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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

セミナー「子供のスポーツ」

【名寄市】テキスト版 加藤 剛士市長 対談

 スポーツをまちづくりへ
スポーツでアクティブなまちづくり 名寄

2023.12.25

名寄市(北海道)
加藤 剛士市長 対談

〈主な内容〉

「“都市機能”と“良質な雪”を備えた環境を活かし、市民みんなで地域を盛り上げて、子どもたちを育成していくことで持続可能なまちづくりを進めていきたい」(加藤市長)

名寄市は、北海道の北部に位置する人口25600人ほどの都市です。ジャンプ台、スキー場、屋内カーリング施設など、冬のスポーツをひと通り楽しめる環境が整った冬のスポ―ツが非常に盛んなまちです。教育・医療・施設などの都市機能と、「雪質日本一」とも言われる良質な雪を武器に、スポーツを通じたまちづくりを行なっています。

名寄市が2028年を目標に、改革を推し進めているのがスポーツ地域商社の設立です。スポーツを通じて、あらゆる付加価値を見出し、利益を追究することで、地域の経済活性化に貢献。また、市民へ利益を還元するだけではなく、スポーツを通じて市民が幸せになり、子どもたちが集まってくるようなまちを目指しています

2016年には、冬季スポーツのナショナルトレーニングセンター設置を目指して「冬季スポーツ拠点化推進プロジェクト」を発足させると、2019年には民官連携組織「Nスポーツコミッション」を設立。アドバイザーであるリレハンメル複合団体金メダリスト阿部雅司氏を中心に、国内ジュニア育成、コーチ養成、地域健康づくりサポート、冬季スポーツ大会・合宿招致など、スポーツを通じて好循環を生む多くの事業に取り組んでいます。

“都市機能”と“良質な雪”といった独自の強みを活かし、スポーツを通じたまちづくりを行なう加藤市長に、名寄市のアクティブなまちづくりについて詳しく教えていただきました。



1.名寄市 市勢概要

名寄市 市勢概要

加藤市長 名寄市は、北海道のなかでも北部の中央に位置する、人口2万5600人ほどの都市です。名寄川と天塩川という雄大な河川に囲まれた大変自然豊かな造形でして、基幹産業は農業で、夏冬の寒暖差が60℃にも及ぶ気候が美味しい農作物を生んでいます。

冬のスポーツが非常に盛んなまちで、ジャンプ台、スキー場、クロスカントリーのコースや屋内のカーリング施設など、冬のスポーツをひと通り楽しめる環境が揃う「ヘルシーゾーン」が大きな特徴です。

2.チャレンジデー

チャレンジデー

チャレンジデーとは

毎年5月の最終水曜日に行われる住民総参加型のスポーツイベント。全国の地方自治体を対象に、人口規模がほぼ同じ自治体と1日15分以上の運動スポーツ参加率を競う。「住民の健康づくり」や「まちの活性化」を図ることを目的に、笹川スポーツ財団が1993年からコーディネートを行う。2023年度、本事業は終了。

加藤市長 名寄市では、1994年からチャレンジデーに参加をさせていただいておりまして、市民の中でも、このチャレンジデーが習慣化しているといいますか、チャレンジデーというイベントそのものが何か市民のリズムになっていました。

名寄市の特徴的なチャレンジデーの取り組みは、毎年市民総出で行なう“大綱引き大会”。小学生から町内会の方や職域の皆さんまで、多い時ですと大人で150チームほどが参加していたこともあるくらいです。市民みんなで集まって、それぞれの団体で盛り上がろうと活動を行なってきました。

チャレンジデー

3.Nスポーツコミッション

加藤市長 令和2年、コロナが本当に大変な時期で、小学校や中学校の運動会も学校によっては中止。子どもたちにとってどうなんだろう・・・。野外であれば何とか、運動ができる環境を作れるのではないかと思いました。そこで思い切って、街のど真ん中で道路を封鎖して商店街の皆さんも巻き込んで、地域の活性化もスポーツを通じて図れないかと、「街なか運動会」を始めました。

これもまさに運動の習慣化、チャレンジデーの“想い”を、ある意味で引き継いでいる。そういうチャレンジの素地があったからできたという事業でもあったと思います。

渡邉理事長 第4回「街なか運動会」に参加させていただきました。未就学児から小学生、中学生、大人まで、皆さんが嬉々としてスポーツを楽しんでいらっしゃいましたが、この街なか運動会を主催する「Nスポーツコミッション」についても簡単に触れていただけますか?

