今回紹介するクラブは大阪府にあるNPO法人北摂ベースボールアカデミー。保護者負担の少ない学童野球チームの運営だけでなく、大人の野球イベントや女性の野球スクール、地域のお祭りと幅広い取り組みをしています。多方面にわたる施策の先にある大きな構想を伺ってきました。
インタビュー内容の詳細は、「報告書:2023-2024シリーズセミナー 誰が子どものスポーツをささえるのか?」にまとめております。
- 調査・研究
© 2020 SASAKAWA SPORTS FOUNDATION
© 2020 SASAKAWA SPORTS FOUNDATION
スポーツ政策研究所を組織し、Mission&Visionの達成に向けさまざまな研究調査活動を行います。客観的な分析・研究に基づく実現性のある政策提言につなげています。
自治体・スポーツ組織・企業・教育機関等と連携し、スポーツ推進計画の策定やスポーツ振興、地域課題の解決につながる取り組みを共同で実践しています。
「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。
日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。
今回紹介するクラブは大阪府にあるNPO法人北摂ベースボールアカデミー。保護者負担の少ない学童野球チームの運営だけでなく、大人の野球イベントや女性の野球スクール、地域のお祭りと幅広い取り組みをしています。多方面にわたる施策の先にある大きな構想を伺ってきました。
インタビュー内容の詳細は、「報告書:2023-2024シリーズセミナー 誰が子どものスポーツをささえるのか?」にまとめております。
―― なぜ北摂ベースボールアカデミーの設立にいたったのでしょうか?
特に保護者の負担をなくした点に関して、きっかけとなるエピソードやお考えをお聞かせください。
私は、2017年から専業主夫をしています。主夫としてママ友と話す中で、「野球って、親の負担がすごいよね」って話をよく聞いていました。「週末の土日、両方とも朝から晩まで潰れちゃうし、遠征とかもあるから、習い事としてやるには結構ハードル高いよね」って。
親がどうして子どもにスポーツをさせるかって、もちろん子どものためが1番ですが、一方で親が自由にできる時間が増える一面があることを主夫になってすごく実感したのです。親が買い物やカフェに行ける時間を作りながら、その間に子どもたちはスポーツをして元気に過ごせたら、それはすごくいいことなのだなと思いました。
そういう意味で、野球の習い事はどちらかというと親の時間を奪ってしまうスタイルが多いなと。反対に、親の時間を奪わないかたちのチームがあれば集まっていただけるのではという思いで、2019年に北摂ベースボールアカデミーをスタートしました。
―― 植松様ご自身の幼少期には、野球がやりたかったけどやれなかったと伺いました。そうした経験も反映されているのでしょうか?
振り返ってみると確かに自分自身もそうだったなと思います。子どもの頃、野球好きでやりたかったのですが、親に言ってもその野球チームに入れてもらえなくて。ひとりでブロック塀に向かってボールを投げて遊んでいた少年時代でした。
なぜ親が野球チームに入れてくれなかったのかわかりませんが、送迎といった習い事ならではの負担が原因かなと思います。今も、野球をやりたいけどできない子がいると思うので、そういう子たちのためのチームになれればよいかなと思っています。
―― NPO法人を立ち上げた理由は何でしょうか?NPO法人であることのメリットやデメリットを教えてください。
野球教室を開催する活動だけなら任意団体でもできなくはありません。だから、NPO法人を取らなきゃいけないことはないと思います。法人格をとるメリットは、税金です。収益事業をやると、通常は法人税がかかります。何か教えるのは、「技芸教授業」という収益事業になりますが、スポーツは対象外なのです。スポーツは儲かることとは思われていないのですよね。そのほかも、NPO法人であれば多くのIT系の企業が支援を行っていて、有料サービスを無料で使えるものが多いです。あと、行政の助成金の対象になったり、寄付をお願いするときに集めた資金は全て事業に使用すると説明ができるため、信頼を得やすいのもメリットですね。
デメリットとしては、毎年事業報告書を役所に提出するので、事務手続きをきちんとする手間がかかります。情報収集や総会開催の手続きもちゃんとしないといけない。経験や知識がない場合は、そうした点を負担に感じると思います。ですが、きちんと管理すれば団体の信用にもつながると思います。
