公益財団法人笹川スポーツ財団(以下「SSF」)は、一般財団法人Nスポーツコミッションなよろ、北海道名寄市とともに、2026年10月30日(金)、日本財団ビル(東京都港区)にて、セミナー「『スポーツ×社会』のイノベーションは地域から起きる ~スポーツの仕掛け人は、これからどこで活躍するのか~」を開催しました。
本セミナーには、289件の事前申込が寄せられました。当日は会場に81人、オンラインで169人が参加しました。基調講演では、地域での挑戦や新たなキャリアの可能性を取り上げ、続くセッションでは北海道名寄市で進める「アクティブシティ」の実践を紹介。スポーツを通じた地域課題の解決やウェルビーイングについて議論しました。
また、セミナーの最後には、名寄市の活動を現地で見学する訪問プログラムを紹介。参加に関心のある方の意向を募り、具体的な活動につなげる機会を提案しました。
目次
スポーツ人材のキャリアと、地域で生まれる新たな可能性
第1部では、ゴールドマン・サックス証券からJリーグクラブ経営へと転身した木村正明氏(東京大学特任教授/ファジアーノ岡山オーナー)が、「逆境からの挑戦 ~誇りを持って地域と生きる~」をテーマに基調講演を行いました。自身のキャリアや地域スポーツへの挑戦を通じて、地域で働くこと、地域とともに新たな価値を生み出すことの可能性について語りました。

「人とのつながりこそが最も重要」と語る木村正明氏
木村氏は、ゴールドマン・サックス在籍中に岡山出身の親友から「地域の誇りをつくりたい」と相談されたことが、約20年前にクラブ経営へ踏み出すきっかけだったと振り返りました。
最初の試合の観客は7人で、選手の方が多かったといいます。スポンサーは6社・約4,000万円からのスタートでしたが、地道に企業を回り続け、現在は約2,900社・スポンサー収入約20億円に広がるまでに多くの方たちに支えられていることを説明しました。
協賛が決まるのは、営業担当が10年通い続けたケースと、人を介しての紹介で決まったケースが主で、どちらもスポーツを持続させるために「人と人のつながり」が重要だったという実体験を語りました。
特に、自治体・経済界・町内会など地域の各層と関係を築くことが欠かせないと強調しました。
第2部では、SSFの澁谷茂樹アクティブシティ推進グループ グループ長とNスポなよろの松澤大介事務局長が、名寄市で進めるアクティブシティの取り組みを紹介しました。名寄市では、2025年6月にSSFと包括連携協定を締結。Nスポなよろを中心に、スポーツ推進計画の実行支援や組織基盤の強化、地域スポーツを担う人材の発掘・育成などを進めています。行政やスポーツ団体をはじめ、多様な主体が連携することで、スポーツを地域課題の解決につなげる仕組みづくりについて議論しました。

(左)Nスポなよろ・松澤大介事務局長、(右)SSF・澁谷茂樹アクティブシティ推進グループ グループ長
松澤氏は「人口減少」「スポーツ施設の老朽化」「関係組織の分散」という課題を挙げ、市町村合併で2つに分かれていたスポーツ協会とNスポーツコミッションなよろの前身、計3組織を統合した経緯を紹介しました。
統合にあたっては、当初はとまどいもあったものの、関係者が何度も集まって対話を重ねて実現したと説明しました。統合後の組織には、52の競技団体に加え、経済・観光・福祉の団体、建設・土木やバスなどの事業者、地元金融機関、大学など多様な主体が参画しています。
松澤氏は、小学校から高校までの育成ラインを、競技団体の垣根を越えて一本化する「ジュニアスポーツエコシステム形成事業」を紹介しました。優秀な選手が旭川や札幌の高校へ流出する課題に対し、地元の名寄高校で競技を続けられる環境づくりを目指すと語りました。
澁谷アクティブシティ推進グループ グループ長は、SSFが1993年から名寄市と「チャレンジデー」で関わってきた経緯に触れ、2024年度開始のアクティブシティ推進事業では、新法人設立、スポーツ推進計画の策定・実行、人材育成を伴走支援していると説明しました。
また、ワークショップを通じて見えた名寄市の特徴として、若い指導者が比較的多く、先輩指導者も若手の意見に耳を傾けることを「持ち続けてほしい強み」と評価しました。一方で、指導者同士の横のつながりが弱いことを指摘し、現場の関係者が課題を自分ごととして関わる意識を高める必要があることを課題として挙げました。
第3部では、リレハンメルオリンピック金メダリストで名寄市スポーツ振興アドバイザーの阿部雅司氏も加わり、「スポーツから生み出す、地域のウェルビーイング」をテーマにクロストークを実施しました。スポーツが持つ多様な価値や、地域内外の人材が協働する可能性について、それぞれの立場から意見を交わしました。

