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スポーツ活動の再開に向けて ~オーストラリアのガイドライン紹介~

新型コロナウイルスとスポーツ

新型コロナウイルスの感染拡大は、さまざまな分野に多大な損害を与えています。
スポーツ活動も例外ではなく、内外でさまざまなスポーツイベント、競技大会、リーグ戦等が延期、中止を余儀なくされてきました。まさに、スポーツの危機、スポーツ・フォー・オールの危機といえます。

一方、この状況に対し、各国のスポーツ振興を担う諸機関・諸団体では感染拡大を予防しながら、安全にスポーツ活動を再開するにはどうすればよいかに知恵を絞り、いくつかの国では「ガイドライン」が示され始めました。

笹川スポーツ財団では、国際的なスポーツ・フォー・オールの統括組織であるTAFISAやSSF海外研究員のネットワーク等を通じて収集した内外のガイドラインについて、本スポーツトピックスで紹介してまいります。

【第3回】 オーストラリアの状況 オーストラリア政府のスポーツ活動再開に向けた取り組みについて

オーストラリアの「国家内閣(National Cabinet)」*1 は5月1日に国家健康保険委員会(Australian Health Protection Principal Committee : AHPPC)*2 が作成した「スポーツ・レクリエーション活動の再開に関する原則」と、スポーツ関連行政機関であるオーストラリア・スポーツ研究所(Australian Institute of Sport : AIS)*3 が作成した「スポーツ再開に向けたフレームワーク」を、今後のスポーツ・レクリエーション活動の再開に向けた国家としての基本的な指針とすることを発表した。

その後5月24日には、AISと同じくスポーツ関連行政機関であるスポーツ・オーストラリア(Sport Australia)*4 が、上記の原則およびフレームワークと足並みをそろえる形で、「スポーツ再開のためのツールキット」を発表した。

国家内閣は7月までに新型コロナウイルス感染拡大の危機から安全な社会を実現して、経済の本格的な再開を目指すとしており、一部賛否はあったようだが5月28日には国内で初めてプロスポーツであるナショナルラグビーリーグが無観客での試合を再開している。(ナショナルラグビーリーグのウェブサイトに掲載されている記事では、実際に試合を再開する上で講じられた施策や各州・地域政府との調整の経緯等が語られている)

<1. スポーツ・レクリエーション活動の再開に関する原則>

この方針はAHPPCがAISと協力して作成したものであり、AISを通じて聴取した各スポーツ競技団体の医務官の意見も反映されている。今後のスポーツ・レクリエーション活動の再開に向けた15の原則が示されており、本原則に基づいた具体的なガイドラインは、AISの「スポーツ再開に向けたフレームワーク」に示されるとしてお互いを補完しあう形となっている。

