2026.1.21
鯖江市(福井)
佐々木 勝久市長 対談

2026.1.21
鯖江市(福井)
佐々木 勝久市長 対談
小さなまちが、世界を動かした。 1995年、地方都市・鯖江で開催された世界体操競技大会。 「本当にできるのか」と言われた挑戦を、市民一人ひとりのチカラがささえ、成功へと導きました。あの日の拍手と誇りは、体操を“競技”ではなく、“文化”としてまちに根づかせていきます。 30年の時を経て、鯖江からオリンピアンが誕生。 幼少期から本物に触れられる環境、世代を超えて続く市民スポーツ大会、ITや産業と結びついた健康づくり。さらに鯖江は、ジェンダー平等をまちづくりの中心に据え、女子高校生が行政と協働する「JK課」など、全国に先駆けた取り組みを積み重ねてきました。 30年前の拍手が、いまの夢につながり、誰もが挑戦できる未来をひらいていく。 スポーツがまちをエンパワーする、そのリアルな答えが、ここにあります。

世界大会が、このまちの誇りになった--。
"体操のまち"鯖江。1995年の世界体操をきっかけに、体操は暮らしの中に根づいた。そしてパリ大会。悲願だった鯖江市初のオリンピアンが誕生。
今改めて問う。スポーツがまちをエンパワーするとは、どういうことか?

渡邉理事長 今、私たちがいるのが立待(たちまち)体育館という、体操専用の体育館ですね。
佐々木市長 そうなんです。なかなか体操専用の体育館があるまちというのも珍しいといいますか、我々のような地方都市ではあまりないかなと思います。
渡邉理事長 体操のまちについてご紹介いただけますでしょうか。
佐々木市長 はい。1983年にこの体操専用の体育館ができまして、その後1995年、アジアで初めて『世界体操競技選手権』が開催されました。これほど大きな世界大会を小さなまちで行うということで、体操関係者はもとより、私ども市民が、準備から大会運営、いろいろなことにボランティアで参加させていただいて、成功したことを非常に市民みんなで喜んでおります。力を合わせ、協力し合い、またそれが市民主役で頑張ったということにつながってきている。非常に大きなこのまちの分岐点だったと感じています。
"できるはずがない"と言われた大会を、市民が力を合わせて実現した。この成功体験が、体操によるまちづくりの原点になった。

女子選手コメント 「年中の時から始めました。保育園でチラシをもらって体験に行ったら楽しかったので始めました。世界でも通用するようなきれいで技の入っている演技ができる選手になりたいです。」

男子選手コメント 「年中の時からやっています。お姉ちゃんが体操をやっていて一緒にやり始めました。あん馬が得意で、目標はオリンピックで金メダルを取ることです。」
渡邉理事長 保育所あるいは子ども園などでも出前の体操講座があるとうかがいましたが。
佐々木市長 そうですね。体操協会の皆さんから全面的にご協力いただきまして、体操の指導者に、保育所・幼稚園・子ども園で4~5歳児を対象とした体操教室を開いていただいておりました。
そこで初めて体操に取り組まれた方がこちらの体育館にもいらしてくださり、本物の体操器具を使って遊んでいただきました。指導を通じて体操協会の皆さんのお力をいただいている状況です。
渡邉理事長 中学校の教室に鉄棒を設置している教室があるんですか?
佐々木市長 はい。そういったところもあります。
やっぱり体操で身体の基礎を作れる環境が我々のところには十二分にあるというのは非常にありがたいと思いますね。
渡邉理事長 鯖江のひとつの財産ですから、未来に継承していただけるとよろしいかなと思って聞いておりました。
佐々木市長 そうですね。
跳ぶ、回る、ささえる。"遊び"の中で身体の基礎を育むこと--それが、あらゆる運動の出発点になる。

佐々木市長 先日のパリオリンピックでは、鯖江高校出身の杉野正尭(すぎの たかあき)選手が金メダルを獲得するという、チームの原動力として活躍されました。
30年前に夢見た舞台に、鯖江の選手が立つ。それは、まちの誇りであり、次の世代への希望でもある。
佐々木市長 私どもの鯖江高校が、『全日本シニア体操競技選手権大会』で、2年連続優勝をしています。
渡邉理事長 全国優勝?
佐々木市長 そうなんです。『ワールドユニバーシティゲームズ(旧ユニバーシアード)』という大会があって、こちらの大会では個人、また団体でもメダルを獲得されて、合計5つのメダルを獲得されました。本当に世界でも活躍していただいて、我々は鯖江市をあげて体操を応援しているところです。

10月5日(日)、『第26回鯖江市民スポーツの日』を開催。ニュースポーツや障がい者スポーツなど、普段触れにくい種目を体験できるイベントだ。
母親 「いろんなスポーツを子どもが体験できるかなと思って来てみました。」
子ども 「いっぱい飛べたから楽しかった。」
渡邉理事長 何が楽しかった?
子どもたち 「トランポリン。」「飛ぶのが楽しかった。」
父親 「いろんな運動の経験をすることで、自分のやりたいことなどが見つけられるのかなと思いました。」
母親 「普段身体を動かしたり、運動したりすることがないので、これをきっかけにおうちでもちょっとやってみたいなと思いました。」

