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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

スポーツを通じたコミュニティ形成の行方 

―スポーツクラブ形態による加入者の特徴と加入希望率低下の背景を考える―

2025年6月2日

スポーツを通じたコミュニティ形成の行方 

◆スポーツクラブ・同好会・チームへの加入状況

 日本には「コミュニティ・スポーツ」という言葉がある。都市化に伴って地域社会における市民のつながりが弱まりつつあった1970年代ごろから、従来は学校や職場で行われることが多かったスポーツが家族や仲間とともに生活の中でも行われるようになり、地域社会を基盤とする同志感情によって支えられるスポーツの存在形態として称される。この言葉が行政的に扱われたのは1973年の経済企画庁(現内閣府)による「経済社会基本計画-活力ある福祉社会のために」においてであり、そこでは「地域住民相互の接触を深め、新しい時代に合致したコミュニティ活動の場の形成に貢献すること」が期待されていた1)。欧米ではスポーツを通じたコミュニティ形成としてスポーツクラブがその中心的な役割を果たしており、文化的背景が異なる日本でも同様の動きはみられるものの依然として一部の人たちに留まっているように思われる。

 スポーツライフ調査では1994年からスポーツクラブ・同好会・チームの加入状況を継続的に調査しているが、2014年以降は全体の加入率が2割を下回り、2024年は15.2%で過去最低となった。性別にみると、男性は17.1%で前回から横ばいであったが、女性は13.4%で減少傾向が続いている。特にコロナ禍においてはスポーツジムでのクラスター感染が発生し、行動制限によって運動やスポーツの実施そのものが個人化に向かったこともあり、スポーツを通じたコミュニティ形成のあり方にも変化を与えた可能性がある。

◆加入するスポーツクラブ形態の年次推移

 スポーツライフ調査では、クラブ形態をその中心となる構成員別に「地域住民」「民間の会員制」「学校OBOG」「職場の仲間」「友人・知人」「その他」で分類している。このうち年次推移に最も大きな変化がみられるのは「地域住民」で、2012年まではクラブ加入者の約半数を占めていたが、2014年には37.0%まで減少している(図1)。要因のひとつとしては2014年から「友人・知人」が新たに選択肢として追加されたことで回答が分散した可能性がある。「地域住民」だけでなく「学校OBOG」「職場の仲間」「その他」の割合も減少している点からみれば、加入者の認識としてスポーツを通じたコミュニティの基盤は地域や学校、職場といった集団的なつながりよりも個人的なつながりによって形成されていると推察できるとともに、唯一減少しなかった「民間の会員制」がほかとは質の異なるコミュニティであるともいえる。「民間の会員制」は2020年に「友人・知人」とほぼ同率となり、2022年には逆転して最も多い「地域住民」にも迫る勢いであった。2024年時点では再び「友人・知人」と並んで加入者の4分の1ほどの割合を占める。

 加入率は「地域住民」「民間の会員制」「友人・知人」の3形態が大部分を占めるが、コロナ禍前後の推移に着目するとそれぞれ動きが異なる。2020年から2022年にかけて「地域住民」が減少したのに対し「民間の会員制」は増加、「友人・知人」はほぼ横ばいであった。

◆スポーツクラブ形態による加入者の特徴

【表1】多項ロジスティック回帰分析の結果
  民間の会員制
(n=83)
学校OB・OG
(n=16)
職場の仲間
(n=43)
友人・知人
(n=89)
  b S.E. b S.E. b S.E. b S.E.
切片 .398 .009 2.241 1.318 1.353 1.068 2.196 .878
性別_女性ダミー 1.141 *** .282 .268 .635 -1.723 ** .579 -.273 .310
年齢 -.020 .009 -.074 *** .020 -.049 *** .013 -.028 ** .010
世帯年収 .012 .058 .046 .112 .029 .079 -.147 * .062
年間実施頻度 .000 .001 -.001 .001 .000 .001 .000 .000
体力自己評価_高群ダミー -.319 .415 -1.052 .636 .312 .525 -.199 .409
運動不足感_低群ダミー -.047 .323 -.015 .611 .563 .421 .251 .313
主観的健康感_良群ダミー -.329 .420 -.878 1.118 -.467 .516 -.095 .373

