本文へスキップします。

スポーツライフ・データ 分析レポート Vol.1

「青少年のスポーツニーズと運動部活動」
-運動部活動の志向性からみる青少年の運動・スポーツ活動状況-

2018年7月18日

「青少年のスポーツニーズと運動部活動」

  近年、学校現場では教員の長時間労働が問題視され、働き方改革として部活動の見直しが進められている。2018年3月にスポーツ庁は「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」を公表した。

  その中で、「生徒のニーズを踏まえた運動部の設置」を学校に求めており「校長は、生徒の1週間の総運動時間が男女ともに二極化の状況にあり、特に、中学生女子の約2割が60分未満であること、また、生徒の運動・スポーツに関するニーズは、競技力の向上以外にも、友達と楽しめる、適度な頻度で行える等多様である中で、現在の運動部活動が、女子や障害のある生徒等も含めて生徒の潜在的なスポーツニーズに必ずしも応えられていないことを踏まえ、生徒の多様なニーズに応じた活動を行うことができる運動部を設置する」と示されている。具体的な例として「競技志向でなくレクリエーション志向で行う活動、体力つくりを目的とした活動等、生徒が楽しく体を動かす習慣の形成に向けた動機付けとなるもの」が挙げられている。

  笹川スポーツ財団「12~21歳のスポーツライフに関する調査2017」によると、中学生・高校生の運動部活動の加入状況は6割であり、青少年期の主なスポーツ活動の場となっている。学校では部活動は教育活動の一環として行われ、生徒の自主的・自発的な活動とされているが、実際の部活動はどちらかといえば競技志向であり、生徒の意向に沿った活動ではなく教員主導で行われていることが多い。多様な子どもがいる中、多様なスポーツの志向性に対応できる部活動が求められる。スポーツ庁(2017)の調査では、運動部に所属していない中学生が運動部活動に参加する条件として「友達と楽しめる」「好きな、興味のある運動やスポーツを行うことができる」「自分のペースで行うことができる」「練習日数、時間がちょうどよいくらい」といった回答が多くみられ、その割合は増加傾向にある。

  このように青少年期のスポーツ環境は、スポーツへのニーズと実際の活動とにずれがあると言える。では、運動部活動でスポーツをしている青少年はどのような志向性を持ち、どのくらい活動しているのか、また部活動に対してどのような意識を持っているのだろうか。笹川スポーツ財団「12~21歳のスポーツライフに関する調査2017」を二次分析した。

  1.所属している運動部と生徒自身の志向性

  12~21歳のスポーツクラブ・運動部への加入率は49.2%であり、加入者の8割は学校の運動部活動に所属している。学校の運動部活動に加入している者631人に対し、所属している運動部と自分自身が目指していることとして、それぞれ「厳しく徹底して勝つこと」「どちらかといえば勝つこと」「どちらかといえば楽しく活動すること」「勝ち負けよりも楽しく活動すること」の4つの選択肢でたずねた。

  これらの回答は、部と生徒自身の志向性との関係として4つのグループに分類できる(図1)。各グループの割合をみると、「所属している運動部と生徒本人がともに勝つことを目指す勝利志向のグループ」が最も多く62.8%、次いで「部は勝利志向だが生徒本人は楽しみ志向のグループ」16.3%、「部と生徒本人ともに勝ち負けよりも楽しく活動することを目指す楽しみ志向のグループ」15.3%、「部は楽しみ志向だが生徒本人は勝利志向のグループ」5.6%であった。つまり、半数以上が部・生徒ともに勝利志向であり、本人は楽しみ志向だが部は勝利志向の割合も合わせると、8割の運動部が勝つことを目指していると言える。

  2. 志向性パターン別にみる運動スポーツ活動状況

  表1に部と本人の志向性の一致率を示した。所属している運動部と生徒自身の志向性が一致している者は57.8%であり、42.2%は不一致であった。部と本人の志向性はP1(部・本人ともに勝利志向)~P16(部楽しみ志向・本人勝利志向)までの16通りの志向性パターンとして分類でき(表2)、それぞれのパターンに属する青少年が運動部活動でどれくらい活動をしているのか分析した。

図1 運動部と生徒自身の志向性

【図1】  運動部と生徒自身の志向性

【表1】 所属している運動部と生徒自身の志向性マトリクス表(n=627)

生徒自身が目指していること
厳しく徹底して勝つこと どちらかといえば勝つこと どちらかといえば楽しく活動すること 勝ち負けよりも楽しく活動すること 合計
所属している
運動部が
目指して
いること
厳しく徹底して
勝つこと
21.4 9.9 3.8 1.1 36.2
どちらかといえば
勝つこと
7.5 24.1 7.3 4.0 42.9
どちらかといえば楽しく
活動すること
0.8 3.2 9.4 1.9 15.3
勝ち負けよりも楽しく
活動すること
0.6 1.0 1.1 2.9 5.6
合計

30.3 38.1 21.7 9.9 100.0

注)小数点を四捨五入しているため、合計が合わない場合がある

 

