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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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スポーツ活動の再開に向けて ~中間報告~

新型コロナウイルスとスポーツ

新型コロナウイルスにより一度止まったスポーツ活動も再開し始めましたが、各国、各競技団体で、感染症対策などを踏まえながらスポーツ活動再開に向けたガイドラインを発表しています。笹川スポーツ財団では、国際的なスポーツ・フォー・オールの統括組織であるTAFISAやSSF海外研究員のネットワーク等を通じて、国内外のガイドラインを収集しています。

【第9回】 中間報告
日本および諸外国におけるスポーツ活動の再開に向けた
ガイドライン一覧とポイント

コロナとスポーツ

笹川スポーツ財団では、新型コロナウイルスの影響により制限や中断を迫られたスポーツ活動を段階的に緩和・再開していくため、各国政府やスポーツ関連団体が公開したガイドラインを紹介してきた。ここでは、これまでの中間報告として日本および諸外国のガイドラインの一覧化とポイントの取りまとめを行った。なお、特に諸外国においては第2波の到来が懸念され、再びスポーツ活動に制限がかかる可能性が高い状況から、今後も引き続き情報をアップデートする予定である。

スポーツ活動の再開に向けたガイドライン一覧表(PDF:982KB)

<1. ガイドラインの「発行者」について>

  • 各国におけるスポーツ活動の再開に向けたガイドラインの発行者は、平時のスポーツ行政や地方行政の体制が反映されている。米国、ドイツ、カナダは連邦制の地方自治制度をとっており平時から州政府の権限が強い国である。そのような国ではスポーツ活動の再開についても州単位で進めており、連邦政府は国家としての具体的な指針となるガイドラインの発表を行わず、考慮事項、原則、ガイダンスといった形態での情報提供に留めている。
  • また中央省庁とは別に法律に基づいて独立して設立された行政機関が平時からスポーツ行政をリードしているオーストラリアやニュージーランドといった国においては、中央政府の方針に則って、オーストラリア・スポーツ研究所、スポーツ・オーストラリア、スポーツ・ニュージーランドといったスポーツ関連行政機関がスポーツ再開に向けた具体的なガイドラインを公表している。
  • その他に多く見られる例として、ドイツ、米国、ブラジル、カナダのように各国のオリンピック委員会・パラリンピック委員会がスポーツ再開のガイドラインを公表しているケースがある。このケースでは対象がオリンピック・パラリンピック競技のようなハイパフォーマンススポーツに限定される場合もあるが、内容の一部にハイパフォーマンススポーツ以外の一般向けスポーツやスポーツイベントの再開に関連した情報を含む場合もある。
  • 中央政府、スポーツ関連行政機関、オリンピック・パラリンピック委員会が示しているのは競技を問わずスポーツ・身体活動全般の再開に関する内容であることが多い。一方で競技特性に基づく競技ごとの活動再開やイベント再開については、政府の方針や国際統括団体のアドバイスを踏まえた上で、各国の中央競技団体に対して必要に応じて競技別のガイドラインを策定することを求めているケースが多くを占める。

<2. ガイドラインの「対象」について>

  • 各国が公表しているガイドラインは、一部を除いて、「一般向けスポーツ」、「プロスポーツ/競技スポーツ」、「スポーツイベント」の再開に関する内容に大きく分けることができる。
  • ドイツやオーストラリアでは、最初に全ての分野を包括するスポーツ活動全体の再開に向けた方針や原則を示した上で、より具体的な内容を示す流れとなっている。
  • 一方で英国や米国のように、全体を包括するような方針は示さずに、対象分野ごとに詳細なガイドラインを公表しているケースもある。
  • また米国のようにスポーツイベントが大きな産業として成り立っている国では、スポーツイベントの再開に特化した、具体的かつ詳細なガイドラインが公表されている。

<3. ガイドラインの「内容」について>

  • ほとんどのガイドラインが、前提条件として、スポーツ活動の再開は、競技の特性、再開地域の感染状況、再開のタイミング等により、求められる基準が異なるため、全世界・全競技共通の普遍的なガイドラインを策定することは現時点では困難であるとしている。
  • 一方で、ガイドラインが対象としている「一般向けスポーツ」、「プロスポーツ/競技スポーツ」、「スポーツイベント」の3つの分類において、下記に示す事項は各国に共通する要素として抽出することができる。(ただし、各要素の具体的な基準やプロセスは各国のガイドラインによって異なる)

