26.6.22
壱岐市(長崎県)
篠原一生市長 対談

26.6.22
壱岐市(長崎県)
篠原一生市長 対談
長崎県壱岐市は、海に囲まれた国境の島であり、2,000年以上にわたり人々の暮らしが続いてきた地域です。 人口減少、少子高齢化、産業、環境、教育、健康——。 日本社会が直面する課題が凝縮されたこの島で、いま進められているのが、市民主体のまちづくりです。
本動画では、壱岐市の篠原一生市長に、笹川スポーツ財団・渡邉一利理事長がお話を伺いました。
SDGs未来都市、気候非常事態宣言、市民との対話会、エンゲージメントパートナー制度、島まるごとキャンパス構想、そして壱岐高校の甲子園出場やウルトラマラソンなど、スポーツを入口に広がるまちづくりの可能性について伺いました。 市民が主役となり、対話し、挑戦し、ささえあう。 壱岐市が描く、これからの地域づくりの姿をお届けします。


壱岐市は、九州北部と朝鮮半島のあいだに浮かぶ国境の島。
福岡からおよそ1時間。長崎県にありながら、その玄関口は福岡に近い。
古代から交流の要衝として栄え、神社神道の発祥の地ともいわれる。
豊かな自然、美しい海、そして多様な産業。
篠原市長は、この島をこう表現する。「日本社会の縮図」だと。
篠原市長 壱岐市は歴史書で、魏志倭人伝、古事記、日本書紀など、さまざまなものに出ていますが、2,000年以上この島の中で豊かな暮らしを続けてきていることが、非常に特徴なのかなと思っております。 そのためには全ての産業があると。壱岐の中で全ての産業が手を取りあって、協力しあって持続していくという、日本社会の縮図ともいわれています。
渡邉理事長 いままでの2,000年とこれからの100年というのは、スピード感も全然違いますし、環境も全く変わってくると思います。

篠原市長は、壱岐市の元職員だ。 企画、総務、東京事務所長。行政の現場を長く歩んできた。
4町合併から20年。壱岐市というひとつの土台ができたいま、次に必要なのは、伸ばすこと、とがらせること。
その役割を担うのは、自分だ。そう考え、市長選への挑戦を決めた。
渡邉理事長 市長選に出ようという背景を教えていただけますか。
篠原市長 今後さらに伸ばしていく、とがらせていくには、自分がやるのが一番壱岐のためになるなということで決意しました。チャンスの女神は前髪しかなくて後ろ髪がないというのもありましたので、ここは覚悟を決めてやろうということで出ました。

篠原市長のまちづくりの根底にあるのは、「持続させる」という意思だ。
壱岐は、自然の上に成り立つ島。
だからこそ、自然を守ることは、そのまま人の暮らしを守ることにつながる。
2018年壱岐市は、全国でいち早くSDGs未来都市に認定され、自治体初の気候非常事態宣言も打ち出した。
課題先進地だからこそ、解決も先に示す。壱岐は、そうした覚悟で進んでいる。
渡邉理事長 これから壱岐を新しいまちにつくり変えていく。伝統と革新でつくっていくことは、すごく大事だと思いますね。
篠原市長 自然がないと人々が生きていけないところで、当然、環境を守る。さらにSDGs、サスティナブル・ディベロップメントゴールズですけれども、持続することに着目をしたいなと。
これからの時代、ちゃんと意志を持って続ける、持続させるという意志が非常に必要だなと思っております。離島人口減少、少子高齢化等で最初に影響が出るところで、課題があるなら最初に解決していこうと、壱岐市としては持続性を大事に取り組んでいます。

