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中央競技団体、ガバナンスコード遵守が進む
課題は7割以上の団体が抱える正規雇用者不足

- 中央競技団体現況調査2024 -

 笹川スポーツ財団は、2010年度から2年に1度実施している「中央競技団体現況調査」の 2024年度調査結果を発表いたしました(調査期間:2024年11月~12月)。

 調査結果では、中央競技団体の役職員数、中長期的な経営戦略策定状況、人材の動向、収支状況などの現況をまとめています。前回の2022年度調査から中長期基本計画の策定など経営基盤の整備が進む一方で、人材不足や人材育成に関する課題が明らかとなりました。

【役職員数・経営状況】

【人材の動向】

【収支状況】

 今回の調査結果から、各団体が「スポーツ団体ガバナンスコード」の規定を遵守する取り組みと、スポーツ庁によるNF経営基盤強化事業の活用を通じて、組織運営の改善を推進する実態が確認できた。なかでも、女性理事の目標割合(40%)は26団体がその水準に達し、前回調査(11団体)から大幅な組織改革の前進がみられた。また、持続的な組織運営に不可欠な中長期基本計画の策定は調査に回答した9割の団体で進んでいる。

 他方、本調査では正規雇用者の過不足状況で不足が7割を超え、団体の人手不足の状況が明らかとなった。またこの状況は、管理部門、事業部門ともに共通した課題である。中小企業と同様に中途採用による即戦力の人材を雇用する傾向にあるNFでは、売り手市場の転職市場において高い競争力が求められるが、担い手不足の状況に対して、賃上げを含む労働条件や労務環境を改善し人材確保に努めるNFもあることがわかった。ガバナンスコードで求める安定的な組織運営を可能とする人材確保を実現するためには、外部人材の採用も有効ではあるものの効率性や生産性の観点から直接雇用が望ましいが、現実的にはすべての団体が採用活動を実施することは困難であることから、国や統括団体が人材確保に向けた側面支援する施策展開に期待したい。

笹川スポーツ財団 スポーツ政策研究所 シニア政策ディレクター 吉田智彦

主な調査結果

■役職員および評議員

 団体の役職員および評議員は、83団体で4,498人となった。「理事(常勤)」「理事(非常勤)」「監事」(3役職を合わせて以下、役員とする)が1,737人、「評議員」が1,473人、役員および評議員を除いた職員等は1,288人であった。83団体のうち女性役員が存在しないのは3団体(3.6%)である。分析対象となる団体が異なるため単純な比較は難しいが、女性役員が存在しない団体の割合は2014年度19.1%、2016年度17.7%、2018年度11.1%、2020年度11.5%、2022年度3.9%と減少傾向にあり、女性理事の割合目標を示した「スポーツ団体ガバナンスコード(中央競技団体向け)」(スポーツ庁、2019)が一定の組織改編に寄与している状況がうかがえる。

■中長期基本計画の有無

 団体の中長期な経営戦略の策定状況は、83団体のうち、「策定している」は60団体(72.3%)であった。「策定中」は15団体(18.1%)と9割の団体で策定が進んでいる。策定状況を過去の調査と比較すると、「策定している」団体は、2020年度調査27.8%、2022年度調査46.1%となり、着実に策定が進んでいる。ガバナンスコードの遵守事項への対応に向けた団体の努力や、スポーツ庁の中長期計画策定支援事業などが、団体運営の基盤整備につながっている。

■人手過不足の状況

 正規雇用者の過不足状況は、「やや過剰である」が2.4%、「適正である」が25.3%、「やや不足している」が33.7「不足している」が38.6であった。契約/嘱託職員では「やや不足している」25.3%、「不足している」22.9%、派遣職員・アルバイトでは「やや不足している」24.1%、「不足している」20.5%となった。正規雇用者では不足が7割を超え、過剰と適正を大きく上回った。なお、いずれの雇用形態においても「過剰である」と回答した団体はなかった。

 小売業、飲食業、宿泊業およびサービス業の業種を対象に実施した労働政策に関する調査では、正社員の不足が57.7%、適正が40.7%、過剰が1.6%を示し、中央競技団体の人手不足が民間事業者より厳しい状況にあるとみることもできる。

図表1. 中央競技団体の職員等の過不足状況・雇用形態別(n=83)

