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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

セミナー「子供のスポーツ」

7.トップアスリート養成機関としての「体育中学校」「体育高校」~エリート選手のキャリア形成ルート~

7. トップアスリート養成機関としての「体育中学校」「体育高校」~エリート選手のキャリア形成ルート~

先述したとおり、韓国と日本の学校体育の大きな違いは、学校体育施策の相当のエネルギーが、韓国では「エリートスポーツ」(専門体育)に向けられてきたことである。これに対して、日本においては、あくまでもトップアスリート養成は、各学校が入学者選抜や運動部活動に力を入れる学校独自の運営方針の中で、既存の学校教育システムを前提としながら、補完的に実施されているに過ぎない。

韓国では、スポーツエリートの選抜・育成・分配が、制度的に構築されている。その主たる仕組みが、「体育中学校」及び法令上の特殊目的高校としての「体育高校」である。いずれも公立学校として設置されている。

(※前述のアーチェリーのように、競技人口・底辺の拡大を狙って、体育中学校に競技が設置されないものは、一般の中学校に「運動部活動」を設置して対応しているのが一般的である。体育中学校には主にマイナー競技が設置されている。)

体育中学校は、2009年現在、全国7校、学生数850名である。体育高校は、全国に15校(済州島のナムニョン高校を含む)、学生数は3,600名、コーチ数は297名である。

他方、2009国家代表・候補選手数は325人に上り、国家代表1,165人、候補選手1,300人のうちの7.5%を占める。実際には競技者としての活動時期は、その後の大学生時期などにピークを迎えることが多いことを考えれば、この比率は非常に高いものといえよう。

実際、筆者も体育中・高等学校が併設されているソウル体育高校・中学校を訪問した。

同校は、ソウル特別市が設置する公立の学校で、生徒数が高校418人(男293名、女125名)中学171人(男111名、女60名)である。教員数は高校が校長1、教頭1、部長教師9、教師30、保健教師1、栄養教師1、コーチ33、中学校が教頭1、部長教師3、教師7、コーチ16 学校事務職:事務官1、主事1、書記補1、技能職13となっている。校長は両校を兼務しており、競技ごとに監督とコーチが置かれ、監督は公務員職で、コーチは1年あたりの契約職である。コーチは一般に当該競技団体において優秀な指導者がその地位に就いており、監督も、半数程度はその競技出身の元競技者である。なお、コーチの中には、日本のJETプログラム(スポーツ国際交流員(SEA))で日本の高校で指導経験をもち、帰国した者も存在している。

教育課程は特別の課程となっており、4時間程度の授業を行い、その後は練習を行う。また、本来の教育課程においても、体育が多い。【時間割 表5】

同校の特徴としては、国家代表育成機関であるテヌン選手村と連携して委託教育を行っていることであり、同校に在籍しながら、そこからテヌン選手村に通う生徒がいる(中学校10名、高校20~30名程度)。

入試については、全国から応募者を募り、中学校は実技試験、高校は専攻種目のテスト(体力テストを行う種目もある)が行われる。なお、一般の知識科目の内申成績は100人中90位でも許容されるレベルであり、事実上学校の筆記成績は考慮しないことに等しい。中学から高校の内部進学は100%認められるものの、進路の変更や成績の伸び悩み等を理由に、中学入学から卒業までに約10%の生徒が学校を離れていくとのことである。

学校には、寄宿舎が整備され、月曜日から金曜日は寄宿舎-学校(テヌン選手村に行く場合もあり)の往復の生活となる。ちなみに、食事に関しては、コーチは昼と夜、生徒は3食無料で提供される。

学校関係者によれば、予算は中・高合わせ、年間約60億Wであり、予算、特別の教育課程、コーチなど人的面の行政機関の支援は充実しているとのことであり、学校が望めばほぼ思い通りに人材を手当てできるなど、極めて恵まれた環境にあるとのことである。

施設面では、校舎棟、寄宿舎2棟、食堂、寄宿舎(480名収容)、体育館、総合体育館、水泳場、総合運動場(400×8レーン)、洋弓場、テニス場、補助運動場などが整備されている。最新の設備は少ないものの、冬でも暖かい環境で練習できる洋弓場や、室内射撃場、飛び込み台の整備された水泳場など、実際、重点競技の練習環境は相当に充実している。

視察当日の学校の風景を参考にご紹介しよう。

①水泳
ちょうど、中高が一緒に競泳(クロール)の練習をしていた。
同校では、飛び込みは重点種目であり、大きな飛び込み台も有している。

②運動場
11~3月までは、グラウンドのレーンはビニールで覆い、寒さを防いでいる。暖房も入っており、極寒のソウルでも零下にはならないとのこと。

⑤アーチェリー(高校のみ)
韓国お家芸のアーチェリーでもあり、90メートルの国際大会基準まで対応可能の練習場となっている。部員は17名。卒業生はおおむね大学へ進学する。

⑥近代五種
中学は3種、高校は4種として行っており、射撃はあるが、乗馬はない。

⑦バドミントン
元SEAがコーチとして採用され、現在チームの立て直しが図られているとのこと。

⑧レスリング
冬休みでもあり、大田から大田体育高校関係者が強化練習のため来ていた。

⑨ボクシング
コーチは卒業直後の学生である。

⑩フェンシング
体格の大きな中学生が、高校に混じって練習をしている。(中学13名、高校25名。)当日は大邱と大田から遠征に来ていた。海外合宿はないが、遠征はよくある。三種目とも取り組んでおり、強い。どの種目(エペ・フルーレなど)をやるかは、中学校に入って練習して決める。エペには世界4・5位レベルの選手が在籍。コーチの経費は、学校と生徒で半々であり、生徒の負担はおおむね月10万W程度であるとのこと。

①冬は極寒のため、トラックにテントを張り、暖房を入れている。

①冬は極寒のため、トラックにテントを張り、暖房を入れている。

②韓国の特技種目アーチェリーの練習風景

②韓国の特技種目アーチェリーの練習風景

③射撃も室内射撃場が整備されている

③射撃も室内射撃場が整備されている

④レスリングの練習風景(当日は大田体育高校が遠征し、合同の練習を行っていた。)

④レスリングの練習風景(当日は大田体育高校が遠征し、合同の練習を行っていた。)

⑤中学生と高校生が混じって練習するフェンシング

⑤中学生と高校生が混じって練習するフェンシング