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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

カナダにおける新型コロナウイルス対応

2021.09.01

ブリティッシュ・コロンビア州(以下、BC州)では、2020年3月のパンデミック以降、さまざまな制約下での生活を余儀なくされたが、2021年7月に入り、パンデミック以前の生活に戻りつつあった。しかしながら8月に入り感染者はまた徐々に増えており、CBC Newsによると、カナダ国内の8月第3週の新型コロナウイルスの新規感染者数は約18,395 人で、前週より28%上昇している。ただ、Covid-19 Tracker Canadaによると、ワクチン接種が可能な12歳以上のカナダ人のうち、1回目のワクチン接種が完了したのは72.6%、2回目のワクチン接種が完了したのが65.4%と他国と比較しても高い割合となっている(2021年8月24日現在)。

カナダは10の州と3つの準州からなり、それぞれの地域で日常生活の再開プランの進捗状況は異なる。BC州は現在ステップ1から4の再開プランが設定されており、感染者数、18歳以上のワクチン接種率、入院者数と重症者数、死亡率の推移によって、次のステップへの移行が判断される。

ステップ1 ステップ2 ステップ3 ステップ4
(各ステップの判断基準) 18歳以上の60%以上が1回のワクチン接種完了、感染者数と入院者数の安定 18歳以上の65%が1回のワクチン接種完了、感染者数と入院者数の減少 18歳以上の70%が1回のワクチン接種完了、低い感染者数と入院患者数 18歳以上の70%以上が1回のワクチン接種完了、低い感染者数と入院患者数
個人的な集まり ・ 屋外は10人まで
・ 屋内は5人まであるいは他の一家族
・ 屋外は50人まで
・ 屋内は5人まであるいは他の一家族
・ プレーデート(子供の友達同士で遊ぶこと)
・ 屋内外ともに通常通り
・ お泊り
・ 対人接触も含め通常通り
集会・イベントなど ・ 屋外は50人まで(安全運営計画が必須)
・ 屋内は10人まで(安全運営計画が必須)
・ 屋内外の宗教的集まりは50人まで(コロナ安全規則に順じた場合)
・ 屋内外共に50人まで(安全運営計画が必須)
・ 屋内外の宗教的集まりは50人まで(コロナ安全規則に順じた場合)
・ 屋外は5,000人以下あるいは収容可能人数の50%まで
・ 屋内は50人以下あるいは収容可能人数の50%まで
・ 宗教的集まりの場合は制限なし
・ フェスティバルやトレードショーなどは感染症対策計画を設定したうえで通常通り
コンサートなどの大きな集まりにおいて収容可能人数の増加
旅行 ・ 居住地域内での娯楽目的の移動 ・ BC州内での娯楽目的の移動
・ BC交通機関の運行増加(必要に応じ)
・ 国内での娯楽目的の移動 ・ 国内での娯楽目的の移動
商業 ・ 屋内外の飲食は1グループ6人まで(家族外、バブル外も含む)
・ 酒類提供は午後10時まで
・ 屋内外の飲食は1グループ6人まで(家族外、バブル外も含む)
・ 酒類提供は午前0時まで
・ 人数制限のうえバンケット会場の運営(安全運営計画が必須)
・ 屋内外の飲食は共に規制なし、イベントも可
・ 酒類提供規制なし
・ 他テーブルとの社交およびダンスは禁止
・ カジノは人数制限のもと再開
・ 感染症予防対策のガイダンスに基づき運営
職場 ・ コロナ安全運営計画と健康チェック事項を設定したうえで徐々にオフィス出勤を開始 ・ コロナ安全運営計画と健康チェック事項を設定したうえで引き続き徐々にオフィス出勤を開始
・ 小人数の対面会議
・感染症対策計画を設定したうえで引き続き徐々にオフィス出勤を開始
・セミナーや大人数の会議
・ 通常通り
スポーツ・運動 ・ 人数制限内での屋内の低強度グル・プ運動
・ 屋外での大人・子供のチームスポーツにおける試合・練習
・ 屋内外問わず無観客
・ 人数制限内での屋内の低・高強度グループ運動
・ 屋外での大人・子供のチームスポーツにおける試合・練習
・ 屋外での観客は50人まで、屋内は不可
・ 全ての屋内フィットネスクラスは通常通り
・ 体育館やレクリエーション施設は通常運営
・ 屋外の観客は5,000人以下あるいは収容可能人数の50%まで
・ 屋内は50人以下あるいは収容可能人数の50%まで
・ 大会などは感染症予防対策のガイダンスに基づき通常通り
・ 屋内外共に観客数の増加

