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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

スポーツアカデミー2015 第7回

障害者のスポーツ参加の現状とこれからの方向性

2015年度の第7回スポーツアカデミーが2015年12月4日に開催されました。
今回は笹川スポーツ財団の小淵 和也 研究員が講師を務めました。

笹川スポーツ財団 スポーツ政策研究所 研究員 小淵 和也

笹川スポーツ財団 スポーツ政策研究所 研究員 小淵 和也

【当日の概要報告】

主な講義内容

2011年のスポーツ基本法制定以降、2020年東京パラリンピック大会の開催決定、障害者スポーツ行政の管轄移管(厚生労働省から文部科学省へ)、スポーツ庁の設置など、わが国スポーツを取り巻く環境は大きく変化してきた。一方で障害者のスポーツ活動の実態を把握するため、文部科学省は2012~2014年度にわたり研究調査事業に着手した。笹川スポーツ財団は同「健常者と障害者のスポーツ・レクリエーション活動連携推進事業(地域における障害者のスポーツ・レクリエーション活動に関する調査研究)」を受託し、調査研究活動に従事した。本日は当該調査活動を通じて明らかになった点を中心にお話しする。

1. 障害児・者のスポーツ実施状況

(1)スポーツ・レクリエーション実施状況
過去1年間に1回以上スポーツ・レクリエーション活動を行った7歳以上の障害児・者は44.4%であった。週1回以上の実施率を年代別でみると、7~19歳の障害者で30.7%、成人で18.2%という結果となった。

(2)スポーツ・レクリエーションへの取り組み
スポーツ・レクリエーションへの取り組みについて聞いたところ、回答者の48.7%が「スポーツ・レクリエーションに関心がない」と答えており、「自分にはスポーツなんてできるわけがない」と思っている障害者が多い現状を表している。スポーツ・レクリエーション実施の障壁については、「体力」「金銭的余裕」「時間」がないことが理由の上位を占めた。こうした理由が上位を占める傾向は、障害の有無を問わず共通している。また、「特にない」と答えた無関心層が33.1%であった。

(3)過去1年間に行ったスポーツ・レクリエーション
障害種別に関係なく、水泳の実施率が最も高い。日本スイミングクラブ協会加盟の民間のスイミングクラブの約2割が障害者向けのプログラムを提供しており、障害者と水泳の親和性は高いといえる。

2. 地方自治体の障害者スポーツ推進体制

(1)障害者スポーツの主たる担当部署
「障害福祉・社会福祉関連部署」が障害者スポーツを担当している割合は、都道府県で95.7%、市区では66.7%となっている。一方、「首長部局のスポーツ担当部署」が担当しているのは都道府県では東京都と佐賀県のみで、市区では12.5%であった。そのひとつである千葉市は首長部局が主体となり、市として「車いすスポーツのメッカ」となることを目指して環境整備に注力している。その結果、車いすバスケットボールやウィルチェアーラグビーのリオデジャネイロ・パラリンピック出場をかけたアジアオセアニア予選会の招致につながった。

3. 総合型地域スポーツクラブ(総合型クラブ)における障害者の参加状況

(1)障害者の総合型クラブへの参加状況と経緯
全国の総合型クラブ(調査対象:総合型地域スポーツクラブ全国協議会に加盟している47都道府県1,840クラブ)で、これまでに障害者の参加実績のあったクラブは42.9%。障害者が参加する経緯としては、「一般のプログラムに障害者の参加希望があった」(69.6%)、「障害者と健常者が一緒に参加できるイベントを行った」(30.1%)などが上位にあげられている。参加者の障害種別は肢体不自由が48.0%、知的障害が38.9%、発達障害が28.5%。また、参加している(していた)障害者の障害種類別数では、「1種類」が約半数で「2種類」が約4分の1を占めた。