壱岐のまちづくりの中心にあるのは、制度でも、予算でもない。対話だ。
篠原市長は10年にわたり、対話会を続けてきた。
市民が自分の内側を見つめ、本当にやりたいことに気づき、仲間とともに実現へ踏み出す場。
参加者は累計約4,000人。生まれたアイデアは79。そのうち54が実現している。
ここでは、「行政にやってもらう」だけでは終わらない。課題を共有し、自分ごととして動き出す。
壱岐の未来は、対話の中から、少しずつ形になってきた。
渡邉理事長 対話を非常に大事にされていると。まさに壱岐というのは、主体性を重んじているというお話ですね。
篠原市長 各自が各自でできる部分を、自分だけで考えずに人と対話をする中で見つけていこうと立ち上げた会議だと思っております。
昔は市役所に陳情や要望を伝えていましたが、それが対話会の中で自らいって解決していく。
渡邉理事長 行政の課題だから行政お願いしますということではなくて、島民としての自分ごと化で、みんなと一緒に問題を共有しながら解決策も考えていこうという流れができあがっているのですね。
篠原市長 壱岐はいま、ワーケーションの聖地といわれていますが、ワーケーション自体も実はこのテーマの中から出てきていまして。
壱岐は観光地でもありますが、市民の方が外の人と知りあう場所がない。そこで「市民の方も外から来た方も一緒の施設を」ということで、富士ゼロックスと壱岐市が博物館の倉庫をリフォームしてテレワークセンターをつくり、そこからワーケーションの聖地になっていきました。
昨年は、高校生のテーマで、もっと神社を知ってほしいということがあり、神社も未来に残していく大切な特徴だと。それで、しめ縄についている紙の御幣(ごへい)づくり体験を実施しました。壱岐に来た観光客や外国の方たちが体験できる仕組みをつくり、人気が出てきております。

壱岐の挑戦は、島の中だけで完結しない。
企業、大学、自治体。外の力とつながりながら、島の中に新しい循環を生み出している。
そのための仕組みが、エンゲージメントパートナー制度だ。
大切なのは、何をやるかを先に決めることではない。
まずは、共感すること。ワクワクする未来を共有すること。
その関係があるから、市民の挑戦に、外の力が自然と重なっていく。
渡邉理事長 いくら素晴らしいアイデアがあっても、具現化するには当然財源も必要になりますし、リソースのサポートも必要になってきますが、行政だけだと限界がありますよね。
そこで民間企業のエンゲージメントを活用するというのは素晴らしい取り組みですね。
篠原市長 エンゲージメント3.0と書いていますが、やることが決まった後に結んで、お互いこの部分をやりましょうというのがだいたいの官民連携です。しかしそこまでいかずに決めてしまうと、その事業終了後に続かないということがありました。まずはエンゲージメント、お互いにワクワクするところに共感できれば、まずそこでトップ同士で結ぼうと。
54テーマが実現できていますが、あれも全て市役所がやるのではなく、市民の方がやるのを企業の皆さんや大学が手伝ったり、壱岐市としてやれる部分を壱岐市でやったりということで、どんどんと実現している取り組みになっております。
70年前になりますが、一番壱岐の人口が多い時は5万2,000人いました。その時は5万2,000人で循環できていましたが、いまは2万4,000人になった中で、外から入ってきてもらって、知恵やお金や物が入って循環させないと、パイとして足りないので、人や知恵を取り入れる仕組みというのも大事ですね。

壱岐はいま、もうひとつの挑戦を始めている。それが、大学構想だ。
毎年、およそ300人の高校生が島を離れる。学ぶ場所がないからだ。
ならば、島に学びの場をつくる。
ただし、単なる大学ではない。壱岐という島そのものを、キャンパスにする。
複数の大学が連携し、地域の人とともに学び、社会課題そのものを教材にする。
人口減少の最前線で、未来を学ぶ。それが、壱岐の大学構想だ。
篠原市長 出なくても済むような仕組みとして大学があった方がいいということで、先ほどのエンゲージメントパートナーの大学とコンソーシアムも来年度立ち上げます。
やはり、とがっていくことが大事だなと思っているので、特徴的な学部のサテライトを、8大学合同で学びあって総合単位を出す仕組みをつくろうと、大学の皆さんで話しあっていただいています。

壱岐で、スポーツは特別なイベントではない。
人を自然に動かし、島をひとつにする力として、暮らしの中に息づいている。
その象徴が、壱岐高校の甲子園出場だった。
寄付が集まり、島中が応援し、老若男女が、同じ一戦を見つめた。
スポーツには、理屈を超えて人を動かす力がある。応援したくなる。関わりたくなる。誇らしくなる。
壱岐のスポーツには、まちを前向きにするエネルギーがある。
渡邉理事長 これがスポーツの持つ、ひとつの価値ではないかなと思います。
篠原市長 ひとつにまとまる旗印になったらいいなと思っています。
頭で考えずに本当に応援したくなって、応援しやすいというのがスポーツの特徴なのかなと。自分でやるスポーツもあれば、見るスポーツもある。本当に多様性ですし、入り口として非常に共感を得やすいのがスポーツだと思っています。