 BC州は2021年7月1日の時点でステップ3に入り、ワクチン接種率と感染者数が目標を達すれば、2021年9月7日に次の規制緩和を行う(ステップ4)予定である。

BC州におけるスポーツ活動の再開

スポーツもまたコロナ禍前に戻りつつある。BC州では屋内フィットネスクラス、レクリエーション施設、体育館などが通常使用に戻り、利用人数などの制限が無くなった。スポーツイベントについては、屋外のスポーツイベントでの観客収容人数は5,000人以下、もしくは収容可能人数の50%以下、屋内のスポーツイベントでは50人以下、もしくは収容可能人数の50%以下となっている。スポーツ活動における遠征なども可能となった。週末や夜のスポーツフィールドは、地域のスポーツ活動の場として、大人や子供などが集まり、賑わいを取り戻している。

コロナ禍におけるパラスポーツ

Wheelchair Rugby Canada所属でハイパフォーマンスコーチを務めるアダム・フロスト氏にコロナ禍におけるパラスポーツの現状を聞いた(インタビュー実施日:2021年7月17日)。フロスト氏らが最初に取り組んだのは、東京パラリンピックに向けて準備を続けるアスリートのために、各州の競技団体が州の規制に基づいて調整しながら取り入れることが出来る安全なプレー再開プラン「Return to Play Plan」の作成だった。初めにプレー再開タスクフォースが立ち上げられ、安全なプレー再開プランの基準値を設定し、諸外国のReturn to Play に関する文献を調べた。タスクフォースでは、①4つのステップに基づくプレー再開プラン、②リスク評価ツール、③州およびクラブに向けた緩和のためのチェックリストツールを作成した。

① 4つのステッププランは、1)対人距離の確保が求められる中でのトレーニング、2)接触無しの小さなグループでのスキル練習、3)接触可能な小さなグループでの練習やゲーム、4)合宿や大会への再参加、で構成されている。

② リスク評価ツールは、地域のスポーツリーダーたちが各地域でのリスクを評価し、4つのステッププランの中でどのステップを取るべきか判断するためのツールとなっている。

③ 緩和のためのチェックリストツールは、トレーニング時に参加者の安全を確保するための方策に関して詳細に記されている。

これらのツール完成後、ハイパフォーマンスプログラムを管理するハイパフォーマンス委員会と国内(ドメスティック)委員会が各州のパートナー組織に段階を経て情報を共有した。ステークホルダーとバーチャルミーティングを複数回に渡り行い、これらツールについて学んでもらうと同時に、質問応答を重ね、必要に応じてツールの修正も行った。

プラニングが完了すると、実際のプログラムが開始された。当初、最善の準備をしていち早くトレーニングに戻る予定であったが、新型コロナウイルスが障害者にどのような影響を与えるかが明らかになっていないため、他競技の対応状況を見ながら判断をしていくことになった。代表チームのプログラムは、各州の規制の変動やパンデミックの影響が大きい地域で合宿が計画されていたなど様々な問題に直面した。国内合宿や国際大会など、2020年9月から2021年4月までに計画されていたものは全て日単位での調整が必要になり、キャンセルを余儀なくされた。合宿が行われても、PCR検査や移動に伴う隔離、シングルルームでの宿泊、食事や施設利用上のルールなど、計画を実施するにあたっての困難は多く、費用の拡大も避けられなかった。計画担当スタッフはこれらの対応に追われ、多大な苦労が強いられた。

