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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

女性のスポーツ実施や継続に必要な社会的・個人的要因
結婚・子育ての影響は少なく、周囲の理解やサポートが重要

―日本とオーストラリアの国際比較―

 笹川スポーツ財団では、仙台大学体育学部 体育学科 准教授 弓田 恵里香氏を代表者とする研究チームと共同で、「どのような社会的、個人的要因が運動・スポーツ経験のある女性のスポーツ実施継続に影響するのか」をリサーチクエスチョンとする研究を実施しました。

 これまで日本人女性の運動・スポーツ実施率は20歳代から40歳代で低く、その要因として仕事や家事・育児などライフイベントの変化に伴う日々の忙しさが理由として挙げられていました。本研究では、日本およびオーストラリアにおける運動・スポーツ経験がある女性を対象にアンケート調査を実施、結果を比較し相違点を明らかにしています。その結果、結婚や出産といったライフイベントの影響は限定的である可能性が示唆されました。また、家族や友人といった周囲の理解が運動・スポーツ実施や継続の重要な要因となる可能性が示されています。

 日本では、学校体育や部活動を通じ、青年期にスポーツに触れる機会が比較的多い。しかし、日本人女性の20歳代から40歳代の運動・スポーツ実施率は著しく低下する。一方、オーストラリアのように一定の水準を維持する地域もある。そこで、本研究ではどのような個人的、社会的要因が運動・スポーツ経験のある女性のスポーツ実施継続に影響するのか、日本とオーストラリアの国際比較を通じて検討を行った。

 調査の結果、両国において婚姻関係や子どもの有無などのライフイベントは運動・スポーツ実施継続に直接的な影響を及ぼさないことが示された。他方、差がみられたのは過去の運動経験に対する評価、家族や友人からのサポートの有無、そして情報の取得や人的支援などの社会的支援の有無であった。いずれも、オーストラリアでは高い数値がみられ、日本と比べて幼少期からスポーツを楽しめる環境が整っており、成人後も周囲の理解や社会的支援が充実し、これらが運動・スポーツ実施継続と関係している可能性が示唆された。今後は、両国における運動・スポーツの位置づけや過去の経験内容の違い、具体的な社会的支援の在り方などについてさらに検討を進める必要がある。

仙台大学体育学部 体育学科 准教授 弓田 恵里香

主な調査結果

1. 運動・スポーツ実施について就職、結婚、妊娠・出産などのライフイベントの影響は少ない

 過去の運動・スポーツ実施頻度についてたずねた(図表1、図表2)。日本では、中学校期・高校期とも「週4-5日」と「週6-7日」を合わせた回答が70%以上を占めているが、高専・短大・大学・大学院期にその割合は39.1%へ大きく減少する。その後、各年代において「週1日」「週2-3日」が約70%を占め、その他の回答にも年代による大きな違いはない。

 一方オーストラリアは、40歳代を除き小学校期から50歳代まで「週2-3日」の割合が最も高く、加齢による実施頻度の低下は確認されず、年代別に大きな差異がない点が特徴である。

図表1. 過去の運動・スポーツ実施頻度(日本)

過去の運動・スポーツ実施頻度(日本)

注)「該当しない」を除いた割合を示している

図表2. 過去の運動・スポーツ実施頻度(オーストラリア)

過去の運動・スポーツ実施頻度(オーストラリア)

注)「該当しない」を除いた割合を示している

 また、子どもの有無による運動・スポーツ実施状況に差がみられず、自由記述においてもスポーツ継続要因として「子どもと楽しく運動ができる」といった記載があったことから、本調査の対象者にとっては子どもの存在が運動・スポーツ実施の阻害要因となっていないと考えられる(図表割愛)。

2. オーストラリアの方が幅広い年代で運動・スポーツを実施している

 過去の定期的な運動・スポーツ実施状況をたずねた(図表3、図表4)。日本では、中学校期をピークに高校期、高専・短大・大学・大学院期と学校期が上がるにつれ、「実施していた」と回答する者が減少し、大学卒業後も20%台と低い水準で推移している。

 一方オーストラリアは、高校期、高専・短大・大学・大学院期で減少があるものの、減少幅は日本と比べ小さく、その後も60%前後を維持しており、日本よりも幅広い年代で運動・スポーツを実施する女性が多いことが明らかとなった。


図表3. 過去の運動・スポーツ実施状況(日本)

過去の運動・スポーツ実施頻度(オーストラリア)

