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B.LEAGUEの海外戦略 過去10年間でのバスケットボールの躍進

SPORT POLICY INCUBATOR(55)

2025年8月13日
岡本 直也(ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ 国際事業グループ 執行役員)

 公益社団法人ジャパンプロフェッショナルバスケットボールリーグ(B.LEAGUE)は、2025-26シーズンに、開幕10年目を迎える。リーグ分裂による日本代表の国際試合出場停止から約10年。日本代表の自力でのワールドカップ出場(2023年)、パリオリンピック出場(2024年)など、日本のバスケットボールは以前では考えられないような飛躍を遂げた。男子日本代表のFIBAランキングは201648位だったのに対し、2025年時点で21位まで上昇している。

 良いニュースが多い男子日本代表であるが、日本代表が成長した原動力として、B.LEAGUEの躍進が要因の一つだと考えられる。初年度に約220万人だった年間入場者数は、2024-25シーズンに480万人を突破し、現在では多くのクラブのホームゲームが満員の観客の中開催されている

Lord's Nets. Date: 1894

FIBAアジアカップ2025 日本 vs 中国 (写真:フォート・キシモト)

B.LEAGUEの国際戦略

  そういった好循環が日本のバスケットボール界を盛り上げているわけであるが、現在B.LEAGUEでは、島田慎二チェアマンの旗振りの元、国際戦略にも注力を始めている。競技面での取り組みとして、「2030年までにNBA選手5人輩出」を掲げ、B.LEAGUEプレーヤーの海外挑戦を後押しするプログラムを拡充しつつある。またクラブの国際試合である、 バスケットボールチャンピオンズリーグアジア(BCL Asia)East Asia Super League(EASL)へのBクラブの出場を通して、海外チームとの真剣勝負の機会を増やす取り組みを行っている。結果としてEASLで千葉ジェッツが2024年に優勝、また2025年には広島ドラゴンフライズが優勝、そして2025年のBCL Asiaでは宇都宮ブレックスが優勝と、B.LEAGUEのクラブが国際大会でタイトルを獲得している。

  またB.LEAGUEはビジネス面での取り組みとしてアジア戦略を加速させており、1クラブあたり0.5枠(※帰化選手かアジア特別枠選手のいずれかが登録可能)設けられているアジア特別枠を活用して、各国でのメディア露出を高める取り組みを進めている。アジア特別枠は、2020年に5つの国・地域(中国、韓国、フィリピン、インドネシア、チャイニーズ・タイペイ)に適用し、2024年に8つの国・地域(タイ、マレーシア、香港、マカオ、ベトナム、シンガポール、モンゴル、インド)を追加した。また2025年にはレバノンを加え、アジアに国籍を持つ選手を、B.LEAGUE多く呼び込むための仕掛けを作っている。

アジア特別枠を活用した戦略

 アジア特別枠を開くための条件として、1.バスケットボールがその国・地域で人気がある 2.その国の競技レベルがB.LEAGUEのレベルに近い 3.日本という国に親和性がある の3つを設定しており、これらの国・地域の選手がB.LEAGUEのクラブと契約すれば、フェーズ1達成としている。

 またフェーズ2達成条件として、B.LEAGUEでプレーするアジア特別枠の選手がプレーする試合の放映権がそのエリアの放送局に販売され、その選手の母国で放送・配信され、B.LEAGUEメディア露出が広がることを、一つの基準としている。

 そしてB.LEAGUEの認知及び露出が広がったところで、現地でイベント等を行い、B.LEAGUEを身近に感じてもらうための活動を行うことにより、認知を人気に変えていく取り組みをはじめられれば、フェーズ3としている。

フィリピンでの取り組み 

 現在フェーズ3として活動を行っている国は、2020年より継続して選手がB.LEAGUEでプレーしているフィリピンがあげられる。フィリピンは2024-25シーズンにB1リーグで6名、B2リーグで2名の選手がプレーしており、最もアジア特別枠との親和性が高いと言える。フィリピンではバスケットボールが最も人気のあるスポーツとして認知されており、男子バスケットボールフィリピン代表チームは、国内随一の人気スポーツチームであるが、実にその約30%の選手がB.LEAGUEでプレーしている。また現在2つのローカル放送局で年間約100試合を放送・配信しており、フィリピン国内で高い認知度を誇る。

 そういった環境のフィリピンにおいて、B.LEAGUEの人気を高めるべく、首都のマニラで2023年から様々なイベントを開催している。例えば、20255月に、B.LEAGUEの優勝を決めるB.LEAUE FINALSのパブリックビューイングイベントを中心とした「B.LEAGUE FINAL WEEK MANILA」という過去最大のイベントをマニラ中心部のショッピングモールにて開催した。

 47都道府県中、B1リーグからB3リーグまで41の都道府県にクラブを持つB.LEAGUE及びB3リーグは、地方創生を掲げている海外においても「Empower Local」というローカルコミュニティへの貢献を掲げており、前述のイベントにおいても、フィリピンの社会課題である「Education」「Poverty」「Gender Equality」をテーマに、バスケットボールクリニック、3x3イベント、そしてパブリックビューイングを行った。イベントは4日間のスケジュールで行われ、毎日日替わりでB.LEAGUEでプレーするフィリピン代表選手が出演するなどし、フィリピンでの同イベント関連のメディア記事掲載が200を超える結果となった。

 フィリピンの他には、チャイニーズ・タイペイ(台湾)からも、2024-25シーズンに3名の代表選手がB.LEAGUEのクラブに在籍したことから、同地域に対して、放映権販売と現地イベントの実施を画策している。

未来に向けて

 2024-25シーズン、B.LEAGUEには25の国・地域の選手が在籍し、そのうちアジア特別枠の選手は6の国と地域(フィリピン、チャイニーズ・タイペイ、中国、韓国、タイ、香港)に及んだ。他国のリーグでは、自国選手育成の名目で外国籍の選手数を制限しているリーグがみられる中で、B.LEAGUEはその逆を行っている。人材流動性の活発化により、多様性に富んだリーグを目指すことで、より競争力の高いリーグを目指している。

 2026-27シーズンからはB.革新というリーグ改革を行い、競技力ではなく経営力によってリーグの昇降格を判断する制度が導入される。年間平均入場者数4000人以上とすること、5000人以上収容のアリーナを保有すること、年間12億円の収入を得ること、などを大枠の条件に、最上位リーグであるBプレミアの参入可否を判断する。数年前、この基準をクリアするクラブは数クラブと思われたのが、蓋を開けてみれば実に26クラブが基準を達成し、バスケットボール界のビジネス規模の底上げに大きく寄与している。

 そのような国内の改革が進む中で、海外でいかにB.LEAGUEの存在価値を高めてファンを作りその国のコミュニティに社会的に貢献していけるのか、またビジネスの伸びしろを作っていけるのか、このような点が国際事業には求められているように思う。

  • 岡本直也 岡本 直也   Naoya Okamoto ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ 国際事業グループ 執行役員 立命館アジア太平洋大学卒業。2007年、新卒で株式会社リクルートに入社し、求人・販促メディアの営業を担当。2013年にイギリスへ留学し、ロンドン大学バークベック校スポーツマネジメント大学院を修了。学業と並行して、マンチェスター・ユナイテッドFCのロンドンオフィスに勤務。2015年、シンガポールにある電通スポーツアジアに入社。2018年、楽天グループ株式会社に転職。2021年、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科博士課程修了。2024年から現職。