加藤市長 「Nスポーツコミッション」は、名寄市の民官連携組織でありまして、行政はもちろん、既存の体育協会、スキー場等を管理している振興公社、観光協会地元の農協や信用金庫金融機関、もちろん民間企業でも単独で入っていただいているところもあります。さらには、旅館組合や青年経済団体、名寄市立大学の先生方にも入っていただき、新しい価値を創造し、付加価値をつけることで、さらに地域の振興につなげていく。そんなことを目指している組織です。

Nスポーツコミッション

渡邉理事長 具体的には、どういった事業を展開されているのでしょうか?

加藤市長 街なか運動会はもちろんですが、ノルディックウォーキングを毎週定期的に開催したり、市民の皆さんが参加しやすいウォーキング、サイクリングイベントなどをコーディネートしたり、展開しています。

また、さまざまな競技団体の指導者がそれぞれ、子どもたちを教えているわけですが、もう少しレベルアップした指導ができないかということで、子どもたちを集めて、科学的なトレーニングを施していく「ジュニアスポーツアカデミー」を設置。専属のトレーナーさんをつけたり、医科学的な見地からの研究をしたり、あるいは食生活改善のためのいろいろなプログラムをつくるといった企画も行なっています。

4.冬季スポーツ拠点化推進プロジェクト

冬季スポーツ拠点化推進プロジェクト

加藤市長 名寄は昔から「雪質日本一」を売りにしている冬のスポーツが盛んなまちで、冬のスポーツを一通り楽しめる環境が整っています。これまでにも冬季国体を2回誘致しておりますし、複合のワールドカップを開催したこともあるなど、いろいろな大会を誘致してきたところであります。

今後さらに市民から冬のスポーツで活躍するアスリートを輩出することができないか、世界に行くことができないかということで、「冬季スポーツ拠点化」を掲げました。

世界的に見ても、これだけ住民と近い場所で、これだけ良質な雪を持った環境というのはなかなかないというふうにも承知していまして、これは大きな武器になるのではないか。東京都の赤羽にナショナルトレーニングセンターがありますが、これはどちらかというと、夏の種目が中心です。そこで、目標は大きく、名寄でまとまった冬場のナショナルトレーニングセンターができないか、そうした大きな構想を掲げ、何とか実現しようと、2016年からプロジェクトをスタートしました。

渡邉理事長 「冬季スポーツ拠点化推進プロジェクト」を進めるにあたり、どこかの施設や地域など、研究対象にされたような経緯はございますか?

加藤市長 冬季スポーツ拠点化を推進するに当たっては、リレハンメル冬季オリンピック複合の金メダリストである阿部雅司さんを招致し、いろいろなアドバイスもいただきながら進めています。「冬季ナショナルトレーニングセンター」の夢を阿部さんと語っていくなかで、阿部さんがよく行かれているフィンランドに似ている環境があるということで、視察に行った経過があります。

フィンランドには、冬のスポーツを集約的にできるような環境があり、スポーツに加えて、科学的にスポーツを研究する大学の組織、コンドミニアム宿泊施設があり、さらには高校も近くにありました。

教育・医療・スポーツ組織・観光が、一体的に地域で展開をされていて、同じような取り組みができるのではないかというようなことで、視察に行って勉強させていただきました。

渡邉理事長 2016年から始まった「冬季スポーツ拠点化推進プロジェクト」。そして2019年から始まった「Nスポーツコミッション」によるスポーツを通じたまちづくり。市長の目からご覧になって、これらの事業を推進して、見えてきた課題というのはどういったところでしょうか?

加藤市長 実はそれぞれの競技団体を所管する体育協会のようなものが、名寄地区と、合併した風連地区の2カ所あります。そして、今ソフトを展開しているNスポーツコミッションと、3つの団体それぞれに一定の役割がありますが、そこの連携がまだまだ取れていない部分があると思っています。

渡邉理事長 そういった市長の課題認識のなかで、スポーツ団体の組織統合検討会議というのが始まったと伺っております。

加藤市長 この問題点を解決していくには、この3つの団体を発展的に統合していくのが望ましいだろうと。施設も一体的に運用管理をしていく。さらには今後スタートしていくであろうと部活動の地域移行も組織が一つになって、あるいは行政とそこでパイプをうまく作っていく受け皿を一つ作ることで、課題を解決できるというふうに感じています。今は、3つの団体それぞれで代表者を出し合って、どういう組織にしていくのか。できれば、新年度からのスタートを目指して、今さまざまな細かな議論を進めているところです。

この団体が将来的には“スポーツ地域商社”のような形で、スポーツを通じてあらゆる付加価値を生み出し、地域の経済活性化に貢献する。あるいは行政が一定の支援をしながら、市民の皆さんの健康をさらに維持していく。スポーツを通じてまちをもっと楽しく、そしてこの地域でスポーツをやれれば、もっと幸せになって、子どもたちも集まってくる。そんな環境を作っていけるよう、そのための組織進化をしていきたいと考えております。