注)「該当しない」を除いた割合を示している


図表4. 過去の運動・スポーツ実施状況(オーストラリア)

過去の運動・スポーツ実施頻度(オーストラリア)

注)「該当しない」を除いた割合を示している

3. オーストラリアの方が家族や友人からサポートを得られやすい

 運動・スポーツを実施するにあたり、どの程度家族や友人からの理解や協力が得られるかをたずねた(図表5、図表6)。「3.家族や友人は、運動・スポーツするように励ましたり、応援してくれたりする」では、日本で41.5%(「かなりそう思う」10.3%、「まあまあそう思う」31.2%の合計)が「そう思う」と回答し、オーストラリアは70.5%(「かなりそう思う」27.6%、「まあまあそう思う」42.9%の合計)だった。

 また、「5.家族や友人は、運動・スポーツを実施することについて、ほめたり評価してくれたりする」においても、日本での「そう思う」と回答した割合は38.3%(「かなりそう思う」9.8%、「まあまあそう思う」28.5%の合計)だったのに対し、オーストラリアでの回答割合は71.4%(「かなりそう思う」27.8%、「まあまあそう思う」43.6%の合計)と30ポイント程度の開きがみられた。オーストラリアの女性が運動・スポーツを実施するにあたり家族や友人から態度的、行動的なサポートを得られやすい状況であることが示唆された。


図表5. 運動・スポーツ実施における家族や友人からのサポート(日本)

運動・スポーツ実施における家族や友人からのサポート(日本)


図表6. 運動・スポーツ実施における家族や友人からのサポート(オーストラリア)

運動・スポーツ実施における家族や友人からのサポート(日本)
女性のスポーツ実施継続における社会的・個人的要因に関する調査研究

全文(PDF:3.57MB)

目次
  • 1.研究概要 詳細(PDF:851KB)
    • 1.1 研究目的
    • 1.2 研究体制
    • 1.3 調査概要
  • 2. 調査結果 詳細(PDF:1.5MB)
    • 2.1 個人的属性
    • 2.2 現在の運動・スポーツ実施状況
    • 2.3 過去の運動・スポーツ実施状況
    • 2.4 ライフステージによる比較
    • 2.5 運動・スポーツ実施継続に影響を及ぼす要因
    • 2.6 直接スポーツ観戦とスポーツボランティアの実施状況(国内のみ)
  • 3.考察 詳細(PDF:673KB)
    • 3.1 ライフステージとの関連性
    • 3.2 過去の影響
    • 3.3 環境要因と価値観
    • 3.4 まとめ
  • 参考文献/付録-調査票 詳細(PDF:1.41MB)

調査概要

調査名
女性のスポーツ実施継続における社会的・個人的要因に関する調査研究
-日本とオーストラリアの国際比較調査-
調査時期
日本:2025年1月23日(木)~27日(月)
オーストラリア:2025年1月14日(火)~17日(金)
調査方法
Webアンケート調査
調査対象
日本およびオーストラリアの20歳代~50歳代の女性登録モニター
上記モニターに対して「小学校以上の在学期間に、定期的な運動・スポーツ活動を1年以上継続して行った経験はありますか。」と質問し、「実施した経験がある」と回答した方のみ本調査の対象としている。
有効回答
合計834(日本:417、オーストラリア:417)
主な調査項目
<全員への質問>
過去の運動・スポーツ経験/ここ1年間の運動・スポーツへの取り組み状況(実施時間、内容、場所、継続理由│今後の実施意図、非実施理由など)/運動・スポーツを実施する場合の「家族や友人からのサポート」/運動・スポーツ実施をどの程度自身で決定できるかという「行動統制」/運動・スポーツ実施における「社会的支援」/「性役割」に関する日頃の考え方や価値観 など
<日本の調査対象者のみへの質問>
スポーツ観戦状況/スポーツボランティア活動状況と今後の活動意図
調査体制
研究代表者:弓田 恵里香 仙台大学体育学部 体育学科 准教授
研究協力者:三倉 茜 順天堂大学スポーツ健康科学部 スポーツ科学研究科 助教
      下窪 拓也 順天堂大学スポーツ健康科学部 スポーツ科学研究科 助教
研究担当者:吉田 智彦 笹川スポーツ財団スポーツ政策研究所 シニア政策ディレクター

※肩書は2025年4月時点

テーマ

スポーツ政策・予算

キーワード
年度

2024年度

発行者

公益財団法人 笹川スポーツ財団

担当研究者