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国際情報
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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

無料セミナー【「子どもを成長させる大人」五つの条件】

第4回 ・誰が子どものスポーツをささえるのか?
無料セミナー「『子どもを成長させる大人』五つの条件」
開催日時
2024年5月21日(火)19:00~20:30
開催場所
日本財団ビル 2階 大会議室/Zoomウェビナー
講師
 
島沢優子氏(ジャーナリスト)

島沢優子氏

島沢 優子氏
(ジャーナリスト)

筑波大学4年時に全日本大学女子バスケットボール選手権優勝。卒業後、英国留学等を経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年フリーに。主にスポーツや教育関係をフィールドに執筆。『AERA』で「ブラック部活」というワードを最初に社会に届けた。著書に『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)、『部活があぶない』(講談社現代新書)など多数。編著に『スポーツの世界から暴力をなくす30の方法』(合同出版)など。2020年より日本バスケットボール協会インテグリティ委員。2021年より沖縄県部活動改革委員。

コーディネーター 宮本 幸子SSFスポーツ政策研究所 政策ディレクター)

 

▼セミナーのポイントを動画でみる

主な講義内容

子どもを成長させる大人になるために その1
「自分の成育歴を整理する」ことが重要

 子どもを成長させる大人になるために、指導者も保護者もまずは自分の成育歴を整理してほしい。どのように育てられたかということは、その人の子育てや指導に大きな影響を及ぼす。

 事前質問の中に「過保護や暴言等が目立つ保護者に対して、指導者や周囲の保護者ができる工夫はあるか」という問いがあった。皆さんには、暴言が目立つ人、過保護になっている人の背景に注目してほしい。指導者がその保護者を頭ごなしに否定してしまうと、そこには対立の構図しか生まれない。できれば「僕もそういう時期があったよ」「私もそうだったよ」という共感から始めて、「あなたはなぜそういう振る舞いをしてしまうのか」ということを傾聴してほしい。

子どもを成長させる大人になるために その2
「子育ての軸」「育成の軸」をつくる

 次に「家族やチームをどのように育てたいか」「自分たちはどのように運営していくか」を考える。その際に「子育ての軸」「育成の軸」を作ることが重要で、譲れないものを決めたらぶれない強さをもつ。

 本日は最低限の軸として3点を紹介したい。1つめは早寝早起きである。成田奈緒子氏は、「からだの脳(生きるための脳)」「おりこうさんの脳(人間らしさの脳)」「こころの脳(社会の脳)」を順に育てることが重要と説く。からだの脳を作るのに不可欠なのが「早寝早起き朝ご飯」である。からだの脳を作っていないうちに無理にスポーツをさせると、最終的にこころの脳が育つ思春期にアンバランスな状態になってしまう。

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出典:『高学歴親という病』(成田奈緒子著/講談社+α新書)

 2つめは心理的安全である。私たちの脳には、意欲をコントロールする「線条体」がある。子どもの線条体は、リラックスしている時、尊ばれている時、安心していられる時に活発に動き、反対に大人からけなされた時、否定された時、嫌なことを言われた時、理不尽なことをされた時には動かなくなる。

 3つめは主体性である。サッカー指導者の池上正氏が中学生を指導していた時のエピソードがある。大差で負けていた試合中に、選手の父親が後ろで金網をぐらぐらと揺らしながら「池上さん、負けているのですよ。ちゃんと言ってくださいよ」と叫んだ。池上氏はその父親に「甘やかしているわけではないですよ。私は、もしかしたら日本一厳しいコーチかもしれないですよ」と言った。なぜ厳しいかというと、子どもたちが今、どのような状況になっているのか自分たちで気づく必要があるからである。池上氏の指導は、子どもたちが自分で気づき判断することを追求している。

子どもを成長させる大人になるために その3
「怒らないスキル」を方法論ではなく原論で

 子どもの能力を解放するには、子どもが自分で判断できる環境が必要であり、そのためには子どもたちに任せなければならない。勝つために大人が命令していると、状態が悪い時には子どもたちが集中していないようにみえ、結局は根性論で怒ってしまう。その結果、子どもたちは自分で判断ができなくなる。

