Search
国際情報
International information

「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

知る学ぶ
Knowledge

日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

スポーツ活動の再開に向けて ~ブラジルのガイドライン紹介~

新型コロナウイルスとスポーツ

新型コロナウイルスにより一度止まったスポーツ活動も再開し始めましたが、各国、各競技団体で、感染症対策などを踏まえながらスポーツ活動再開に向けたガイドラインを発表しています。笹川スポーツ財団では、国際的なスポーツ・フォー・オールの統括組織であるTAFISAやSSF海外研究員のネットワーク等を通じて、国内外のガイドラインを収集しています。

【第6回】ブラジルの状況

ブラジルオリンピック委員会(Comitê Olímpico do Brasil:COB)が6月12日、「COV-19(新型コロナウイルス)の感染拡大を背景とするオリンピックスポーツの活動再開のガイドライン:検証と考察」と題する資料を発表した(https://www.cob.org.br/pt/cob/home/guia-esporte-covid)。

これは国内の多くの組織や団体の協力を得て作成されたもので、オリンピックスポーツに限らず、他のスポーツへの適用も可能とされている。その概要は以下のとおりである。

第一章:案内と一般原則

新型コロナウイルスの感染拡大によって、世界各国のスポーツ界が顕著な影響を受けており、ブラジルもその例外ではない。

 

このような状況で、暫定的ではあるが、アスリートたちが安全に十分配慮しながらスポーツ活動を再開するためのガイドラインをここに発表する。

第二章:スポーツ施設の使用上の注意

  1. 施設の利用は、施設の管理者が許可を与えているアスリート、指導者、関係者に限ること
  2. 施設を管理、保全する職員は、施設使用者に対して適切な使用上の注意を与えるための訓練を受けていること。
  3. 職員のうち高齢者や持病がある者に対しては、厳正な健康診断を行い、職場へ復帰させるかどうかを責任者が慎重に判断すること。
  4. 施設を再開する前に、器具などを入念に消毒をすること。
  5. 施設に立ち入る者は、職員、利用者を問わず全員が新型コロナウイルス感染の症状がないことを確認すること(具体的には、体温を計り、咳、鼻水などの症状がないこと、嗅覚、味覚が正常であることなどを確認すること)。
  6. 施設を利用中、極力、全員にマスクを装着させること。身体接触を回避させ、極力、2m以上の距離を保たせること。頻繁な手洗いや消毒を励行させること。
  7. 会議や集会は、可能な限りビデオを使って行うこと。
  8. 新型コロナウイルスの感染の症状が確認された者は、中程度以上の場合は病院で医師の診察を受ける。軽症の者は、自宅など隔離された場所で少なくとも14日間の免疫期間を過ごし、回復が確認できるまで施設へ立ち入らないこと。
  9. 感染者と接触した者は、少なくとも7日間の免疫期間を過ごし、新型コロナウイルス感染を示す症状が出ないかどうか確認すること。
  10. 感染者が出た場合、感染者が立ち入った場所を特定し、入念に消毒すること。
  11. 初期段階では、原則として、食堂、軽食エリア、医務室、マッサージ室などを使用しない。仮にどうしてもやむを得ず使用する場合も、最小限のエリアで限定的に用いること。

第三章:施設の職員、関係者とアスリートへの医学的見地からのアドバイス

60人以上の医師と各スポーツ団体の責任者らによる討議をもとに、以下のような医学的見地からのアドバイスを提示する。

(職員、関係者へ)
<PCR検査もしくは血清学的検査を実施可能の場合>

陰性:無症状の場合は少なくとも72時間、健康状態を確認する。引き続き無症状であれば、施設への立ち入りを許可する。健康上、何らかの問題がある場合は治療を受けるか、少なくとも7日間、自宅など隔離された場所で療養する。健康を回復すれば、施設への立ち入りを認める。

陽性:症状が中程度以上の場合は、治療を受ける。症状が軽い場合は、自宅など隔離された場所で、14日間、療養する。その後、再度、検査を受けて陰性が確認されれば、施設への立ち入りを認める。

<検査を実施できない場合>

無症状の場合は最低7時間、健康状態を確認し、無症状のままであれば施設への立ち入りを認める。

何らかの症状がある場合、中程度以上の場合は、治療を受ける。症状が軽い場合は、自宅など隔離された場所で、14日間、療養する。健康を回復すれば、施設への立ち入りを認める。

(アスリートへ)
<無症状だが新型コロナウイルスの抗体が確認された場合>

検査によって新型コロナウイルスの感染と関連する病気が確認された場合:
心電図を取り、異常があれば心臓超音波検査を行う。

PCR検査を行う。心臓、血液などの検査を受ける。これらの検査で異常が発見されたら、治療を受ける。

<かつて新型コロナウイルス感染が疑われる症状や病歴があった場合>

精密検査を行い、異常が発見されたら治療を受ける。仮に異常が発見されなくても、心臓病専門医の意見を聞きながらスポーツ活動再開に慎重を期する。

第四章:スポーツ活動実施へのアドバイス

<体育学地域理事会(CREF)からスポーツクラブやトレーニングセンターを使用するアスリートへのアドバイス>

  1. 施設内でのマスクの使用、手洗いの励行などの新型コロナウイルス感染予防策を厳守する。
  2. 各施設が定めたガイダンスを遵守して利用する。
  3. 利用時間を予約する。

