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第1回:国内外におけるスポーツ・健康まちづくりの動向

スポーツ・身体活動を通じた健康まちづくり~国内外の動向と取り組み~

本間 恵子(SSF特別研究員)

本連載「スポーツ・身体活動を通じた健康まちづくり~国内外の動向と取り組み~」では、スポーツ・健康まちづくりを推進する自治体関係の方々および同テーマに関心のある方々に役立てていただけるよう、国内外の動向と具体的な取組例をご紹介します。

第1回:国内外におけるスポーツ・健康まちづくりの動向

1.スポーツ・健康まちづくりは、日本の地方創生政策に位置づけられている

2020年度からの5年間を対象期間とする「第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略」(以下、第2期総合戦略)に「スポーツ・健康まちづくり」が新たな項目として位置づけられた。総合戦略は、201411月に制定された「まち・ひと・しごと創生法」に基づいて作成されており、第1期は2015年度からの5年間、第2期は2020年度からの5年間を対象期間としている。目的は、少子高齢化や人口減少、東京への過度な人口集中、地域経済の問題を是正し、地域を住みよい環境とすることで、将来にわたって活力ある日本社会を維持することである。「第1期まち・ひと・しごと創生総合戦略」においてもスポーツを通じた地域活性化への言及はあったが、第2期総合戦略では東京2020やワールドマスターズゲームズ2021のスポーツレガシーとして、スポーツの機運上昇やスポーツ・身体活動の価値を活用した「スポーツ・健康まちづくり」が新たな項目として設定された。スポーツ・健康まちづくりは、第2期総合戦略における4つの基本目標のうち、「ひとが集う、安心して暮らすことができる魅力的な地域をつくる」という目標に向けた施策の方向性の一つである「地域資源を活かした個性あふれる地域の形成」に位置づけられている(以下の図参照)。

(出典:文部科学省「第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略におけるスポーツ・健康まちづくりについて」2020年2月、赤枠は文部科学省による)

(出典:文部科学省「第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略におけるスポーツ・健康まちづくりについて」2020年2月、赤枠は文部科学省による)

2.地方創生におけるスポーツ・健康まちづくりの具体的な内容

文部科学省の20202月の資料「第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略におけるスポーツ・健康まちづくりについて」によると、スポーツの力を活用して地域の課題解決に貢献する「スポーツ・健康まちづくり」政策の柱として、①スポーツを活用した経済・社会の活性化、②スポーツを通じた健康増進・心身形成・病気予防、③自然と体を動かしてしまう「楽しいまち」への転換、の3つを掲げている(以下の図参照)。また、5年後にスポーツ・健康まちづくりに取り組む自治体の割合を20%とする目標値を掲げ、5年後のスポーツレガシーとして、①地域経済やスポーツツーリズム・ヘルスケア産業の拡大、②元気な「ひと」と「まち」の増加(健康格差の減少)、③社会保障費の適正化への貢献、の3つをあげている。

(出典:文部科学省「第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略におけるスポーツ・健康まちづくりについて」2020年2月)

(出典:文部科学省「第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略におけるスポーツ・健康まちづくりについて」2020年2月)

具体的な取組としては、スポーツツーリズムの推進、地域スポーツコミッションの設置支援、大学スポーツの活用、スポーツ実施率向上に向けた推進体制の構築、学校体育施設の活用、医療機関との連携、ウォーカブルシティ(注)の実現、公園の活用、自転車の活用等が想定されている。さらに、そのための基盤整備として、自治体等の意識変革やキャパシティビルディング、組織体制の再構築や連携強化を推進していく。こうした取組には、都市計画によるハード面の整備だけでなく、関係機関・団体の連携や人材育成、スポーツ・健康リテラシーの向上といったソフト面の環境整備も盛り込まれており、包括的なまちづくりが想定されている。

注:ウォーカブルシティ(Walkable City)とは、歩きやすいまち、徒歩圏内で生活できるまち、徒歩・自転車・公共交通機関で移動できるまち。車中心から人中心のまちづくりへの転換によって、住民の健康増進とまちの環境改善を図ろうとする取組。

3.新型コロナウイルス感染拡大の影響下におけるスポーツ・健康まちづくり

ところが、新型コロナウイルス感染拡大が地方創生の取組にも影響を及ぼし、20216月には改定された「まち・ひと・しごと創生基本方針2021」が閣議決定された。感染対策という新たな課題に加えて、地域産業や交流人口へのネガティブな影響により、自治体や企業が地方創生に取り組むことが難しくなる一方で、東京圏への人口集中リスクという認識の高まりや、テレワークの拡大、地方への移住・就業の関心の高まりなど、地方へのひとやしごとの流れにつながる可能性も芽生えていることを踏まえた方針が示されている。例えば、スポーツ・健康まちづくりに関わる取組については、感染症の影響下でも実施できるアウトドアスポーツや、感染症収束後に向けたスポーツツーリズムのコンテンツ開発支援、感染症の影響下で健康維持・自己免疫力向上への関心の高まりを受けて障がい者や高齢者を含め誰もが安全に運動・スポーツを実施できる機会・場所・時間の提供促進などが方針として示された。第2期総合戦略の下で実施しようとしていた本来の施策についても、感染症の影響下であってもできることや、感染症収束後を見据えた取組を進めていくことが求められる。

