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セミナー「子供のスポーツ」

日本人の身体活動のいま
-GPAQの結果から読み解く-

日常生活でどのくらい身体を動かしているのか

2021年10月29日

日本人の身体活動のいま-GPAQの結果から読み解く-

1. スポーツライフ調査,GPAQを追加

笹川スポーツ財団(SSF)は,「スポーツ・フォー・エブリワン」社会の実現に向けて運動・スポーツをする・みる・ささえる視点から総合的に捉えるために「スポーツライフに関する調査(スポーツライフ調査)」を実施,結果を「スポーツライフ・データ」として刊行している.調査の詳細は「スポーツライフ・データとは?-調査の概要と特徴-」1)を参照されたいが,成人を対象とした調査は1992年より隔年で実施され,わが国のスポーツ活動の実態を明らかにしてきた歴史の長い調査である.

直近では2020年に同調査が実施され,これまでにない新たな取り組みとして世界保健機関(World Health Organization: WHO)「世界標準化身体活動質問票(Global Physical Activity Questionnaire: GPAQ)2)を質問項目に追加した.本稿ではGPAQの概要を紹介するとともに,スポーツライフ調査に対するGPAQの追加により今後政策や研究に期待される展開について述べる.

2. 生活全体の身体活動を調べるGPAQ

GPAQは,人々の身体活動量を把握するための質問票である.健康づくりに欠かせない身体活動を増やすための政策や施策を推進するには,人々はいつ・どれぐらい体を動かしているのかを理解する必要がある.身体活動量を把握するための質問票はGPAQ以前にも開発されていたが,生活のうちさまざまな領域における身体活動を区別できないという限界があった3).例えば,発展途上国では余暇やレクリエーションとしての身体活動量よりも,仕事や家事,移動にかかる身体活動量が多いという可能性があり,各国の文化や特徴の違いを考慮可能で,かつ信頼性と妥当性のある質問票が求められていた.こうした背景のもと,WHOより開発されたGPAQは,現在は多くの国で利用されている.

1に示す通り,GPAQの質問項目は仕事,移動,余暇,座位の4領域に分かれており,さらに各領域の身体活動は強度(きつさ)別に聴取される.強度は安静時を1メッツとし,日常の活動がその何倍のエネルギーを消費するかという観点から評価される4)GPAQでは中強度の身体活動は4メッツ,高強度の身体活動は8メッツが割り当てられ,各領域・強度別の身体活動時間に4または8を乗じて1週間の身体活動量「メッツ・時/週」を算出できる5).このように,GPAQを用いれば場面別の身体活動の状況を理解するとともに,生活全体における身体活動量の把握が可能となる強みがある.

図1 GPAQの構成

(世界標準化身体活動質問票(第2版 日本語版)より作成)

【図1】GPAQの構成

3. 「仕事」の身体活動が多い日本人

続いて,スポーツライフ調査にGPAQを追加した背景や意義を説明し,さらに実際の分析例を用いてGPAQができることを具体的に解説したい.

冒頭で述べたとおり,スポーツライフ調査の目的は「スポーツ・フォー・エブリワン」社会の実現に向け,運動・スポーツをする・みる・ささえる視点から総合的に捉えることである.特に「する」に関しては,運動・スポーツ実施率や実施種目,さらにその環境(例.施設やクラブ加入状況)などに着目し,年次推移も明らかにしてきた.このように,スポーツライフ調査における質問項目は,どちらかといえば身体活動のうち余暇における運動・スポーツに焦点が当てられてきた.ただし,健康増進に向けた政策においては余暇に限らない身体活動全体の捕捉が重要であるとの考えのもと,2020年調査ではGPAQが追加されたという背景がある.

スポーツライフ調査にGPAQを追加した意義は,何と言っても「日本人の身体活動のいま」が見えてくる点にある.まず,わが国においてGPAQを用いた全国調査は2020年に実施したスポーツライフ調査がおそらく初めてだろう.さらに,GPAQの特徴でもある仕事,移動,余暇といった領域別の身体活動は人口統計学的変数とも大きく関連しており,代表性のあるサンプルを回収できる調査手法の採用が非常に重要である.スポーツライフ調査は訪問留置法という手法を用い,地区や都市規模に加え性・年代等を考慮した回収を行っている.調査時期だけでなく,GPAQに適した調査手法という観点からも,仕事・移動・余暇の場面を含む包括的な身体活動の現状を適切に把握できる貴重なデータといえよう.

