2026.4.13
廿日市市(広島県)
松本 太郎市長 対談

2026.4.13
廿日市市(広島県)
松本 太郎市長 対談
広島県廿日市市は、世界遺産・宮島を擁する観光のまちです。けれど今、このまちをもう一つの側面から動かしているのがスポーツです。女子野球をきっかけに、統廃合の危機にあった佐伯高校に全国から生徒が集まり、下宿や商店街にも新たな交流が生まれました。さらに、社会人チームの誕生によって「高校の先」まで続けられる環境も整いつつあります。加えて、アーチェリー、けん玉、パラスポーツ、地域の円卓会議など、多様な入口が人と人をつなぎ、共生や誇り、地域の活力へとつながっています。観光、教育、地域活性化、子育て支援まで。スポーツを軸に“人の循環”を生み出す、廿日市市のまちづくりを追いました。

世界遺産・宮島があるまち、廿日市市。
その足元で、いま"スポーツ"がまちを動かしている。
女子野球が学校を守り、中山間地域に人を呼び、企業と自治体が手を組む。
けん玉、アーチェリー、パラスポーツ--入口は一つじゃない。
観光のまちが、なぜ"スポーツのまち"でもあるのか。
そして、スポーツで"経済"と"人の循環"は生み出せるのか。

廿日市市の"スポーツによるまちづくり"。その中核にあるのが女子野球だ。 始まりは、県立佐伯高等学校の存続危機だった。
松本市長 私、野球をやってました。野球をやってなかったら、恐らくこの仕事をやってなかったなっていう気がするんですよね。
市長になった時に、野球をやってたことに対する恩返しがしたいなと思ってました。
ですから、野球はもちろんですけれども、スポーツをする子供たちに何かそういったフィードバックすることによって感謝の意を表すことができないかなという思いがありました。
中山間地域に佐伯高校があります。当時、統廃合の対象だとか言われながら、存立の危機の状況にあったんですが、何とか佐伯高校を守りたいという思いもあったんです。
渡邉理事長 存続の危機と言うと、具体的にはどういった基準をクリアするために、どんな仕掛けをなさったんですか?
松本市長 2年連続で定員を下回ったら統廃合の対象というのが県のルールだったんです。

市内には、中学生までが参加できる女子野球チーム「広島レディース」があった。
次に必要だったのは、"地元の高校で続けられる"という選択肢。
2015年、佐伯高校に女子硬式野球部が誕生する。
創部当時の部員はわずか2人。いまでは30人。
全校生徒94名のうち、およそ3分の1を占める存在へと成長した。
渡邉理事長 あのエリアで下宿を経営しているところがあるということなんですが、どのくらい県外から留学されてるんでしょう。
松本市長 新入生の半分ぐらいが県外から来ているそうです。そのほとんどが女子野球ということで、やっぱり女子野球の効果は大きいんだろうと思いますね。
積み重ねてきた取り組みが認められ、2020年、全日本女子野球連盟に廿日市市は"女子野球タウン"として認定された。
松本市長 女子野球の認定をいただいて、どんどん佐伯高校推しでやったんですよ。そうすると、次の年、応募倍率が県内最高になりまして、1.3倍を超えたと思います。もう県内はもうほぼほぼ1を切っているような状況の中で、1.3というのも異常な数字だったんですけど、そうやって大きな結果を出すことができたというのがありますね。
さらに、2021年、地元の建設関連会社・ダイサンが社会人チーム『はつかいちサンブレイズ』を立ち上げる。"高校の先"を、まちがつくった。

はつかいちサンブレイズ 坂東瑞紀選手
「小学校、中学校は男子に混ざって軟式野球をやっていて、私が高校に入るときは、全国に5校しか女子硬式野球部があるところがなくて、関東か鹿児島だったので。どっちみち親元を離れて遠くに行くっていう選択しかなかったので。 やっぱり地元の広島で野球をやりたいなっていう気持ちはずっとあったので、そういうタイミングがあって。」

はつかいちサンブレイズ 球団代表 株式会社ダイサン 取締役 峠本真依氏
「スポーツの力で地域を盛り上げていきたいなっていうのもあるので、何か自分たちにできることはしっかりやって、地域のことにも貢献していきたい」
松本市長 ダイサンという会社が、廿日市の考え方に共感するので、是非一緒にやりたいということで、社会人野球を廿日市サンブレイズっていう名前を付けてスタートしていただいて、佐伯高校の選手の皆さんも教育していただきながら、いい関係で、まさに女子野球タウンを盛り上げていただいております。
ダイサンが考えたのは、「チームを"強くする"こと」よりも、まず"まちが続いていく仕組み"だった。

