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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

SSF「スポーツライフ・データ2024」自由回答のワードクラウドによる可視化と頻度分析

―『スポーツに対する思い』および『スポーツの普及や発展』に関する自由回答の解釈と提言―

2026年2月20日

SSF「スポーツライフ・データ2024」自由回答のワードクラウドによる可視化と頻度分析

はじめに

 本稿は、笹川スポーツ財団(SSF)が日本在住の18歳以上男女を対象に実施した全国調査「スポーツライフ・データ2024」における自由回答(『スポーツに対する思い』『スポーツの普及や発展』)を分析対象とし、語の区切りに空白を挟んで記述する分かち書き等の前処理を施した上でテキストマイニングを適用し、ワードクラウドおよび頻度分析の結果に基づいて解釈と政策的提言を示すものである。自由回答は、選択肢回答では捉えにくい生活者の生の語彙、実感、価値観を含む質的データであり、実施率・頻度・観戦率等の量的指標を補完し、普及施策設計における説明変数(環境条件、時間制約、情緒的要因等)の探索に資する。

 SSFは1992年以降、継続してスポーツライフを把握してきた。2024年調査では年1回以上の運動・スポーツ実施率が69.8%にとどまり、習慣化できていない層が相当程度残存する(笹川スポーツ財団, 2024)。ここで重要なのは水準だけでなく、実施の「継続性」と非実施の「固定化」である。すなわち、実施者が一定程度いる一方で、生活構造や環境条件により継続参加が難しい層、あるいはスポーツ参加が生活の選択肢として立ち上がりにくい層が残る可能性が高い。こうした層には、啓発やスローガンに加え、参加機会の再設計、環境最適化、価値訴求の再構成が求められる。

 自由回答は、スポーツから得られるもの(価値・感情・経験)と、普及・発展に必要とされるもの(要望)を生活者の言葉で含み、調査設計側の概念枠に回収しきれない微細なニュアンスを含みうる。すでに「スポーツライフ・データ2022」では、頻出語の可視化が全体像把握に有効である一方、ワードクラウドが共起関係や文脈を直接示さない点への留意が示されている(横山, 2024)。本稿ではこの視点を踏まえ、2024年データの自由回答を、探索的だが再現可能性の高い手法(ワードクラウドと頻度分析)で整理し、政策検討の材料を提示する。

 以上より、本稿の目的は、(1)成人がスポーツにどのような思いを抱くのか、(2)スポーツの普及・発展に向け何を求めるのかを明らかにし、普及・振興施策の企画立案に資する示唆を導くことである。

分析方法(前処理と可視化・集計の位置づけ)

 自由回答分析は、(a)テキストを語に分割(分かち書き)、(b)語の出現頻度を集計、(c)頻度情報を可視化・比較する手順からなる。本稿では分かち書きによりトークン(文章から分割された語)を抽出し、出現頻度を算出した上で、頻度が高い語ほど大きく表示されるワードクラウド(図1)と、上位語の頻度差を示す頻度分析表(図2)を作成した。ワードクラウドは語彙分布を直観的に把握し、精読・分類・共起分析へ進む入口となる。他方、頻度分析表は上位語の突出度や中位層の厚みといった数的差異を比較可能にする。両者の併用により、全体像把握→重要語特定→解釈焦点化が段階的に可能となる。

 ただし、次のことには留意しなければならない。頻度が高い語が政策上の重要課題を直接意味するとは限らず、一般語の多義性も高い。単語頻度は文脈を直接示さず、「時間」は制約にも規範にもなりうる。さらにワードクラウド上の配置や距離は可視化アルゴリズムの結果であり、意味的近接(共起)を保証しない(横山, 2024)。したがって、本稿ではワードクラウドを結論ではなく論点抽出の装置とし、頻度分析の数値も参照しつつ、語のまとまり(テーマ)として解釈する。

ワードクラウドの結果

 図1は、自由回答で中心的に用いられた語彙分布の概要を示す。中心部には「運動」「健康」「思う」「思い」「体」が大きく表出する。これは、成人がスポーツを語る際、運動という行為を想起し、それを健康・身体と結びつけ、さらに評価・態度(思う/思い)として表明するという基本構造を示唆する。自由回答が理念や制度論からではなく、身体経験と健康価値の接点から立ち上がる点が重要である。