私は設立してから知りましたが、スポーツ活動を法人で行うのであれば、NPO法人以外にも一般社団法人という法人も選ぶことができます。NPO法人よりも役所に提出する書類が少ないので、管理がより簡単になります。
―― 運営体制について教えてください。
北摂ベースボールアカデミーのコーチは、高校生から75歳まで10名以上います。過去には主婦がいたこともあります。コーチとしてさまざまな方がいて、複数の目でみるのが大事だと思っています。コーチが来られる日を提出してもらい、シフトを組んでいます。高校生のコーチは中学校までは野球していた子で、弟が以前に教室に通っていた縁から、お母さんの紹介でコーチになってくれました。
コーチの求人はウェブサイトで募集しています。Google検索からの応募や、最近ではメディアに取材してもらったニュースをみて応募してくれる人も出てきています。大学生が後輩を紹介してくれたり、大阪大学の野球サークルの子が来てくれたりすることもあります。
運営体制に話を戻すと、用具の管理・運搬、けが等の対応や広報、活動内容の発信は私が担当しています。会計は野球教室に通っている子どもの母親で簿記の資格をもっている方にお願いしています。子どもはもう教室を退会していますが、今でも会計のお仕事は継続して依頼しています。
―― 給与体系に関して
私含めてコーチや事務など役割ごとに給料表を設定しています。時間の経過と共に昇給する仕組みで、働いた分を時給に反映させています。そのために保護者も会費を払っていますし、払ってもいいという方が集まってくださっているのですよね。団体の収支についても事業報告書を出していて、事業ごとの収支もわかります。教室事業に関してはプラスも出ているので、団体としてもプラスを出しながら継続してやっていけるかたちにしていかないといけないと思っています。将来的には、きちんと生活できるくらいの給与を支払う常勤職員を雇いたいと考えています。
―― どのような工夫をすることで、保護者の負担をなくすことができたのでしょうか。参考にした取り組みや改善して取り入れた点があれば教えてください。
最初にスポーツスクール事業をしている現場へ見学に行きました。平日の活動に30人ぐらいの子どもたちが集まっていて「やっぱり野球の習い事を求めている人はいるのだ」と、とても励みになりました。
北摂ベースボールアカデミーの野球教室が民間の習い事と違う点は、入りやすいだけでなく、辞めやすいことです。株式会社でやると、どうしても入った方には続けていただきたい気持ちが強くなります。しかし、北摂ベースボールアカデミーとしては子どもが野球をやって楽しめるかどうか、のめり込むかどうか気軽に試してほしいのです。あと、最初に何か大きな費用負担があったり、ユニフォームを全部揃えなきゃいけなかったりとなると、せっかく入ったのに辞めちゃうともったいないとなって保護者が辞めさせにくくなります。子どもが本当はほかのことをやりたいときに、辞めるハードルが高いと次にいけないと思います。
―― 北摂ベースボールアカデミーを卒業していく子もいますか?
もっと本格的にやりたいと野球教室を辞めて少年野球チームに入る子もいます。北摂ベースボールアカデミーは、野球やりたい子を全部囲い込みたいわけじゃなくて、特に初心者の子がお試しするような場を提供できたらなと思っています。初心者を卒業して競技としてやっていきたい子には、地域の少年野球チームを紹介することもあります。辞める子に対しても、いろいろなことにチャレンジしてくださいと送り出すこと意識してやっています。
―― 保護者の方々と接する中で、よかったと思うことはありますか?
子どもは野球が好きだけど、野球をさせてあげられてなかった家庭が、北摂ベースボールアカデミーを知って、「ここだったらいけるかな」と選んでいただくことがあります。親としても子どもがやりたいのに自分の都合でさせてあげられないのは心苦しいと思います。親の心配がクリアになり子どもが野球を楽しめる環境を提供できたことはよかったなと思います。
また、保護者との会話から別事業である「大人の野球イベント」や「女性の野球スクール」は生まれました。
―― 保護者と接する中で、課題や困ったことは?
今のところあまりありません。理念や運営方法をウェブサイト上で公開しているので、保護者の方もわかって選んで来ていただいています。また、もし入ってから違うなと思われたら辞めていただきやすいことも意識しています。
―― 保護者の負担を減らす際に、新規のチームではやりやすいが、既存のチームを変えるのは難しいという声を聞きますが、どのようにお考えでしょうか?
