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国際情報
International information

「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

知る学ぶ
Knowledge

日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

セミナー「子供のスポーツ」

スポーツ政策研究所が振り返る2013年 ~体罰・スポーツガバナンス・五輪決定・スポーツ庁~

運動部活動における体罰が社会問題に

大阪市立桜宮高校のバスケットボール部所属の生徒が、部活動で顧問から体罰を受けた直後に自殺した事件(2012年12月)をきっかけに、今年に入り全国で体罰指導が行われていた事実が次々と発覚し、大きな社会問題となった。

SSFの主な取り組み

部活・サークル活動に関する調査

『部活・サークル活動に関する調査』

7月に全国の16~19歳を対象に過去1年間の高校における部活・サークル活動(以下、部活動という。文科系および運動系を含む。)における暴力行為について調査を行った。その結果、全体の14.3%が部活動で指導者や先輩から暴力行為(暴言を含む)を受けた経験があることがわかった。

「新しい時代にふさわしいコーチングについて考える」スポーツアカデミー

「新しい時代にふさわしいコーチングについて考える」スポーツアカデミーを開催

12月に筑波大客員教授の勝田隆氏(文部科学省スポーツ指導者の資質能力向上のための有識者会議座長)を招き、「私たちは未来から『スポーツ』を託されている ~新しい時代にふさわしいコーチングについて考える」を実施し、「コーチングの現場に多様な関係者の目が入る環境をつくる“アスリート・アントラージュ”」の考え方などスポーツ指導のあり方について参加者が意見を交わした。

問われるスポーツ団体のガバナンス

全日本柔道連盟(以下、全柔連)における女子ナショナルチーム監督による暴力行為(セクハラを含む)が1月に発覚し、その後、全柔連を含む競技団体の助成金不正流用問題がメディアで取りざたされた。また、競技団体の財務状況の悪化もガバナンス不全の一環として指摘された。

SSFの主な取り組み

「日本のスポーツガバナンスを考える」シンポジウム

「日本のスポーツガバナンスを考える」シンポジウム開催

6月にスポーツガバナンスについて「体質の根本に遡った解決」の糸口を探るべくシンポジウムを開催。文部科学大臣による基調講演を皮切りに、多分野の専門家によるパネル・ディスカッションを行い、スポーツ指導と暴力の関係、競技結果主体の報道のあり方など多岐にわたるテーマを多角度から検証した。シンポジウム結果を踏まえ、各有識者によるリレーコラム「スポーツガバナンス」をWeb上で展開。(10月~)

『中央競技団体現況調査』

役職員の構成や予算規模など、中央競技団体の現況(2012年度)に関する調査結果を12月に発表。正規職員のいない団体が約2割にのぼるなど、競技力向上と普及を担う競技団体を取り巻く環境の厳しさが明らかとなった。

2020年東京オリンピック・パラリンピック開催決定

9月7日、アルゼンチンのブエノスアイレスで開かれた国際オリンピック委員会の総会で、東京が2020年のオリンピック開催地に選ばれた。東京は16年開催にも立候補して落選。2度目のチャレンジでスペインのマドリード、トルコのイスタンブールを振り切って開催地に選ばれた。

SSFの主な取り組み

東京オリンピック・パラリンピック開催地決定の会見時

「スポーツ政策の動向に関する意識調査」を9月に実施

同調査では、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催地が東京に決まったことについて東京都在住者、その他の地域在住者ともに約73%が好意的にとらえており、地域差がないという結果が出た。

スポーツボランティアサミット2013

「スポーツボランティアサミット2013」を11月に開催

サミットのテーマは「国際大会を成功させるためにみんなができること」。ロンドン五輪でのボランティアの活動状況や過去のラグビーワールドカップ、ワールドゲームズにおけるボランティアの仕組みが紹介され、東京オリンピック・パラリンピックにむけて前向きな話し合いが行われた。

スポーツ歴史の検証

「スポーツ歴史の検証」を連載

Web連載企画「スポーツ歴史の検証」では、オリンピック・パラリンピックに出場したアスリートの証言を「オリンピアンかく語りき」として連載。用具開発やスポーツビジネスの現場で選手を支えた人々を取り上げる「アスリートと歩む人びと」とともに、わが国スポーツを支えた立役者21人を紹介している。