それでは「日本人の身体活動のいま」はどのような状況か,2020年調査をもとに解説する.2は,総身体活動量と領域別の身体活動量を平均値で示している.グラフの単位は「メッツ・時/週」であり,身体活動量を実施時間だけでなくきつさを加味して表している.

なお,以下の解説では,総身体活動量に占める各領域の身体活動量の内訳(%)についても言及しているが,この%は「身体活動をまったく行っていない者を含むサンプルの,身体活動量の平均値」をもとに算出している点は注意されたい.本来,総身体活動量に占める各領域の身体活動量の構成比を計算するには,総身体活動量が1メッツ・分/週以上行っている者でないと算出できない.ただし,図2は全体および領域別の身体活動量の多寡も同時に表すため,身体活動をまったく行っていない(総身体活動量が0メッツ・分/週)者を含むサンプルを用いて平均値を計算し,その数値をもって便宜的に構成比を算出している.この方法では,平均値をもとに領域別の構成比を計算しているため,異常値の影響を受けやすい.例えば,ある領域の身体活動量が極端に大きい者がいた場合,その領域の平均値も高い方へ引っ張られるため,構成比が大きくなるケースがある点は留意が必要である.

■全体,性・年代別

はじめに,全体の総身体活動量の平均は34.8メッツ・時/週であり,領域別に内訳(%)をみていくと仕事62.7%,移動18.5%,余暇18.8%である.性別にみると,男性全体の総身体活動量46.7メッツ・時/週で,年代別では20歳代67.9メッツ・時/週をピークとする山型である.身体活動の領域に関しては,全体的に仕事の身体活動量が大部分を占めており,特に総身体活動量が大きい2040歳代において仕事の割合が高い(20歳代 69.3%30歳代 76.2%40歳代 73.0%).

男性に対し,女性全体の総身体活動量は22.9メッツ・時/週にとどまる.年代別では181933.8メッツ・時/週が最も高く,年代が上がるにつれて総身体活動量も下がる傾向にある.男性同様に,特に2040歳代で仕事の身体活動量が高い割合を占める(20歳代 58.1%30歳代 65.0%40歳代 60.4%).

男女ともに,若年ほど総身体活動量が多いという傾向は共通する.一方で,男女の間で総身体活動量の差が大きく,全ての年代で女性よりも男性の方が高い.総身体活動量の男女差が特に大きいのは20歳代(男女差:38.9メッツ・時/週),30歳代(36.7メッツ・時/週),40歳代(28.0メッツ・時/週)であるが,これは2040歳代で男女における仕事の身体活動量の差が顕著であることに起因する.こうした結果の背景には,男女による仕事内容の違いがあると推察される.すなわち,男女別の総身体活動量の違いは,仕事の身体活動量の大小次第であると解釈できる.

■BMI別

やせ32.2メッツ・時/週,標準33.5メッツ・時/週,肥満40.0メッツ・時/週と,BMIが高いほど総身体活動量が大きい.領域別にみると,やせ・標準・肥満の間で移動や余暇の身体活動量に大きな差はないが,肥満に該当する者は仕事の身体活動量が27.5メッツ・時/週と高い.

肥満の者ほど総身体活動量や仕事の身体活動量が高いという結果は意外かもしれないが,ドイツ人を対象にGPAQを用いた研究でも類似の結果が得られている6)Wallmann-Sperlich and Froboese6)はこうした結果が得られた理由として,仕事後は一日中体を動かさない7),または肉体的にきつい仕事の者は高いカロリーを摂取するなど,仕事の身体活動と負の行動が共存している可能性に言及した.実際,夜勤やブルーカラーといった職種はBMIや肥満のリスクと有意な正の相関関係にあるといわれる8).これらを参考に仕事内容が身体活動量と関連していると推測すれば,本調査の結果も不自然ではない.

■都市規模別

東京都区部・20大都市36.9メッツ・時/週,人口10万人以上の市36.3メッツ・時/週に対し,人口10万人未満の市30.2メッツ・時/週,町村31.2メッツ・時/週とやや低い.領域別にみると,都市規模が大きいエリアに居住する者ほど移動の身体活動量も大きく,都市規模が小さいエリアに居住する者は移動の身体活動量が小さい特徴がある.大都市ほど公共交通機関の利用とそれに伴う移動の身体活動が多いが,都市規模が小さいエリアでは自家用車を保持・利用するために移動にかかる身体活動は少ないと考えられる.

