笹川スポーツ財団では、中京大学スポーツ科学部スポーツマネジメント学科 准教授舟橋 弘晃氏と共同で、スポーツ政策の評価に貢献する基礎資料の提供を目指し、ウェルビーイング評価法を用いて多様なスポーツ活動の社会的価値を金銭単位で評価する研究を実施しました。
本研究は、国内で初めてスポーツ政策分野における多様なスポーツ活動の社会的価値を金銭的単位で評価した調査研究です。
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スポーツ政策研究所を組織し、Mission&Visionの達成に向けさまざまな研究調査活動を行います。客観的な分析・研究に基づく実現性のある政策提言につなげています。
自治体・スポーツ組織・企業・教育機関等と連携し、スポーツ推進計画の策定やスポーツ振興、地域課題の解決につながる取り組みを共同で実践しています。
「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。
日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。
笹川スポーツ財団では、中京大学スポーツ科学部スポーツマネジメント学科 准教授舟橋 弘晃氏と共同で、スポーツ政策の評価に貢献する基礎資料の提供を目指し、ウェルビーイング評価法を用いて多様なスポーツ活動の社会的価値を金銭単位で評価する研究を実施しました。
本研究は、国内で初めてスポーツ政策分野における多様なスポーツ活動の社会的価値を金銭的単位で評価した調査研究です。
・エクササイズ・トレーニングやレジャースポーツが生活満足度の向上に寄与する。
・レジャースポーツは低頻度で実施した場合に、エクササイズ・トレーニングや競技スポーツは高頻度で実施した場合に、より大きく生活満足度を向上させる。
・身近なスポーツ観戦は低頻度で実施した場合に、より大きく生活満足度を向上させる。
・すべてのスポーツ活動の中で最も大きな社会的価値を持つ。
「スポーツのチカラ」といった言葉に象徴されるように、スポーツには市場では測れない社会的な価値があるとよく言われます。政府もそうした価値を前提に、スポーツ振興を推進しています。ただし、スポーツを「社会にとって良いもの」と無条件に受け入れるのではなく、その意義をできるだけ客観的かつ定量的に検証する姿勢が求められます。
本報告書では、国内のスポーツ政策分野で初めてウェルビーイング評価法を用い、複数のスポーツ活動がもたらす社会的価値を貨幣評価しました。ウェルビーイング評価法は「人びとがどれだけ幸せや満足を感じたか」という実際の経験にもとづいて、さまざまなモノやサービスの貨幣価値を測る手法です。スポーツの多様な便益を、ウェルビーイングという包括的なものさしで評価する点に特徴があります。
分析の結果、スポーツ実施による社会的価値は年間約14.0~17.5兆円、スポーツボランティア活動についても年間約3.2~4.0兆円にのぼると推計されました。社会的価値を金額で「見える化」することは、エビデンスに基づく政策立案(EBPM)を後押しするだけでなく、従来の経済波及効果分析では捉えきれない幅広い便益を政策評価に組み込む一助となります。本手法は、プロスポーツクラブや地域スポーツクラブをはじめ、さまざまなスポーツ関連団体にとっても応用可能であり、今後の活用のあり方について広く議論が深まることを期待しています。
中京大学 スポーツ科学部 スポーツマネジメント学科 准教授 舟橋 弘晃
<ウェルビーイング評価法>
本研究では、ウェルビーイング評価法を用いて、所得とスポーツ活動が生活満足度(主観的ウェルビーイングの代理指標)に与える影響を3段階で分析した(図表1)。第1段階では、所得が生活満足度に与える因果効果を推定した。第2段階では、スポーツ活動が生活満足度に与える影響を分析し、第3段階では、生活満足度の向上に対応する金銭的な等価価値を算出することで、スポーツ活動の社会的価値を貨幣単位で評価した。
スポーツ実施は、生活満足度に正の影響を与える結果であった。種目の実施頻度別にみると、レジャースポーツ(ハイキング、釣り、ゴルフなど)は、比較的低い頻度でも生活満足度を高める効果があるものの、エクササイズ・トレーニングや競技スポーツは、一定の継続性が必要である。
スポーツ観戦は、観戦の種類によって結果が異なり、スタジアムなどでのスポーツ興行の観戦は有意な影響を持たないものの、運動部活動の試合や地域の大会など身近なスポーツ観戦は、比較的低い頻度でも生活満足度を高める効果がある結果であった。ただし、本調査の実施期間はプロ野球やJリーグのオフシーズンにあたるため、スポーツ興行の観戦が生活満足度に影響を与えないと結論づけるのは尚早である。
スポーツボランティア活動は、生活満足度に正の影響を与える結果であった。また、実施頻度別にみても、低頻度・高頻度のいずれにおいても生活満足度の向上が確認された。
スポーツ実施によって得られる社会的価値は年間約36~44万円に相当すると試算された(図表2)。これは、世帯収入の中央値(405万円)にある人が、スポーツ実施による生活満足度の向上に対して、約40万円の支払いを許容できることを意味する。また、実施活動別にみると競技スポーツを高頻度で行った場合は約61~77万円、レジャースポーツを低頻度で実施した場合の価値は約47~59万円、エクササイズ・トレーニングを高頻度で行った場合の価値が約44~55万円であった。
さらに、スポーツ活動の社会的価値を全国規模で推計するため、母集団人口と各活動の実施率を乗じて、全国の推計値を算出した。その結果、スポーツ実施の社会価値は日本全体で約14.0~17.5兆円と推定された。
スポーツ活動のうち、最も高い社会的価値を持つのはスポーツボランティアであり、約79~98万円と推計された(図表2)。また、実施頻度別にみると、スポーツボランティアを高頻度で実施した場合の価値は、本調査で調査対象としたスポーツ実施、スポーツ観戦、スポーツボランティア、公営競技投票の中で最も高く、約103~128万円となる。
スポーツ実施と同様に、全国規模の推計をみると、その価値は約3.2~4.0兆円と推定された。スポーツ実施と合わせたスポーツ活動の社会的価値は約17.2~21.5兆円と概算される。
※肩書は2025年4月時点
全文(PDF:2.2MB)
スポーツ政策・予算
2024年度
公益財団法人 笹川スポーツ財団