壱岐のスポーツ文化は、競技者だけのものではない。
走る人がいる。応援する人がいる。ささえる人がいる。
1月に行われる新春マラソンには、多くの市民が集う。
そして、この島には、もうひとつの象徴的な大会がある。それが、島を一周する「壱岐ウルトラマラソン」。
年齢や立場を超えて、誰もがスポーツに関わることができる。
この大会をささえるのは、1,000人規模の市民ボランティア。
その温かいおもてなしは、全国から訪れるランナーの心をつかんでいる。
スポーツを通じて、人と人がつながる。そしてその魅力は、島の外へと広がっていく。
篠原市長 ウルトラマラソンは14時間、100kmで、1,000人のボランティアの方がいらっしゃって、選手と同じくらいの数の市民の皆さんのボランティアでできています。
渡邉理事長 だいたい市民の方ですか?
篠原市長 ボランティアの方はほぼ市民の方で、お医者さんなどいろいろな産業の方です。物流の会社さんがいろいろ運んでくれて、みんながまとまる仕組みとしてスポーツがあるなというのと、ウルトラマラソンはスピードが遅いので、応援のしがいがあるというか。おじいちゃん、おばあちゃんたちが家の前に出て、お茶を飲みながら応援しています。
壱岐の人からすると、おもてなしができる、島外からの人には壱岐の人の良さに触れてもらえる、ウルトラマラソンは非常にいいなと思っています。

篠原市長が見据えるスポーツは、競技力向上だけではない。
健康をつくる。つながりをつくる。子どもたちの選択肢を守る。
壱岐ではいま、交流を生む空間づくりや、健康をデザインするエリア構想、
部活動の地域展開など、スポーツを入口にした新しい地域づくりが進んでいる。
人が元気になること。人が人とつながること。
それは、ひとりひとりのウェルビーイングであると同時に、島全体の持続可能性にもつながっていく。
渡邉理事長 壱岐の人に対して、ウェルビーイングを高めるために、スポーツを通じていまどんなことをされているのでしょうか。
篠原市長 市民の皆さんの主体性を高める時に、わかりやすい旗印があった方がいいと思っておりまして、4つの合併前のまちに、それぞれに違う旗印を立てようと。
郷ノ浦町は「つながりのみなと」として、医療福祉と商業の産業同士を掛けあわせて新しい取り組みをしています。勝本町は「あそびのみなと」で、漁業と観光。芦辺町は「くらしのみなと」で、農業と建設業。石田町は「まなびのみなと」で、教育と観光でやっています。
郷ノ浦の取り組みでは、つながりの港として健康で生きがいを感じるようなエリアにしていこうと、さまざまな人たちが交流するまちづくりを進めております。
スポーツをして体を動かすことで健康になるということと、見る・ささえるというところになると思いますが、人とつながることで心の健康にもなるということ。この郷ノ浦プロジェクトでは、つながりをデザインすることと、健康をデザインすること、この2つを軸に新しいまちづくりを進めています。

2,000年以上、暮らしが続いてきた島。その歴史を、これから先につないでいくために。
必要なのは、ただ守ることではない。時代にあわせて変わること。対話し、挑戦し、ささえあうこと。
篠原市長 壱岐市は住んでいる人、市民の皆さんが主役だと思っていますし、皆さんが主体的に行動してくれるというところが、皆さんの幸せにもつながりますけれども、壱岐市の幸せにも直結していると思っております。
その入口としてスポーツというのは非常にいい入口で、参加しやすい取り組みですし、またそこで皆さんが健康になってくれることで、壱岐市としてもプラスになると思っております。壱岐を担っている市民の皆さんとともに、新しい壱岐市をつくっていきたいと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。
渡邉理事長 長時間にわたりありがとうございました。2,000年以上の歴史を有する壱岐、また日本の縮図の壱岐ということで、よく伝統を紡いでいくためには、いままでの伝統に、その時代にあわせた革新、新しいものを付け加えていかないと、それが伝統として残らないといったお話を伺うんですけども、まさに実践されているなというのが、今日のインタビューの私の印象でありました。
市長まだお若いです。一期目ということもありますので、これからますます元気に市のリーダーとして、市のマネージメントにあたっていただきたいと思います。本日はどうもありがとうございました。
篠原市長 ありがとうございました。
壱岐の未来は、誰かがつくるものではない。
壱岐に生きるひとりひとりが、主体的につくっていくものだ。
スポーツは、その入口になれる。人をつなぎ、まちを前向きにする力として。