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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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セミナー「子供のスポーツ」

過去10年間で青少年のスポーツ参加状況はどのように変化したのか
-運動部活動改革の影響と青少年スポーツの課題-

青少年のスポーツ「する・みる・ささえる」からみる10年間の変遷①

2023年12月19日

過去10年間で青少年のスポーツ参加状況はどのように変化したのか

 2011年に施行されたスポーツ基本法は、全国民が安全かつ公正な環境でスポーツを楽しむ権利を保障している。特に青少年のスポーツは、体力向上や人格形成に大きな影響を与えるため、学校やスポーツ団体、家庭、地域が連携して推進することが強調されている。

 この理念実現に向けて、5年ごとに見直されるスポーツ基本計画が策定され、様々なスポーツ施策が展開されている。2017年の第2期計画からは、「する・みる・ささえる」という方針が取り入れられ、スポーツを通じて自己実現を目指すことが奨励されている。この方針は、第3期計画(2022)にも引き継がれているが、実際に青少年がスポーツにどれだけ関わっているかの詳細な分析はまだ不足している。

 本コラムシリーズでは、2011年から2021年にかけての青少年のスポーツ参加の変化を、笹川スポーツ財団「青少年のスポーツライフ・データ」をもとに分析する。特に、「する・みる・ささえる」の各側面から、青少年(1219歳)がスポーツにどのように関わっているかを探り、青少年スポーツの現状と課題について検討したい。

コラム① 青少年のスポーツ参加状況の変化  ←今回のコラム

コラム② 青少年の直接スポーツ観戦率の変化

コラム③ 青少年のスポーツボランティア実施率の変化(2月公開予定)

コラム④ 青少年の「する・みる・ささえる」スポーツ参加状況の変化(3月公開予定)
-単一化するスポーツとの関わり、進む女子のスポーツ離れ-

1.1219歳の青少年における運動・スポーツ実施率の推移

 図11219歳における運動・スポーツ実施率の過去10年間(20112021年)の推移を示した。レベル4の割合は、10年間で33.3%から26.6%に減少している。ここに該当する青少年は、週5回以上、1120分以上、運動強度「ややきつい」以上という高水準の活動を行っており、主に学校の運動部活動に所属している。また、レベル3(週5回以上)は、2011年の16.8%から2021年の23.8%に増加している。

 一方、過去1年間に全く運動・スポーツをしなかった青少年(レベル0)の割合は、2011年から2021年までの間で大きな変動はみられず、一定の青少年が運動・スポーツに関わっていないことがわかる。また、低・中程度の実施者であるレベル1(年1回以上、週1回未満)とレベル2(週1回以上、週5回未満)も、この10年間でほぼ変化がみられない。

2.性別にみる運動・スポーツ実施率の推移

 図2に性別にみた運動・スポーツ実施率の推移を示した。非実施者であるレベル0は、男子は2011年の11.3%から2021年の10.3%へ、女子は2011年の22.5%から2021年の22.7%へとほとんど変化がない。しかし、高水準の実施者であるレベル4の割合は、男女ともに減少傾向にある。男子は2011年の40.7%から2021年の35.4%へ、女子は2011年の26.9%から2021年の18.6%へと減少した。

 男女間の違いでは、レベル0とレベル4の割合に明確な差がある。レベル0は男子では1割程度であるが、女子では2割を占め、レベル4は男子が4割程度、女子が2割程度であり、近年では男女差が拡大している。この結果から、男女間でのスポーツ参加の格差が過去10年間で改善されていないことがわかる。

3.高頻度・高強度で運動・スポーツをしている青少年の推移(中学生~大学生)

 運動・スポーツの実施状況を中学生、高校生、大学生でみると、10年間でどのような変化があるのだろうか。図3に高水準の運動・スポーツ実施者(レベル4)の推移を性別・学校期別に示した。中学生では男女ともに減少傾向にあり、過去10年間で10ポイント以上減少している。高校生では女子が減少傾向を示しており、男子では3ポイント程度の減少に比べて女子では6ポイント減少している。

 また、レベル4の割合は男子が女子を上回っている傾向は過去10年間変わらない。依然として中学生では10ポイント以上、高校生では20ポイント以上の男女差がみられている。

4.運動・スポーツをしない青少年の推移(中学生~大学生)

 図4に運動・スポーツ非実施者の推移を性別・学校期別に示した。中学生では男子は2011年から緩やかに減少しているが、女子では逆の傾向を示している。2011年から2013年にかけて増加し、2015年になると男子と同程度まで減少したが、その後は増加傾向にある。2015年から2021年までの6年間で7.8ポイントの増加がみられている。また、女子大学生の増加は顕著で、2011年の21.2%から2021年の32.7%へと11.5ポイント増加している。

