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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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国際運動免疫学会(International Society of Exercise and Immunology: ISEI)の東京開催にあたって ―国際学会を日本で開催することの意義―

SPORT POLICY INCUBATOR(53)

2025年6月11日
鈴木 克彦(早稲田大学スポーツ科学学術院教授)

1 はじめに

 2026年8月に国際運動免疫学会(International Society of Exercise and Immunology: ISEI)を東京(早稲田大学)で開催することになりました(https://katsu.suzu.w.waseda.jp/ISEI2026_Tokyo_J.html)。この学会は、運動と免疫に関連する世界中の研究者の情報交流を目的として、2年に度持ち回りで開催されており、前回は2024年にオーストリア のウィーン大学で、前々回は2022年に米国のアリゾナ大学で開催されました(https://exerciseimmunology.com/)。運動・トレーニングの生体影響に関する基礎的研究からアスリートの健康管理や中高年者の疾病予防など応用研究も含まれますが、分子レベルの解析から細胞実験、動物実験、人を対象とする実験、疫学調査、機能性食品などによる介入研究まで幅広い内容が発表され、活発な議論が展開されています。

国際運動免疫学

2 著者とISEI

 私は2001年に米国ボルチモアでISEIが開催された際に初めて国際学会というものに参加しましたが、当時留学経験もない若干31歳の大学院生にとって、まず英語が聞き取れず大変な衝撃を受けました。例えば、グリコーゲン(Glycogen)のことを英語ではグライコジェンと発音しますが(ライを強調)、それが聞き取れず内容がわからないという事態でした。当時、持久性運動で筋グリコーゲンが消耗すると作動筋からインターロイキン6(IL-6)という生理活性物質が血液中に放出され、それが肝臓や脂肪組織に働きかけて遊離脂肪酸が血液中に動員されて筋にエネルギー源を供給するという臓器連関のメカニズムが研究トピックスとして注目され始めた頃で、私も運動によるそれらの物質の変動について研究しておりましたので、内容的には理解できたはずが、コミュニケーション手段の英語でつまずいていたという状況でした。しかし、自身のポスター発表では、若手研究者賞(Young Investigators Award)を受賞することになりました。また、論文や書籍の著者名でしか接したことがない先生方から熱心に質問され、十分に答えられたわけではなかったと思いますが、もっとしっかり議論できるようになりたいというモチベーションにつながり、これがその後もISEIに参加していくきっかけとなりました。毎回参加していると役員も依頼されるようになり、学会誌編集委員や2015年からは会長(理事)として学会運営にも関わるようになりました。

3 日本人の英語での国際学会発表について

 留学経験のない日本人研究者にとって、国際学会で発表するのは実に大変なことですが、発表後の質疑応答でうまく応答できないと研究自体の質が問われ、質問者にも悪い印象を与え、評価が下がることになりかねません。しかし、最初からうまく英語で質疑応答ができるはずもなく、練習が必要となります。日本人ですので、まず日本語でうまく発表と質疑応答ができるようになることが必要と考えられますが、内容をいちいち英訳しているととてもスピードについていけずコミュニケーションが成立しないというジレンマに陥ります。結局のところ、英語でのディスカッションの場数を踏んでスピディーに対応できるようにトレーニングする必要がありますが、国際学会は1年か2年に一度で頻繁にあるわけではないので、日頃から研究進捗や論文紹介などで質疑応答する訓練が必要となり、現実的には各研究室の勉強会(ゼミ)が重要な訓練の場となります。英語で勉強会を行っている研究室もありますが、そもそも英語が苦手な構成員では維持するのもなかなか大変なことです。そこで早稲田大学では、海外経験のある教員を多く採用し、国際シンポジウムも招致するように全学をあげて努力しています。そのような取り組みを広めていくことが、今後の日本の国際化と研究力のレベルアップに必要と考えられます。

4 日本で国際学会を開催する意義について

 学会は運営メンバーの誰かがいつかは開催しないといけないというなかで、学会内で少子高齢化が進んでおり、担い手が限られており人手不足という面も否めませんが、次回は早稲田大学で関係者の協力も得て何とか開催する運びとなりました。しかし、より積極的な意味では、日本人が国際的に活躍する、あるいはそのようになるきっかけづくりとして重要な機会(チャンス)になると考えられます。私自身も英語での発表や質疑応答が得意なわけではありませんが、日本人研究者の情報発信や質疑応答のレベル向上に役立てばと心から願っています。また、この研究分野の少子高齢化を脱却し若手の参入を促進するために、日本で開催することで海外からわざわざ来てくださる方々のみならず自国の参加者が楽しんでもらえることも今後のために大事で、各種企画の資金集めにも奔走しています。

5 おわりに

 私の運営する早稲田大学予防医学研究室は設立20年以上となりますが、運動によるサイトカインの動態、白血球の活性酸素産生による炎症反応の解析から、機能性食品による炎症制御まで幅広く研究しています。特にマラソンのような激しい運動やトレーニングによる筋損傷、疲労や易感染性などの体調不良に対し、その予防や早期回復に役立つ対応策に関して炎症、酸化ストレス等のメカニズムまで含め検討してきました。基礎研究で得られた知見を応用展開して、運動時の栄養、水分補給などによって体調不良の予防や回復促進の効果とメカニズムの検証を進めており、研究成果を学会等で発表すべく、日夜努力をしております。研究のさらなる発展や国際学会成功のために、ご支援、ご協力を賜れますと幸いです。

  • 鈴木 克彦 鈴木 克彦   Katsuhiko Suzuki, M.D., Ph.D. 早稲田大学 スポーツ科学学術院 教授/国際運動免疫学会 前会長・現理事 早稲田大学大学院人間科学研究科生命科学専攻修了後、弘前大学医学部卒業、国立国際医療センター病院内科系臨床研修課程修了。2002年弘前大学医学部助手、2003年早稲田大学人間科学部専任講師、2008年早稲田大学スポーツ科学学術院准教授を経て2013年より現職。内科医として早稲田大学保健センターも兼務。運動・トレーニングをモデルとした生体のストレス応答と適応機構に関する解析・評価法およびストレス制御・予防法の開発を研究課題としている。