スポーツ地域商社

渡邉理事長 “商社”という言葉が出てきました。私は、スポーツ庁の審議会の委員をやっていますが、スポーツというのは、無料で提供してもらえるというイメージがまだまだあるようです。一方で、商社というのはサービスを提供したら、それなりの対価をもらって収益を上げていく。そして、得た収益はまた、何らかの形で市民に還元するというような、発想ではないかなというふうに思います。

加藤市長 まさに“地域商社”は将来的には、営利部門と非営利部門という形になっていくと思います。スポーツを通じた健康づくりだとか、市民の皆さんのコミュニティをさらに醸成していくというのは、これはやはり行政課題でもあるので、ここはしっかりと行政が一定の支援をしながら、例えばスポーツのツーリズムがそうでしょうし、合宿なんかもそうでしょう。そうした利益も追求しつつ、それをまた市民の皆さんに還元していく、あるいは投資をしていく。そして、さらに市民生活も高めていくと同時に、またさらに稼げる力も強くなっていって、地域の振興にスポーツを通じて好循環が広がっていくような、そんな組織を目指していきたいです。

渡邉理事長 笹川スポーツ財団が2017年に出した政策提言のなかに、地域スポーツの推進に当たっては地域のスポーツプラットフォームをきっちり構築して、そこで推進していこうというものがありました。実はこの提言を受けまして、宮城県の角田市が地域の実情に合わせて地域のプラットフォームを構築して、いろいろな事業を今展開しています。

加藤市長 今資料を見させていただいても、Nスポーツコミッションが実際に行っているこの組織の運営のあり方にも似たような部分があり非常に興味深いです。

5.阿部 雅司と名寄市

阿部 雅司と名寄市

加藤市長 阿部さんは、冬季リレハンメルの複合団体の金メダリストですが、その後にナショナルコーチでも成果を残され、コーチを引退して起業に専念するといった話をお聞きしました。スポーツに精通していて、専門的な知見を持っている方が必要だと考えていましたので、阿部さんが適任ではないかと打診させていただきました。

名寄市の特別アドバイザー的な存在です。本当に大きな決断をしていただきました。阿部さんの存在により、スポーツ施策そのものがグーッと押し上げていただいたという感じがあります。阿部さんが来て、Nスポーツコミッションが立ち上がって、ジュニアの育成の企画やノルディックウォーキングなどが始まり、まさに中心的な今のスポーツ行政を担っていただいている存在です。

渡邉理事長 阿部さんがこんなことをおっしゃっていました。子どもからだんだん成長し、大学生くらいの年齢になると、大分スポーツの実施率が下がる。そして成人になると、やはり働くことが優先されてしまうから、なかなか働き世代のスポーツ実施というのが高まってこないと。

加藤市長 まさに我々のNスポーツコミッションを推進していくに当たって、「なよろスポーツオブライフ」というマップを作って、Nスポーツコミッションとして、どこにさらにコミットをして事業を行なっていくかを政策立案の糧にしているところです。

名寄スポーツオブライフ

まさに20代から50代ぐらいまでがちょうどスポーツする機会が失われてくる時期ですが、この世代にスポットを当てていかなくてはいけないだろうと、名寄市立大学とも連携をしながら「InBody」という科学的な装置を活用して、定期的に診断を行いつつ、自分の体をしっかりと理解をしていただこうと、まさに働き世代に訴えかけ、科学的に健康スポーツに取り組んでいくような事業を展開しています。

渡邉理事長 今、国の政策も「健康経営」というのが一つのキーワードになっていますから、そういった意味では市内の各事業所にアウトリーチ的に訪れて、そこの従業員の健康をまず知ってもらって、これからスポーツの大事さを認識してスポーツを実施してもらうのはすごく良いことですね。

6.市民の皆様へメッセージ

市民の皆様へメッセージ

加藤市長 世界的に見ても、これだけの都市機能も有しながら、良質な雪を楽しめる環境があるというのは、本当に数少なくなってきていると感じています。名寄のこの冬のスポーツを高めていく優位性というのはさらに高まっていく、そういった可能性があるまちだということを、まず市民の皆さんには認識をしていただきたいと思います。

その上で、市民の皆さんにスポーツにもっと関心を持っていただき、スポーツを通じてもっと健康になってもらいたいという願いがあります。みんなでスポーツでこの地域を盛り上げて、そして子どもたちをしっかりと育成をしていくことで持続可能な名寄市のまちづくりを進めていきたいと考えております。

渡邉理事長には本当に貴重な機会をいただきました。今後とも我々に対して、叱咤激励あるいは御指導をいただければありがたく思います。よろしくお願いいたします。

加藤市長

渡邉理事長 今日は長時間にわたり、いろいろなお話を伺いまして、ありがとうございました。

加藤市長 ありがとうございました。

名寄市