笹川スポーツ財団では、障害者スポーツの普及、振興状況を把握するために、2010年から障害者専用・優先スポーツ施設に関する研究を実施しています。2021年以来となる2024年度調査(共同研究者:日本福祉大学大学院 藤田紀昭教授、調査期間:2024年10~12月)では、全国に161の障害者専用・優先スポーツ施設があることがわかりました。
当財団は、障害児・者の日常的なスポーツ環境整備には、「地域の障害者スポーツセンターが拠点(ハブ施設)となり、近隣の地域の障害者優先スポーツ施設や公共スポーツ施設(サテライト施設)、地域のその他社会資源とのネットワーク化を進め、スポーツ参加の受け皿を増やす」と提言を発表しています。
本研究では、ハブ・サテライト施設の実施事業を分析し、既存施設の障害者スポーツセンター(ハブ)化も検討しました。また、本研究で障害者専用・優先スポーツ施設の約半数が避難所機能を保有していることが明らかとなりました。今後、発災時に地域の障害者が安心して避難できる場所になる可能性があり、広域の地域拠点としての役割を議論する必要があります。
主な調査結果
1.国内の障害者専用・優先スポーツ施設数は161
国内には、161の障害者専用・優先スポーツ施設が存在することが確認された。施設の廃止、機能移転、新設が進む。2021年度以降に新設されたのは5施設であった。施設数は、2010年:116、2012年:114、2015年:139、2018年:141。2021年:150と増加傾向にある。
障害者専用・優先スポーツ施設の年間の利用者数を2012年度から2023年度までみると、付き添いなどを含めた総利用者数(のべ人数)は、2023年は約600万人であった。2019年度までは700~860万人前後で推移していた。
障害者の総利用者数(のべ人数)は、2019年度までは250万人前後で推移していた。コロナ禍に98万人まで減少したが、2022年度には152万人、2023年度には181万人を超えるまで回復した。1施設あたりの平均利用者数をみると、2018年度が29,924人と最も多く、コロナ禍で1万人台まで減少したが、2023年度に2万人を超えるまで回復した。
2. ハブ施設・サテライト施設別にみる事業実施
障害者スポーツ教室、障害者スポーツ大会・イベント、巡回スポーツ教室(出張教室)の3事業すべてを実施しているハブ施設は82.1%、サテライト施設では16.3%であった。
障害者専用・優先スポーツ施設の主な実施事業として、16事業に関する実施状況をたずねた。障害者専用・優先スポーツ施設をJPSAパラスポーツセンター協議会に加盟している施設(以下、ハブ施設)と未加盟施設(以下、サテライト施設)の二群に分け、クロス集計を行った結果、平均事業数はハブ施設で10.9事業、サテライト施設で4.0事業だった。ハブ施設の平均事業数がサテライト施設の倍以上となっており、多事業実施はハブ施設の特徴の一つであることが改めて確認できた。また、サテライト施設で過半数(8事業以上)の事業を実施しているのは14施設であった。
既存施設の障害者スポーツセンター(ハブ)化を検討
サテライト施設で過半数の事業を実施している14施設(以下、潜在的ハブ施設)とハブ施設の実施事業状況を分析した。統計解析は変数の特徴にあわせ、χ2検定、Fisherの直接確率検定を行い、ハブ施設と潜在的ハブ施設の差を検証した。統計処理にはIBM SPSS Statistics(ver.29)を使用した。いずれも統計学的有意差は5%未満とした。ハブ施設の実施が有意に高かったのは、以下の3事業であった。
- 医師・理学療法士等によるスポーツ医事相談・運動相談
- レベル別(初級・中級・上級向け)運動・スポーツ教室
- 出前(出張)運動・スポーツ教室
地域の拠点施設であるハブ施設の特徴が顕著になった結果であるが、別の視点でみると、潜在的ハブ施設において、前述の3事業が実施可能となれば、ハブ施設と同等の機能を持つ可能性が示唆された。現在のハブ施設(29施設)と潜在的ハブ施設(14施設)をあわせた43施設を、仮に障害者スポーツセンターとする場合、これまでの19都道府県(29施設)から23都道府県(43施設)に拡大する。
スポーツ庁「スポーツ審議会健康スポーツ部会障害者スポーツワーキンググループ最終報告書」(2024)では、地域の中心となって、障害のある人の身近なスポーツ環境の整備を支援する障害者スポーツ振興の拠点(障害者スポーツセンター)を広域レベル(都道府県レベル、地域の実情に応じて政令市レベル)ごとに1つ以上整備する、としている。前述した障害者専用・優先スポーツ施設における障害者のスポーツ実施事業や潜在的ハブ施設の既存機能を整理し、可能性の検討が重要である。
3. 障害者専用・優先スポーツ施設の避難所指定状況
障害者専用・優先スポーツ施設における避難所の指定状況をみると、50.0%の施設がいずれかの避難所指定を受けていた。内訳をみると、「指定一般避難所」が22.6%、「協定等により確保している福祉避難所」が15.1%、「指定福祉避難所」が12.3%だった。
スポーツ施設から地域拠点となるための避難所機能の追加
内閣府のガイドラインを参考に、障害者専用・優先スポーツ施設を要配慮者のための避難所として活用形態を3パターンにまとめた。
【単置型】指定福祉避難所や協定等による福祉避難所を指す。
【併設型】同施設内で障害の有無に問わずに居住者等を受け入れるが、建物等で区分して、主に障害のない人は一般避難所機能を有する建物、要配慮者は福祉避難所機能を有する建物に誘導し、避難・滞在を想定する。
【内包型】施設内を建物等で区分できない場合には、指定一般避難所内の一部スペース(空き部屋や一部を区切った部屋等)に、生活相談員(要配慮者に対して生活支援・心のケア・相談等を行う上で専門的な知識を有する者)等を配置し、指定福祉避難所の基準に適合すれば、指定福祉避難所としての機能を有することになるので、条件が整えば可能である。
現状の障害者専用・優先スポーツ施設の現状と理想の移行形態をまとめた。すでに福祉避難所となっている27.4%の施設は【単置型】、指定一般避難所となっている22.6%の施設は【併設型】か【内包型】、現在、避難所機能を有していない50%の施設は各施設が保有する付帯施設の状況等により【単置型】【併設型】【内包型】のいずれかで検討することができる。
公共スポーツ施設に限らず、本研究で対象とした障害者専用・優先スポーツ施設も公共施設であることを鑑みると、福祉避難所に指定されていなくても、発災時には地域の障害者が避難してくる可能性がある。地域の障害者スポーツの拠点となっている障害者専用・優先スポーツ施設には、設置している市区町村に限らず、近隣自治体から利用者が集まる傾向があり、それらをふまえると、障害者専用・優先スポーツ施設が避難所機能を持つことは、ひとつの自治体に限らず、広域においてスポーツの枠を超えて人々が集う場となる可能性を秘めている。発災時の予期せぬ状況を考慮すると慎重な対応が求められると認識しつつも、指定管理者の選考基準や協定書の内容など、自治体と指定管理者、地域の障害者との関係性を再検討する時期にきていると言えるだろう。