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誰が子どものスポーツを「ささえる」のか
―家族のサポートから考える―

2021年1月19日

誰が子どものスポーツを「ささえる」のか

 笹川スポーツ財団では「421歳を対象としたスポーツライフに関する調査」(子ども・青少年のスポーツライフ・データ)を隔年で実施している。最新の2019年度調査では、保護者用アンケートで「子どものスポーツ活動に対する家族のサポート」について尋ねた。まずは報告書に掲載されたデータを紹介したい。

【図表1】子どものスポーツ活動に対する家族のサポートと負担感(4~11歳・12~21歳)

(%)

4~11歳
家族のサポート 主に行っている家族 サポートへの負担感
あり なし その他 あり なし
練習場所までの送迎 841 86.3 13.7 718 17.5 79.5 2.9 717 25.2 74.8
お弁当や飲み物の準備 814 69.9 30.1 562 2.7 95.7 1.6 563 16.7 83.3
練習や試合の付き添い、見学 818 75.2 24.8 599 24.2 74.1 1.7 609 20.5 79.5
お茶当番などの運営の手伝い 786 27.9 72.1 216 10.6 89.4 0.0 216 43.1 56.9
ユニフォームや練習着の洗濯 825 87.9 12.1 710 4.1 93.7 2.3 718 9.5 90.5
指導や審判員の補助 780 14.1 85.9 108 63.0 37.0 0.0 108 24.1 75.9
12~21歳
家族のサポート 主に行っている家族 サポートへの負担感
あり なし その他 あり なし
練習場所までの送迎 733 46.7 53.3 340 25.0 73.8 1.2 337 24.6 75.4
お弁当や飲み物の準備 743 80.5 19.5 588 1.4 97.1 1.5 583 19.7 80.3
練習や試合の付き添い、見学 729 54.2 45.8 379 25.6 73.6 0.8 385 16.6 83.4
お茶当番などの運営の手伝い 716 22.6 77.4 156 6.4 92.3 1.3 158 39.9 60.1
ユニフォームや練習着の洗濯 749 89.1 10.9 653 2.0 94.9 3.1 646 14.4 85.6
指導や審判員の補助 711 7.0 93.0 49 69.4 30.6 0.0 47 19.1 80.9

資料:笹川スポーツ財団「4~11歳のスポーツライフに関する調査」2019、「12~21歳のスポーツライフに関する調査」2019 p145 表11-1

 図表1には、子どものスポーツ活動における家族のサポート内容と、それに対する負担感のデータを示した。家族のサポート「あり」の割合をみると、「練習場所までの送迎」「ユニフォームや練習着の洗濯」のように多数の保護者が行っているサポートと、「お茶当番などの運営の手伝い」「指導や審判員の補助」等、一部の保護者のみが行っているサポートがある。

 また、これらのサポートを「主に行っている家族」は、ほとんどが母親である。例外は「指導や審判員の補助」で、子どもの年齢にかかわらず父親の方が多い。

 ほかにも図表1からは、保護者の負担感が高い項目は「運営の手伝い」であること、12歳~21歳では411歳に比べて、「送迎」「指導や審判員の補助」等を行っている比率が少ないことが読み取れる。

 図表2には、子どもが運動部や地域・民間のクラブでスポーツをしている場合の、スポーツ活動の費用(1ヵ月あたり)を示した。411歳では「5,0001万円未満」が最多の46.8%で、「12万円未満」が20.3%と続く。1221歳では半数以上が5,000円未満と、11歳までに比べてスポーツ活動の費用が減少している。

 本稿ではこれらのデータを手がかりに、誰が子どものスポーツを「ささえて」いるのかを検討したい。

①子どものスポーツをささえるのは母親

 図表1で着目したいのは、サポートを「主に行っている家族」では、「指導や審判員の補助」を除き圧倒的に母親が多い点である。「イクメン」という言葉が浸透し、日常の子育ての風景でも父親の姿が多く見られる状況になったにもかかわらず、調査を実施すると母親が子どものスポーツをささえている実態が明らかになる。

「サポートへの負担感」は、「お茶当番などの運営の手伝い」以外ではさほど高い数値がみられず、「ユニフォームや練習着の洗濯」は1割未満にとどまる。「負担感が小さいのであれば問題ない」とする考え方もあるだろう。ただし、負担感が低いのは、日常的な家事の延長上にある項目とも考えられる。渋倉(2018)は、子どものサポートにおいて日常的な家事にあたる内容は主に母親が担い、父親と比べると負担感が高いことを指摘している。