積み重ねてきた歩みは、イベントとして可視化される。 廿日市市主催『女子野球タウンフェスティバル』。
企業、市民、自治体。
点だった取り組みが、面になる瞬間だ。

はつかいちサンブレイズ 北原千愛選手(佐伯高校出身)
「母校である佐伯高校の前で、活躍できてよかったです」
渡邉理事長 昨日の選手のお話を聞きますと、佐伯高校の女子野球部で野球をやっていた子が今、サンブレイズでもプレーしていると言うふうに伺いました。
松本市長 そうですね。いい流れができてるんだろうと思います。やっぱり高校で野球ができても、社会人になると大好きな野球を諦めざるを得ないっていうのがほとんどの状況だと思うんですが、そこの流れが一つ、この廿日市でできているっていうのは廿日市の武器だと思いますね。
働きながら、お金をいただきながら、大好きな野球ができる、その環境がここにはあるということでありますね。
女子野球の熱が確実に町を温めている

佐伯高校 魅力化担当 稲田元樹氏
「下宿を受け入れてくださっている管理人さんがおっしゃってたことなんですけど、下宿生が来るようになって、朝晩の食事のメニューを考えるのが楽しくなって、明日何を作るかを考えるのが楽しくなったというような話を聞いて、ありがたいなと思って。そうやって愛着を持って育ててもらっているような環境はすごく魅力的だなと思っています。」
渡邉理事長 地域が野球部を応援するし、野球部の子供たちも下宿を通じながら、町に何とか溶け込んで、いい循環をつくろうとしているような話が昨日あったんですが、市長としてその辺の手応えはどのように感じてらっしゃいますか。
松本市長 商店街がどんどん変わってきています。新しいお店が入ってきてくれてますし、やはりそこは女子野球の選手たちが商店街にどんどん入っていただいて活躍していただいて、そういったところがいい呼び水になってるんじゃないかなという気がしますね。

合同会社とこらぼ 業務執行社員 黒木 真由氏
「今はもう30人ぐらいは常にいて、そこに最近ではそれこそお店の方の息子さんとか小学生とかも来て、あとは佐伯高校生も参加してくれたりっていうふうに、割と世代幅が広がって、かつ会議のルールが相手の発言を否定しないっていうところがマストなんですよ。何かやりたいっていうのが出たら、じゃあどうやろうかを考えるっていうのが当初からのルールだったので、それがあるんで、それこそ高校生も含めて発言のしにくさはないし、他の会議から見学に来られた方とかも、なんてあったかい会社って風に皆さんおっしゃってくださいますね。」
渡邉理事長 円卓会議を月にいっぺんやっていて、そこにはいろんな世代も越えるし、業種も超えた人たちが集まって、まちづくりについて議論して、まず議論したことをすぐ行動に移すっていう流れができ上がっているようですね。
松本市長 実はその円卓会議に先月私も入ってきまして、非常に皆さん前向きで、小さなことの積み上げをたくさん経験して、小さな成功体験をたくさんしてらっしゃって、自信に満ち溢れてるんですよね。常に皆さん前向きで、そういった皆さんの集まりですから、非常にいい方向に向かっていると私も期待してます。

佐伯国際アーチェリーランド コーチ アシュリー・ジョーダン・コナー氏
「人間として強くなったらオリンピックにもいける、一緒と思ってる。だから社会に出られるようにもちろん育てたいし。でも社会に出れるような人になったら、もうオリンピックも近いんじゃない?もう本当に繋がってる。オリンピック、実は私も目指してます。」

松本市長 佐伯高校の中にアーチェリー部があって、アーチェリーをやりたいがために県外から来てる子も結構います。
渡邉理事長 やっぱりいらっしゃるんですか。
松本市長 佐伯高校出身で民間企業に就職され、そこからオリンピックへ行かれて、団体銅メダルを取った河田悠希選手もいます。
渡邉理事長 メダリストまで行きましたか。
松本市長 一流選手を輩出し、まだまだこれから出てくると思います。
アーチェリーであったり、女子野球であったり、あとバスケットドラゴンフライズの練習拠点も実は中山間地域の佐伯にありまして、プロアマを問わず、いろんな団体がこの廿日市に集まってきてくれるっていう、非常にいい好循環が生まれています。
地域の皆さんのシビックプライドがどんどんどんどん上がってきた気がしますね。
渡邉理事長 それは素晴らしいですね。

