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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

セミナー「子供のスポーツ」

青少年の直接スポーツ観戦率の変化 
-進むスポーツ観戦離れと拡大する男女差-

青少年のスポーツ「する・みる・ささえる」からみる10年間の変遷②

2024年1月23日

青少年の直接スポーツ観戦率の変化 
-進むスポーツ観戦離れと拡大する男女差-

 2011年のスポーツ基本法の制定を受け、その理念実現に向けて2012年よりスポーツ基本計画が5年ごとに策定され、様々なスポーツ施策が展開されてきた。前回のコラムでは、「する」スポーツをテーマに、20112021年の10年間における青少年のスポーツ実施の変化を分析した。その結果、高頻度・高強度で運動・スポーツを行っている青少年の割合は減少傾向にあり、全く運動・スポーツをしない青少年の割合は大きな変動がなく、一定数の青少年がスポーツから離れている状況が続いている実態が明らかとなった。

 今回は「みる」スポーツに着目し、青少年の直接スポーツ観戦が過去10年間でどのように変化しているのか、笹川スポーツ財団「青少年のスポーツライフ・データ」をもとに分析する。

コラム① 青少年のスポーツ参加状況の変化  

コラム② 青少年の直接スポーツ観戦率の変化 ←今回のコラム

コラム③ 青少年のスポーツボランティア実施率の変化(2月公開予定)

コラム④ 青少年の「する・みる・ささえる」スポーツ参加状況の変化(3月公開予定)
-単一化するスポーツとの関わり、進む女子のスポーツ離れ-

1.1219歳の青少年における直接スポーツ観戦率の推移

 図11219歳の青少年の直接スポーツ観戦率が2011年から2021年にかけてどのように変化したかを示した。直接スポーツ観戦率とは、過去1年間に体育館・スタジアム等の競技会場へ足を運んで観戦した者の割合となる。

 全体的に、過去10年間で青少年の直接スポーツ観戦率は低下傾向にある。2011年には46.7%であった観戦率は2019年では38.3%と、8年間で8.4ポイント低下し、2021年にはさらに18.6%にまで低下した。2019年から2021年にかけてみられた約20ポイントの観戦率の低下は、新型コロナウイルスの感染が拡大した影響を受けていると考えられる。スポーツイベントの中止や規模縮小、無観客での開催などがあり、さらには社会的距離(ソーシャルディスタンス)を保つことが求められる中で、直接会場でスポーツを観戦することが難しくなったという背景がある。

 しかし、長期的にみた場合、パンデミック以前から青少年のスポーツ観戦率は低下傾向にある。青少年のライフスタイルの変化、他の娯楽活動へのシフト、デジタルメディアの利用増加などが影響していると考えられる。スポーツ観戦率の動向は、スポーツ分野だけでなく、若者のライフスタイルや価値観の変化を理解する上でも重要な指標となるだろう。今後もこの動向を注視し、分析を行う必要がある。

2.性別にみる直接スポーツ観戦率の推移

 図2に直接スポーツ観戦率の推移を男女別に示した。2011年から2021年の過去10年間で、男女ともに観戦率は低下傾向にあり、全体的に男子の観戦率が女子より高い傾向は続いている。2019年から2021年にかけてはコロナ禍の影響を受け、男女ともに観戦率は大きく低下し、いずれも20ポイント程度の低下がみられた。

 男女差をみると、20112017年にかけて縮小傾向にあったが、2017年以降は年々拡大している。特に、コロナ禍の影響がみられる20192021年にかけては、男女差が再び10ポイントを超えるまでに拡大した。コロナ禍は男女のスポーツ観戦行動に異なる影響を与えた可能性がある。全体的には、男女差は拡大と縮小のパターンを繰り返しているものの、最終的には2011年の差とほぼ同じレベルに戻っている。

3.中学生~大学生の直接スポーツ観戦率の推移

 図3に中学生から大学生の直接スポーツ観戦率がどのように変化したのかを男女別に示した。男女ともに、過去10年間でみると中学生から大学生のいずれも全体的にスポーツ観戦率は低下傾向にある。特に、コロナ禍の影響を受けた2019年から2021年にかけては低下が著しい。一時的な観戦行動の低下であると思われるが、今後の動向をさらに確認する必要がある。

 しかし、過去10年間の観戦率は、それぞれの学校期で推移のしかたが少し異なっている。中学生の観戦率は男女ともに10年間で30ポイント以上低下し、高校生や大学生に比べて観戦率は比較的大きく変動している。高校生では、男女ともに2015年に一時的に増加しているが、その後は低下傾向にある。大学生では、男子は2011年の50.8%から2021年には25.3%へと低下しているが、2017年には50.7%と向上している年もある。女子は2015年の45.9%をピークに年々低下傾向を示し、2021年には13.5%となっている。