佐々木市長 市民の方に気軽に取り組んでいただきたいということでこの取り組みをさせていただいておりますが、特にニュースポーツなんかはなかなかやってみるっていう場が少ないと思いますので、そういったものを取り入れながら、実施させていただいております。
最近非常に多いなと思うのが、西山公園というところがありまして、そこがちょっと小高い山みたいになっているんです。そこを上り下りしてウォーキングを楽しめる。そういった方が非常に最近多くなってきているという実感があります。この『市民スポーツの日』を契機として、新たに運動しようかな、身体を動かそうかなという方が、やっぱり毎年必ず増えてきているんじゃないかなって感じております。
渡邉理事長 長続きする秘訣としては、仲間がいるという要素もすごく大事なんですよね。
佐々木市長 私どもの地域は非常にコンパクトな地域でありますので、皆さん方が横のつながり、縦のつながりを通じてつながっておられます。やはり『スポーツの日』ということで皆さん集まりますので、そこでまた新たなつながりができ、"こんなことをやりたいんだけど"って言うと、"これできるよ"とか、そんなやりとりが『スポーツの日』の中でもよく聞かれます。
また、現在の中学校の部活動地域移行ですね、大型の地域スポーツクラブに受け皿になっていただいておりまして、多分全国でも、私どものこのまちは地域移行が非常にスムーズに進んでいるまちだと感じております。いろいろなこういう取り組みを行いながら、世代間を超えて運動を楽しめる地域づくりが広がっていると感じております。
"制度"ではなく、"関係性"でささえる。続ける力は、まちのつながりの中にある。

"歩く"を習慣に。スマホアプリ『Sabaeはぴウォーク』では、まちを歩くたびにスタンプが貯まり、健康と笑顔が広がっていく。今、テクノロジーが"健康のきっかけ"を届けている。
佐々木市長 イベントに参加いただいて、アプリを使ってスタンプラリーのようなことを行うことを通じて、ITのまちですので、スポーツとITをかけてみんなが楽しく参加できるようにしております。
市民の方は1万5,000人ほどご登録いただいておりまして、そのうちの約1割の方にスポーツをITで取り入れていただくことに取り組んでおります。
ITで"歩く"を習慣に。けれど、そこには課題もある。
佐々木市長 たとえば高齢の方とか苦手な方がいらっしゃいますので、このデジタルデバイド(情報格差)といいますか、こうしたイベントではブースを設けて、一緒に登録をしていただくとか、市内のショッピングセンターや、市役所でも日を設けて、皆さんの登録をお手伝いすることも実施しております。
ひとつのきっかけですから、これを教えたり、聞いたりすることで、また地域のつながりができたり、仲間づくりもできたりします。そういったところで皆が教え合ったり、聞き合ったり、そんな取り組みがまちづくりのひとつとして生かせたらなと思います。
デジタルが世代をつなぎ、まちを"学びの場"に変えていく。

デフバスケ女子日本代表・丸山香織選手 「実際に東京デフリンピックが開催されるということがわかってから"共生社会"という言葉を聞くことが多くなりました。私たち聞こえない者は、今までも生きてきているので、今"共生社会"という言葉を言われても「?」って感じなんですね。デフリンピックが終わった後、終わってしまうんじゃないかという思いもあります。もっと自分の活動を続け、周りを巻き込んでいかなきゃいけないかなと思っています。」
渡邉理事長 多文化の共生っていうのは、どこの自治体に行ってもテーマだと思うんですね。外国にルーツを持つ方が日本にいらっしゃいますし、元々あった共生社会という文脈でいうと、障がい者の方がいかに社会参加できるかということだと思いますが、そういった意味では、共生社会に向けたスポーツの活用というのは何か市で特別に考えて展開されているものがございますか。
佐々木市長 『鯖江つつじマラソン』という本当に歴史があるマラソン大会がありまして、市の代表的なスポーツイベントの一つになっております。2㎞という非常に短いコースからハーフマラソンまで、5種目用意させていただいております。
また、今年からになりますが、一般の車いすの方も参加できるようにさせていただきました。本当にどんな方でもご参加いただけるようなスポーツイベントに成長してきたなと思っております。
一緒に走る、一緒に笑う。"誰でも"が参加できるまちに、優しさの循環が生まれる。

佐々木市長 私どもは眼鏡のまちということで、眼鏡会社さんと県の工業技術センターと一緒になりまして、心拍数を測ったり、走行距離を測ったりするARグラスの開発を進めております。現在『ふくい桜マラソン』というマラソン大会が開催されておりますが、そのプレ大会や、第1回目の大会で、ARグラスを装着して走っていただく取り組みも行っております。
渡邉理事長 私も眼鏡君ですから、はい。そんな商品が出てくるのを楽しみにしております。
佐々木市長 ありがとうございます。
"みる"をささえる技術が、"動く"をささえる技術に。

