笹川スポーツ財団(SSF)では運動・スポーツによる健康増進施策に寄与するため、健康と運動・スポーツとの関連を調査してきた。2024年に実施した健康への関心と身体活動の実施との関連に着目した「健康関心度とスポーツライフに関する調査Ⅱ」では、調査会社が保有するウェブモニターパネルを対象として5,272名(男性48.7%、女性51.3%、平均年齢±標準偏差(SD)54.6±18.8歳)から回答を得た。本調査の結果、9割以上の人は健康に対して一定程度の関心をもっていることが明らかになり、低関心群は全体の7.0%にとどまった。
そこで健康に高い関心をもちながら、運動実施に至っていない人を「潜在的関心層」として着目した。
なぜ健康に関心がありながら運動の実施はしないのか。スポーツ政策および健康づくり政策にまたがるこの問いに対し、健康関心度調査の結果から「潜在的関心層」の属性や運動促進要因・阻害要因にフォーカスして整理した。
資料:笹川スポーツ財団「健康関心度とスポーツライフに関する調査2024」
健康に対する「低関心」群の割合は全体の7.0%
健康関心度尺度(小澤ほか, 2021)は意識・意欲・価値観の3因子12項目(例:私は健康への意識が高い方だ、自分の健康に関する情報に興味がある、など)について「そう思う」から「そう思わない」までの4件法でたずねるものである。尺度を得点化した合計(12-48点)を3区分し、低関心群(12-24点)・中関心群(25-36点)・高関心群(37-48点)とすると、それぞれの割合は低関心群7.0%、中関心群76.1%、高関心群16.9%であった。
資料:笹川スポーツ財団「健康関心度とスポーツライフに関する調査2024」
「高関心」群のうち、運動非実施者は27.8%
同調査では「行動変容モデル」に基づいてたずねた。「行動変容モデル」とは、運動に限らず、食事や禁煙など、健康教育・保健指導の分野において、人びとの身体活動や運動の行動を説明するだけでなく、介入のための方策も兼ね備えた実効性の高い理論として用いられている。
「ここ1ヵ月間の運動注1への取り組みについて、あてはまるものをお答えください。」という設問に対して、「わたしは現在、運動をしていない。また、これから先(6ヵ月以内)もするつもりはない。」(前熟考期注2)、「わたしは現在、運動をしていない。しかし、これから先(6ヵ月以内)に始めようと思っている。」(熟考期)、「わたしは現在、運動をしている。しかし、定期的ではない」(準備期)、「わたしは現在、定期的に運動をしている。しかし、始めてからまだ間もない(6ヵ月以内)。」(実行期)、「わたしは現在、定期的に運動をしている。また、長期(6ヵ月以内)にわたって継続している。」(継続期)の行動変容ステージにおける5段階で回答を得た。また行動変容モデルを踏まえて、運動実施状況を「非実施」、「不定期実施」、「定期実施」の3つに分類注3した。
資料:笹川スポーツ財団「健康関心度とスポーツライフに関する調査2024」
運動実施状況別にみると、健康関心度尺度による高関心群のうち、非実施は27.8%であった。ほかの群における非実施の割合は中関心群52.3%、低関心群80.9%であり、関心が低いほど非実施の割合が高い。健康への高い関心をもつが、運動実施には至っていない人をここでは「潜在的関心層」として定義する(図1)。
「潜在的関心層」にあてはまる人の特徴
ここからは分析対象を高関心群に限定し、性別と年齢の傾向と彼らが感じている運動の促進要因および阻害要因の特徴を整理する。
図2 高関心群の男女比と平均年齢(運動実施状況別)
資料:笹川スポーツ財団「健康関心度とスポーツライフに関する調査2024」
高関心群における運動実施状況別の男女比と平均年齢を示す(図2)。「潜在的関心層」にあたる非実施では男性33.5%、女性66.5%、平均年齢±標準偏差(SD)62.1±18.8歳であった。不定期実施や定期実施の群と比べて、「潜在的関心層」は女性の割合が高い。
「潜在的関心層」における運動する理由(促進要因)
運動促進要因および阻害要因(石井ほか,2009)について「1 全くそうとは思わない」から「5 全くそうだと思う」までの5段階で回答を得た。同尺度は各10項目で構成されており、回答者が非実施の場合は自身の実施を促す、または妨げると考えられる要因として捉える。図3では、運動実施を促進する要因について運動実施状況別に比較した。
図3 健康高関心群における運動実施状況別の促進要因の該当率*
*)「1 全くそうとは思わない」から「5 全くそうだと思う」までの5段階のうち、4と5を合わせた値
資料:笹川スポーツ財団「健康関心度とスポーツライフに関する調査2024」
「潜在的関心層」における運動しない理由(阻害要因)
同様に図4では運動実施を阻害する要因について運動実施状況別に比較した。
図4 健康高関心群における運動実施状況別の阻害要因の該当率*
*)「1 全くそうとは思わない」から「5 全くそうだと思う」までの5段階のうち、4と5を合わせた値
資料:笹川スポーツ財団「健康関心度とスポーツライフに関する調査2024」
「潜在的関心層」の行動変容に向けて
潜在的関心層の運動促進要因は身体の健康づくりを主として認識されている。一方で潜在的関心層の運動阻害要因への対策として、まず体力の不安払拭、時間的負荷の軽減など実施のハードル意識を下げることが重要である。また促進要因を考慮して運動の魅力を感じられるプログラムや情報発信が行動変容をより効果的に促し、不定期でも実施を通じて心身のリフレッシュや人的交流などの効果は実感されやすい。加えて、継続的な実施を促すためには実施効果の可視化など個人に対する伴走的サポートとともに、コミュニティ形成においては参加に対する自由度が高く、実施レベルに応じたグルーピングなど参入障壁の低い実施環境が必要と考えられる。
ただし本調査は運動を対象とした量的調査による把握にとどまっており、質的アプローチによる詳細な調査や、その他の健康行動への関心の検討などには至っていない点を留意されたい。今後は各地で人びとに寄り添い、声を聴き、長期的に取り組みを創り上げていく姿勢が重要であり、効果的なアプローチを実現するためにはマーケティングの視点も不可欠になる。SSF健康スポーツ研究会では、運動・スポーツ実施における潜在的関心層のインサイトを調査する研究につなげていく。
注1 ここでいう定期的な運動とは、週3回以上かつ1回あたり20分以上の実施を指す。
注2 前熟考期(Precontemplation)の訳語として「無関心期」という表現が使われることもあるが、厳密には無関心(indifference)とは意味が異なる。「無関心期」や「無関心層」といった言葉を用いることで、対象者の背景にあるさまざまな理由を踏まえず、単にやる気がない人というニュアンスが出てしまう可能性には注意が必要である。
注3 本調査と同様の尺度を用いた先行研究に準拠し、運動・スポーツ実施の有無と定期的に実施しているかを基準として区分した。
<参考文献>
石井香織, 井上茂, 大谷由美子, 小田切優子, 高宮朋子, 下光輝一,簡易版運動習慣の促進要因・阻害要因尺度の開発, 体力科学58(8), p.507-516, 2009.
小澤千枝, 石川ひろの, 加藤美生, 福田吉治,「健康無関心層」の把握に向けた健康関心度尺度の開発, 日本健康教育学会誌29(3), p.266-277, 2021.
白岩加代子ほか,地域在住高齢者の行動変容ステージと身体機能の関係,ヘルスプロモーション理学療法研究7(2): p.57-62,2017.