「運営の手伝い」の負担感の高さは、野球の筒香嘉智選手(タンパベイ・レイズ所属)が語った問題を想起させる。詳細は記事(https://bunshun.jp/articles/-/10547?page=2)をご覧いただきたいが、プロ選手である筒香氏が少年野球における「お茶当番」に言及し、母親たちが「お母さんたちがやりたいことが何もできない」と問題点を語りながら廃止を提言する姿はインパクトを与え、数々のニュース記事でも引用された。

 このように、子どものスポーツにおいて技術面以外でのサポートが母親に偏る状況は、調査データからも現場の声からも明らかである。

②「ささえる」ことができない親たち

 また、図表1の設問は、子どもが「現在学校のクラブや運動部、民間のスポーツクラブ、地域のスポーツクラブに加入して」いる保護者(全体の45.4%)のみに尋ねているに注意したい。全ての保護者が回答している設問ではないことから、「保護者のサポートの負担感は、さほど強くない」という解釈だけでなく、「負担感が少ない保護者のみが、サポートに関わることができている」可能性を考えなくてはならない。

 ここで検討したいのは、本設問に回答していない人=子どもにスポーツ活動をさせていない保護者の存在である。特に幼児・児童期のスポーツをめぐっては、筒香氏も指摘した「お茶当番」をはじめとした「母親の大変さ」のイメージが広がっている。実際に笹川スポーツ財団が実施した「小学生のスポーツ活動における保護者の関与・負担感に関する調査研究」(https://www.ssf.or.jp/thinktank/child/2017_report39.html)では、子どもがスポーツをしていない母親の半数が「送迎や付き添いの負担が大きい」ことを理由にし、また当番や役員に対する抵抗感が特に強く、そのわずらわしさを回避するために前向きに検討できない状況が明らかになっている。

 さらに同調査では、そのような保護者の負担感には家庭環境による差異がみられることがわかった。具体的には、子どもがスポーツ活動をしない理由を世帯年収別に分析すると、「費用の負担」だけでなく、「送迎や付き添いの負担」「係や当番の負担」「保護者どうしの人間関係」においても、世帯年収の低い群と高い群では2030ポイントの差がみられた。すなわち、経済的に余裕のない家庭ほど、保護者のサポートに対する負担感を理由に子どものスポーツを諦めているケースがあり得る。

 繰り返しになるが、サポートができている保護者の回答(図表1)だけを見ると、「確かに母親中心ではあるものの、負担感は少ない」という解釈ができる。しかし、先行研究と照らし合わせると、保護者の経済的事情や社会関係、時間的な余裕が、サポートの可否につながり、結果として子どものスポーツ機会の格差の要因となる可能性が指摘できる。サポートが「できている」保護者の負担感が小さいからと看過できる問題ではない。


③ 部活動を「ささえる」のは誰か

 ここまでは主に幼児・児童期(11歳以下)について述べてきたが、12歳以降はどうだろうか。図表12をみると、1221歳ではそれ以前に比べて、サポート・金銭ともに保護者の負担が軽減されている様子が浮かび上がる。サポートに関しては、子どもが成長した分、親の手がかからなくなるという側面も当然あるだろう。しかしこの年代の大半が生徒・学生であることを考慮すると、11歳以下との大きな違いは主な活動場所が学校の部活動になる点にある。実際にスポーツライフ・データの結果から計算すると、11歳以下ではスポーツ活動をしている子どものうち学校のクラブ・部活動に所属するのは約2割にとどまるが、12歳以上では8割弱となる。部活動に関しては従来から、スポーツへのかかわり方における家庭環境による差異を縮減させる可能性が示唆されており、12歳以上では保護者のサポートの可否にかかわらず子どもがスポーツに取り組みやすい環境が存在するといえるだろう。

 ところが、現在の部活動には課題が山積している。その1つが顧問教員の負担であり、「ブラック部活」という表現に象徴されるような過酷な勤務状況、専門外の競技を担当することによる課題等については、従来から複数の研究者や教員たちが指摘している。皮肉なことに、サポートの負担が減る保護者からの過度な要望に悩まされるケースも少なくない。解決の一手として、スポーツ庁の来年度予算(概算要求)では「休日の部活動の段階的な地域移行」として2億強が計上されているが、地域移行に関しては既に指導者の確保、保護者の負担や子どもの活動の長時間化、緊急時(怪我・急病)における責任・保障等の課題が指摘されている。顧問教員の負担が軽減されることを切実に望む一方で、地域移行によって子どものスポーツ環境がどこまで改善されるのか、疑問符がつく。

 このように、1221歳では部活動によって保護者の負担が軽減される分、顧問教員に負荷がかかる構造がある。今後の地域移行によっては教員の負荷が軽減される代わりに、保護者の当番等が増えることも考えられる。その時にその負担を引き受けるのは、現状のデータを見る限り母親になる可能性が大きい。