 スポーツの指導者の中では「自分で考えさせる」ことがトレンドになっていて、コーチたちは怒りながらも一方では「考えろ」と言ってしまい、矛盾している。「怒ることは子どもの成長を妨げる」という原論を理解すると、大人は怒る以外の方法を探すようになる。指導スタイルを変えて成功体験を積み重ねると、怒る必要がなくなる。教育や子育ては単純ではなく、怒るか褒めるかという二者択一ではない点にぜひ気づいてほしい。

子どもを成長させる大人になるために その4
何かを決めるときこそ「放牧」せよ

 たとえばサッカーのセレクションなど、何かを決めるときに大人たちがいかに子どもたちに任せられるかが大事である。私はどのセミナーでも、「子どもが何かを決めるときこそ『放牧』しましょう」と話している。放牧とは、もちろん一緒に考えたり聞かれたことに意見を言ったりはするが、世話を焼かないで、子どもたちに決めさせることである。

 この時、特に保護者はダブルバインド(=「二重拘束」、2つの違う価値観を持つこと)の状態が起きやすい。普段は「楽しんだらいいよ」と言う一方で、進学や何かを決める際には急に「勝て」「頑張れ」と言い出すダブルバインドになった時に、子どもは最も混乱する。

子どもを成長させる大人になるために その5
空は果てしない「問うスキル」は方法論ではなく哲学

 日本サッカー界に多大なる貢献をしたイビチャ・オシム氏は、指導の中で「俺はこう思うけど、おまえはどう思う?」と選手にいつも問いかけていた。「空は果てしないぞ。おまえはもっと上に行けるはずだよ。上に行くにはどうしたらいいのか?」という言葉もある1)

 オシム氏はそのように問いかけながら、わざとチームにカオスをつくり出し、選手が自分たちで切り替え、考えてコントロールするようにしていた。これは私が先ほどお話しした主体性がないとできないことである。

 今は暴言やハラスメント、体罰などに対しては明確にNGが出されるものの、保護者や指導者の望ましい姿やスタイルが提示されていない。保護者であれば家庭で、指導者であればクラブで、教員であれば学校で、スタイルを変えることをぜひ考えてもらいたい。伸ばす大人の行動は、「問いかける」「傾聴する」「楽しませる」「考えさせる」「余裕を持たせる」と「自ら学ぶ」という、5つの他動詞と1つの自動詞がポイントになる。

1) オシム氏の具体的なエピソードについては、以下を参照。

島沢優子,2023,『オシムの遺産―彼らに授けたもうひとつの言葉』竹書房.

参考文献

成田奈緒子,2023,『高学歴親という病』講談社+α新書.

