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チャレンジデー

政策提言2021「地域における障害者のスポーツ環境充実に向けて」

コーディネーターの配置による福祉、教育、スポーツ関係者の連携体制の構築

笹川スポーツ財団では、2017年に障害者スポーツにかかわる政策提言を発表しました。障害者がスポーツに参加しやすい社会をつくるためには、地域の障害者スポーツ協会を中核とし、「医療」「リハビリテーション」「学校教育」「福祉」の各分野で連携・協働することが不可欠と提言しました。

2018年に大分県障がい者スポーツ協会と連携協定を結び、共同実践研究として、昨年度まで政策提言の成果や課題、あるべき地域の障害者スポーツ環境について、検討を重ねてきました。

本政策提言(2021)では、障害児・者が、すべてのライフステージにおいて身近な地域でスポーツに親しむことができる、あるべき姿を提示し、他地域で実践可能な成果と課題を論じています。

都道府県・政令指定市の障害者スポーツ協会は、障害福祉、医療・リハビリテーション、学校(小・中学校、高校、特別支援学校)、地域スポーツなど、障害者の日常生活や余暇活動に関わる分野の関係者の継続的な連携・協働を推進するコーディネーター人材を配置し、障害児・者のスポーツ環境の充実を図る。

本政策提言は、2017年度に発表した「SSF政策提言2017(障害者スポーツ)」を実証するために、2018年度から大分県で実施した実践研究をもとにまとめたものです。残念ながら、最終年度となる2020年度はコロナ禍で予定していた活動がほとんどできず、制約された状況下で事業展開を進めざるを得ませんでした。ただ、そうした環境においても、これまで関わりのなかった組織・団体にアプローチし、体験会・研修会などの開催を通じて、地域の障害者スポーツにおけるステークホルダーとの関係構築ができたことは非常に大きな成果と言えます。さらに、想定通り進んだ事業、進まなかった事業についての分析も行い、事業を展開していくにあたってのコーディネーターの役割整理、ノウハウの蓄積ができました。実践研究で得られた知見は、他の都道府県の障害者スポーツ環境の充実に向けて活用できればと考えております。

【笹川スポーツ財団 スポーツ政策研究所 政策ディレクター 小淵 和也


【SSF政策提言2021 要旨】

■「障害者のスポーツ環境のあるべき姿」は、スポーツ分野に限定されるものではなく、障害福祉、医療・リハビリテーション、学校(小・中学校、高校、特別支援学校)、地域スポーツなど、あらゆる職種や地域社会と連携し、すべての障害者が、すべてのライフステージにおいて身近な地域でスポーツに親しむことができる環境である。

あるべき姿の実現に向けて、都道府県・政令市の障害者スポーツ協会に、障害福祉、医療・リハビリテーション、学校、地域スポーツなどの各分野の連携・協働を推進するコーディネーター人材を配置する必要がある、とした。

■スポーツ庁や日本障がい者スポーツ協会では、地域の障害者スポーツ環境の充実には、障害福祉、医療・リハビリテーション、学校、地域スポーツをコーディネートできる人材の必要性は認識している。一方で、人材登用による成果と、登用に向けた課題については明らかになっておらず、具体策にまでは発展していない。

前述の「明らかになっていない点」を大分県障がい者スポーツ協会との共同実践研究において検証し、課題である、障害福祉、医療・リハビリテーション、学校、地域スポーツなどの各分野との連携・協働に向けた具体的な解決策について、政策提言としてまとめた。

【SSF政策提言2017と実践研究】

SSF政策提言2017において、「地域の障害児・者がどのライフステージにおいてもスポーツに接する機会が創出される」ためには、地域の障害者スポーツ協会の「組織運営や事業を円滑に実施できる人材の確保を含めた基盤整備が不可欠である」とした。

一方で、実態調査からは、地域の障害者スポーツ協会では、人件費が確保できず、環境整備に取組む余力がないことが明らかになった。(平成29年度 スポーツ庁 「障害者のスポーツ参加促進に関する調査研究」)