④誰が子どものスポーツを「ささえる」のか

 以上、「子どものスポーツ活動に対する家族のサポート」の調査項目を手がかりに、子どものスポーツを「ささえる」人について検討した。スポーツの研究・調査においては、指導者やスポーツ・ボランティア等、「ささえる」ことを主目的とする人々が注目されやすい。それに対して本稿で注目したのは、母親や顧問教員といった、必ずしも自発的にスポーツを「ささえて」いるとは限らない人々であり、その「ささえ」がなければ子どもたちがスポーツから離れてしまうかもしれない存在であった。

「ささえる」大人の不足は日本だけの問題ではなく、谷口はアメリカでも同様に「信頼できる大人」の手配が課題であると指摘する(https://the-ans.jp/bukatsu/132555/)。この問題に特効薬のような解決法は存在しないものの、いくつかの改善案を提示したい。

 第一に、研究者やメディアへの提案である。まずは、子どものスポーツを「ささえる」観点から誰に負荷がかかっているのか、なぜ子どもに積極的にスポーツをさせられない保護者がいるのかを丁寧に考えていく必要がある。スポーツ関連の保護者の先行研究は、教育や育児の領域に比べると非常に少ない。子どものスポーツに関する論考においては、保護者は子どもの体力向上や積極的な運動を促すために啓蒙すべき存在として扱われることが多い。その割に、子どものスポーツにおいて母親が引き受け続けてきた「ささえ」、シャドウワークは等閑視される。もう少し、普段からあまり声をあげない多数の保護者に寄り添う視点があってもよいのではないだろうか。

 第二に、保護者やクラブチームへの提案である。コロナ禍において、部活動、地域・民間のクラブのいずれでも、コロナ以前のような活動ができないチームが多いだろう。これを機に、チームによっては保護者の過剰なサポートを減らすことを検討してはどうだろうか。最近では「保護者の当番なし」を掲げるチームも散見される。保護者どうしの組織で声を上げる難しさは重々承知しているが、強制型の当番や係で不要なものは減らし、無理のない体制を模索するチャンスである。

 第三に、政策に対する提言である。誰が子どものスポーツを「ささえて」いくのか。特定の人に負担がかかる状況を解決するには、保護者/クラブ/学校の三元論で「ささえる」人を考えるだけでなく、そもそもまず「ささえる」余力のある人を増やす必要がある。父親も指導以外のサポートができる社会に、部活の顧問教員が家庭や地域に戻ってプライベートでスポーツをささえられるような社会にする—ただし、そのために必要な政策となると、働き方改革など、スポーツに直接関係のないアプローチを前提にせざるを得ない。

 おそらくこの点が、子どものスポーツを「ささえる」保護者研究が発展しない理由の1つではないかと考える。スポーツ政策にできることは、活動や試合の過熱化の抑制、母親のシャドウワークを当たり前にしないスポーツ文化の醸成、そのためのメッセージや好事例の発信であろう。誰もがスポーツに親しめる社会を目指し、子どもが家庭環境に左右されず、やりたいスポーツに取り組むことのできる状況を望みたい。

参考文献

  • 中澤篤史, 2017,『そろそろ、部活のこれからを話しませんか―未来のための部活講義』大月書店.
  • 西島央編, 2006, 『部活動―その現状とこれからのあり方』学事出版 .
  • 笹川スポーツ財団 , 2018, 「小学生のスポーツ活動における保護者の関与・負担感に関する調査研究」
    https://www.ssf.or.jp/thinktank/child/2017_report39.html ) .
  • 渋倉崇行 , 2018, 「子供のスポーツ活動を支援する保護者の負担感に関する研究―支援の因子構造および性差の検討―」『桜門体育学研究』 53: 59-67 .
  • 谷口輝世子 , 2020, 「日本の傾向と逆行か なぜ、米国の中学で多くの生徒に「部活参加」を推奨し始めたのか」 (2021 年 1 月9日最終アクセス , https://the-ans.jp/bukatsu/132555/).
  • 内田良 , 2017, 『ブラック部活動―子どもと先生の苦しみに向き合う』東洋館出版社 .
  • 鷲田康 , 2019, 「筒香嘉智が語った、少年野球における「母親の問題」と「お茶当番」」 , 文春オンライン ,
    ( 2021 年 1 月9日最終アクセス , https://bunshun.jp/articles/-/10547).
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活用例

  1. 政策立案:所属自治体と全国の比較や調査設計に活用(年齢や性別、地域ごとの特徴をの把握)
  2. 研究:研究の導入部分の資料や仮説を立てる際に活用(現状の把握、問題提起、仮説、序論)
  3. ビジネス:商品企画や営業の場面で活用(市場調査、データの裏付け、潜在的なニーズの発見)
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スポーツライフ・データ

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