(2)参加プログラム・種目
参加の形態は、一般のプログラムに「特別な配慮なく参加」が65.5%、「特別な配慮をして参加」が25.3%、「障害者を対象としたプログラムに参加」が13.3%であった。軽度の障害者が一般のプログラムに特別な配慮なく、気軽に参加できる種目を行っている実態がわかった。参加種目では「卓球」(15.1%)、「グラウンド・ゴルフ」(13.1%)、「健康体操・運動」(11.4%)などが上位にあがった。

(3)他組織との関係(支援・連携)
クラブの支援・連携先としては、「行政」が37.4%、「障害福祉関連施設」が35.2%、「社会福祉協議会」が34.1%で上位を占めた。障害者を受け入れるために希望する支援には「講習会や研修会の開催」(60.0%)、「指導者の派遣(出前教室)」(47.2%)などがあげられた。障害者を受け入れていないクラブは、指導者の確保や知識不足、情報収集などに不安を抱えていることがわかった。

4. 特別支援学校における障害児・者のスポーツ実施状況

(1)実施状況
全国の特別支援学校では、90.2%の学校が体育の授業以外に「運動会・体育祭やマラソン大会など」を実施。60.8%の学校が「運動部活動やクラブ活動」をしていると答えた。障害種別でみると、聴覚障害で90.5%、視覚障害で80.4%が運動部活動・クラブ活動を実施していた。運動部活動・クラブ活動の実施種目の内訳としては「陸上競技」「サッカー(ブラインドサッカーを含む)」「卓球」が多い。障害種別にみると、視覚障害の学校では「フロアバレーボール」「グランドソフトボール」、肢体不自由児の学校では「ボッチャ」や「ハンドサッカー」など、障害特性に合った種目を実施していた。

(2)サポート体制と施設
運動部活動・クラブ活動の指導者は主に教員で、それ以外では保護者やOB、外部指導員もわずかながらサポートしている。また、運動部活動・クラブ活動を実施している学校の3割では「卒業生の練習参加がある」と答えている。とくに聴覚障害児の通う学校では4割以上の学校がそのように回答した。

(3)学校施設の開放状況
体育施設の開放状況をみると、「体育館」「グラウンド」を開放していると答えた学校は約5割を超え、「プール」については約3割の学校が開放していると答えた。一般の小中学校の場合、体育館の開放率は約9割、グラウンドの開放率は約8割であり、これに比べると特別支援学校の施設開放率は高いとはいえない。開放しにくい理由としては、「体育施設が狭く、必要な設備が無いためできるスポーツが限られる」「設計上、一般開放を前提としていない」「障害者教育の場という特殊性から、開放に積極的になれない」などがあげられる。学校側の負担や地域の実情に配慮しながら学校開放をすすめ、障害者のスポーツ活動の充実と、地域の障害者理解の促進が図られる取り組みが重要。結果として、障害者と健常者がともにスポーツ活動をする場となっていくことが望ましいと思われる。

5. 総括

欧米に遅れること20年、日本でもようやく2016年4月に「障害者差別解消法」が施行される。2020年の東京パラリンピック開催をきっかけに、一人でも多くの障害者がスポーツを楽しむ機会を増やせるようになることが大切である。

ディスカッション:主なやりとり

Q.(フロア)障害者のスポーツ指導におけるサポートスタッフに関して、ボランティアの現状はどのようになっているのか。何か資格はいるのか。
A.

(講師)資格を取る人もいれば、資格なしで関わる人もいる。スポーツ指導をしなくても一緒に楽しむことはできる。それぞれの地域、団体・組織によっていろいろな関わり方がある。

Q.(フロア)2020年東京パラリンピック大会では多くのボランティア募集があると思う。それに応じるには、何か条件はあるのか。
A.

(講師)日本障がい者スポーツ協会が障がい者スポーツ指導員の資格を認定しているが、その対象を拡張していくのか、あるいは新たな資格などを設けてボランティアを募るのかといった点は現時点ではまだはっきりとしていない。かなりの人数が必要になることは間違いなく、今後何らかの動きは出てくると思う。

以上