こうした背景のもと、スポーツ庁は「スポーツ・健康まちづくり」優良自治体表彰制度を2021年に創設し、募集を行った。第1回となる2021年の表彰は1214日に行われた。募集は毎年行われるため、各自治体は来年の応募に向けた準備も進めていきたい。

4.世界では都市化問題に対応するための「まちづくり」が推進

ここからは、スポーツ・健康まちづくりの国際動向をご紹介する。日本では人口減少と東京への過度な集中是正が焦点となっているが、世界全体では人口増加と都市部への人口集中という問題に対応するために持続可能なまちづくりが推進されている。国連社会経済局人口課の「世界の都市化予想(World Urbanization Prospects2018」によると、1990年の都市人口は世界人口の半分以下の43%であったのが、2018年には55%と半数を超え、2030年には60%、2050年には68%に達すると見込まれている。人口規模でみると、世界人口の増加により、都市人口は1990年の約23億人から2018年には約42億人と倍増、今後は2030年に約52億人、2050年には約67億人まで増えると試算されている。このように都市に住む人が増える都市化によって、住宅問題や環境問題、防災上の問題、格差や犯罪等の問題が生じているため、その対策として「住み続けられるまちづくり(Sustainable Cities and Communities)」が持続可能な開発目標SDGsの一つに掲げられている。

では、日本の都市化は国際的に見るとどうなのだろうか。実は、都市の定義は国・地域によって異なっている。2009年に公表された報告書「わが国の都市化率に関する事実整理と考察-地域経済の視点-」(日本銀行ワーキングペーパーシリーズ)によると、例えば米国は人口2,500人以上で可住地面積人口密度が386/㎢以上の市町村、フランスは人口2,000人以上の市町村、英国のイングランドとウェールズでは人口1,500人以上、カナダは人口1,000人以上で可住地面積人口密度が400/㎢以上の市町村など、先進国の中でも都市の定義は様々だ。日本の都市人口は、人口集中地区(DID: Densely Inhabited District)の人口が用いられることが多く、国勢調査の調査区を基本単位としながら、「人口密度4,000/㎢以上の調査区が市町村内で隣接し、全体で人口5,000人以上の規模で構成される地域」という、世界でも厳しい条件が設定されている。そのため、都市化率は英国の約90%、米国やカナダの約80%に対して日本は66%と比較的低い数値となる。そこで、上記の報告書では、他国の基準に合わせた場合の日本の都市化率を試算している。その計算結果によると、英国基準に合わせた場合の日本の都市化率はほぼ100%、米国・カナダ・フランス等の国々の基準でも90%以上になるという。また、人口集中地区ではなく行政区画の「市」で見た場合でも、日本の市(通常は人口5万人以上)に全人口の約85%が住んでいる。つまり、日本においても都市部(urban area)に住む人が大半であり、世界的に見ても日本の都市化はかなり高いことがわかる。日本では主に地方都市から大都市圏への流入による人口集中が課題となっているが、全国的に都市化が進む日本では海外における都市化の問題を国全体の課題として考えていく必要がある。

5.持続可能なまちづくりへのスポーツ・身体活動の貢献

都市化で人が集まることによる課題もあるが、視点を変えれば、人が集まるからこそ解決しやすい課題、実現しやすい施策もある。例えば、住む場所、学ぶ場所、働く場所、買い物をする場所、余暇活動を楽しむ場所が近接することで生活の質向上や地域産業・経済の活性化、ソーシャルキャピタルの形成につながり、子育て世代や高齢者、障がいのある方々にとっても暮らしやすいまちとなるのではないか。こうしたコンパクトシティと都市間のネットワーク化も最近の国際的なトレンドとしてあげられる。

さて、このようなまちづくりにスポーツはどう貢献できるだろうか。近年、都市を社会課題解決の場とする取組として、スポーツ・身体活動を活用した施策が各国で展開されている。ライフスタイルの変化で、現代人とりわけ都市に住む人たちの身体活動が不足していることが世界的に問題となるなか、個人の行動や意識に良い影響をもたらす環境づくり・まちづくりを政策的に進めていくことが、世界保健機関(WHO)の行動計画などを通じて国際的に求められている。住民の健康増進を目的に、気軽に屋外で運動できるような公園・歩道・自転車道・緑化の整備による環境改善や、スポーツ活動を通じたジェンダー平等・インクルージョンの促進や青少年の犯罪防止、ウォーキングや自転車によるアクティブな移動等が推進されている。そのための国際的なガイドラインや指標の開発も進められている。

生活習慣病予防や免疫力向上による感染症対策、高齢化に伴う健康長寿の延伸、医療費の適正化、スポーツツーリズムやスポーツイベントによる交流人口拡大やインバウンドによる地域活性化、スポーツがもたらす教育的価値、地域の結束、レジリエンス、社会参画の機会等々、スポーツや身体活動が地域社会に貢献できる分野は多岐にわたる。諸外国では、スポーツ・身体活動を通じてどのようなまちづくりが行われ、どのような効果をもたらしているのか、次回以降、具体的な事例をご紹介する。

参考情報

  • 本間 恵子 本間 恵子 笹川スポーツ財団 特別研究員
    民間でマーケティング調査分析や政策分析等の業務に20年以上従事。スポーツ政策に焦点をあてたスポーツレガシー研究で2015年に博士取得後、独立行政法人日本スポーツ振興センターで諸外国のスポーツ政策分析を担当、2020年退職。2021年より笹川スポーツ財団特別研究員。専門は、Sport for All、スポーツ政策、スポーツを通じた健康まちづくり。