 男女差に着目すると、中学生と高校生では過去10年間、男子の観戦率が女子より高い傾向は続いている。各調査年の男女差は、中学生では2013年の19.4ポイントをピークに、その後は縮小傾向にある。2017年には8.4ポイントまで縮小したが、その後はわずかに拡大し、2021年には10.4ポイントの差がみられている。

 高校生では、2011年(6.1ポイント)から2019年(8.3ポイント)まで、男女差が縮小したり拡大したりと変動したが、2021年には11.6ポイントとなり、2011年よりも拡大している。大学生では、2013年と2015年は女子の観戦率が男子を上回っており、中高生とは異なる傾向を示していた。しかし、2017年以降は男子が上回る傾向が続き、2021年では男女差が11.8ポイントとなり拡大傾向にある。

 このように、男女差の変動は中学生や高校生、大学生によってその傾向は異なるものの、全体的には拡大の傾向を示している。近年では、コロナ禍以前の2017年、2019年頃から、いずれの学校期でも女子の観戦率は男子よりも810ポイント以上低い傾向となっている。

4.まとめ

 この10年間で明らかになったのは、青少年のスポーツ観戦率が低下の傾向を示しているということである。性別や年齢層による違いはあるが、全体的に観戦率の減少は顕著である。また、観戦率の男女差は全体的に拡大傾向にあるといえる。これは、男女でスポーツに対する関心や、スポーツのアクセシビリティの違いなどの社会文化的な背景も示唆しているかもしれない。

 2012年に第1期スポーツ基本計画、2017年に第2期の計画が策定され、第2期計画から中長期的なスポーツ政策の基本方針として、スポーツの「する」「みる」「ささえる」といった文言が示されるようになった。例えば、「みる」ことがきっかけで「する」「ささえる」ことを始めたり、また、スタジアムやアリーナで多くの人々がトップアスリートの姿を間近に見ることでスポーツの価値を実感することができたりする。総じて、スポーツを「する」「みる」「ささえる」ことで全ての人々がスポーツに関わり、その価値が高められていくとしている。このように、スポーツを日常生活に取り入れることで、国民がスポーツの力により人生を楽しく健康で生き生きとしたものにできるという方針である。

 しかし、これまでに子ども・青少年の「みる」スポーツに関する具体的な施策は見当たらない。成人を対象とした施策についても「する」「みる」「ささえる」スポーツ参画人口の拡大が施策として示されているが、政策目標は「する」、つまりスポーツ実施率に関する指標のみである。「する」「みる」「ささえる」といった様々な関わり方によってスポーツの価値を高めるという方針に基づくのであれば、まずは子どもの頃からスポーツを「する」だけでなく、「みる」行動も身近に経験できる環境づくりが必要である。

 20233月に完成した北海道日本ハムファイターズの本拠地「エスコンフィールドHOKKAIDO」は、新球場を含めたエリアを「北海道ボールパークFビレッジ」として野球や新球場の付帯施設をきっかけに、地域の人々が集まれる空間づくりを行っている。特に、子どもの多様な選択肢と成長に寄与する活動に注力しており、様々な年齢の子どもが身体を動かして遊べる施設(リポビタンキッズ PLAYLOT by BørneLund)の設置や、小学生以下のエスコンフィールド入場無料化などの取り組みを行っている。今後、様々な地域でこのような子どもの頃から運動・スポーツとの距離が縮まるような施設や取り組みが広がってほしい。

 「する」のみや「みる」のみ、といった単一のスポーツ参加は、その行動をやめてしまった場合に選択肢がなくなり、スポーツと関わらない人が増える可能性がある。それは生涯スポーツの実現とは逆行することになる。子どものころから「する」のみではなく、「みる」「ささえる」といった多様な方法でもスポーツと関わる機会を保証することで、将来自分の嗜好に合ったスポーツとの関わりが取捨選択できるようになるといえるだろう。

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活用例

  1. 政策立案:所属自治体と全国の比較や調査設計に活用(年齢や性別、地域ごとの特徴を把握)
  2. 研究:研究の導入部分の資料や仮説を立てる際に活用(現状の把握、問題提起、仮説、序論)
  3. ビジネス:商品企画や営業の場面で活用(市場調査、データの裏付け、潜在的なニーズの発見)
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2023年度

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