左から滝田氏、阿部氏、木村氏、澁谷、松澤氏
阿部氏は、子育てが一段落したタイミングでご家族に背中を押され、名寄市に参画したことを紹介しました。地元出身ではない不安がある中、商店街の全店の理解と警察の許可を得て、街中でのローラースキーを実現した経験を振り返り、「名寄に育てられた」と語りました。
澁谷アクティブシティ推進グループ グループ長は、地域に溶け込むには、現地をよく知り、話を丁寧に聞き、面倒なことも引き受けて信頼を得ることが共通点だと説明しました。受け入れる自治体側には、ビジョンを明確に伝えて、経験豊富な人材が力を発揮できる環境を整えることが必要だと述べました。
また、松澤氏は人として信頼されるかどうかが問われる世界だとして、地域に入って伴走したSSFの支援に触れました。
木村氏は、長期計画を実現するには地域の人を巻き込む必要があり、あえて資金が必要だと伝えてきたと語りました。人材面では、謙虚さや「可愛げ」が応援につながること、よそ者・若者の力を生かし、地域の重鎮が「好きにやれ」と任せる姿勢が重要だと述べました。
最後に松澤氏は、名寄市でスポーツのまちづくりに一緒に取り組む仲間の参加を呼びかけ、小さな街だからこそ自分の行動の成果が目に見えて実感できるとして「地域で働く価値」を語りました。
セミナーでは、スポーツを通じた地域づくりの現場に触れる機会として、名寄市への現地訪問プログラムを紹介しました。Nスポーツコミッションなよろを中心に進める活動の見学などを想定しており、当日のアンケートを通じて関心のある方の意向を確認しました。今後、希望者と訪問日程や内容等を調整する予定です。
スポーツで、地域はもっと変えられる。「アクティブシティ」という挑戦
SSFが推進する「アクティブシティ」は、スポーツの多様な価値を活用して地域課題の解決を推進する先進自治体を創出する取り組みです。行政、スポーツ、教育、健康・福祉、地域づくりなど、さまざまな分野の人や組織がつながり、地域課題の解決と住民のウェルビーイング向上を目指します。
2026年度現在、香川県丸亀市と北海道名寄市で、それぞれの地域の特性に合わせた取り組みを進めています。名寄市では、2025年6月にSSFとの包括連携協定を締結。Nスポーツコミッションなよろを中心に、スポーツ推進計画の実行支援や組織基盤の強化、スポーツ・まちづくりを担う人材の発掘・育成などを進め、「スポーツ×地域課題解決」の官民連携・分野横断のプラットフォームへの発展を目指しています。
一般財団法人Nスポーツコミッションなよろについて
北海道北部の人口25000人のまち、名寄市を拠点に「スポーツで地域の未来をデザインする」を掲げるスポーツまちづくり組織です。国内有数の雪質や冬季競技施設、豊かな自然環境を活かし、市民の健康増進やジュニア育成をはじめ、合宿誘致やスポーツツーリズムによる地域経済の活性化を推進しています。 単なる競技支援にとどまらず、産業・教育・福祉・医療など多様な分野をつなぐハブとして、スポーツを通じた関係人口の創出やウェルビーイング向上に挑戦。地域内外の多様なプレイヤーや企業と協働しながら、地方都市における持続可能なスポーツエコシステムの構築に取り組んでいます。
名寄市について
北海道北部に位置する名寄市は、豊かな自然と良質な雪に恵まれ、冬季スポーツをはじめ多様なスポーツが盛んな地域です。スポーツを通じた健康づくり、人材育成、交流・関係人口の創出などを進めるとともに、NスポーツコミッションなよろやSSFなど地域内外の主体と連携し、スポーツを活用した持続可能なまちづくりに取り組んでいます。
笹川スポーツ財団について
笹川スポーツ財団は、「スポーツ・フォー・エブリワン」の理念のもと、スポーツを通じて誰もが豊かに暮らせる社会の実現を目指すスポーツ分野のシンクタンクです。調査研究、政策提言、自治体等との実践事業を通じて、スポーツによる社会課題の解決に取り組んでいます。