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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

セミナー「子供のスポーツ」

世界が取り組むスポーツの不正対策

3. Match-Fixingへの対応策

3. Match-Fixingへの対応策

安藤 悠太 氏

Match-Fixingへの対策としては、予防・管理・検証という、通常の危機管理対策を整えることが必要である。ただし、問題が複雑になるのは、それぞれのアクターが異なってくることにある。今回は三つの段階ごとに、どのような事例が見られるかを追っていきたい。

Match-Fixingへの対応策

まずは、予防にあたる部分であるが、啓発活動としていくつかの活動が始まっている。この部分ではスポーツ界やスポーツ担当行政が主要アクターとなる。オーストラリアでは政府が主要アクターとして対策を進めていて、現在スポーツ行政を担当している健康省内にスポーツにおけるドーピングやMatch-Fixingなどの腐敗からスポーツを守る部署が置かれている。選手たちに対してオンライン上で "Keep Australian Sport Honest" と題した Eラーニングプログラムを提供し、その危険性や犯罪者が選手に近付く手口を伝え啓発を行っている。

ドイツではドイツサッカー協会(DFB)とドイツサッカーリーグ協会(DFL)が共同で "SPIEL KEIN FALSCHES SPIEL" と題したプログラムを行っている。対象は選手、コーチ、クラブ職員、審判員等であり、啓発資料はトップリーグから地域リーグまで各クラブや地域のトップトレーニングセンターに配布されている。また2010年夏季ユースオリンピックシンガポール大会および2012年冬季ユースオリンピックインスブルック大会では、ユース選手のための教育プログラムが設置されるとともに、ホームページ上にも特設ページを設け、選手や関係者の意識向上を図っていた。欧州サッカー連盟(UEFA)もユース年代の大会において啓発活動を行っている。

欧州連合(EU)においてMatch-Fixing対策は重要政策課題の一つとして取り上げられており、国際サッカー選手協会(FIFpro)、欧州エリートアスリート協会(EEAA)、国際ラグビー評議会(IRB)、トランスペアレンシーインターナショナル(TI)、スポーツアコード(SportAccord)等はEUからの助成を受けて啓発プログラムを展開している。

次に管理の部分であるが、これは賭け率や賭け金の額に不自然な動きがないかを監視するモニタリングが該当する。ここではスポーツ界とスポーツベッティング業界が主要アクターとなる。国際サッカー連盟(FIFA)はスポーツベッティングのモニタリングおよび警告システムであるEWSを開発し、2006年ドイツワールドカップ以降、主催試合についてモニタリングを行っている。IOCは2008年夏季北京オリンピックの際にはFIFAのEWSを通して、2009年以降は自ら開発したISM(International Sports Monitoring)によりオリンピックに関する賭けの動きについてモニタリングを行っている。また、現在はその対象を各大陸予選等に拡大できないか検討を進めている。

世界が取り組むスポーツの不正対策

ベッティング業界側でもモニタリングを行っており、欧州くじ協会(EL)では2005年からの試験運用を経て、2009年にELSM(European Lottery Monitoring System)を完成させた。このシステムは当初UEFAおよびFIFAの主催試合のみを対象としていたが、その後各国の国内サッカーリーグへ拡大された。世界宝くじ協会(WLA)もELと協調しながら、対策の策定や監視システム導入を進めている。さらに、スイスに本社を置くスポーツ情報の配信会社であるSportradar社は、モニタリングサービスと啓発サービスを提供しており、FIFA、UEFAおよびUEFA傘下の各国協会、ドイツ・イタリア・イングランドなどのサッカー団体の他、ドイツハンドボールリーグ、フランステニス協会等とパートナーシップ協定を結んでいる。日本が所属するアジアサッカー連盟(AFC)も同社と協定を結んでいる。

最後となる検証の部分では、各国の法制度を見ていきたい。この部分では立法府および警察が主要アクターとなる。Match-Fixingを各国の司法の場において実際に扱った例は決して多くはないが、法的枠組みは各国で近年整備されてきている。特に大きなスポーツイベント開催を前にその内容を充実させる例が見られ、2012年夏季ロンドンオリンピックを前にした英国、2012年サッカーユーロを前にしたポーランド、2014年冬季ソチオリンピックを前にしたロシアでそれぞれ対象範囲の拡大や厳罰化が見られた。

Match-Fixingの犯罪類型については、2012年にEUより報告書が出されている。例えば英国では、2005年賭博法においてスポーツベッティングにおける詐欺行為やそのほう助といった形でMatch-Fixingを犯罪化した。目的達成の如何に関わらず違反とされ、違反した場合には最大で禁固2年が言い渡される。2010年には最大刑期の延長について再考勧告が出されている。またスポーツに関する汚職を犯罪化しているケースがある。スペインやブルガリアでは刑法の中にスポーツに関する汚職が定められている。他方、ギリシャ、キプロス、ポーランド、ロシアではスポーツ法の中で汚職について定めている。さらに、スポーツ法の中でスポーツ犯罪という類型を定めている国もあり、マルタやイタリア、そしてポルトガルが該当する。