当財団では、地域の障害者スポーツ協会に地域コーディネーターの役割を担う職員が1名増えることで、障害児・者のスポーツ環境が改善すると考え、その実証研究として、大分県障がい者スポーツ協会に地域のコーディネーター役として「SSF地域スポーツイノベーター」を配置。大分県内の障害児・者のスポーツ環境改善に向けた実現可能性について3年間(2018年度~2020年度)にわたり検証した。

図表1. 障害児・者がいつでもスポーツに接することができる連携体制図/SSF政策提言2017より

【実践研究の主な結果】

地域コーディネーターの役割を担うSSF地域スポーツイノベーターを中心に、さまざまな分野のステークホルダーと連携。2018年度~2020年度の3年間、大分県内で多岐にわたる障害者スポーツ振興事業を展開した。障害者の多様なニーズに対応できる連携・協働体制の構築に向けて、全ステークホルダーにアプローチするのは現実的ではないと判断し、以下のステークホルダーを中心にネットワーク化を進めた。

ステークホルダー


1.総合型地域スポーツクラブ

2.スポーツ推進委員

3.スポーツ少年団

4.民間スポーツクラブ

5.障害者団体・福祉・就労

6.医療・リハビリテーション

7.学校教育

8.企業

ステークホルダーとの関係の変化

大分県障がい者スポーツ協会とステークホルダーとの関係を、SSF地域スポーツイノベーター導入前後で比較したのが以下の図である。導入前には繋がりが全くなかったステークホルダーとも3年間の実践研究を通して、関係を構築してきたことがみてとれる。

大分県障がい者スポーツ協会とステークホルダーとの関係の変化

大分県障がい者スポーツ協会とステークホルダーとの関係の変化

※ステークホルダーとの関係の強さを、太実線・実線・点線の順で示した

ステークホルダー別進捗状況

大分県障がい者スポーツ協会と各ステークホルダーとの連携の進捗状況を以下の図に示した。期間的制約やコロナ禍による社会環境の変化により、目標レベルの連携に達しなかったステークホルダーもあった。本政策提言は、事業開始時(2018年度)に目標としていた「連携」レベルを事業終了時点(2020年度)で達成したステークホルダーとの取り組み内容をもとにまとめた。

目標としていた連携レベルに達したステークホルダーは、「総合型地域スポーツクラブ」「障害者団体・福祉・就労」「学校教育」の3つであり、その結果から政策提言の具体策を明示した。

図表2. 大分県障がい者スポーツ協会と各ステークホルダーとの連携の進捗状況

具体策① 地域スポーツと障害者団体・福祉・就労による場の創出

地域スポーツ(総合型地域スポーツクラブ、スポーツ推進委員)と障害者団体・福祉・就労(地域活動支援センター、障害者支援施設等)が協働で継続的に事業を展開し、日常的な場を創出する。

Target(対象):

総合型地域スポーツクラブ、地域活動支援センター、当事者団体・組織、就労継続支援事業所、就労移行支援事業所など

Input(投入資源):

地域の障害者スポーツ協会のコーディネーター、総合型地域スポーツクラブのマネジャー、各施設・事業所の責任者など

Activity(活動)→Output(直接結果):

【導入期】半年〈メイン担当:協会〉

県内の総合型クラブの障害児・者の受入状況を把握し、モデル地区を設定する。モデル地区内の総合型クラブで体験会・交流会を開催する。クラブマネジャー、事業所(地域活動支援センター、就労継続支援事業所、障害者支援施設等)の職員、スポーツ推進委員は「運営」を経験し、会員、利用者などは「楽しさ」を経験する。

矢印

【拡張期】半年〈メイン:協会/サブ:総合型クラブ・事業所〉

モデル地区で複数回の体験会・交流会を開催する。参加者には様々なスポーツ機会を提供し、運営団体を都度変更し、多くの組織・団体がかかわることを目指す。協会が提供するプログラムを総合型クラブや事業所のプログラムとして展開する。

矢印

【成熟期】12メイン:総合型クラブ・事業所/サブ:協会〉

モデル地区の事例を他の基礎自治体で横展開していく。協会はノウハウと情報を提供し、クラブ、事業所を側面支援していく。都道府県により規模が異なるため1~2年を想定する。