「一般向けスポーツの再開に向けたガイドラインに共通する要素」 

段階的な活動再開
活動再開は、屋外活動、個人・同居人のみとの活動、身体的な接触を含まない活動等、リスクの低い活動から始め、その後、屋内での活動、同居人以外との活動、身体的な接触を含む活動等、段階的にリスクの高い活動に対象を移行する。
活動前の体調確認
活動を行う前に自分の体調を確認して、新型コロナウイルス感染症が疑われる症状(発熱、咳、のどの痛み、嗅覚・味覚の異常等)がある場合や、新型コロナウイルス感染者に直近で接触していることが分かった場合は、活動を中止して自宅に待機する。
ソーシャルディスタンスの確保
活動中やその前後も含めて、同居人以外とは常にソーシャルディスタンスを確保するように心がける。
手洗いや消毒の実施
活動中やその前後も含めて、こまめな手洗いや手指の消毒を心がける。
咳・くしゃみのエチケット
咳・くしゃみをする際は、ティッシュ・ハンカチや袖や肘で口を覆う等のエチケットを心がける。
共用品利用の最小化
用具の共用は極力避ける。特に飲料用ボトルやタオル等、粘膜に触れる可能性がある用具は必ず自分専用のものを用意して、他人との共用を避ける。
屋外での活動の優先
現時点では、屋外での活動は屋内の活動よりもリスクが低いとされており、屋外での活動再開を優先する。
重症化リスクが高いグループへの留意
高齢者や基礎疾患等を持つグループは通常の人よりも重症化リスクが高いと言われており、通常の人よりも慎重な判断をもって活動の再開を行う。
リスクが高い活動の回避
怪我等による医療サービス利用を最小限に留めるため、これまでに実施したことのない活動や負荷の高いトレーニング等は控える。
マスクの着用
マスク着用については飛沫感染のリスクを下げるために有効であるとされているが、熱中症や怪我のリスクもあるため、慎重に着用の要否を判断する。(乳幼児や高齢者等、自分でつけ外しを行うことが難しい方への着用は避けることとしているケースが多い)

「プロスポーツ/競技スポーツの再開に向けたガイドラインに共通する要素」

プロスポーツ/競技スポーツの再開に向けても「一般向けスポーツの再開に向けたガイドラインに共通する要素」に定められた下記事項については共通して示されているケースが多い。(ただし、より厳しい基準を求めているケースもある)

  • 段階的な活動再開
    サポートスタッフや観客の人数制限等も含む。
  • 活動前の体調確認
  • ソーシャルディスタンスの確保
    競技中のアスリート等、どうしても必要な場合を除く、全ての時間においてソーシャルディスタンスを確保して、不必要な接触を回避する。
  • 手洗いや消毒の実施
  • 咳・くしゃみのエチケット
  • 共用品利用の最小化
  • 屋外での活動の優先
  • 重症化リスクが高いグループへの留意
    アスリート自身は重症化リスクが低くても、コーチやサポートスタッフ等、周囲の人間に重症化リスクを抱える人がいる可能性があることを考慮する。
  • リスクが高い活動の回避
  • マスクの着用
対象となるアスリート 多くの国で、プロスポーツ/競技スポーツは一般の人が外出や活動の制限を課される中で先行して再開を許可されることになるため、対象となるアスリートを絞りこんでいる。(職業としてスポーツを行うプロアスリート、中央競技団体から国の代表として選ばれたアスリートやその候補となるアスリート等が対象になっているケースが多い)
徹底的な自己体調管理 プロスポーツ/競技スポーツでは、トレーニングや試合を再開することで、より多くの関係者(コーチ、トレーナー、サポートスタッフ等)と接触する可能性が高いため、関係者全員が徹底した体調管理を行う。(過去14日間の体調や接触者の記録、複数回の新型コロナウイルス感染検査の実施等)

少しでも体調に不安がある関係者は活動を中止して自宅待機すべきであることを明確なルールとして定め、徹底する。
自粛期間を踏まえたトレーニングの再開 長期間のトレーニングや試合の自粛によりアスリートの体力や筋力が低下している場合があるため、それを考慮した再開時のトレーニングメニューを調整する。
アスリートのメンタル面でのケア 長期間のトレーニングや試合の自粛がアスリートのメンタルやモチベーションに影響している可能性があるため、それを踏まえた活動の再開やメンタルケアを行う。
トレーニング施設や試合会場を利用する際の注意点 衛生対策、動線管理、屋内の場合は換気等、トレーニング施設や試合会場の運営者が求める順守事項を守る。