  1. スポーツ・レクリエーション活動の再開は新型コロナウイルスの感染拡大という危機的状況から脱しようとしているオーストラリアの社会全体と国民に対して、健康面、経済面、社会面、文化面で大きなメリットをもたらす
  2. スポーツ・レクリエーション活動の再開は、いずれの国民または地域社会の健康を脅かすものであってはならない
  3. スポーツ・レクリエーション活動の再開は、医療上の客観的な情報に基づいて、安全を確保した上で行われるべきであり、地域における新型コロナウイルスの感染率を増加させることにつながってはならない
  4. スポーツ・レクリエーション活動の再開は本原則を参考に慎重に判断されるべきであり、加えて適宜、連邦政府、州・地域政府、保健所との綿密な協議を行うものとする
  5. AISの「スポーツ再開に向けたフレームワーク」には、競技スポーツを含むスポーツ・レクリエーション活動の再開に向けたガイドラインが示されている。フレームワークでは、同じスポーツでも接触の有無や実施場所の屋内外の別などで再開に向けた要件が異なると考えている。よってこのフレームワークで示される再開に向けたレベルA、B、Cの3つのステージは、一般的なガイドにはなりえるが、各競技団体や地域団体はそれぞれの地域の感染状況、リスク回避策、医療環境の状況等を踏まえて再開に向けたガイダンスを策定する必要がある
  6. 海外のデータを踏まえると、屋外の活動は新型コロナウイルスの感染リスクが比較的少ない傾向がある。屋内で行うスポーツや運動については質の良いデータが不足しているものの、現状は仮に同じ対策をとったとしても屋外よりもリスクが高いと考えられている
  7. 再開に向けた計画の中では、スポーツ・レクリエーション活動に参加する、またはその活動を支える全ての個人について慎重な検討を行う必要がある。これは競技スポーツ、プロスポーツ、地域スポーツ、個人レベルで楽しむためのスポーツ(物理的なコンタクトがないものも含む)等、全てのスポーツ・レクリエーション活動においても同様である
  8. 地域におけるスポーツ・レクリエーション活動の再開は、段階的に行われるべきである。まずは10人以下の少人数で、物理的なコンタクトがないような方法で行う。その後より大規模で、接触を伴う練習や試合を行うにあたっては、各競技団体や地域団体はそれぞれの地域の感染状況、リスク回避策、医療環境の状況等を踏まえて判断する必要がある
    A) 子供たちが屋外で行うスポーツ・レクリエーション活動においても同様である。競技者以外の観戦者(例えば保護者等)の間でも物理的な距離を保つように策を講じる必要がある
    B) 屋外で行われる様々なレクリエーション活動、例えばパーソナルトレーニング、ブートキャンプ、ゴルフ、釣り、ハイキング、水泳等も同様である
  9. 屋外で行われるスポーツ・レクリエーション活動においても、クラブルーム、トレーニング施設、ジム等の利用を含む室内の活動を伴う場合は、最大限のリスク回避策を講じる必要がある(接触機会の回避、物理的距離の確保等)
  10. 競技スポーツやプロスポーツ競技に対して、本原則およびAISのフレームワークで示されているのは練習や試合の再開に向けた最低限の要件である。現状ではほとんどのスポーツおよびレクリエーション活動はAISのフレームワークにおける「レベルA」の状態で運営されるべき状態である
  11. 仮にいずれかの競技団体において、どうしても再開を急ぐ必要がある場合は、各州・地域政府および各地域の保健所と綿密な調整を行い、新型コロナウイルス感染の拡大を防ぐために追加の施策を行った上で、必要に応じて承認を得る必要がある
  12. いずれの状況においても、各スポーツ・レクリエーション団体は、地域の保健所からの指示があった場合はそれに従う必要がある。当該地域において再度コロナウイルスの感染が広がる傾向が確認された場合は、スポーツ・レクリエーション活動は再び制限される可能性があり、関連団体はそれに対応するための準備をしておく必要がある。また各競技団体やスポーツ・レクリエーション活動への参加者の中で新型コロナウイルスの感染者が確認された場合は、他のケースと同様に参加者グループや組織の人員を一定の期間、隔離する等の対応がとられる
  13. 大人数が密集することのリスクを踏まえると、将来的にプロスポーツや競技スポーツでは試合を行う際、無観客にして、最低限のサポートスタッフのみで運営することを検討するべきである。地域スポーツやレクリエーション活動においても、参加者をサポートするために最低限必要な人数に制限することを検討するべきである(子供1人に対して保護者1名のみとする等)
  14. スポーツ施設(練習場や競技場)では、全ての参加者と観客(仮に観客の受け入れが許可された場合)の感染リスクを最小化するために、最大限の準備をする必要がある
  15. スポーツ・レクリエーション活動の再開にあたっては上記に限らず、全てのオーストラリア国民の安全と健康が第一である。今後スポーツ・レクリエーション活動の再開にあたって必要な検討事項は、「新型コロナウイルス保険スポーツ委員会(COVID-19 Sports and Health Committee)」*5 にて検討される

<2. スポーツ再開に向けたフレームワーク>

本フレームワークは、オーストラリア全土の競技団体の医務官や連邦政府の主席医務官のアドバイスを受けて策定されており、「スポーツ・レクリエーション活動の再開に関する原則」と整合する形となっている。

本文では今後各スポーツ競技団体や地域スポーツの運営者が、「どのように」スポーツの再開を目指していくかについて参考となるガイドラインを示している。ただし、本文中でも注意書きとして何度も書かれているが、今後「いつ」スポーツを再開していくかについては各地域の状況やスポーツ競技の特性が影響するため、必ず各州・地域政府や地域の保健所と相談して、適切なアドバイスを受けることを求めている。

前提としてスポーツの再開に向けては全てのアスリートや競技参加者(運営スタッフ等も含む)に加えて、地域全体の安全を確保するためにも、慎重にステップを踏んでいく必要があるとしている。

フレームワークに示されている具体的な内容としては、まず地域や個人のレベルで実施される小規模スポーツと競技スポーツやプロスポーツ等の専門的かつ大規模なスポーツを大きく2つに分けて、それぞれについて、再開に向けて準備すべき内容、再開に向けて段階的に行うべき3つのレベル(A、B、C)の内容、参加者への注意事項、感染リスクが大きい参加者への対応、再開後の運営・監視体制等について述べている。

本フレームワークの肝となるスポーツ再開に向けた3つのレベル(A、B、C)については、それぞれのレベルにおいて、実施可能な競技や練習内容、感染拡大を防ぐための施策、観客への対応等が素案として示されている。加えて補足資料として、オーストラリアで行われている主なスポーツ競技の一部について、競技ごとに実施できる競技や練習内容をレベル別に例示している。(陸上、バスケ、サッカー、ゴルフ、ラグビー等、50種以上の競技)