Outcome(短・中期の効果):

交流会を開催した総合型クラブ・地域活動支援センターで継続的に障害者が参加する交流会・体験会が開催され、先行事例として確立される

Impact(長期の社会変化):

県内のすべての総合型クラブが、障害の有無にかかわらず誰もが参加できるクラブとなり、地域活動支援センターをはじめとした障害者団体・組織、就労継続支援事業所などで、独自にスポーツプログラムが提供される。プログラム提供にあたっては、障害者スポーツ指導者協議会や総合型クラブ、スポーツ推進委員などと連携する。

【エビデンス】

大分県では、【導入期】に大分県体育保健課が実施した県内全44クラブの実態調査をもとに、複数クラブへのヒアリングを実施して障害児・者の受け入れ実態を把握した。それらをふまえて、モデル地区として臼杵市、杵築市を設定し、体験会・交流会の開催にあたっては複数の関係団体・組織がかかわるように事業を展開した。【拡張期】には、モデル地区に設定した臼杵市、杵築市、津久見市において、3クラブ(5施設)で交流会を複数回開催して、障害者向けのプログラムを提供した。

具体策② 特別支援学校を拠点とした地域の場の創出

複数の特別支援学校を拠点校に設定し、地域の障害者スポーツの用具整備、および貸出を行う。さらに、拠点校の教員を対象にした研修会、外部指導者による体育授業の実施、障害の有無にかかわらず参加可能なプログラムを提供し、地域の障害者、スポーツ関係者などが集う場を創出する。

Target(対象):

特別支援学校(拠点校)、一般校(特別支援学級含む)

Input(投入資源):

地域の障害者スポーツ協会のコーディネーター、都道府県の特別支援教育課、特別支援学校(拠点校)の担当者

Activity(活動)→Output(直接結果):

【導入期】【拡張期】12年〈メイン:協会/サブ:学校〉

  県内で拠点となる特別支援学校を特別支援教育課と相談・設定し、拠点校の学校長と調整のうえ、事業展開する。拠点校の教員向け研修会を通して理解啓発を進め、その後、体育授業に外部指導者を活用して展開するなかで、校内のスポーツ環境を整える。校内の環境整備後、障害者スポーツ用具の整備、貸出方法を担当教員と調整し運用を開始する。さらに、地域の人たちが交流できるプログラムを提供して、多くの組織・団体が参加できるように管理運営を行う。一般校での体験会・交流会の調整、出前授業の管理運営なども行うことで、地域における交流の場としてのプレゼンスが向上する。

矢印

【成熟期】12メイン:学校/サブ:協会〉

拠点校の事例を拠点校になりうる他の学校とも共有して横展開していく。協会はノウハウと情報を提供し、学校を側面支援していく。都道府県により規模が異なるため1~2年を想定する。

Outcome(短・中期の効果):

一般校、特別支援学校問わず、障害児がどの学校に在籍していてもスポーツできるようになる

Impact(長期の社会変化):

拠点校が“障害者スポーツの拠点”から、“地域スポーツの拠点”として、障害の有無にかかわらず、子どもから大人・高齢者まで、誰にとっても地域の居場所として、スポーツを通じて交流できることが当たり前になる。

【エビデンス】

大分県では、【導入期】に大分県特別支援教育課と大分県障がい者スポーツ協会で4校の拠点校を設定して、特別支援学校の教員を対象に研修会を各校で開催した。1回当たりの平均参加人数は60人で、受講者の中には初級障がい者スポーツ指導員の資格を取得した教員もいた。外部講師による体育授業を実施して、日常的に業務過多の教員の負担軽減に努めた。【拡張期】では、大分県障がい者スポーツ協会が主導し、障害者スポーツの用具整備、貸出方法の調整を各校の担当教員と行い運用方法を確立した。さらに、大分県障害者スポーツ指導者協議会と連携して、地域の一般校での交流会・体験会などの調整、出前教室も実施した。

テーマ

政策提言

キーワード
年度

2021年度

担当研究者