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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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セミナー「子供のスポーツ」

(2)現行教育課程の内容にみる「体育」の教育目的

3. 体育の教育課程-韓国の「学校体育」の教育目的とは-(2)

(2)現行教育課程の内容にみる「体育」の教育目的

では、具体の教育課程の内容を見てみることにしたい。韓国では2007年の教育課程以降(2009年も各論では現在のところ同様の内容)において、従前の「運動機能種目中心」(陸上運動、体操、水泳、個人及び団体運動、舞踊、体力運動)の教育課程から「身体活動価値中心」の課程に変更された。従前は、例示された6項目について、運動機能の熟達のため種目別体育教育課程を構成し、「スポーツ機能(Sports skill)」の養成を目指していた。

具体的に体育科教育課程の書きぶりをみてみると、
「体育とは『身体活動』を通じて自身および世界を理解して元気で活気に満ちた人生に必要な能力を育て、望ましい品性と、社会性を備え、体育文化を創造的に継承・発展させることができる資質を育成する教科である。体育科で追求する人間像は身体活動を総合的に体験することによって、その価値を内面化して実行する人である。すなわち身体活動に持続的に参加しながら、健康および体力、スポーツ精神と共同体意識、創意的で合理的な思考力、身体文化認識などの能力を備えることによって、自身の人生を自ら啓発して健康な社会と国家を作るのに貢献できる人である。

体育科の教育内容は健康、挑戦、競争、表現、余暇という『身体活動の価値』を中心に成り立ち、この教育的価値を人文社会的、自然科学的、芸術的現象として探求し、実践する特性を持つ。」

このように、現在の韓国の体育の教育課程では、体育を5つの活動領域(健康活動、挑戦活動、競争活動、表現活動、余暇活動)に分けて構成しているのが特徴的である。具体的には

①「健康活動」は健康に関する知識を探求して、これを土台に心身の健康を増進して管理して、健康の諸問題を解決できる合理的な意思決定能力を育成するのに焦点をあわせる
②「挑戦活動」は身体活動を行いながら自らの潜在力を発見して、自らの限界に能動的に挑戦できる能力啓発に焦点を置く
③「競争活動」は身体活動に存在する競争と協同の原理を認識し、善意の競争と相互理解を通して身体活動を科学的に行い勧奨することに焦点を置く
④「表現活動」は身体活動の審美的要素を理解し創意的に表現して、多様な表現類型と文化的特性を勧奨することに焦点を置く
⑤「余暇活動」は日常生活で身体的な余暇活動が持つ個人的価値と社会的価値を認識して、体育活動の生活化を通じて正しい余暇文化を自分で主導的に作っていくことに焦点を置く

こととなっている。

例えば、小学校の体育(3,4,5,6学年)は「『身体活動価値の基礎教育』を担当するために、正しい健康生活習慣の形成、基礎体力の増進、運動の基本能力と表現能力の向上、望ましい運動秩序および規範の形成、活気あふれる余暇生活態度の形成を強調し、中等学校体育(7,8,9,10学年)は『身体活動価値の深化教育』を担当するために、自分の健康および体力管理、科学的な競技遂行能力の向上、創意的な表現能力の向上、健全な余暇文化の創造を強調する。特に高等学校1学年(10学年)体育は身体活動に関する総合的な見識と実践能力の啓発を強調し、高等学校2,3学年体育と連携可能な生涯体育活動の基礎を設けること」となる。

全体的に見て、現在の韓国の体育課程は、より「身体活動」に重点を置いた構成となっており、日本の現行指導要領のように多様な運動領域を低学年から行っていくことには必ずしも重きを置いていない。

例えば、「挑戦活動」でいえば、小3・小5は「記録への挑戦」、小4は「標的・闘技への挑戦」、小6は「動作への挑戦」という中領域が定められている。

具体的には「記録への挑戦」は、「速度への挑戦」(100m走、400m走など)と「距離への挑戦」(例:走り高跳び、走り幅跳び、槍投げ、ハンマー投げなど)に区分されており、この活動には陸上、水泳、スケートなどが含まれる。「標的・闘技への挑戦」は固定された目標物に対する挑戦と、動く他人の身体的技量に挑戦する活動を意味し、射撃、アーチェリー、相撲、テコンドー、剣道などが含まれる。「動作への挑戦」は最高の動作と姿勢に対する挑戦で、自らの動きの形式を発展的に変化させる活動であって、床運動、飛箱(跳馬)運動、平均台運動などが含まれる。事実上各学年ごとに、実施が想定されている競技がかなり細分化され、小学校6年間(+中学校3年間)を通して継続的に器械運動、陸上、水泳、球技を取り上げる日本の指導要領の方針とはやや異なる位相を見せている。

これらの方針は、韓国の現教育課程が、「生きるための技術」(Life Skill)習得中心の考え方に依拠していることに由来しているといえ、結果的に、学校体育において、「スポーツそのものの楽しさを味わう」ことへの配慮が相対的に少ないものとなっているといえよう。