-2LL = 1014.093, χ2 = 103.167, d.f. = 28, p <.001, Nagelkerke R2 = .271
* p <.05, ** p <.01, *** p <.001
※従属変数の基準カテゴリは「地域住民」(n=117)

 こうした状況下において、各形態のクラブにはどのような人たちが集まる傾向がみられるのだろうか。ここでは「地域住民」を基準としてその他の形態のクラブにおける属性や運動および健康関連指標の特徴を分析し、統計的に差が認められた項目には網掛けをした(表1)。結果としては「地域住民」と比べ、「民間の会員制」を除くほかすべての形態で年齢が低かった。言い換えれば、「地域住民」は相対的に高齢化したコミュニティといえる。また「民間の会員制」では女性、「職場の仲間」では男性の比率が「地域住民」よりも高く、世帯年収については「友人・知人」がやや低かった。一方でどのクラブ形態でも年間の実施頻度に顕著な差はみられず、体力の自己評価や運動不足感、主観的健康感といった個人の感覚的な指標にも違いはみられなかった。したがってクラブ形態によって加入者の年齢や性別による違いはみられるものの、運動実施頻度や運動不足、体力や健康に関する感覚は大きく変わらないという結果であった。

◆スポーツクラブ加入希望率低下の背景にみる希望者の“コミュニティ難民”化

 加入希望者がどの形態のクラブを選択するかはコミュニティの属性にも大きく左右されるだろう。多くの場合、自分と似たような人たちが集う同質的なコミュニティを選択するのではないだろうか。世代が近ければ話題も共有しやすく、運動実施時以外の過ごしやすさ、すなわち居心地の良さに直結するからだ。反対に異質性の高いコミュニティは新規加入のハードルの高さにつながり、将来的な存続可能性にも大きく影響するだろう。また加入希望者のニーズに応じた特化型クラブも民間サービスにおいては多様化しており、高い業績を収める企業も出ている2)

 スポーツライフ調査からスポーツクラブ・同好会・チームへの加入希望率の年次推移をみてみよう。同調査では開始当初の1992年から把握しているが、ここでは図1で示した加入率の年次推移に合わせて2004年から2024年までの結果を示す(図2)。加入希望率は全体で47.1%であった2008年を境に低下傾向が続き、2024年は14.0%とピーク時の3分の1 以下にまで減少している。また2004年から長らく女性が男性を上回る傾向にあったが、その差は2018年に縮小したのちコロナ禍でやや開き、2024年では再び縮小している。

 一方で加入希望者のうち、クラブ形態別の希望率をみると男女で傾向が異なる(図3)。「地域住民」「学校OBOG」「職場の仲間」「友人・知人」への加入希望率はいずれも男性のほうが高いが、「民間の会員制」への加入希望率は女性のほうが高く、その差も15.0ポイントとほかに比べて大きい。分析結果で示したように「民間の会員制」では女性の比率が相対的に高くなっており、女性専用など特定のニーズに対応した民間サービスに人気が集まるのは業績の動向からも明らかである。

 そうであっても、実際には地域や職場、友人・知人といったほかのコミュニティに比べて会費などコスト面がネックとなって入会に踏み切れない人もいるだろう。子育て世代の親であれば、経済的制約だけではなく時間的制約も重なって民間の会員制クラブへの加入のハードルは一層高くなる。地域住民を中心としたクラブをはじめ、年齢層や男性比率の高い形態のクラブでは若年層や女性の心理的な参入障壁が高いと推察される。女性のクラブ加入率低迷の背景には、経済的・時間的制約とともに成員属性的な要因も重なった“コミュニティ難民”状態があるのかもしれない。