既存のチームは発足した経緯やそれまでの歴史があるので、変えるのは団体の中心の方が意識をもってやらないと変わらないと思います。ただ、これまでのものを変えるのは結構ハードルが高いですよね。新しい理念で、新規の団体をつくるのもひとつの方法ですが、活動場所の確保がネックになります。
―― 活動する中で課題に感じていることはありますか?
場所の確保が課題です。小学校の校庭は既存団体が使用していることが多く、大阪府の学校開放も新規団体の使用はあまり受け入れていないようです。そのため、平日で空いているところを探したり、週末は他団体と共用できないか直接相談に出向いたりすることもしています。 あとはGoogleマップで空からみて野球場とか企業の敷地をみて探すこともありますよ。実際、まちの中を見渡すと時間帯によって使われていない場所が見つかることがあります。今はサントリーさんの社員向け施設を平日に使用させてもらっています。
―― 植松様には将来的に大きな構想があると伺いました。詳しく教えてください。
将来的な構想として、北摂エリア(大阪の北のエリア)にある10自治体の代表チーム同士が対戦するプロ野球を実現したいです。「自分のまちを応援しましょう」というストーリーで独自のローカルプロ野球ができたらなと。そこで地域に密着で興行して、応援したり関わってくれる人が増えたらここでの興行収入が上がりますよね。その興行収入を野球の普及活動、コーチの給料、場所の確保や整備に使っていき、地域でお金が回っていって、経済的にもスポーツが独立して継続していけたらなと。
イメージとしてはプロゴルファーのように自分がプロだという人でチームを組み、賞金をかけて戦います。 プロ宣言した人の中から地元のファン投票で地元代表が選ばれて、その人たちがチームを組み、賞金をかけて戦うプロリーグです。
―― ローカルプロ野球を実現するためにされていることが、新千里野球まつり、豊中スポーツまつりでしょうか?イベント立ち上げまでの経緯や植松様の思いなど、お聞かせください。
構想を実現するために、野球教室の開催から始めて、ゆくゆくそうした興行に繋がることをイメージしていました。2023年はひとつ自治体対抗よりももっと細かく、千里中央の北町・南町・西町・東町の町対抗の野球大会を開催し、「自分たちのまちを応援しよう」という会を企画しました。豊中市は観光資源も少なく、市としても自治体の魅力アップ、人口減少の中で、豊中市が選ばれるようにしたいという希望もあります。
野球大会では、たまたま通りかかった人も試合を楽しめるようにしました。具体的には試合のライブ実況を入れて、キッチンカーも配置して、子どもたち向けのスポーツ体験コーナーもつくりました。これをどうにかプロ野球につなげたいのですが、実現するとなると場所の問題があります。2023年は野球場が確保できましたが、2024年は野球場の改修もあり、困りました。そんなときに豊中市のソフトボールの市民大会があることを聞いて、これをお祭りにしたらどうかと思いついたのです。プレーヤーのための大会に実況をつけて、観る人も楽しめるものにしてはどうかと。ソフトボールも参加チームが減っていると聞きますし、女子の小学生チームが市内ではひとつしかないそうです。2024年のお祭りは2日間の中で実況をつけて応援してもらいました。
―― スポンサーや自治体からの助成金はあるのでしょうか?
少しずつ企業協賛も出てきています。スポンサー料や自治体からの助成金でキッチンカーを呼んだり整備したりしています。将来的には地域の会社の協賛金で地域のお祭りをつくって、地域のプロ野球リーグのスポンサーになってくることを期待しています。
野球教室にもスポンサーがついてくれることも出てきました。たとえば生命保険会社の方であれば、スポンサー料をいただく代わりに野球教室をみている保護者向けに教育資金セミナーやるので聞いてみませんかとお誘いするかたちです。生命保険会社からすれば営業機会になるし、保護者としてもライフプランニングの見直しができます。教室としてもスポンサー料が入るので、それで新しいグローブを購入できます。ただ、お金をもらうだけでなく、お互いにとってよい関係が築けると継続的にお付き合いできるのかなと感じます。