図表1. 中央競技団体の職員等の過不足状況・雇用形態別

資料:笹川スポーツ財団「中央競技団体現況調査2024」

採用の動向

 2023年度の正規雇用者および契約/嘱託職員の新卒採用もしくは中途採用の動向をみると、「募集を行い、予定した人数を採用できた」が20.5%、「募集を行ったが予定した人数の採用には至っていない、または引き続き募集している」が15.7%で、採用意欲のある団体は約3割にのぼった

■人材育成に関する課題と職員のスキル等向上のための取り組み

 人材育成に取り組む上での課題は、「育成にかける時間の不足」が76.0%で最も高く、「育成のための資金がない」(62.7%)、「指導する人材の不足」(54.7%)、「育成のためのノウハウがない」(41.3%)、「育成しても離職してしまう」(8.0%)と続いている。時間、資金、人材と育成にかかるリソースが不足している実態がわかる。

図表2. 人材育成に取り組む上での課題(n=83 複数回答)

図表2. 人材育成に取り組む上での課題(n=83 複数回答)

 注)8団体が「特にない」と回答

資料:笹川スポーツ財団「中央競技団体現況調査2024」

■人材確保と労務環境の改善

 人材確保や労務環境の改善等への対処方法をみると、「テレワークの導入」が50.7%と最も多く、職員等の勤務継続を確保する多様な働き方を選択できる制度を整え、業務の効率性や生産性の向上を図る取り組みが進んでいる。次いで、「在職者の労働条件の改善(賃金)」(46.7%)、「在職者の労働条件の改善(有給休暇の取得促進、所定労働時間・残業時間の削減、育児視線や復帰支援制度の充実等)」(36.0%)、「正規職員採用・正職員以外からの正職員への登用の増加」(25.3%)と続き、在職者の雇用に係る条件面での改善を図る様子がうかがえる。

 図表3. 人材確保と労務環境の改善の対処方法(n=83 複数回答)

図表3. 人材確保と労務環境の改善の対処方法(n=83 複数回答)

注)8団体が「特に対処していない」と回答。

資料:笹川スポーツ財団「中央競技団体現況調査2024」

■収支状況

 中央競技団体の予算書(2024年調査では71団体の予算書を入手)をもとに、収支予算の分析を行った。

 71団体の総収入合計は761億2,500万円、総支出合計は789億6,100万円であり、28億3,600万円の支出超過となった。2022年度調査は66億7,000万円、2020年度調査は26億2,700万円の支出超過であり、過去の調査と同様の傾向を示した。

 支出構成、また、人件費の割合をみる。71団体の総支出合計789億6,100万円のうち、「事業費」が約702億円(88.9%)を占めている。非常に高額な支出がある1団体を除外した70団体の総支出合計は572億2,600万円となり、「事業費」の占める割合は90.9%に上昇する。人件費全体の構成比(70団体)は、「事業費人件費」が7.8%、「管理費人件費」が2.3%で、合計は10.1%となった。支出が大部分、競技運営・大会開催・普及啓発等の直接事業費に充てられていることを示すと同時に、人件費は比較的小さな割合に抑えられているという特徴がわかる。

 人件費比率の水準は、おおむね16%程度である中小企業全体の人件費率より著しく低いものではないものの、特に人的資源の安定確保や雇用環境の整備が今後の重要課題となる。

 図表4. 中央競技団体の支出構成における人件費比率: 支出合計が最大値の団体を除く

図表4. 中央競技団体の支出構成における人件費比率: 支出合計が最大値の団体を除く

注)支出合計が最大値の団体を除く。「事業費」=「事業費( 人件費を除く)」+「事業費人件費」、「管理費」=「管理費( 人件費を除く)」+「管理費人件費」である。

資料:笹川スポーツ財団「中央競技団体現況調査2024」

中央競技団体現況調査2024

全文(PDF:3.28MB)

目次

「中央競技団体現況調査2024」調査概要

調査対象
(公財)日本スポーツ協会、(公財)日本オリンピック委員会、(特非)日本ワールドゲームズ協会に加盟、準加盟している中央競技団体95団体
調査項目
①競技人口と登録制度 ②役職員数 ③経営状況 ④収支予算
調査期間
2024年11月~12月
調査協力
(公財)日本スポーツ協会、(公財)日本オリンピック委員会、(特非)日本ワールドゲームズ協会
調査メンバー
三浦 一輝 愛知学院大学総合政策学部 准教授
吉田 智彦 笹川スポーツ財団 シニア政策ディレクター
※肩書は調査当時のもの
テーマ

スポーツ・ガバナンス

キーワード
年度

2024年度

発行者

公益財団法人 笹川スポーツ財団

担当研究者