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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

女子サッカー:中学生年代の現状と課題/第2回 愛知東邦大学准教授 大勝志津穂氏に聞く 2

小学生年代でも男子と一緒にプレーできるように

―環境面での変化は

大勝 4種という小学生年代の種別ですが、昨年度から男女一緒の登録になりました。これまでは『4種』と『女子』とに登録種別を選択させていたのですが、それを統一し、女子選手の受け皿である活動の機会を男子と同じように増やそうとしています。男女関係なく、一緒にサッカーができる環境はとてもいい経験になりますし、女子にとっては強化にもなります。

女子のサッカーイメージ

―小学生年代に男子との練習や試合の経験をしていると、中学生年代にも好影響をもたらしますか?

大勝 女子だけで練習したいという希望も受け入れる必要はあると思います。多くの選択肢から選べることによって、裾野は広がっていくと思います。部活動の増加もひとつの方法ですが、できれば地域に根付いたクラブや活動がもっと増えればいいかなぁと思っています。

女子は男子以上にグラスルーツ(草の根)の取り組みを

―JFAの取り組みは競技人口拡大という側面からも重要ですね。

大勝 JFAがなでしこ広場をスタートしたのは2010年から。それ以外にもキリン・レディース/ガールズサッカーフェスティバルやキッズフェスティバル、ファミリー・フットサルフェスティバルなどを開催しています。こういった取り組みがユニークなのは、大人から子どもまで、家族と一緒に、年齢に関係なく参加できることにあります。
キリンビールやユニクロがスポンサーとなり、このようなフェスティバルは全国で開催されています。各種フェスティバルは各都道府県サッカー協会で、それぞれの地域特性を活かしながら行われています。

―グラスルーツ、草の根活動ですね。

大勝 グラスルーツな活動は男女問わず、欠かすことのできない大切なことです。レディース/ガールズサッカーフェスティバルは、全ての女性、女子が対象となっており年齢や経験を問いません。このような多世代にわたる活動が女子サッカーの普及には欠かせません。それは、現在大人である女性が、彼女たちが子どもだった頃にサッカーをできる環境が十分に整っていなかったからであり、したくてもできなかった経験をしてきたからです。
私が日本サッカー協会に、女子サッカー人口増加の背景をたずねた際、W杯の優勝だけが大きな要因ではなく、このような地道な草の根的な活動があったからこそ、今につながっているという話をいただきました。あの優勝は本当にタイミングがよかったと。地道な活動を続けてきたからこそ、今、女子のサッカー人口が増えてきているということでした。

女子の身体の問題を、選手と指導者がもっと理解してほしい

―プレーヤーの数、顧問や指導者、グラスルーツ、以上の大きな3点を伺いました。ほかに先生ご自身から、ここは言っておきたいということはありますか?

大勝 女子特有の体調の問題があります。女子と男子の大きな違いは、女子には月経があるということです。この点は女性の指導者も男性の指導者も頭に入れておく必要があると思います。激しいトレーニングで月経不順にもなります。また、中学生や高校生には“強くなりたいけど太りたくない”という、痩せ願望があります。
そのため、ダイエットをしすぎて月経不順になることがあります。体重を減らすために食べない、これは女子に多いケースです。さらに問題なのは、月経不順であることを本人が問題だと思っていないことです。指導者がきちんとケアしなければならないでしょう。
年々、女性アスリートの肉体的な負荷が高まるなか、この点は忘れないでほしいですし、指導者の仕事のひとつでもあると思います。

いきつくところは“生涯スポーツ”という大きな課題

―ほかに問題はありますか?

大勝 大人になるとスポーツをしなくなることです。エクササイズはするのですが、スポーツはやらなくなる、やれなくなる。ジムはエクササイズをする場所ですよね。
中学校や高校でサッカー、野球、バスケット、バレー、いわゆる集団種目を多くの人々が経験しています。しかし、学校期を離れたらできるかというと、今はほとんどできていません。この環境はどうなのかなと思っています。
2020年の五輪が終わった後、レガシーとして、一般の人にいかにスポーツができる環境を残すか、あるいは広められるか。そこがポイントだと思っています。女子サッカー部の学生もそうですが、場所が少ない、チームがないといった理由で、大学を卒業したらほとんどサッカーをしていません。スポーツができる環境をどうやってつくっていくか。
国は1995年から総合型地域スポーツクラブを推し進めていますが、なかなか世間には広まっていない。単一競技で、たとえばサッカーだとしたら、そこに年代別、目的別、レベル別カテゴリーがあるようなクラブを作っていくのもいいと思います。Jクラブはそれを目指していますし。生涯をとおして好きなスポーツができる生涯スポーツ社会は、幼少期、青少年期のスポーツ環境と同じくらい大切だと思います。