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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

セミナー「子供のスポーツ」

被災自治体の今 第1回 宮城県七ヶ浜町

宮城県七ヶ浜町

仙台湾につき出た小さな半島が七ヶ浜町。
七ヶ浜町総合スポーツセンターが町のスポーツ拠点だ。震災によりこれらの施設は大きな被害を受けた。

■公共スポーツ施設の現状

町民体育館での様子

中心的役割を果たしていた町民体育館は全壊し、2014年春の時点で解体工事中という現状。
少年サッカーコートが2面とれる第一スポーツ広場は、仮設住宅が建設されており使用不能のまま。第二スポーツ広場・野球場は地割れがあったり、フェンスが壊れたりして、ようやく修繕の段階に入った。テニスコートは地割れでまったく利用できない状態だったが、2013年秋にフットサルコートとの兼用施設としてリニューアルオープンした。

2001年に行われた宮城国体の際に少年サッカーの会場として使われたサッカースタジアムは、仮設住宅の候補地となったが「天然芝の上は、町民がこれから体を自由に動かす場として必要になるのではないか」という町長の考えで存続が決まった。あとは雨漏りがひどいものの武道館が何とか使用に耐えうる状態。町民プールも利用されている。

■総合型クラブ アクアゆめクラブ

スポーツセンター内にある6施設の指定管理者である総合型クラブ「NPO法人アクアゆめクラブ」の木間奈津子マネジャーは「震災でクラブの活動は完全にストップしましたが、震災3日目から私たちが管理しているグラウンドで給水活動がスタートし、スタッフは給水ボランティアとしてお手伝いしました」と振り返る。

同クラブでは、ようやく最低限のライフラインが整った2011年5月のゴールデンウィークが明けたころから、クラブの活動を再開しようとしたが、拠点にしていた町民体育館は壊れてしまって使えない。そこで学校開放を利用してプログラムの一部を再開したものの、施設が不足しているがゆえに問題も少なくないという。同町には小学校3校、中学校が2校あり、うち中学校1校は全壊して利用できなくなった。スポーツ少年団の数も多いため、限られた学校施設を希望者で調整しながら利用するのはなかなか苦労が多いようだ。

同クラブは震災から数か月後、町から仮設住宅入居者のサポートセンター(サポセン)の役割を任され、以来委託金をもらい10人のスタッフでサポセンの業務を行っている。支援物資品・遺品・遺失物の管理、災害ボランティアの受け入れ、資格を持ったスタッフによる高齢者世帯への見回りなどが主な業務内容となっている。

■一歩、外に出る

七里ヶ浜への旅行

仮設住宅ができた当初は、怪しげな訪問販売や宗教関係者と思しき人たちの出入りが多く、住民はよそ者に対して強い警戒心を抱いていた。クラブの人間も住民にしてみれば同じよそ者で、信頼関係を築くのは容易ではなかった。それでも月日がたつと、日々の努力が徐々に認められるようになり、少しずつ住民のストレートな声が集められるようになる。震災から3年目の2013年には、一歩でも仮設住宅から外にでるきっかけをつくる目的で「おでかけデイ」をスタートさせた。

シニアの健康教室は、当初は町内で活動していたが、気仙沼市の総合型クラブと連携していきいきシニア交流会を実施したり、仮設住宅入居者を対象にバスを手配して鎌倉市の七里ガ浜へ旅行に出かけたりもした。
バス代などはクラブで負担するが、最低限の費用は参加者に負担してもらっている。仮設住宅の風呂は小さいので、温泉ツアーは人気がある。
鎌倉市とは七里ヶ浜と七ヶ浜が名前が似ていることから震災以降につながりができ、この旅行で参加者は名刹、建長寺に宿泊した。

「本当に単純な交流会ですが、みんなで話をして、大笑いして、終わったあとに『行ってよかった』と言ってもらえる。県内だけでも47の総合型クラブがあるので、これからもこういった活動は広げていきたい。どんどん外に出てリフレッシュしていただきたいと考えています」(木間マネジャー)

■これからの課題

仮設住宅におけるスポーツの課題について木間マネジャーは「仮設住宅に住んでいて、スポーツ少年団でスポーツをしていた子はそのまま継続できるが、していなかった子はお金の心配をするし、わがままが言えないということもわかっていて、なかなかスポーツをすることができない」と指摘した上で「そういった子たちがクラブに入りやすくなるよう、新たに会費の支援をしていきたい」と問題解決に意欲を見せた。

今後はスポーツ実施率を再度調査し、町民の生の声をいままで以上に取り入れていく意気込みだ。同クラブではスポーツを推進しながら、サポセンで培った経験と人間関係を生かし、防災教育や高齢者の健康増進なども絡め、多方面から事業の展開を予定している。また、2015年に災害復興住宅への入居が始まると、高齢者ばかりが集まるアパートが誕生するなど、新たな課題ができることも予想されている。木間マネジャーは「仮設住宅に居住する1,200人の方々とお会いすることができた。スポーツだけをツールとせず、コミュニティーづくりなどにもポイントを置きながら、今後の計画を練っていきたい」と話している。

ちなみにサポセンの活動は1年契約で更新される。今後仮設住宅が減っていくことを考えると、活動期間はあと2、3年だと予想されている。

サポセンでの活動経験を大事にしながら、地域住民が少しでも楽しく体を動かせる環境づくりに貢献することがアクアゆめクラブとしての今後の課題だ。