前に作成する安全計画の中で定めた個人にて行う必要がある。当該担当者は常時連絡を取ることが可能な状態を保ち、求められたら迅速に情報を提出する必要がある
  • 記録は紙媒体でも電子媒体でも構わない
  • 訪問者の情報には、訪問日時・時間・氏名・電話番号・Eメールアドレスを含む必要がある
  • 記録した情報は8週間にわたって保存する必要がある
  • 記録した情報は保健省や各地区の保健委員会(District Health Boards *4 )の要請に基づく接触者追跡のためだけに利用されるべきである
  • 記録した情報は、下記の点に留意して適切な方法で保存・管理される必要がある
    • 記録の目的を明確に説明して、透明性を確保する
    • 適切な情報管理を行い、セキュリティを確保する
    • 8週間が経過した後には、適切な方法で情報を廃棄する(情報漏洩のリスクがある廃棄は行わない)
    • 接触者の追跡という目的以外では情報を利用しない
    • 保健省や地区の保健委員会等の公的機関以外に情報を渡さない
  • 新型コロナウイルスの感染が疑われる者が参加者に含まれることが判明した場合は、迅速に定められたホットラインに連絡する

衛生対策のガイダンス

スポーツ施設の運営者やアクティブ・レクリエーション、スポーツに関するサービス提供者向けに、新型コロナウイルス対策として非常に重要な衛生施策に関する情報を提供している。

「必要な衛生施策(一部抜粋)」

  • スポーツ活動の前と後に水と石鹸を用いて手洗いができるように設備を整える。ただし難しい場合は、60%以上のアルコールを含む消毒剤を利用する形でもよい
    • 手洗いや消毒の重要性を全ての参加者と訪問者に対して、活動を行う前と後に水と石鹸を用いて手洗いを行い、その後完全に乾かしてから活動を行うことを周知する
    • 施設内のあらゆるところに手洗いを促すポスターなどを掲示する
    • トイレ等の施設に常に石鹸とペーパータオルを補充しておく
    • 入退場口や共有施設のすぐ近くに活用できる消毒剤等を設置する
  • 試合開始前や終了後の挨拶(握手やハイタッチ等)については、別の方法を考える
  • 多くの人が利用するドア等を常に開けておくことで、ドアノブ等に多くの人が触れる機会を減らす
  • 施設やグラウンドにおける「唾吐き」行為は、非衛生的であるため、禁止とする
  • 食事については極力参加者の自宅などで摂ってきてもらう。飲み物のシェアは禁止で、それぞれのボトルを取り違わないように工夫する
  • 全ての参加者が活動終了後にクラブルームや施設内に居残らないように徹底する
  • 共有施設や用具は極力使用せずに、参加者それぞれに用具を用意してもらう(特にタオルやドリンクボトル等)
  • 全ての設備や用具が使用の前後で消毒されるような工夫を行う。例えばフィットネスクラスのケースではウォームアップとクールダウンの中に、用具の消毒を組み込む等が考えられる
  • 施設や用具の定期的な消毒や清掃を計画する。消毒や清掃は適切な用具を用いて行い、担当者は使い捨ての手袋をして、終了後は手袋を廃棄しなければならない
  • 施設内で感染者が発生してしまった場合は、施設全体に対して特別な消毒・清掃が必要になるため、保健省のガイダンスを参考にして、必要に応じて地区の保健委員会からの助言を受ける必要がある

<3. 一般個人向け情報>

スポーツ・ニュージーランドは一般個人に対しても、新型コロナウイルス感染拡大の危機が続く中で、どのように遊び、アクティブ・レクリエーション、スポーツを再開していくべきかについて、下記の情報をウェブサイトの特設ページ上で提供している。

警戒レベル2の下で安全に遊ぶための基本ルール

警戒レベルの緩和に伴い、今後遊びやスポーツを再開する子供たちやその保護者に向けて、9つの基本ルールを提示している。(今後政府の発表によって追加・変更が行われる可能性がある)

  1. 基本を守る
    手洗いを徹底する、咳やくしゃみは肘で隠す、体調が悪い時は家にいる
  2. 自分自身を追跡する
    いつ、どこにいき、誰と会ったのかを記録する
  3. 距離を保つ
    知らない人とは常に距離を取る。遊び場が混んでいると感じたら、そこで遊ぶのをやめる
  4. 10人以下が目安
    誰かと接触してしまう場合は可能な限り10人以下に留める
  5. 事前に情報収集する
    ジム、スタジオ、プール等が再開するが、消毒や清掃など、自分がやらなければいけないことを事前に情報収集する
  6. 観戦は控える
    送り迎えや観戦については、所属しているクラブや組織が定めているルールに従う。観戦する場合は他の観戦客と常に距離を取る
  7. 清潔な用具を使う
    共有設備やその表面を清潔に保つ。クラブや組織が作成した安全計画の中で定めた消毒や清掃に協力する
  8. リスクを取らない
    自分の能力を超えるようなリスクの高い活動は行わない
  9. 適度な運動を心掛ける
    1日30分程度の運動は、身体的に精神的にも健康に良い