「レベルごとに実施可能な競技・練習内容(全競技共通の内容)」

レベルA
  • 原則として1人またはペアで実施できる
  • 他の人との距離が最低でも1.5mは常に確保できる
  • 競技者やその他の参加者の間にコンタクトがない
    (例)ランニング、サイクリング、スプリント等
  • トレーニングのうち、器具が必要ない、または自前で器具を用意できる
    (例)筋力トレーニング 等
  • オンラインでの指導やトレーニング等、直接相対する必要がない
レベルB

(レベルAの活動に加えて)

  • 屋内外に関わらず10名以下の参加者/スタッフによって運営することができる
  • 1人あたり約4m2のスペースが確保できる
  • 下記に示すような器具やスポーツ用品を使用する
    (例)サッカーボール、テニスボール、縄跳び、ダンベル・バーベル、マット等
  • 意図的な接触を含まず、偶発的な 接触に留めることができる
    (レスリング、タックルの練習等は意図的な接触になる)
  • 活動再開可能な競技や施設の例として、ジム、ヨガ、ダンス教室(パートナーで組むようなものは禁止)、サイクリングをあげている
レベルC

(レベルA・Bの活動に加えて)

  • 意図的な接触を含む活動も再開できる
    (例)レスリングのタックル、ラグビーのスクラム練習等
  • 人数の制限も撤廃する
    (ただし大人数のチームスポーツについては練習の際はいくつかの小さいグループにわけて練習をする等の工夫をする)
  • いくつかの競技では練習施設が営業していないことで活動が制限される可能性があるとしている

<3. スポーツ再開のためのツールキット>

このツールキットはスポーツ・オーストラリアがオーストラリアホッケー協会と連携して作成したもので、国全体で運営を行う中央競技団体から、特定地域の小規模なスポーツ運営を行う団体まで、全ての団体が実務面で活用できるツールとして、スポーツ再開に向けた包括的なチェックリスト、安全なスポーツ再開に向けた安全計画(COVID-19 Safety Plan)のテンプレート、政府が提供する手洗いやソーシャルディスタンス推進のポスター画像や映像、スポーツクラブや施設への入場者記録簿のテンプレート等を提供している。

「スポーツ再開に向けたチェックリスト(一部イメージ)」

スポーツ再開に向けたチェックリスト1

スポーツ再開に向けたチェックリスト2

「安全計画(COVID-19 Safety Plan)テンプレート(一部イメージ)」

安全計画(COVID-19 Safety Plan)テンプレート1

安全計画(COVID-19 Safety Plan)テンプレート2

武富 涼介

笹川スポーツ財団 スポーツ政策研究所 政策ディレクター 武富 涼介

【リンク先】(英語のみ)

○Update on Coronavirus Measures : Media Statement 01 May 2020, Prime Minister(オーストラリア首相内閣省ウェブサイトより)
https://www.pm.gov.au/media/update-coronavirus-measures-1may20

○Coronavirus (COVID-19) National principles for the resumption of sport and recreation activities(オーストラリア保健省ウェブサイトより)
https://www.health.gov.au/resources/publications/coronavirus-covid-19-national-principles-for-the-resumption-of-sport-and-recreation-activities

○AIS framework for rebooting sport (AISウェブサイトより)
https://ais.gov.au/health-wellbeing/covid-19#ais_framework_for_rebooting_sport

○COVID-19 Return to Sport Toolkit(スポーツ・オーストラリア ウェブサイトより)
https://www.sportaus.gov.au/return-to-sport

From shutdown to restart: How NRL walked tightrope to get season going again(オーストラリア ナショナルラグビーリーグウェブサイトより)
https://www.nrl.com/news/2020/05/25/from-shutdown-to-restart-how-nrl-walked-tightrope-to-get-season-going-again

(2020年6月8日現在)


*1 連邦政府と各州・地域政府が一体となって新型コロナウイルスの感染拡大に対処するために2020年3月15日にオーストラリア史上初めて立ち上げられた連邦首相と各州首相・地域首席大臣の合議体である

*2 感染症の拡大等、国民の健康にかかわる緊急事態において、連邦政府の政策決定に関わる諮問機関。連邦政府の主席医務官が会長を務め、各州・地域の主席医務官にて構成される

*3 オーストラリア連邦政府のスポーツ関連行政機関で、エリート選手の育成やスポーツ科学の研究を行う

*4 オーストラリア連邦政府のスポーツ関連行政機関で、スポーツ実施率の向上やスポーツ産業の成長等、より広範囲なスポーツ関連施策を実施する

*5 連邦政府の副医務官、AISの医務官、感染症の専門家、各州・地域の担当者、スポーツ関連団体の代表者等から構成され、スポーツ・レクリエーション活動の再開をモニタリングして、さらなる意思決定等を行っていくために設立される(設置期間は最低でも3か月)

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