<理学療法地域方理事会(CREFITO)から理学療法士へのアドバイス>

  1. 理学療法を行う前と後に、すべての器具を消毒する。
  2. アスリートに応対する時間を予約する。
  3. 新型コロナウイルス感染の疑いがあるアスリートは応対しない。
  4. 新型コロナウイルス感染を避ける対策をアスリートに指導する。
  5. 施設への到着時と退出時に手を洗うようアスリートに指示する。
  6. 待合室で多くの人が集まるような事態を避ける。
  7. 必要に応じて保護メガネ、フェイスプロテクター、マスク、エプロンなどを使用する。
  8. 自分専用のペン、ペットボトルなどを使用する。

<ハイレベルのアスリートへのアドバイス>

故障を避けるには、トレーニングの負荷を少しずつ上げることが極めて重要となる。

トレーニングを停止した期間が短かった場合は、負荷を30~50%に低減したトレーニングを2週間続ける。

トレーニングを停止した期間が長かった場合は、負荷を10~40%に減らしたトレーニングを4週間続ける。

第五章:ブラジルオリンピック選手専用トレーニングセンター(CCTB)活動再開のガイドライン

<基本方針>

  1. 国や各地方自治体の健康省の了承を得て、活動を再開する。
  2. 施設の使用に関して意見の相違があった場合は、CCTBの決定に従う。

<基本的プロセス>

  1. 施設を使用できるのは、COBが認めたアスリート、コーチに限る。
  2. 当面、施設の利用時間は予約制とする。
  3. 施設の出入りの際には、手洗いを励行する。
  4. トレーニングは、極力、少人数で行う。
  5. 当面、更衣室、調理室、会議室などは使用しない。
  6. 飲料水の補給は、各自がペットボトルを持ち寄って行う。

<段階別の活動再開>

第一段階:CTTBの施設は使用せず、コーチのビデオなどによる指示でアスリートが自宅などで個別にトレーニングを行う。

第二段階:過去14日以上、新型コロナウイルス感染の症状がなく、感染者との接触もなかったアスリートに限り、CTTBの施設を使用してのトレーニングを行う。最低限の人数でトレーニングを行う。

第三段階:より多い人数でのトレーニングを行う。

第六章:体操競技

<練習施設がある建物への入る際の注意事項>

  1. 更衣室は利用不可なので、アスリートは予め体操着を来て建物へ入る。
  2. メイン入口から入る。利用中、ドアは開けたままにしておく。
  3. 常に最低2mの間隔を保つ。
  4. 入り口のすぐ横にエリアを設け、そこに靴や練習中に使用しない私物を保管する。
  5. 建物内だけで使用するサンダルかスリッパを用意し、靴を脱いで履き替える。
  6. 建物の入口から練習施設へ向かう途中のエリアで、手足と練習で用いる私物を消毒する。

<練習施設へ入る際の注意事項>

  1. 入る前に手と履物(サンダルかスリッパ)を消毒する。
  2. 私物は所定の場所へ保管する。
  3. 常に最低2mの間隔を保つ。

<私物の保管>

  1. バッグに入れて持ち運ぶ。
  2. ペットボトル、サポーター、包帯、テープは練習施設の内部に保管しておいてもよい。

<練習施設と建物を出る際の注意事項>

練習施設へ持ち込んだ私物を持ち、建物の入口の横のエリアに保管しておいた私物を取る。建物から出る前に、手足を消毒する。

第七章:オリンピック研究室

第一段階:研究室における活動を再開するためのガイドラインを用意する。

第二段階:2021年東京五輪の出場資格をすでに得ているか、今後得る可能性があるアスリートだけを研究の対象とする。研究室に出入りする研究者やアスリートは、新型コロナウイルスに感染していないことが確認された者に限る。
研究室に出入りする前後に手足を消毒し、研究室内では全員がマスクを装着する。

第八章:水泳、水球、飛込競技

第一段階:プールは閉鎖中。アスリートは、コーチから動画などによる指示を受け、自宅などで個別にトレーニングを行う。

第二段階:プール使用を許可。2021年東京五輪への出場資格をすでに得ているか、今後得る可能性があるアスリートだけが利用できる。

第九章:コンディショニング

<フィットネスジムと機能トレーニング室を利用するためのガイドライン>

第一段階:施設は閉鎖中。電話、ビデオ通話、動画、アプリケーションの使用などによってトレーニングを行う。

第二段階:2021年東京五輪への出場資格をすでに得ているか、今後得る可能性があるアスリートに限り、10人以内で使用する。

第三段階:2021年東京五輪への出場資格をすでに得ているか、今後得る可能性があるアスリートに限り、20人以内で使用する。

第十章:治療と手当て

第一段階:電話、ビデオ通話、動画などで医療従事者から治療、手当てに関する指示を受ける。

第二段階:医療従事者から対面での治療、手当てを受ける。

第十一章:理学療法、マッサージ

第一段階:電話、ビデオ通話、動画などで理学療法士、マッサーから指示を受ける。

第二段階:医師から指示を受けたアスリートが、一対一で、理学療法、マッサージを受ける。理学療法は一時間以内、マッサージは30分以内とする。

第十二章:メンタルケア

第一段階:予め時間を定めたビデオ通話で、メンタルトレーナーがアスリートやコーチにケアを施す。

第二段階:メンタルトレーナーが必要と判断した場合、対面で45分以内のケアを行う。

第十三章:格闘技(柔道、レスリング、ボクシング)

基本的に、「第九章:コンディショニング」を踏襲する。ただし、第二段階、第三段階でも個人練習とする。練習時間は、第二段階で60分以内、第三段階で90分以内。第四段階では、他のアスリートとの合同練習を認める。

第十四章:参考情報

第十五章:参考にすべき科学的記事
GUIA PARA A PRÁTICA DE ESPORTES OLÍMPICOS NO CENÁRIO DA COVID-19


沢田 啓明

レポート執筆者

沢田 啓明

Sports Journalist

Partner Fellow, Sasakawa Sports Foundation

関連記事