警戒レベル2の下で安全に遊ぶための基本ルール

練習を安全に再開するためのガイドライン

ハイパフォーマンスアスリートを含むスポーツ実施者が長期間のブランクの後にどのようにスポーツやトレーニングを再開していくかについて述べられている。衛生施策の実施、体調不良時の対応、怪我を防ぐための段階的なトレーニング再開等について記載されている。

よくある質問集(FAQ)

警戒レベル2への緩和に伴い、遊び、アクティブ・レクリエーション、スポーツの再開に関するよくある質問への回答集が掲載されている。物理的な距離、集会の人数、接触者追跡のための記録、スポーツ観戦、ジムやスイミングプールの利用、屋外での活動、スポーツやアクティブ・レクリエーションのための移動、学校スポーツ等、様々な質問に対する回答が記載されている。

<補足(最新の状況)>(6月15日補足)

上記本文については6月8日時点の情報に基づいて記載しているが、その後ニュージーランド政府は6月9日に警戒レベル1への緩和を発表し、国境規制(外国人入国の一部規制と入国後の隔離)以外の制限を全面的に解除した。それに伴いスポーツ・ニュージーランドも下記の通りウェブサイトの内容を更新・修正している。

またこの緩和を受けて、ニュージーランド国内では6月13日から、制限なしで観客を入れてのプロラグビーの試合が行われており、初戦には約2万人の観客が訪れた。(スーパーラグビー・アオテアロア(国内チームのみによる大会))

警戒レベル1における遊び、アクティブ・レクリエーション、スポーツ(Play, Active Recreation and Sport at Alert Level 1)の追加

遊び、アクティブ・レクリエーション、スポーツにおいても、全ての事業活動・サービス提供への制限がなくなり、集団の人数制限、対人距離の確保、接触者追跡のための記録に関しては、全ての要件が強制ではなく任意となった。これまで求められていた衛生施策については強制ではないが、継続することを推奨している。

レベル1 準備
  • 体調が悪い場合は活動を中止する。特に新型コロナウイルス感染が疑われる症状が出た場合は、家を出ず、自主隔離を行った上で、検査を受ける必要がある
  • これまでと同様に基本的な衛生施策(定期的な石鹸を利用した手洗い、咳やくしゃみは肘で隠す等)は継続する。
    施設運営者は共用設備や用具の定期的な消毒・清掃、石鹸や消毒液の設置等を継続する
  • 接触者追跡のために、個人で自分の行動を記録しておく必要がある。施設運営者やイベント主催者は記録のためのQRコードの掲示やお知らせの設置を続ける
  • 対人距離の確保は強制ではないが、可能な範囲において個人間で距離を保つように努力する
  • 怪我や治療のリスクがある活動への制限も撤廃されるが、引き続き安全に活動できるように努力する

イベント業界の新型コロナウイルスに関する自主的行動規範
(New Zealand Events Sector Voluntary Code Addressing COVID-19)

警戒レベル1への緩和に伴い、これまでイベント業界に課されてきた制限や要件はほとんどが撤廃された。ただしイベント業界が今後も新型コロナウイルス感染のリスクを最小限に抑え、再度の感染拡大が起きないように、また仮に再度感染拡大が起きてしまった場合に備えられるように、業界は企業・技術革新・雇用省と連携して、保健省のガイドラインに則って自主的行動規範を発表している。本自主的行動規範は、イベントの運営者、興行主、主催者、代理店、制作会社、サプライヤー、サービス事業者、会場運営者、競技団体等を対象としている。

「自主的行動規範(一部抜粋)」

  • 保健省が定める新型コロナウイルス関連ガイダンスの最新情報を把握して、導入する
  • 接触者追跡のための記録を支援する
    (例:参加者への周知、政府が提供している追跡アプリの仕組みを活用する等)
  • ニュージーランドの個人情報保護法に抵触しない範囲内で、参加者の情報を収集して、保持する
    (例:チケット購入者情報等)
  • 運営スタッフを含む全ての参加者が適切な衛生施策を実施できるように努力する(例:手洗い設備の整備、保健省の定めるガイダンスの啓発等)
  • 上記施策をはじめとして新型コロナウイルス感染リスクを最小化するための施策に、参加者全員が協力してくれるように仕向ける
    (例:イベント前後の啓発活動、テクノロジーの活用、報告体制の整備等)

「一般個人向け情報」ページの削除

警戒レベル1への緩和に伴い、上記の「一般個人向け情報」ページに記載されていた多くの制限や要件が解除されたため、本ページ自体が削除されている。

笹川スポーツ財団 スポーツ政策研究所 政策ディレクター 武富 涼介

【リンク先】(英語のみ)

(2020年6月15日現在)



*1 実質的にニュージーランドのスポーツ行政を担っている政府認可法人(Crown Entity)である

*2 原文の「Play」は、競技・種目等でカテゴライズされない軽めの運動・身体活動や遊びを総称したものと考えられるが、本稿では便宜上「遊び」をその訳として用いる

*3 ニュージーランド政府が新型コロナウイルス感染対策の中で活用している用語で、家族や同居人等の共同生活者を指す。家族から離れてホームステイ等を行っている場合はホームステイ先の同居人が自分のバブルになる

*4 ニュージーランド保健省の下で、国全体を20の地域に分割したそれぞれの地区における医療サービスの質向上のためのサポートや資金援助を行っている

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