2020年3月上旬から同年8月末までは、フロスト氏のコーチングも全てオンラインで行われた。フロスト氏は以下の3点を念頭にコーチングを行ったという。

① グループでビデオミーティングすることでロックダウンの現実から少しでも皆の意識をそらす

② ビデオを見ながらプレーの予測をする練習を重ねることで、アスリートのコート上での判断力向上を狙う

③ 育成選手などの若い世代を対象に、自宅で可能なトレーニングを個人の状況に合わせて計画していく。

2020年9月に入ると、フロスト氏が拠点としている地域の強化指定選手との対面トレーニングが再開された。これは前述の4つのステップに基づく再開プランの第2ステップにあたる。体育館に戻れたことに喜びを感じながらも現実は様変わりしていたという。参加者にはトレーニング毎にコロナに関するスクリーニングテスト(NSOと施設がそれぞれ用意したアンケート調査)が行われた。利用施設では、以下のように入退館時における規則が厳しく遵守された。

  • 入館時に利用者リストに登録されているかを確認し、未登録者は入館が許可されない。
  • 施設内は一方通行で、利用者が立ち入り出来ない区域も設定された。
  • 施設の予約時間の5分前までは準備エリアで待機する。
  • 前のグループの利用後、施設スタッフによりコートが清掃される。
  • 同じ時間でのコート利用は一つのグループのみとされた。
  • トレーニング時以外は、待機時、コート使用時ともにマスク着用が求められる。
  • 予約時間終了後はただちにコートから離れ、施設からの退館が求められる。
  • ボールなどの用具の共用は認められず、触れるものは全て使用前後に消毒する。

感染拡大の状況によって、州の規則に従って施設側がトレーニング中でもマスク着用の義務付けを規定することもあった。2020年9月以降、感染状況は一進一退となり、その間、プレー再開プランはステップ2と3を行き来し、時には同じ週の中で変わることもあった。練習プランを立てるうえでの影響はそれほどなかったが、モチベーション維持の側面では非常に困難を極めた。特に他人との接触が可能だった段階から距離を保っての段階に戻ったときは、アスリートのモチベーションが下がった。2021年7月初旬の時点では、ステップ3での練習が出来ており、施設の規則も緩和されつつあったという。

新型コロナウイルスによるシャットダウンで、小規模グループ単位でのトレーニングを強いられたり、大会がキャンセルされたり、目まぐるしく変わる規制など様々な問題に直面したものの、フロスト氏はパンデミック中のコーチングでポジティブな成果も見いだせたという。障害を持つアスリートは健常者のアスリートと比べて日常生活における障壁が多く、生活活動に要する時間が多い。そのため、チームで集合する時など、常に遅れる人がおり、他のアスリートも潜在的に遅刻が常習化されていた。施設利用についても、コロナ禍前は、平日の午前中に行われることが多く、その時間帯は他の団体・組織の利用がそれほどなく、練習開始・終了時間が予定通りに進まないことも問題視されていなかった。また、競争相手もそれほど多くないため、時間に対する意識が低いことをそれほど深刻に捉えていなかった。コロナ禍では、施設利用時間が厳格化されたため、利用するアスリート側の時間に対する意識が大きく変化した。練習開始・終了時間は厳守され、アスリートの行動もおのずと変化し、効率的な時間の利用に繋がった。これまで複数の種目を兼務するアスリートが多かったが、規制のあるなかで他のスポーツ活動が制限された結果、一つのスポーツに集中するアスリートが増えたそうだ。こうしたアスリートの行動変容により、指導者側が効果的な練習計画を立てやすくなっただけではなく、一つのスポーツに集中し、他の介入要素が取り除かれたため、コーチングがどれだけアスリートたちの成長に影響を与えられているか直接的に評価できるようになった。

当初は、カナダの代表選手の応援のためフロスト氏も来日予定だったが、日本での感染状況を鑑み、母国からの応援に切り替えた。次回のオンコートトレーニングはパラリンピック終了後の9月中旬となる。カナダでの感染状況が政府の予測通りに落ち着けば、コロナ禍前と同じ状態でのトレーニングが再開出来る予定だ。

(2021年8月24日現在)

参照

CBC News https://www.cbc.ca/

COVID 19 Tracker https://covid19tracker.ca/

https://www2.gov.bc.ca/gov/content/covid-19/info/restart

レポート執筆者

原田 麻紀子

原田 麻紀子

Manager of Program Development,
BC Wheelchair Basketball Society
Partner Fellow, Sasakawa Sports Foundation