廿日市には"文化"から身体活動へつながる入口がある。けん玉だ。
松本市長 廿日市はけん玉発祥の地なんです。もともと宮島とかいう神社仏閣がありますので、宮大工がたくさん住み着いていました。そういった宮大工の腕を競うためにけん玉が作られたというふうに言われていまして、その歴史は100年を超えるんです。
そうしたことが背景にあって、けん玉も世界で流行してますし、廿日市を改めて世界にPRするのに、けん玉ワールドカップをやってみようじゃないかということで始まりました。2025年は11月にやったんですけど、14回目が終わりました。
本選はすごいです。見てても何をやってるのか全く分からないですよ。想像できないぐらいのけん玉の技が出るんですけども、もうぜひそこは見ていただいて。
渡邉理事長 ぜひ11月に。
さらに、地域の子どもたちへ。入学の節目に"けん玉"を配る取り組みも続けている
渡邉理事長 けん玉をやってる方って実際どのくらいいらっしゃいます?
松本市長 この近所にけん玉公園っていうのがあるんですけど、そこでは結構子どもたち、親子連れでけん玉やっています。
ただ、もう少し市民の定着が進んでいないって気がしているので、もう少し市民の皆さんに定着できるように、努力しなきゃいけないなとは思ってます。
渡邉理事長 今、スポーツの実施率が、なかなか高まっていないんですね。特に若い世代に関しても、ちょっと減少傾向にあるんですよ。是非こういったコンテンツをうまく活用して、廿日市ならではのスポーツ実施という風に進めてほしいですね。

松本市長 昨年、日本財団さんの事業ですけれども、「あすチャレ! Academy」というのがあります。ここでスポーツ推進委員の皆さんの講習会を開催させていただきましたし、今年に入っては「あすチャレ!運動会」を開催させていただきました。
さらに、県事業なんですけども、インクルーシブスポーツフェスタというのを開催いたしまして、多くの皆さんに参加していただきました。
渡邉理事長 そうですね。若いうちから障害を持った方っていうのがどんな生活をしているのか、こういったことを学生さんたちにもしっかり理解してもらって、また社会人の人にも見てもらって、理解してもらって、応援して、うまくこう回っていくといいですね。
共生社会。そこにもスポーツは効く。
廿日市が広げているのは、支える輪、関わる輪だ。

世界遺産・宮島。インバウンドが増え続けている。廿日市は"量から質へ"を掲げ、負担のあり方を制度で組み替えた。宮島訪問税の導入だ。
松本市長 この訪問税という考え方は、我が国初の税制なんですね。要は、当初は宮島に入る方全てから税金を取りなさいという総務省からのご指示をいただいてたんですが、そもそも宮島に自分の家に帰るのに税金を払わなきゃいけないという考え方は、やっぱりどうもしっくり来ない。
例えば宮島に住んでいる皆さんと、この本土に住んでいる私達、何が違うのかというと、私達宮島に帰るわけではないわけですね。
ある意味で私たち観光客と同じなんですね。だから私たちも税を払うんです。なるほど。そういったスキームを考えて、ようやく総務省の皆さんにもご理解いただいて、訪問税が誕生したということであります。 よくオーバーツーリズムなんて言われ方しますけど、結局その観光客がたくさん来ても、その弊害が住民にシフトされるようでは意味がない。
渡邉理事長 世界遺産の宮島があって、もう一つ大きな目玉があるらしいですね。
松本市長 西ノ島バイパスって廿日市国道2号線があるんですが、国内屈指の観光施設を誘致したいと考えてます。
これは大体200室ぐらいのホテル、かなり大きなホテルですね。で、温泉も掘りますし、今若い人たちに流行っているサウナ、これも3か所ぐらい点在させたいと思ってます。
渡邉理事長 そういった新しい観光の名所ができると、当然交流人口も増えますよね。
松本市長 やっぱり人を増やすために何が必要かというと、働く場だと思うんですね。必ず働く場としては大きな受け皿になると思ってまして、若い人たちが入ってくるポテンシャルはあるんだろうと思ってます。廿日市の経済活性化にもかなり大きな寄与していただけると期待をしてる事業です。

松本市長 よく周りの皆さんからは廿日市頑張ってるねと。変わってるねと。勢いがあるねといろんなお声かけをいただきますけれども、やはりその一翼を担っているのはスポーツだと私は思ってます。特にその中心を占めるのが女子野球だと思ってます。で、よく私はスポーツを核にしたまちづくりを進める中で、市民の皆さんからまちが明るくなったねというふうに言われます。
引き続きですね、市民の皆さんが喜んでいただける、まちが明るくなるような、そういったまちづくりをしっかりやっていきたいと思いますので、皆さんもどうぞ一緒に廿日市のまちづくりやっていきましょう。どうぞよろしくお願いします。
渡邉理事長 ここまでいろいろ市長からお話を伺ってまいりましたが、私どももボートレース宮島と関係のある団体です。
スポーツ推進委員の皆さんがいたり、学校の教員の皆さんもそうですし、スポーツクラブで活躍されるインストラクターであったり、事務局の皆さんであったり、いろんな人を巻き込んで廿日市市のスポーツ推進がますます進むことを心から祈念しております。また、私ども笹川スポーツ財団がお手伝いできることがあれば、何なりと申し付けいただければ、何でもやりたいと思いますので、よろしくお願いします。ありがとうございます。今日は1日どうもありがとうございます。どうもありがとうございました。