 中心語の外側には「できる」「施設」「ほしい」「良い」「時間」「続」「動かす」が中程度で現れる。ここには、スポーツを価値あるものとして捉えつつも、実行可能性を左右する条件語彙が強く表出していることが示される。特に「できる」は、能力・体力・年齢・生活条件等を背景にした実施可能性の判断語であり、「施設」「時間」は個人努力だけでは調整しにくい外部条件である。普及・発展の議論が意識改革に還元されないことを示唆する語でもある。

 さらに外縁には「ウォーキング」「野球」「サッカー」「ゴルフ」等の種目語がみられ、スポーツ一般が日常生活で接触可能な種目を通じてイメージされていることがうかがえる。ウォーキングの表出は、生活内運動としてのスポーツが想起されやすい可能性、あるいは参加障壁の低い活動が入口となる可能性を示す。一方、野球・サッカー・ゴルフ等は、観戦経験、メディア露出、地域クラブ、仲間内活動など複数経路でスポーツが生活世界に入り込むことを示唆する。

 「子供」「若い」「自分」「私」等は、スポーツが個人の健康行動であると同時に家族・世代・地域の文脈に位置づくことを意味する。特に「子供」は学校体育、部活動、地域スポーツ、保護者の関与など普及・発展の中心的対象になりやすい。他方「自分/私」は、集団理念ではなく個々人の生活感覚として価値が語られることを示す。加えて「楽しい」「うれしい」「大切」「必要」「気軽」「無理」等が周辺に現れ、スポーツが義務的枠組みだけでなく情緒的経験や参加のしやすさで評価されることが読み取れる。とりわけ「無理」は、推奨が強まるほど「自分には無理」「生活上無理」という感覚が形成される可能性を含み、普及施策は推奨強度の増加よりも「できる/気軽/無理ではない」という感覚の設計を重視すべきことを示唆する。

図1 日本の成人のスポーツに対する思いや普及への要望についてのワードクラウド結果

頻度分析表

 図2は語の出現頻度を高い順に示す。最頻出は「運動」(80回超)、次いで「健康」(68回)である。そのほか高頻度には「思い」「思う」(各48回)、「体」(43回)、「できる」(39回)が続く。中頻度には「ほしい」「良い」「思」「動かす」(各30回)、「時間」(28回)、「事」「施設」(各26回)、「もっと」(25回)が並び、下位頻度には「子供」「人」「今」「気軽」「維持」「体力」「必要」「楽」「場所」等(各15~20回程度)が表出する。

図2 日本の成人のスポーツに対する思いや普及への要望についての頻度分析

 この分布は、第一層(核)に「運動―健康―身体」、第二層(条件)に「できる―時間―施設―もっと/ほしい」、第三層(価値・態度)に「良い―気軽―楽しい―必要」が位置する階層構造を示唆する。さらに「子供」「人」「場所」が、スポーツを社会的・環境的に位置づける補助的語彙として出現している。ここから次の解釈が可能である。

 第一に、「運動」「健康」の突出は、スポーツが健康維持・増進のための運動として理解される傾向が強いことを示す。自由回答でも同様の枠組みが支配的であり、普及・発展の議論は健康文脈との接続を無視して成立しにくい。第二に、「思い/思う」の高頻度は、スポーツが単なる手段にとどまらず態度表明の対象であることを意味し、「行いたいができない」「価値は感じるが生活上難しい」「子どもにはさせたい」等の中間的状態の存在を示唆する。第三に、「できる」「時間」「施設」「もっと」「ほしい」という条件語彙のまとまりは、成人が意欲をもちつつも実行可能性を左右する条件を強く意識していることを示す。「できる」は個人条件だけでなく、場所・費用・予約や移動負担・仲間や指導者等の社会条件にも左右されるため、施策は意識啓発に偏るのではなく「できる条件」を増やす設計が必要となる。第四に、「維持」「体力」「必要」は、スポーツが生活習慣として継続されるべきものとして理解されることを示すが、維持を目的化すると達成感が得にくく継続動機が弱まりうるため、楽しさ・気軽さ・仲間性といった体験設計が重要である。