【表2】  志向性のパターン分類

生徒自身が目指していること
厳しく徹底して
勝つこと
どちらかといえば勝つこと どちらかといえば
楽しく活動すること
勝ち負けよりも
楽しく活動すること
所属している
運動部が
目指していること
厳しく徹底して
勝つこと
P1 P5 P8 P10
どちらかといえば
勝つこと
P11 P2 P6 P9
どちらかといえば楽しく
活動すること
P14 P12 P3 P7
勝ち負けよりも楽しく
活動すること
P16 P15 P13 P4

 

  表3は志向性パターンからみる運動・スポーツ活動状況を示したものである。過去1年間によく行った運動・スポーツのうち、「学校の運動部やサークル」に加入して行った種目の実施頻度(回数)と時間を足し合わせて、週あたりの運動部活動の実施頻度と1回あたりの実施時間を算出した。

  最も週あたりの実施頻度が高かったパターンはP14(部どちらかというと楽しみ志向・本人勝利志向)であり11.9回、次いでP15(部楽しみ志向・本人どちらかというと勝利志向)が8.6回、P1(部・本人ともに勝利志向)が7.9回、P11(部どちらかというと勝利志向・本人勝利志向)が6.9回であった。スポーツライフに関する調査では、実施頻度を日数ではなく回数でカウントするため、週12回程度行っている場合は、週6~7日かつ複数の日で1日2回くらい行っているといった状況が読み取れる(朝練、放課後など)。

  また、1回あたりの実施時間をみると、P14(部どちらかというと楽しみ志向・本人勝利志向)が最も長く4.4時間、次いでP1(部・本人ともに勝利志向)が3.4時間、P5(部勝利志向・本人どちらかというと勝利志向)が3.2時間、P11(部どちらかというと勝利志向・本人勝利志向)が2.7時間であった。実施時間は、部・本人ともに勝利志向で長い傾向がみられる。

  実施頻度と時間ともに最も多かったP14は、所属している運動部は勝ち負けよりも楽しく活動をすることを目指しているが、生徒自身は勝つことを目指す志向性を持つ。

  一方、週あたりの実施頻度が低いパターンは、P7(部どちらかというと楽しみ志向・本人楽しみ志向)とP16(部楽しみ志向・本人勝利志向)がともに5.0回であり、次いでP4(部・本人ともに楽しみ志向)が5.1回、P3(部・本人ともにどちらかというと楽しみ志向)が5.2回であった。1回あたりの時間では、P7(部どちらかというと楽しみ志向・本人楽しみ志向)とP16(部楽しみ志向・本人勝利志向)がともに1.8時間と最も少なく、P10(部勝利志向・本人楽しみ志向)が2.0時間、P4(部・本人ともに楽しみ志向)とP13(部楽しみ志向・本人どちらかというと楽しみ志向)がともに2.1時間と続く。部も生徒自身も楽しみ志向のP7と、部は楽しみ志向であるが生徒自身は徹底した勝利志向であるP16が実施頻度・時間ともに最も少ない結果であった。

【表3】 志向性のパターン別にみる運動部活動の実施状況)

グループ パターン 実施頻度
(週あたり:回)
実施時間
(1回あたり:時間)
部と本人の
志向性の一致
部・本人
勝利志向
P1(n=129) 7.9 3.4 一致
P2(n=151) 6.3 2.5
P5(n=62) 6.8 3.2 不一致
P11(n=47) 6.9 2.7
部・本人
楽しみ志向
P3(n=59) 5.2 2.2 一致
P4(n=18) 5.1 2.1
P7(n=12) 5.0 1.8 不一致
P13(n=7) 5.7 2.1
部勝利志向
本人楽しみ志向
P6(n=46) 5.6 2.4 不一致
P8(n=24) 6.0 2.6
P9(n=25) 6.4 2.3
P10(n=7) 5.6 2.0
部楽しみ志向
本人勝利志向
P12(n=20) 6.1 2.5 不一致
P14(n=5) 11.9 4.4
P15(n=6) 8.6 2.4
P16(n=4) 5.0 1.8

注)過去1年間によく行った運動・スポーツのうち、「学校の運動部やサークル」で実施した種目の実施頻度(回)と実施時間のデータをもとに作成

  3.運動部活動での悩みや不満

  表4には志向性のパターン別に運動部活動での悩みや不満を示した。「疲れがたまる」では、P9(部どちらかというと勝利志向・本人楽しみ志向)が44.0%と最も多く、次いでP5(部勝利志向・本人どちらかというと勝利志向)が43.5%、P1(部・本人ともに勝利志向)とP8(部勝利志向・本人どちらかというと楽しみ志向)が37.5%であった。P8・P9は部が勝利志向だが生徒本人は楽しみ志向といった、部と本人の志向性にずれがあるパターンである。P5は部・本人ともに勝利志向であるが、それらの志向性は完全に一致しているわけではなく、部は徹底して勝つことを目指し、本人は「どちらかといえば勝つこと」を目指しているパターンとなる。

  部と本人の志向性にずれのあるP8(部勝利志向・本人どちらかというと楽しみ志向)は「遊んだり勉強したりする時間がない」「練習時間が長すぎる」「休日が少なすぎる」では最も回答の割合が高く、部活動に対する不満が多い。