通常時に利用できるサービスや施設が利用できない場合があることを認識する。(マッサージ、更衣室、シャワールーム等)

施設への移動が必要な場合は、可能な限り公共交通機関の利用を避け、少人数での移動を心がける。
全関係者へのコミュニケーション 活動再開にあたり守らなければいけない事項をアスリートだけではなく、コーチやサポートスタッフ等、全ての関係者に共有して、同意を得た上で、積極的に協力してもらう。
競技団体の定める注意事項 競技ごとの注意事項等については、各国の中央競技団体、もしくは国際統括団体の定める内容に則って活動する。
政府や地域の保健機関との密な連携と最新の情報収集 活動を再開するにあたり、地域の感染状況や最新の感染症対策について、政府や地域の保健機関と密な連携と情報収集を行う。

政府や保健機関が定める法律や規制に従って活動する。
感染者が発生した場合の対応準備 新型コロナウイルスの感染が確認された、もしくは感染が疑われる者が出てしまった場合の対応方法について、即時の対応、コミュニケーション体制、回復後の復帰プロセス等を事前に準備しておく。

「スポーツイベントの再開に向けたガイドラインに共通する要素」

イベント会場に入場できる人数の制限 イベント会場に入場できる人数(運営スタッフ、メディア、ボランティア、観客等)を最低限の人数に絞り、現状では無観客/人数制限を設けたイベントとする。

なお人数制限は段階的に解除していく。
新型コロナウイルス対策官/チームの設置 新型コロナウイルス対策について最新の情報を収集して、イベント運営全体において有効な対策が機能していることに責任を持つ対策官/チームをイベントごとに設置する。

同対策官/チームには、スタッフやその他関係者からの問い合わせ窓口、地域の政府や保健機関と連携窓口といった役割が含まれている場合もある。
具体的なポリシーの明確化 イベント運営に携わる全ての関係者(アスリート・コーチ・サポートスタッフ・運営スタッフ・メディア・委託事業者・ボランティア・観客等)に守ってもらう必要がある事項を具体的かつ明瞭にポリシーとして文書化して共有する。)

定めるべきポリシーの例としては、自己体調管理、体調スクリーニング、感染者(もしくは感染を疑われる者)が発生した場合の対応、試合の延期・中止等が挙げられている。
全関係者へのコミュニケーション 各国が定めているガイドラインの内容、ガイドラインを踏まえて策定した安全な運営計画、新たに定めたポリシーの全ての内容をイベント運営に携わる全ての関係者(アスリート・コーチ・サポートスタッフ・運営スタッフ・メディア・委託事業者・ボランティア・観客等)に共有して、同意してもらい、積極的に協力してもらう。
全関係者への自己体調管理の徹底 イベント運営に携わる全ての関係者は、自身で体調の確認を行い、不安がある場合(新型コロナウイルス感染症の疑いや陽性者との接触の疑い等)はイベント参加を見合わせる。
入場時のスクリーニング実施 イベント会場への入場時に、体温測定や体調に関する質問等のスクリーニングを行い、新型コロナウイルス感染症が疑われる場合は入場を拒否する等の対応を行う。
ソーシャルディスタンスの確保 競技中のアスリート等、仕方のない場合を除き、可能な限り、全ての関係者(アスリート・コーチ・サポートスタッフ・運営スタッフ・メディア・委託事業者・ボランティア・観客等)の間で常にソーシャルディスタンスを確保できるように努力する。(床面へのガイドの設置、関係者の動線の分離、時間差での入退場等)
衛生対策の実行 手洗いや消毒の徹底(周知徹底や設備の設置等)や定期的な清掃・消毒等、新型コロナウイルス感染症対策として有効であると考えられている衛生対策を実行する。
接触者追跡のための記録 各国のプライバシー保護法の範囲内で、イベント参加者の情報を記録しておき、イベント内で新型コロナウイルス感染者が発覚してしまった際に、地域の保健機関等と連携して接触者を追跡できるように準備を行う。
イベント終了後の振り返り実施 イベント終了後には各関係者からのフィードバックを得て、新型コロナウイルス感染症対策として機能した部分と機能しなかった部分を評価する。 振り返りの結果と地域の感染状況、感染症対策に関する最新の情報を踏まえて、必要に応じて運営計画を見直す。

(本記事の内容は別途記載がない限り、2020年7月8日時点の情報に基づくものであり、その後情報の更新・変更が行われている場合がある)

笹川スポーツ財団 国際担当

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