結果の統合的解釈

 以上を統合すると、成人のスポーツ観は(1)健康・身体、(2)実行可能性(条件)、(3)情緒・価値の三要素から構成される。健康訴求は入口になりうるが、継続には条件整備と情緒的価値が同時に機能する必要がある。いずれかが欠ければ参加は阻害される。健康価値を理解していても時間がなければできず、時間があっても場所がなければできず、場所があっても「楽しくない/気軽でない/無理」と感じれば続かない。「無理」の表出は阻害が心理面にも及ぶことを示し、政策的には「健康の正しさ」よりも「できる条件」と「続けたくなる経験」を増やす設計が鍵となる。

提言

1)「健康・体力×楽しさ・気軽」をdouble purposeとしたsport entertainment視点の導入

 政策目的を健康・体力維持のための運動に限定せず、楽しさ・気軽さという情緒的価値を同時に達成する設計が必要である。健康・運動が突出する以上、健康文脈を外した施策は届きにくい。他方で楽しさ・気軽さの表出は、健康目的だけでは継続を支えきれないことを示す。sport entertainmentを観戦型に限定せず、「する」スポーツの体験価値設計として捉え、小さな達成、心理的安全性、参加の物語化等により「無理ではない」「続けられる」という認知を形成することが普及の実効性を高める。

2)「時間」の政策化:生活構造へ介入する設計

 「時間」は主要な制約条件であり、自己管理問題として片付けず政策対象とすべきである。夜間・早朝・短時間・分散型機会、予約不要で立ち寄れる機会、途中離脱の許容等により「できる」を増やす。職域・教育機関・地域拠点の連携によって「すきま時間」導線を整備し、移動負担を下げる徒歩圏・生活圏会場、サテライト、複数拠点同時開催、オンライン併用等が望まれる。

3)施設・環境:整備から利用者の経験価値向上へ

 施設は参加の前提条件であるが、数の増加に還元すると利用のしづらさ(予約、混雑、料金、アクセス、安全性)が残り、「できる」に結びつきにくい。したがって量的整備から運用の質=経験価値の向上へ重点を移し、①予約・決済の簡便化、②混雑状況の可視化、③安全配慮、④多世代・多様性対応を利用者視点で再構築する必要がある。評価指標も施設数だけでなく利用のしやすさ、継続率、初参加率、リピート率等の経験価値を重視すべきではないか。

4)子ども施策の再設計:家族単位・地域単位へ

 「子供」の表出は次世代関心と普及・発展の結びつきを示す。子どもへの機会提供は重要だが、送迎・費用・時間などの負担を前提としすぎると家庭の負荷が増し、継続が困難になる。子どもだけを対象にした提供から、家族・地域単位で完結しやすい仕組みへ再設計し、集中型から小規模分散型へ移行する。親子運動や世代混合、地域間交流等のライトなプログラムを増やし、「一緒にする/みる/ささえる」関与を促すことが、気軽さと継続性の双方に資する。

限界と今後の課題

 第一に、ワードクラウドは重要語の把握に優れるが共起関係を示さず、文脈(「時間」が「ない」か「作る」か等)を直接捉えられないため共起ネットワーク等の追加分析が望まれる(横山, 2024)。第二に、頻度上位語は一般語に収斂し多義的であるため、トピックモデル等によるテーマ抽出や、性別・年代・実施レベル等の属性別比較が必要となる。第三に、自由回答には表現習慣や語彙力の差が反映されうるため、頻度情報だけで重要度を断定できず、原文精読や上位語を含む回答の抽出・分類と併用する必要がある。

 以上より本稿は、自由回答の論点を「健康・身体」「実行可能性(時間・施設)」「情緒的価値(楽しさ・気軽さ)」の三軸に整理し政策設計の方向性を提示する探索的研究として位置づけられる。今後、共起に基づく構造化と属性差の検証により、どの層にどの施策が有効かというターゲティングの具体化が期待される。

データの使用申請

最新の調査をはじめ、過去のスポーツライフ・データのローデータ(クロス集計結果を含む)を提供しています。

活用例

  1. 政策立案:所属自治体と全国の比較や調査設計に活用(年齢や性別、地域ごとの特徴を把握)
  2. 研究:研究の導入部分の資料や仮説を立てる際に活用(現状の把握、問題提起、仮説、序論)
  3. ビジネス:商品企画や営業の場面で活用(市場調査、データの裏付け、潜在的なニーズの発見)
テーマ

スポーツライフ・データ

キーワード
年度

2025年度

担当研究者