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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

プロ野球「現役ドラフト」が教えてくれること

SPORT POLICY INCUBATOR(25)

2023年2月08日
青島 健太 (参議院議員)

 これも働き方改革の一環と言えるだろう。
 労働力の流動性を高めることや限られた人材を有効に活かすためのリスキリングが提唱されている。賃金の格差をなくし(同一労働同一賃金)余剰な人材を足りないところへ導く。また求められるデジタル技術やIoTに対する理解を深め、新しいスキルを身に着けて活躍の場を広げていく。これは少子高齢化社会への対策とも言える。

 こうした世の中の動きと呼応するようにプロ野球界でも新しい取り組みが始まった。
 「現役ドラフト」(非公開)である。
 簡単に言えば、埋もれている人材の活性化だ。

 これはかねてより選手会がNPB(日本プロ野球機構)にその必要を訴えていたものだが、ここにきて実現した背景には、前述の社会的な動向が挙げられるだろう。獲得した人材を活かし切る。どんな世界でも埋もれた人材の放置は、許されない。

 2022年シーズンオフ(12月)に開催された「現役ドラフト」は、各チームが必ず一人の選手を獲得し、その代わりに一人の選手を放出するというルールで行われた。あらかじめトレードの対象にならない選手(外国人選手や高額年俸の選手、FA権を取得した選手や移籍してきたばかりの選手)を除外して、残った選手の中から12球団がそれぞれ1名を指名。順番に選手を獲得し(※指名する順番には細則がある)、他球団から指名された選手を1名放出したのだ。

 高額年俸選手やFA権取得選手が対象外になったのは、それだけ出場機会のある選手であり、すでにチームの中心選手だからだ。「現役ドラフト」が目指したことは、スター選手の陰に隠れて出場機会に恵まれない選手や才能がありながらも伸び悩んでいる選手たちに新しい環境を用意すること。つまり人材の流動性を高めることで、新たな才能を発掘し、球界の活性化を図ることにあったのだ。また移籍にともなってチームが変わることで、選手本人のリスキリング(ポジションの変更など)が図られることも期待される効果と言えるだろう。

 野球ファンのために移籍した選手を挙げれば以下の通りである。

■パ・リーグ

現所属球団 指名球団 選手名 守備位置 年齢
オリックス ロッテ 大下誠一郎 内野手 25歳
ソフトバンク 阪神 大竹耕太郎 投手 27歳
西武 日本ハム 松岡洸希 投手 22歳
楽天 巨人 オコエ瑠偉 外野手 25歳
ロッテ ヤクルト 成田翔 投手 24歳
日本ハム ソフトバンク 古川侑利 投手 27歳

■セ・リーグ

現所属球団 指名球団 選手名 守備位置 年齢
ヤクルト オリックス 渡邉大樹 外野手 25歳
DeNA 中日 細川成也 外野手 24歳
阪神 西武 陽川尚将 内野手 31歳
巨人 広島 戸根千明 投手 30歳
広島 楽天 正隨優弥 外野手 26歳
中日 DeNA 笠原祥太郎 投手 27歳

 
 12名の平均年齢は26歳。選手としては、去就が分かれる年代。ある程度のキャリアを積んだ中堅選手(社員)の流動であり、これも世の動向とリンクしていると言えるだろう。

 こうした人材の発掘や埋もれたキャリアの活用という観点でスポーツ界全体を眺めると、まだまだ豊かな人材を活かし切れていないと感じる。これは同時にアスリートのセカンドキャリアの問題でもある。競技を引退してからそのまま指導者の道に進む人は良しとして、そうではない人のスポーツキャリアをどう社会で活かしていくのかというシステムがまだまだ未整備だ。

 2023年度から本格的にスタートする中学部活動の地域移行にともなって、指導者の確保は喫緊の問題でもある。これはスポーツ経験者にとってチャンスでもあるのだが、こうした人材が多くの自治体で一元的に管理されていない。また放課後や週末だけを担当する指導では、経済的にやっていけない。副業を認めることはもちろん、総合的な支援体制がなければ新しい人材は流入してこないだろう。
 こうした体制とシステムをどう構築するか。またスポーツのDX化も進み、組織の運営や選手強化にもデジタル人材が必要になる。

 今回の「現役ドラフト」は、埋もれている人材を活用することで活性化が可能になる。これに倣えば、それぞれの地域や競技団体にどんな人材がいて、それぞれの要望をつかむことから地域のスポーツが動き出す。そのためにはスポーツ版の人材バンクや相応の活動費&人件費も必要になる。目指すべきは、地域ごとに「指導者ドラフト」のようなことが行われ、有能な人材がしっかりと確保される状況だ。

 これからの中学部活動の課題は、どこが(誰が)リーダーシップを取って、何を目指して運営していくのか?ということだろう。
 地域移行と言いながら、移行先の運営主体がはっきりしていない。引き続き学校がリーダーシップをとるのか、自治体が全体をマネジメントするのか、競技団体が指導者を手配するのか、また3者を統合する組織をつくるのか。それがうまく機能しないと子どもたちの部活動が宙に浮き、何のための改革なのか分からなくなる。

 まずは学校と自治体(予算を持っている)が中心となって、地域に則した部活動のカタチを描き、それを実現する運営主体を構築することだ。地域の総合型スポーツクラブや競技によっては民間のスポーツクラブなどもその役を担える。
 同様のことは、文化部の活動にも求められている。

「現役ドラフト」が教えてくれることは、埋もれた人材を掘り起こし、指導者の流動性を高め、地域(チーム)を活性化していくことだ。
 教員の負担を軽減し、新しい人材を活用していく。これを部活動再生(より多くの子どもたちが楽しく活動する)の好機と捉えたい。

  • 青島 健太 青島 健太   Kenta Aoshima 参議院議員 慶應大、東芝を経て1985年ヤクルトスワローズ入団、公式戦初打席で初本塁打を放つ。1989年退団後、日本語教師として渡豪。帰国後、スポーツライターとして活躍。数々のオリンピックやワールドカップサッカーなどのスポーツキャスターを務める。鹿屋体育大学非常勤講師、日本医療科学大学客員教授、全日本野球協会理事等