以上,全体および各領域の身体活動量を性・年代別,BMI別,都市規模別に確認したが,結果全体からは仕事の身体活動量が高く,移動と余暇は少ない傾向がみてとれる.先述のとおり,発展途上国では先進国と異なる身体活動のパターンがあるという可能性がGPAQ開発の出発点だったが,日本でも仕事の身体活動量が大きいという結果は重要かつ大きな知見であるかもしれない.

4.身体活動を増やすには?求められる研究や政策

ここまで,2020年調査のデータを用いたGPAQの分析例から「日本人の身体活動のいま」を確認してきた.本稿のまとめとして,身体活動を促進する上では領域別にどのような研究や政策の展開が期待できるか述べたい.

■仕事

仕事の時間は1日の大半を占め,近年は健康経営の認定制度や「スポーツエールカンパニー」など職場における身体活動を推進しようとする政策の動きもみられる.2からも,日本人の総身体活動量のうち仕事の身体活動量は大きいことがわかる.仕事の時間を利用して身体活動量を高める重要性を改めて認識させる結果ともいえよう.

仕事の身体活動について特徴的な結果の一つは,性・年代別のグラフである.総身体活動量の男女差が大きく,全ての年代で女性よりも男性の方が高い結果が明らかとなった.これは男女における仕事の身体活動量の差が大きいためであり,特に2040歳代で全体および仕事の身体活動量の男女差が顕著である.こうした結果の背景には,男女による仕事内容の違いがあると推察される.

また,BMI別の結果では肥満ほど仕事の身体活動が多く,仕事内容の過酷さが不健康につながっている可能性が示唆された.この結果から「仕事の身体活動が多ければ健康に良いというわけでもない」という実態を指摘できそうである.例えば,仕事の身体活動量が多い職業としてドライバー,看護師や介護職などが想定され,身体活動という側面だけをみれば彼らは健康なのではないかと想像するかもしれない.しかし,こうした職業には交代勤務や夜勤といった特徴もあり,食事時間や場所に加えて食べる物も制約されるうえに,仕事のストレスからつい食べ過ぎてしまうなど,食生活という側面では彼らは健康であるとはいえないかもしれない9.こうした解釈は推測の域を出ないが,性・年代別やBMI別の結果などから今後は職種などにも着目し,仕事内容と身体活動量の関連を探るなど詳細な分析が求められよう.

■移動

近年,スポーツ庁のFUN+WALK PROJECTのように,移動に着目した政策も取り組まれている.2から,移動の身体活動量はそれほど大きくはないといえるが,なかでも都市規模別の結果が特徴的である.都市規模が大きいエリアに居住する者ほど移動の身体活動量も大きい.一方で,都市規模が小さいエリアに居住する者は移動の身体活動量が小さく,自家用車の保持・利用が影響していると考えられる.都市規模が小さいエリアでは自家用車が生活に必要不可欠であり,移動の身体活動を増やすという方策は現実的でない可能性もある.そうすると,仕事や余暇といった別の場面の身体活動を増やす方策の検討も必要となる.こうした考え方は,仕事・移動・余暇といった各領域の身体活動を把握するGPAQを用いるからこそ可能となり,さまざまな生活場面における身体活動量の捕捉の重要性を理解できる.

■余暇

「運動・スポーツ」と聞くと,一般的に余暇に行う運動・スポーツを想起する人が多いかもしれない.しかし2をみると,多くの層で余暇の身体活動量は小さい.これは意外な結果かもしれないが,「余暇に行う運動・スポーツは総身体活動量には大きく寄与していない」とネガティブに捉えるより,余暇の身体活動を増やせば生活全体の身体活動量も増加し,結果的に健康増進につながる余地があるとポジティブに捉えた方が良いだろう.

ここで重要な視点は,余暇の身体活動増加は国民の健康増進につながるが,余暇の身体活動を促進する上では「健康」だけでなく「余暇」の観点からも方策を検討する必要があるということである.そもそも「身体活動は健康に良い」という共通認識があり,健康増進という大きな目的に向かって,身体活動の促進・阻害要因に関連する研究は主に公衆衛生分野を中心に進められてきた.しかし,余暇の身体活動は必ずしも「健康」が第一目的になるわけではない.また「身体活動は健康に良い」と理解していても,それだけでは身体活動の実施に至らない場合もある.もちろん健康のために余暇に身体活動を行う人々もいるが,「健康」増進という側面を全面に押し出すのではなく,レジャーやスポーツマネジメントの観点から余暇の身体活動を促進するためにはどのような方策が有効か検討する必要もあるだろう.