 男女差は、中学生から大学生までいずれも縮小する様子はみられず、2021年では男女の割合に10ポイント以上の差がみられている。むしろ中学生では近年拡大傾向を示している。

5.まとめ -運動部活動改革の及ぼす影響と今後の課題-

 過去10年間で、高頻度・高強度のスポーツを行う青少年は減少している。また、全く運動・スポーツをしない青少年(レベル0)の割合には大きな変動がなく、一定数の青少年がスポーツから離れている状況が続いている。また、性別による違いも顕著で、特に女子のスポーツ参加率は男子に比べて低く、その差は拡大している。

 この背景には、運動部活動改革の影響があるといえる。スポーツ基本法では青少年スポーツの推進が重要視されているが、教員の過剰労働への対応のため、中学生・高校生の放課後や休日のスポーツ活動は活動頻度や時間を減らす方向へ変化している。部活動の過熱化により、部活顧問を務める教員の長時間労働が進んでおり、社会・経済の変化等により教育等に関わる課題も複雑化している。とりわけ、少子化によって運動部活動はこれまでの運営体制では維持することが難しくなり、地域によっては存続の危機にある。

 2018 年に「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」が策定された。運動部活動のガイドラインは、生徒にとって望ましいスポーツ環境を構築するため、スポーツ庁により制定された指針である。生徒の安全と健康を考慮し、休養日を週あたり2日間、一日の活動時間は平日2時間程度、休日3時間程度に設定することが示され、短時間に合理的でかつ効率的・効果的な活動を行う方向へと改革が進められた。実際に、2019年に行った「1221歳のスポーツライフに関する調査」(笹川スポーツ財団,2019)では、中学生の運動部活動の活動頻度や時間の減少が確認でき、ガイドライン策定の効果がうかがえた。

 その後、中央教育審議会から教員の働き方改革に関する答申(文部科学省,2019)が示され、部活動を学校単位から地域単位の取り組みにしていくことが提言され、2023年からは休日の部活動の段階的な地域移行が進められている。

 運動・スポーツをしない中学生の割合は、運動部活動のガイドライン制定の時期を境に女子では増加傾向を示し、男女差は拡大傾向にあることが確認された(図4参照)。過熱化した運動部では発達に応じた適正な頻度・時間での活動となることは望ましい変化となるが、単に運動の機会を減らしてしまうような部活動改革となってしまった場合、中学生の段階でスポーツから離れてしまう女子は今後さらに増える可能性もある。

 これまで青少年のスポーツの機会は主に学校を中心として提供されてきた。そのため、全国すべての地域にその受け皿をつくることは短期的には容易ではない。指導者の確保や費用面での課題も多いが、教員の働き方改革のための部活動改革が青少年のスポーツ機会の縮小につながらないよう、子どもたちのニーズに合わせたスポーツの機会の提供も同時進行で検討していかなければならない。その際には教員や指導者の視点だけでなく、青少年たちの意識や意見にも耳を傾け、一緒に議論していく場をつくっていくことも必要だろう。

 中長期的な視点でみると、今後は中学生以下の子どもたちへのアプローチがポイントとなる。生涯を通じてスポーツに親しみ、豊かな生活を営むためには、専門的にスポーツを行うようになる中学生年代になっても運動をもっと続けたい、新たに始めたいと思えるような基礎を、小学校や幼児期の頃から築くことが重要であり、幼稚園や保育園、小学校のほか、家庭や地域においても運動に親しめる環境づくりが求められる。

<参考文献>

・笹川スポーツ財団(2021)子ども・青少年のスポーツライフ・データ2021-4~21歳のスポーツライフに関する調査報告書-

・文部科学省(2011)スポーツ基本法
https://www.mext.go.jp/a_menu/sports/kihonhou/index.htm

・スポーツ庁(2018)運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン
https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/shingi/013_index/toushin/__icsFiles/afieldfile/2018/03/19/1402624_1.pdf

・文部科学省(2019)新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(答申)
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/079/sonota/1412985.htm

・スポーツ庁(2020)学校の働き方改革を踏まえた部活動改革
https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop04/list/detail/1406073_00003.htm

・スポーツ庁(2022)運動部活動の地域移行について
https://www.mext.go.jp/content/20220727-mxt_kyoiku02-000023590_2-1.pdf

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活用例

  1. 政策立案:所属自治体と全国の比較や調査設計に活用(年齢や性別、地域ごとの特徴を把握)
  2. 研究:研究の導入部分の資料や仮説を立てる際に活用(現状の把握、問題提起、仮説、序論)
  3. ビジネス:商品企画や営業の場面で活用(市場調査、データの裏付け、潜在的なニーズの発見)
テーマ

スポーツライフ・データ

キーワード
年度

2023年度

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