鯖江市でジェンダー平等に取り組む川口サマンサさん 「私の今までの経験だと、SDGsといえばやっぱり環境問題だと思われがちな部分が結構強くて、ほかの市やまちだと、たとえば環境政策とか、そういうところに目が行きがちなんじゃないかなと思っています。東京から鯖江に来たら、鯖江が一生懸命その難しい課題と向き合って、できることを一生懸命やっているのが私からすればすごく素敵だなと思いました。それがあって鯖江に住んでみたいなという思いがあったんですね。」
佐々木市長 私どもが一番の取り組みにしていこうというのがSDGsの目標の5つ目(No.5)、"ジェンダー平等"でした。これはですね、鯖江市の生い立ちといいますか、地域柄とても大事なところだと今も感じております。たとえば眼鏡や越前漆器といったものづくりで栄えてきたまちですけれど、決して大きな会社が1つ2つどんどんとあって栄えたまちでなくて、すごく小さな会社や家族経営の会社、こういった小さなところがたくさんあって今の鯖江市が成り立っています。
そういった中では、たとえば女性の方、ご家庭に帰ればお母さん、奥様の立場でいろんなお仕事があると思います。家族経営の会社ですので、お仕事に行ったときも非常に重要なポジションの中で大切なお仕事をされていますし、これが地域へ出ますと、地域の中でも女性の皆さんがそれぞれの立場の中でご活躍いただいています。
こうした歴史がある中で、ジェンダー平等とか女性の活躍というところを、SDGsの17の目標を達成する真ん中に置いて、こちらのバッジの真ん中のメガネのこの部分(ブリッジ:両側のレンズを繋ぐ中央部分)が実はNo.5のジェンダー平等の色(オレンジ)になっております。
2014年誕生の『JK課』は、女子高校生が行政と協働する全国初のプロジェクト。流れは『JKOG課』やメンバーが全員おばちゃんの『OC課』へと広がった。鯖江は"女性活躍のまち"を、制度ではなく文化として根づかせてきた。

さばえSDGs推進センター・乙坂センター長 「市役所ってやっぱり何かお堅いイメージがあって、今まで女子高生っていうのは対極にいたわけです。だけどこれからはそういう女子高生や、これから未来をつくる若い女子たちが、これから住み続けたいと思うようなまちでなければいけないと思います。彼女たちのやりたいこと、こんなまちだったら住み続けたいっていう思いを主として後押ししようと考えました。大人が"こうしろ"、"ああしろ"と一切言わないのが基本ルールで、若い世代がやりたいことを後押しするスタンスでこの11年間ずっと続けてきました。今まで市役所の人間が考えつかなかったような、そういうことをやってきたんですね。」
地方公務員アワード2025受賞 横井直人さん(鯖江市役所) 「鯖江の良さっていうのは、意外と外の人の方がわかっていることが多いなと思っていて。今、鯖江で活躍する人たちって結構移住者が多いなと感じています。じゃあもともと市民だった人は何をしているのかっていうと、やっぱり地域をよくしようと動いているので。ここをうまくつなげられるといいなと思っているんですよ。」
渡邉理事長 市長のプロフィールを拝見しますと、鯖江市に移ってすぐ議員さんになられていますよね。
佐々木市長 そうですね、4年ほど事業をしておったんですけれども、事業を通じて鯖江市民の温かさや、地域イベントや行事でのとても前向きに取り組まれる姿勢にすごく感動し、実はカルチャーショックを受けました。こういったことがやっぱり地域やまちをつくっているのだなと。そんなことを感じまして、自分の今までの経験が何か活かす方法はないかを考えていくうちに、市議会議員というひとつの選択から政治の世界で仕事をさせていただくようになりました。
渡邉理事長 別の方に取材すると、外から来た方には非常に皆さん寛容だと。そして、市民のお一人お一人がすごく主体性をもってみずから動く気質があるという話がありましたので、ちょっと通じるところがある気がします。
人を受け入れる。挑戦を応援する。まちは、そうした"気風"でできている。

佐々木市長 スポーツを通じて、鯖江市がもっともっと楽しいまち、豊かなまち、みんなが元気なまち、こういったまちづくりを進めていきたいと考えております。ぜひ市民の皆さんにも、日常生活の中で運動やスポーツを取り入れていただいて、みんなで健康で元気なまちをつくっていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
渡邉理事長 長時間にわたりましてありがとうございました。
佐々木市長 こちらこそありがとうございました。
誇りは、過去の記憶ではなく、未来への力となる。世界大会から30年--"体操のまち"鯖江は、ジェンダー平等のまち、"ワンダーウーマンシティ"として、今日も新しい挑戦を続けている。