現代に求められるコミュニティ・スポーツの姿とは

 冒頭で述べたような日本におけるコミュニティ・スポーツの普及が進まない背景には、都市化の進展に伴う社会関係の変容が影響していると考えられる。公共コミュニティの醸成という観点でいえば、総合型地域スポーツクラブを中心に多世代・多種目・他志向を理念として掲げているが、「地域住民が中心のクラブ」の実態を鑑みると運営やPRといった事業性のさらなる発展が求められる。半公共コミュニティともいえる「職場の仲間が中心のクラブ」は男性に比べて女性の加入希望率が低く、勤労者のニーズに即した企業の支援やサポートの在り方が模索されつつある。

 他方、運動・スポーツを余暇活動として地域や職域とは区別したいというニーズもあり、その場合は「友人や知人を中心とするクラブ」が私的コミュニティとして親和性が高い。しかし、メンバー間の親密性の高さがかえって加入を妨げている可能性もある。過去に所属していた既存コミュニティの延長線上にある「学校OB・OGが中心のクラブ」の加入希望率の低さを鑑みれば、成人後のコミュニティ形成がいかに難しいかは想像に容易い。またコミュニティ・スポーツの在り方を考える上では、「友人や知人を中心とするクラブ」や「学校OB・OGが中心のクラブ」といった地域にも職域にも属さない形態のクラブがスポーツを通じたコミュニティとして認識されているかどうかも重要な論点である。

 総じてみると民間の会員制クラブへの加入希望率が安定している背景には、そうした人間関係の煩わしさが少なく、やりたいときにやれる・やめたいときにやめられるといった自由度の高さも寄与しているはずだ。私たちはスポーツを通じて誰かとつながることもできるが、そのつながりを求めない人たちにとって従来のコミュニティ・スポーツは魅力的には映らない。むしろ着かず離れず適度な距離感が保てる関係性がこれからのコミュニティ・スポーツに求められる重要な要素のひとつとなるだろう。

スポーツを通じたコミュニティ形成の行方

 こうした傾向はともすれば社会関係の希薄化というネガティブな捉え方をされるかもしれないが、コミュニティの豊かさという観点ではポジティブにも捉えられる。ネットワーク研究の先駆的存在であるアメリカの社会学者M.グラノヴェッターが提唱する「弱い紐帯の強み(the strength of weak ties)」は、同質性の高い集団に多様性を取り込むのではなく、性質の異なる人たちを共存させ、その差異や違いがもたらす新しい情報やスキルに価値があるという考え方に基づいている。弱い紐帯を生み出すためには、異質で多様な人たちをいかに結びつけるかが課題となるが、スポーツはこれまでも人と人とをつなぐ機能を果たしてきた。それはスポーツが共通のルールに基づいていながら、言語や人種などの違いを超えて興ずることができる手段だからである。

 スポーツの語源は「あるところから別の場所に運ぶ・移す・転換する・追放する」という意味を持つラテン語「deportare(デポルターレ)」といわれている。そこから「気分を転じさせる」「気を晴らす」といった精神的な移動や転換に変化したという説に基づけば、スポーツという言葉がもつ本来的な意味は運動に限らず音楽などの芸術にも通ずるものである。

 これからのコミュニティ・スポーツに求められるのは、一緒にスポーツを楽しむための限定的なコミュニティにとどまらず、さらに別のコミュニティへの架け橋になる可能性を秘めた発展的なコミュニティとなることだ。社会関係の変容とともに人と人とのつながり方が見直されつつある現代だからこそ、豊かなコミュニティ形成においてスポーツが果たす役割の本質的な価値はより増しているのではないだろうか。

引用文献・資料

1) 海老原修・江橋慎四郎(1980)「コミュニティ・スポーツの社会的機能について―コミュニティ形成に果たす役割の検討―」レクリエーション研究, 第8号, 41-50.

2) Fitness Business「カーブス、過去最高業績を更新。安定成長の基盤、固める」2024.11.25付(https://business.fitnessclub.jp/articles/-/2317

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活用例

  1. 政策立案:所属自治体と全国の比較や調査設計に活用(年齢や性別、地域ごとの特徴を把握)
  2. 研究:研究の導入部分の資料や仮説を立てる際に活用(現状の把握、問題提起、仮説、序論)
  3. ビジネス:商品企画や営業の場面で活用(市場調査、データの裏付け、潜在的なニーズの発見)
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