実際,レジャーやスポーツマネジメントの領域で,身体活動促進に関する研究も出てきている.例えば,Berg et al.10)はインタビューをもとに,地域の身体活動プログラムの参加者は身体的な健康や外見ではなく,気分が良くなり楽しいと感じることや一緒に参加する仲間との交流を主な参加のベネフィットとして捉えていると指摘した.こうした快楽的感情と社会的側面に焦点を当てた取り組みが余暇の身体活動を促進し,健康増進につながる可能性を示唆した.このように,公衆衛生分野の理論や先行研究をレジャーやスポーツマネジメントに関する分野に応用しつつ,特にスポーツが健康増進に寄与する可能性を検討する研究も現れ始めている.

GPAQを利用すれば,人々の生活におけるさまざまな場面の身体活動の現状を理解でき,生活全体における身体活動の増加および健康増進に向けた包括的かつ実効性の高いアプローチが可能となる.また,本稿では触れなかったものの,GPAQのもう一つの強みは国際比較が可能な点にもある.今後,研究者や政策立案者は,身体活動の実態について日本はどのような立ち位置にいるのか国際比較を進めることが求められよう.運動・スポーツを通じた健康増進に向けて,多方面からの研究や政策を期待したい.


引用・参考文献

  • 1) 笹川スポーツ財団 スポーツ政策研究所. スポーツライフ・データとは?-調査の概要と特徴-. https://www.ssf.or.jp/thinktank/sports_life/column/20181003.html(最終アクセス日:2021年9月13日)
  • 2) 身体活動研究プラットフォーム. 世界標準化身体活動質問票(第2版 日本語版). http://paplatform.umin.jp/doc/gpaq.pdf(最終アクセス日:2021年9月13日)
  • 3) Armstrong, T., & Bull, F. (2006). Development of the world health organization global physical activity questionnaire (GPAQ). Journal of Public Health, 14(2), 66-70.
  • 4) 澤田亨. メッツ / METs. 厚生労働省 e-ヘルスネット. https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/exercise/ys-004.html (最終アクセス日:2021年9月13日)
  • 5) 身体活動研究プラットフォーム. 世界標準化身体活動質問票(GPAQ) 解析の手引き(日本語版). http://paplatform.umin.jp/doc/gpaq_guide.pdf(最終アクセス日:2021年9月13日)
  • 6) Wallmann-Sperlich, B., & Froboese, I. (2014). Physical activity during work, transport and leisure in Germany-prevalence and socio-demographic correlates. PloS one, 9(11), e112333.
  • 7) Kirk, M. A., & Rhodes, R. E. (2011). Occupation correlates of adults' participation in leisure-time physical activity: a systematic review. American journal of preventive medicine, 40(4), 476-485.
  • 8) Myers, S., Govindarajulu, U., Joseph, M. A., & Landsbergis, P. (2021). Work Characteristics, Body Mass Index, and Risk of Obesity: The National Quality of Work Life Survey. Annals of Work Exposures and Health, 65(3), 291-306.
  • 9) 丹下文恵, 平川仁尚, 臼井友乃, 北村亜希, 江啓発, Yupeng He, 青山温子, 八谷寛. (2021). 中小運輸・ 運送事業所で働く職業ドライバーの食習慣に関する質的研究. 東海公衆衛生雑誌, 9(1), 67-76.
  • 10) Berg, B. K., Warner, S., & Das, B. M. (2015). What about sport? A public health perspective on leisure-time physical activity. Sport Management Review, 18(1), 20-31.

  • 藤岡 成美 追手門学院大学 社会学部 社会学科 特任助教
    SSF特別研究員

    SSF2015~2021年まで公益財団法人笹川スポーツ財団に勤務。
    2021年早稲田大学大学院スポーツ科学研究科 博士後期課程修了(スポーツ科学)。
    専門はスポーツ政策、スポーツマネジメントなど。
    主にスポーツ参加者の増加に向けた方策やその環境について研究。
テーマ

スポーツライフ・データ

キーワード
年度

2021年度

担当研究者