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独立リーグの魅力を高めるために ~富山サンダーバーズが目指すもの

SPORT POLICY INCUBATOR(22)

2022年11月16日
永森 茂(富山サンダーバーズベースボールクラブ 代表取締役社長)

 日本に初めて「独立リーグ」と名乗るプロ野球のリーグができたのは、2005年四国アイランドリーグ(四国IL)からになります。

 当時、経済情勢の悪化により社会人野球チームが減少したこともあり、あらたな野球を続ける場を作ろうとして結成されました。当初は、日本野球機構(NPB)をめざす選手の育成を最優先したものの、地域との繋がりを十分に築けず経営に苦労しました。

 四国ILに遅れること2年、北信越を中心としたベースボール・チャレンジ・リーグ(BCL)が設立されました。四国ILの事例を参考に、地域密着を最優先に掲げてスタートしました。

2022年のホーム開幕戦には、石橋貴明氏、ゴルゴ松本氏が応援に駆けつけた。(ボールパーク高岡)

2022年4月のホーム開幕戦には、石橋貴明氏、ゴルゴ松本氏が応援に駆けつけた。(ボールパーク高岡)

 富山サンダーバーズは初年度こそ話題性も手伝い、観客動員数は2,000人を超えました。残念ながらその後は減少を続け、コロナ禍前には1試合平均500人程度まで落ち込みました。そしてコロナ禍が追い撃ちをかけました。

 そこで現状の打開を求めて、今年から富山、石川、福井、滋賀の4チームで新たに「日本海オセアンリーグ」を結成。これまでの独立リーグにはなかったいくつかの施策に取り組み始めています。

 専用アプリを開発し、試合のリアルタイム配信、見逃し配信の提供、オンラインチケットの販売などのサービスを提供し、利便性と若い層の取り込みを図っています。さらに4チームが一箇所に集まって試合を行うセントラル開催を導入しました。1日で4チームをみることができます。また、選抜チームを編成し、積極的にNPBのファームチームとの交流戦も開催しています。

 しかし、残念ながらコロナウイルスの感染拡大が収まらないこともあり、観客動員数は未だ伸び悩んでいます。

 実際のところ、BCリーグ時代も観客動員への様々な取り組みをしてきましたが、減少傾向に歯止めをかけることはできませんでした。富山サンダーバーズだけではなく、独立リーグにとって観客動員は最大の課題だと言えます。

 日本のプロ野球では、入場料収入が売上全体の30%から50%を占めると言われています。しかし富山サンダーバーズの場合は、後援会へのチケット販売を含めても10%程度でしかありません。いかに観客動員数を増やし、入場料収入を増やしていくかが、より重要になります。観客動員数が増えれば、それに従ってグッズ・飲食の売上も増えますし、広告協賛も取りやすくなります。

 観客を増やすには、ファンが見たくなる、応援したくなる要素が欠かせません。そのチームに魅力がなければ、人は見に来ないでしょう。どのように魅力を高めていくか、それが大きな課題となっています。

 では、独立リーグの価値・魅力とは何なのでしょうか?

 サッカーのJリーグやバスケットボールのBリーグと違い、独立リーグはチームが優勝してもNPBに上がれるわけではありません。野球のレベルもNPBを目指す選手たちですからNPBには及びません。

 高校野球のような全国のチームが目指す「甲子園」のような舞台もありません。

 高校野球も見るしNPBの野球も見に行くけれど、独立リーグの試合は興味がない、そういった現状を覆すには何が必要でしょうか?

 富山サンダーバーズでは今、有望選手の発掘と育成に力を入れています。

 球団設立から最初の10シーズンでは、わずか3人しかNPBに行けませんでしたが、11シーズンから今シーズンまでの6年間で13人の選手をNPBに送り込むことができました。13人のうち7人は外国人選手です。最初の3人はすべて日本人選手でしたが、11年目からはスカウト担当を置き韓国、アメリカ、ドミニカなど積極的に海外にも派遣しています。もちろん国内の高校、大学にも頻繁に出かけています。

 このような取り組みが結果に繋がったと思っています。そうしたことを地域のみなさんに知って頂き、チームの魅力につなげられないかと模索しています。

 2020年11月、NHKのナビゲーション「プロ野球 原石の育て方」という番組で富山サンダーバーズの取り組みが紹介されました。チームの方針である「光る原石を見つけて大きく育てる独自の戦略に迫る」という内容の放送でした。

 この年はちょうど、サンダーバーズ出身の千葉ロッテマリーンズ和田康士朗選手がブレイクした年でした。和田選手は2021年シーズン、パ・リーグの盗塁王に輝きました。BCリーグ出身者では初のタイトルホルダーでした。そして今シーズンは、和田選手の1年後に阪神に進んだ湯浅京己投手が、独立リーグ出身者で初めてファン投票1位でオールースターに選出されました。

 もちろん彼らの日ごろの努力で獲得したタイトル、名誉ですが、その原石としての時代は富山サンダーバーズにありました。将来、NPBで活躍するかもしれない原石が独立リーグに埋まっている、その原石を発見しに行こうという発信が重要だと考えます。さらに独立リーグの連携、NPBとの関係強化なども考えていく必要があるでしょう。

 独立リーグの大きな特徴の一つは、選手とファンの距離が近いことです。ファンとともに選手を育て大きな花を咲かせることができれば、ファンの人たちも「自分たちがあの選手を育てたんだ」という誇りを持てる、それが応援するモチベーションになるのではないかと思います。

 富山サンダーバーズは、NPBにも高校野球にもない新たな価値の創造として、「光る原石を見つけて大きく育てる独自の戦略」を進め、選手にもファンにも選ばれる、観戦に行きたくなる球団を目指しています。まだ観客動員数はコロナ前までには戻っていませんが、光る原石の応援に多くのファンが球場に来てくれることを確信しながら努力していきます。

  • 永森 茂 永森 茂    Shigeru Nagamori 株式会社富山サンダーバーズベースボールクラブ 代表取締役 高岡市野球協会役員、高岡市議などを務め、子供から大人までの野球活動に関わる。2000年富山国体の軟式野球競技の記録長を務めた。現在は、富山県野球協議会委員、富山GRNサンダーバーズの球団社長として、野球を通じた地域の活性化と青少年の健全育成、地域貢献活動に取り組んでいる。