コロナ禍、重複・重度障害者の運動・スポーツ機会が大幅に失われる
2010年調査開始から5回目となる2021年度『障害者専用・優先スポーツ施設に関する研究2021』で、全国に150の障害者専用・優先スポーツ施設があることがわかりました(2022年4月6日抜粋版)。
本研究では、「障害児・者の運動・スポーツの日常化」に向けて、施設利用者数の推移や運営の実態を把握。新型コロナウイルス感染症の影響、東京2020パラリンピック後の障害者スポーツ環境の変化が明らかとなりました。そして、地域の障害児・者がいつでもどこでも運動・スポーツを楽しむための環境整備を、提言としてまとめました。
■共同研究者:藤田 紀昭(日本福祉大学 スポーツ科学部 学部長 教授)
【障害者専用・優先スポーツ施設に関する研究2021 調査概要】
1)文献調査
文献調査(インターネットによる情報収集を含む)により、障害者専用・優先スポーツ施設の要件を満たす施設候補をリストアップした。
2)質問紙調査
障害者専用・優先スポーツ施設の抽出、施設概要、運営状況等について、それぞれ質問紙調査を行った。
【調査結果解説】
①障害者の施設利用者数
2012年度から2019年度までの、障害者専用・優先スポーツ施設の利用状況をみると、総利用者数は700~800万人、障害者の利用者数は250万人前後で推移。新型コロナウイルスの影響を受けた2020年度は、総利用者数が370万人、障害者の利用者数は98万人と、いずれも半減している。
2019年度から2020年度の利用者数の減少率においては、総利用者数では-54.1%、障害者の利用者数では-59.2%。重複障害は-80.3%であった。重症化リスクの高い障害者が施設利用を敬遠し、結果として、複数の障害を抱える重複障害者が利用を控えたと推察できる。
②障害者スポーツ教室、障害者スポーツ大会・イベントの実施
障害者専用・優先スポーツ施設における障害者スポーツ教室の実施種目をみると、「卓球」が63.6%と最も多く、ついで、「ボッチャ」(61.0%)、「健康体操・健康ヨーガ」(61.0%)、「水泳・水中運動」(51.9%)、「軽スポーツ」(44.2%)であった。
重度障害者の参加状況をみると、「ボッチャ」が36.4%と最も多い。2018年度と2021年度を比べると微増傾向であった。障害者スポーツ教室は、施設側は日常利用の参加者が多く健康状態の把握ができ、利用者側は日常的な感染症対策を自身の目で確認した施設のため安心して利用できるなど、双方にメリットがある。そのため、重症化リスクの高い重度障害者でもコロナ禍前と変わらずに参加していたと考えられる。
障害者専用・優先スポーツ施設における種目別スポーツ大会やイベントでは、「ボッチャ」が68.1%と最も多く、ついで、「卓球」(58.3%)、「水泳」(33.3%)だった。2018年度調査と比較すると、東京2020パラリンピックで注目を集めた「ボッチャ」を実施する施設が大きく増加した。
重度障害者の参加状況は、「ボッチャ」が40.3%で最も多く、ついで「水泳」(19.4%)、「卓球」(9.7%)だったが、2018年度調査と比べると全種目で減少した。大会・イベントは参加者全員の把握が難しく、会場の感染症対策の確認が難しい施設もあり、重篤化リスクの高い重度障害者が参加を敬遠したと考えられる。
1. 障害の程度が軽度から重度まで、スポーツの競技性や志向に至るまで、多種多様なニーズに対応できる専門家を有している施設をハブ施設と定義する。
具体的には、全国の障害者専用・優先スポーツ施設150のうち、日本パラスポーツ協会「障がい者スポーツセンター協議会」に加盟している26施設がハブ施設となる。
本調査で、ハブ施設はコロナ禍においても障害者の利用が多いことがわかった。また、移動支援や同行援護の福祉サービスなどの活動は、9割以上のハブ施設で利用されており、地域の障害者の日常活動の一つとしてハブ施設が組み込まれていることが推察できる。有給・有償のスポーツ指導員では、ハブ施設の平均指導者数は26.4人(24施設)で、サテライト施設(後述)の平均指導者数3.4人を大きく上回る。これらの結果からも、ハブ施設が地域の障害者スポーツにおけるハブ機能を備えていることが確認できた。ハブ施設が地域のサテライト施設や既存施設との密接な関係を築いていくことが重要になる。
2. 障害者専用・優先スポーツ施設150ヵ所のうち、ハブ施設を除いた124施設と、スポーツ庁「体育スポーツ施設現況調査」(2019年)において、公共スポーツ施設とされる「公立社会教育施設等に付帯するスポーツ施設」(4,630施設)と「社会教育施設」(46,981施設)を合わせた51,611施設をサテライト施設と定義する。
前述のハブ施設との情報交換に加えて、後述する既存の社会資源とのネットワーク構築、情報交換など、地域の障害者スポーツ環境を整備するうえでは非常に重要な役割を担うことになる。
3. ハブ施設、サテライト施設以外で、すでにスポーツ以外の目的で使用されている公民館や福祉施設、特別支援学校や一般校などを既存の社会資源と定義する。
本調査で、巡回スポーツ教室(出張教室)では、実施場所として既存の社会資源(公民館、福祉施設、支援学校、一般校)を活用していることがわかった。障害者スポーツの専門知識を有する関係者と統括できる立場の障害者スポーツ協会が、既存事業や既存体制の活用、地域の福祉団体・組織とスポーツ団体・組織をつなぐ役割を担うことが望まれる。
【図表6 】ハブ施設、サテライト施設、既存の社会資源と地域との関係
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