  一方、「悩みや不満はない」はP7(部どちらかというと楽しみ志向・本人楽しみ志向)が58.3%と最も多く、次いでP10(部勝利志向・本人楽しみ志向)が57.1%、P4が55.6%、P3(部・本人ともにどちらかというと楽しみ志向)が41.4%と続いた。P7とP4、P3は部・本人ともに楽しみ志向であり、活動状況をみると週5回・1回あたり2時間程度の実施であり、スポーツ庁のガイドラインが推奨する活動頻度・時間に沿っている。P10は、部は勝利志向だが生徒本人は楽しみ志向といった、部と本人の志向性にずれのあるパターンであるが、P7(部どちらかというと楽しみ志向・本人楽しみ志向)・P4(部・本人ともに楽しみ志向)・P3(部・本人ともにどちらかというと楽しみ志向)と同様に活動頻度が週5~6日、1回あたり2時間程度と活動状況が適度であることから、悩みや不満はないと回答するものが多いと考えられる。

【表4】 志向性のパターン別にみる運動部活動での悩みや不満

グループ パターン 疲れがたまる 遊んだり勉強したりする
時間がない
練習時間が
長すぎる
休日が
少なすぎる
悩みや不満はない 部と本人の
志向性の一致
部・本人
勝利志向
P1(n=128) 37.5 26.6 8.6 27.3 26.6 一致
P2(n=150) 28.0 20.0 6.0 20.0 26.0
P5(n=62) 43.5 37.1 16.1 40.3 12.9 不一致
P11(n=47) 19.1 6.4 4.3 14.9 31.9
部・本人
楽しみ志向
P3(n=58) 19.0 13.8 3.4 13.8 41.4 一致
P4(n=18) 22.2 11.1 11.1 0.0 55.6
P7(n=12) 8.3 16.7 0.0 0.0 58.3 不一致
P13(n=7) 28.6 42.9 0.0 14.3 0.0
部勝利志向
本人楽しみ志向
P6(n=46) 39.1 21.7 13.0 34.8 21.7 不一致
P8(n=24) 37.5 45.8 29.2 41.7 33.3
P9(n=25) 44.0 28.0 12.0 36.0 16.0
P10(n=7) 14.3 28.6 14.3 14.3 57.1
部楽しみ志向
本人勝利志向
  P12(n=20)  25.0  15.0  0.0  10.0  30.0  不一致
P14(n=5)  20.0  20.0  0.0  20.0  20.0
P15(n=6)  33.3  0.0  16.7  0.0  16.7
P16(n=4)  50.0  25.0  25.0  25.0  0.0
 

  まとめ

  運動部活動について生徒自身の志向性に着目してみると、勝利志向の生徒が7割を占めるが、楽しみ志向の生徒も3割存在した。また、所属している運動部と生徒自身の志向性が一致している者は6割程度、不一致が4割であった。そのなかで、所属している部と本人の志向性が一致していない生徒の場合、悩みや不満の割合も高くなる結果が示された。しかし、一致していなくても適度な実施頻度や時間である場合、悩みや不満は少なかった。

  「10代のスポーツライフに関する調査」(笹川スポーツ財団, 2013)によると、運動・スポーツを行った理由として「楽しいから」(64.1%)、「からだを動かしたいから」(49.9%)のほか、「体力をつけたいから」(45.9%)、「うまくなりたいから」(45.3%)といった体力や技術の向上を挙げる青少年もいる一方で、「仲のいい友だちがいるから」(28.6%)、「友だちにさそわれたから」(27.6%)、「友だちと一緒に活動したいから」(26.8%)といった友だちとのつながりを挙げる青少年もいるのである。これらの回答は、性別や学校期別にみると、またそれぞれに特徴がみられる。このように、青少年のスポーツに対するニーズは一様ではないことがわかる。

  部活動は中学校と高等学校の学習指導要領で「生徒の自主的,自発的な参加により行われる」ことが強調されている。しかし、実際は学校主体・教員主体の活動になっていることが多く、部の志向性や競技レベルに合う(ついていける)生徒が運動部活動に参加しているのが現状である。

  近年、部活動に関する事件がメディアで多く報道されているが、その内容をみると生徒の意識・主体性に着目した言及はほとんどない。今後、運動部活動が青少年の多様なスポーツニーズに対応していくためには、生徒が主体となって活動する部活動のあり方を検討する必要がある。生徒たちがどのような部活動にしていきたいかを考え、意見を出し合い、必要に応じて教員がサポートしながら仲間と作り上げていく活動のプロセスこそ、教育の一環として学校で行う部活動の意義ではないだろうか。

  運動が苦手な生徒も無理なく活動できる「ゆる部活」を設置している学校もある。子どもたちが運動・スポーツの機会を選択でき、仲間とともに活動することで体を動かすこと、スポーツをすることが楽しいと感じられるよう、教員や指導者、保護者などの周りの大人は「生徒の意見に耳を傾け、見守り、サポートをする」という姿勢が重要であると言える。

笹川スポーツ財団 スポーツ政策研究所 副主任研究員 武長 理栄

  <参考文献>

ページの先頭に戻る