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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

セミナー「子供のスポーツ」

“おもてなしマラソン”でまちを元気に 鹿児島県指宿市 後半

まちの個性を活かしたマラソン

指宿の土地柄に触れる“おもてなしマラソン”

豊留悦男市長

豊留 指宿市では毎年恒例のイベントとして、いぶすき菜の花マラソンを開催しています。2012年で第31回を迎えた、毎年恒例のイベントです。このマラソンには、2万人近くが参加します。なぜ、これほどの人が全国から集まるのか――。「マラソンが好きだから」という人はおそらく半分くらいだろうと私は思っていて、いぶすき菜の花マラソンには、プラスアルファの楽しみがあるからだと考えています。それは、温泉であり豊かな食であり、あたたかく迎えてくれる指宿市民の人柄です。そういったおもてなしに惹かれて、毎年参加してくれる方が多いのだと思います。加えて、一緒に走って仲良くなった友達や、お互いに励まし合いながら走った人など、特別な思い出を共有している人たちにまた会いたい、と思う人が多いのだと思います。

渡邉 笹川スポーツ財団は、東京マラソンの立ち上げに携わっていたのですが、ランナーはもちろん、ボランティアの方たちも、まるで同窓会のように繰り返し集まってくれるのです。

いぶすき菜の花マラソンいぶすき菜の花マラソン

豊留 毎年参加するなかで、例えば、指宿市特産のサツマイモを提供してくださるボランティアの方が、翌年にもちゃんと同じ場所にいるのですよ。そうすると、「また今年もありがとう」って感動の出会いがある。マラソンというひとつのイベントを通して、そこに自分なりの思い出ができるわけです。それなくして、いぶすき菜の花マラソンのこれほどまでの成功はありませんでした。

渡邉 今後いぶすき菜の花マラソンは、どう発展して、どう地域と結び付いていくのか、展望を教えてください。

豊留 まずは、いぶすき菜の花マラソンを中心とした、年間のマラソンイベントスケジュールをつくっていきたいと考えています。1月はいぶすき菜の花マラソン、5、7、11月は菜の花マラソンに向けた教室を、地元の観光も兼ねて開催するのです。教室では、著明なマラソンランナーの方を講師として招きたいと考えています。3回の教室でトレーニングを積んで最後はフルマラソン完走を目指す、そんなイベントにしたいですね。

渡邉 スポーツツーリズムの観点から見ても、非常に理想的な計画だと思います。

近年のいぶすき菜の花マラソン大会参加者数

豊留 指宿市は、季節ごとに異なる魅力にあふれています。オクラの花が咲くなか、サツマイモが実るなか、そして菜の花が咲き誇るなか、薩摩富士を眺めながら走る。こういった指宿の豊かな景観を生かさなければ、言い換えれば、ほかのマラソンと同じことを目指していては、必ず失敗します。

菜の花の黄色は、幸せの象徴です。いぶすき菜の花マラソンを世界に誇れる大会にして、指宿市民の健康や触れ合いといった幸せにつなげたいと考えています。また、今後は確実に中国や韓国との交流が広がりますので、イベントを通じてさらに新しい人々とつながって行く、そんな交流を広げていきたいですね。海外からいぶすき菜の花マラソンに参加した人が、指宿の良さを知り、その友だちを連れて指宿に再来してくれる。そんな国際色豊かな大会になれば嬉しいですね。

指宿市が目指すスマートウェルネスシティ構想

渡邉 最後に、指宿市のスマートウェルネスシティ構想についてお聞かせください。

豊留 まず、お年寄りが気軽に外出できるような環境を整備して、商店街の活気を取り戻したいと考えています。現状は、道もお年寄りが安心して歩けるような道路ではありませんし、車で郊外の大型店舗に出かける人が多い状態です。この2点を改善して、お年寄りでも気軽に買い物に出かけて人との触れ合いを楽しめる、そんなまちにしていきたいと考えています。外に出て人と触れ合いたいというモチベーションが高まれば、歩く機会も増えて健康にも良い影響が出ます。そうすると、年々上がる医療費を抑えられるという期待もあるのです。

渡邉 経済の活性化にもつながると思います。

豊留 健康、食、観光、保養のまちを目指して、地域の人たちと知恵を出し合っていきたいと考えています。例えば、町内会で数人のグループをつくり、市のスポーツイベントにそのグループで参加すると、指宿オリジナルのポイントがもらえる仕組みをつくるのです。ポイントがたくさんたまったグループは表彰して、市内の高級温泉旅館の宿泊券や地元商店街で使える商品券などをプレゼントします。これなら、一人ではなく、身近な人と協力しながら、楽しく健康づくりを行うことができます。

皆が健康になれば医療費が抑えられますし、まちも元気になります。さらに、市内の観光地に招待することで、その良さをより多くの市民に広めてもらえれば、市民の利用者が増えて、さらなる活性化につながります。そんな健康とまちづくりのあり方が、指宿市のスマートウェルネスシティ構想の最終的な理想です。

渡邉 市民の健康づくりに対するインセンティブがユニークで、とても分かりやすいですね。

豊留 健康づくりのほかにも、観光PRやまちの活性化、国際交流など、スポーツは指宿市のさまざまな事業につながります。これからもしっかりとしたビジョンを持ってスポーツ振興に取り組み、市民が幸せを感じられるスポーツのまちを目指していきたいと思います。

渡邉 スポーツに対する市の積極的な取り組みは大変興味深く、参考になりました。今日は本当にありがとうございました。

スポーツによるまちづくり