スポーツ庁設置議論が加速化

9月に2020年オリンピック・パラリンピックの開催地が東京に決定したことを受け、スポーツ庁の設置を進める議論が政府内、スポーツ界で加速化した。スポーツ庁にはスポーツ行政の一元的な推進、スポーツ関連予算の効率的な確保などが期待されている。

SSFの主な取り組み

スポーツ庁の設置形態に関する研究結果

『スポーツ庁の設置形態に関する研究結果』を発表

設置の検討が進むスポーツ庁のあり方に関する基礎資料としての研究調査結果を10月に発表。「省庁横断型」「他組織融合型」「文部科学省外局型」「地域主権型」の4パターンを想定予算規模とともに提示し、議論を喚起した。

WEB座談会「日本のスポーツ行政について考える」

WEB座談会「日本のスポーツ行政について考える」を10月に開催

元トップスポーツ選手の為末大氏、ジャーナリストの玉木正之氏、文部科学省から藤原誠氏を招き、SSF特別研究員の友近聡朗のコーディネートのもと、Web座談会を開催。4つのスポーツ庁設置パターンに関する考察や、スポーツ庁への期待と課題など、今後のスポーツ行政のあり方について意見を交わした。

スポーツ政策意見交換会

スポーツ政策意見交換会の実施

SSFがコーディネートする住民総参加型スポーツイベント「チャレンジデー」を実施する複数の自治体において、スポーツ振興に携わる官民の関係者による「スポーツ政策意見交換会」を実施。SSF研究員が進行役を務め、地域スポーツのさまざまな課題に対する現場の声をスポーツ政策に反映させるべく意見交換を行った。

総括 -2013年を振り返り-

2013年は積年の課題が顕在化した1年だった。全日本柔道連盟に端を発した強化の中でのパワハラ、暴力問題は従前から綿々と続いてきた話で、20年、30年前であれば指導者も指導を受ける側も容認できたことだろう。ところが社会環境が移り変わる中で、アスリートの気質や価値観も変化し露見、顕在化したのではないか。部活動の体罰問題も同じ背景だと考える。

中央競技団体のガバナンスの問題も時代の変化とともに臨界点に達した結果だ。SSFの調査でも明らかなように、中央競技団体の役員の多くはボランティアで団体を支えてきた。そこにはプロの経営者や財務担当者は存在しなかった。職員の多くは縁故で採用され、薄給で実に多くの事務処理をこなさなければならなかった。このような状況でガバナンスを求められても、そもそも環境そのものに限界があったのではないだろうか。

いうまでもなくこのような事態は改善していかなければならない。スポーツ基本法が制定され、それに伴いスポーツ基本計画が作られた。2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催も決まった。タイミングは申し分ない。スポーツ基本法の前文には「国家戦略」という言葉が明記されており、いままさに国家戦略としてのスポーツ政策を打ち立てるときなのだ。

日本の将来のスポーツ政策を考える上で最も重要なのはファクトとエビデンスだと思う。たとえば運動をする子としない子の二極化が進んでいる。人口動態は大きく変化し、2060年には人口が8600万人にまで減り、人口の40%近くを65歳以上が占めるという予測もある。こうした事実は、健康寿命の問題が個人の健康という枠を超え、日本の社会福祉制度や国としての生産性という問題にまで影響を及ぼすことを意味している。運動・スポーツが社会に果たす役割は強化育成だけにとどまらない。このような大きな視点に立ち、運動・スポーツの重要性を広く国民に理論的に理解してもらうためにも、ファクトを具体的に分析し、エビデンスとして政策に生かしていくことは喫緊の課題と言えよう。

SSFでも個々の研究調査のアウトプットにとどまらず、研究全体を串刺しするような、全体を俯瞰する視点がこれからは重要だ。現状のファクトとエビデンスを明らかにして、深謀遠慮によってこれからのスポーツ政策を考えなければならない。

笹川スポーツ財団 専務理事 渡邉一利