笑顔で質疑に回答する島沢氏(右)。左はコーディネーターの宮本。

笑顔で質疑に回答する島沢氏(右)。左はコーディネーターの宮本。

<質疑応答>

※質問と合わせて具体的なエピソードをいただいたケースもありますが、一部を編集して掲載します。

Q.子どもが小学生の頃から野球を続けて、高校には野球推薦で入学した。ところが「今まで親の圧に逆らえずに頑張ってきた。本当は高校では別のスポーツがしたかった」と急に言い出した。実は今、学校にも部活にも行けていない。親の私たちは圧をかけたつもりはないが、子どもに対する態度に反省の毎日である。子どもがスランプに陥っている時、特に環境の変化等で急に糸が切れたように変わってしまった時に、親はどうあるべきか。
A.「圧をかけたつもりはないが、態度に反省の毎日」がダブルバインドであり、子どもは混乱する。まずは子どもに「ごめんね、自分たちはそんなつもりじゃなかったけれども、『野球頑張れ』と言い過ぎちゃったよ」と謝ったうえで、「相談に乗るから、これからどうするかということをいつでも聞いてきて。そのときまではゆっくり休めばいいよ」と言ってあげてほしい。
子どもが「行けない、もう駄目だ」と言えたことは、子どもが弱みを見せられる親であれたということで、そこは親御さんたちも自分を褒めてほしい。謝ったあとは、「任せたよ、どうするかは一緒に考えよう」というスタンスで「放牧」していく。
もしあまりにも心が壊れているようなら、医療機関に行かなければならない。不安になっている子どもは昼夜逆転していることもあるので、その場合はまず生活リズムを整える。そのような対応を、保護者もいろいろ学んでほしい。
Q.サッカーの指導者として、全員に出場の機会を作り、みんなでサッカーをすることを大切にしている。しかし、一部の選手と保護者には「勝つために交代しないほうがいい」「あなたには勝つ気がない」と言われる。粘り強く対話を重ね、理解を求めているが、ときどき自分よがりになっていないか不安になる。どのように合意形成を取っていけばよいか。
A.指導者が1人で戦うのは大変である。これはクラブの問題であり、まず「このクラブでは子どもをこのように成長させます」という哲学や文化を作る必要がある。「自分よがりになっていないか」に対しては、私は「いえ、そうではない。これでいいですよ」と言いたい。日本サッカー協会(JFA)も「補欠ゼロ」を提唱しているので2、「JFAはこう言っていますよ、育成はこういうふうにやりますよ」と知らせて、クラブで合意形成ができればよいと思う。
保護者に対しては上から物を言わないことが大切だ。「一緒に子どもを育てるために、自分たちができることを共に学びましょう」と話して、さまざまな情報を取り入れてぜひ一緒に考えてほしい。

2)JFAグラスルーツ推進・賛同パートナー制度のテーマのひとつに「みんなPlay!補欠ゼロ」があり、ウェブサイトでは賛同パートナーに認定された具体的なチームの事例が紹介されている。
https://www.jfa.jp/grass_roots/partner/play/
Q.大学生がスポーツをささえられたらよいと考えるが、責任の問題や、指導力不足の問題をどう考えたらよいか。
A.指導にあたり「教えなければいけない」「習わせないといけない」と思わなくてよい。「子どもたちが自分でやってみる」「子どもたちと一緒に遊ぶ」というように、少し違う捉え方をしてほしい。中学生ぐらいになるとYouTubeやアプリなど、選手が自分を高められる道具がたくさんある。ぜひ自分で考えてできる子どもにしてほしい。その前にまずは大学生自身が自分を省みて、自分はどのように育ったのか、主体的に動けているか。そうではなかったら、そうならないためにどうするかを考えていけばよいと思う。
セミナーの様子。会場にも多くの人が参加し、熱心な質問も多く寄せられた。

セミナーの様子。会場にも多くの人が参加し、熱心な質問も多く寄せられた。


SSFの関連研究紹介

2022年2月発表「母親自身が子どもの頃から、保護者の役割は母親が中心という構造」

母親自身に子どもの頃を振り返ってもらい、本人やきょうだいがスポーツ活動をしていた場合の保護者の関与について尋ねた。

全体では「保護者がコーチをする活動があった」は14.6%、「保護者が係や当番をする活動があった」は31.6%であった。「保護者がコーチをする活動」では、「父親がコーチをしたことがあった」6.5%>「母親がコーチをしたことがあった」1.5%と父親のほうが多く、「保護者が係や当番をする活動」では母親22.2%>父親7.4%と母親のほうが多かった。過去の振り返りとして尋ねているため限界はあるものの、子どもたちの祖父母世代から、指導以外の関与は母親が中心であるという構造には変化がない様子がうかがえる。

2023年1月発表「保護者の当番の"大変なイメージ"が、子どもをスポーツから遠ざける可能性」

当番をめぐる実態を、「当番をしている母親」「当番はしていないが、スポーツ活動をしている母親」「当番を理由にスポーツ活動をしない母親」「その他の理由でスポーツ活動をしない母親」にわけて、全体の分布を示した。対象となる母親全体を母数にすると、現在当番を担当している母親は7.5%にすぎない。しかし、当番の負担を理由にスポーツ活動を敬遠する母親は26.1%にのぼる。